ミノル15
その後、何が起きているのか分からず呆然としていたランドとテーラは、とうとうミノルの素性を知ることになった。
二人は最早言葉もなく、思考回路も完全に断絶してしまったらしく、顔を上げることを許された時には顔が青白かったのだが、レイを見た瞬間に揃って卒倒した。
また場を改めるということになり、寝台へと運ばれていく二人を見送ってから、ミノルはレイに官吏になったことや、この数年の仕事について語った。
レイは黙って話を聞いていたが、予期せぬ事態に心底驚いているようだった。
「そもそも、どうして官吏に?」
ミノルはレイを見つめる。貴方を得るためだと、今のミノルなら言える。努力をしたと、自信を持って言える。
口を開きかけたミノルを遮るように、扉が力強く開け放たれた。
「ミノルちゃん!!」
「メアリちゃん!」
満面の笑顔で駆け込んできたのは、すっかり美しくなった従妹だった。花のような笑顔をたたえながら、彼女は一直線にミノルの元に走ってきた。
「元気にしていらしたの?二年って話だったから、心配していたの」
「メアリちゃん、婚約式に出席出来なくて、本当に申し訳なかったわ。すっかり綺麗になって。遅くなったけど、ご婚約おめでとう」
「ありがとう。また、ライを紹介するわね!」
きゃっきゃと心底嬉しそうに笑うメアリに心を洗われながら、ほっこりとその笑顔を眺めていると、メアリは何かを察したのか、急に困ったような顔をした。
「ご、ごめんなさい。折角二人でお話しされていたのに」
「いや、次の仕事があるから。メアリはここでミノル姉と話しているといい。ミノル姉、あの二人が起きたらまた、話に来る。次は、一官吏として」
レイは、小さく笑みを浮かべて、部屋を出て行った。ミノルに向けられた笑顔に、一瞬魂が抜けた。
「大丈夫?ミノルちゃん。過呼吸になっているみたいだけど」
「大丈夫じゃない。レイが、美しすぎる。心臓が潰れそうよ」
「あはは、レイお兄様、すっかり素敵になったもの。ミノルちゃんもすっかり綺麗になられたわ。輝いてる」
メアリに言われると照れる。彼女こそ、美しくなった。長く伸びた髪、女性らしい体つきになり、彼女の婚約者はさぞこの愛らしい姫君に夢中なのだろうと、容易に想像ができる。
それからしばらく、この数年の事を語り合った。シノブの話、婚約者だというライの話、レイの話。
ランドとテーラの準備が整ったと連絡が来た時、ミノルはレイをどうやって落とすか、真剣にメアリと話し合っているところであった。
「レイお兄様も、二十歳になられるわ。シノブお兄様がおられなくなってから、実は婚約を考え始めておられるの」
ごん、っと頭を殴られたような衝撃があった。
「あ、大丈夫よ。まだ、考え始めておられるというだけで、話は進んでいないの。でももう、あまり猶予はないかもしれないわ」
今まで大丈夫だったの事の方が、奇跡なのだ。あれほどの男が、二十歳にもなろうというのに相手がいないはずがないのだ。普通ならば、もうとっくに子供がいてもおかしくない。
「相手にしてもらえるかしら」
「されなくても、諦めないのでしょう?ミノルちゃんは」
「まぁ、それはそうね。でも、あたしこの数年、本当に頑張ったつもりなの。最善を尽くして仕事に向き合ってきたつもり。今が、あたしという人間が一番輝いていると思うの。だからこそ、今受け入れてもらえなければ、今後どうしていけばいいのか、正直検討もつかない」
「レイお兄様も、押し勝てると思うの」
「も?」
「シノブお兄様も、私も、実は押し負けたの」
「ええ!?そうなの?」
メアリは、苦く笑う。
「いえ、お互いに好印象ではあったのよ。シノブお兄様も、お見合いした時に良いヒトだったって笑ってたし。私も、ライに会った時、悪いヒトじゃないって思ったわ。でも恋愛感情というよりは、家族みたいになって。相手の方が好意を持ってくれなければ、そのまま終わっていた気がするの。ライは言ったわ。俺の押し勝ちだ、って。シノブお兄様も同じ事を言われたって、そう言ってたの。だからレイお兄様ももしかしたら、押しに弱いのではないかと思うの。とても優しくて情のある方だから、婚約する決意をするまで、お見合いをして来られなかったんだと思うの。想いを、断りきれないかも知れないから」
「押して押して、押せってことね?」
「諦めなければ、絶対に落とせると思うわ。私はレイお兄様の事を、心から愛してくれるお嫁さんが欲しい。だから、条件で選ばれる方よりも、ミノルちゃんを応援するわ。肩書きなんていらないの。名誉など、レイお兄様はご自分で得て、どこまでも上って行けるヒトなのだもの」
押したら取れる。あのヒトを、自分のものに。
断られてもめげない。それだけで手に入るのならば、ミノルにも出来る。
「そろそろ、ランド様とテーラ様をお通ししてもよろしいですか?」
申し訳なさそうに顔を出す官吏に、メアリが謝りながら席を立つ。頑張って、とウインクをくれたメアリに、ミノルは拳を力強く突き上げて、決意を示した。




