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ミノル13

 それからは、目も回るような忙しさだった。

 自分達よりも身分の高い補佐官が派遣されてきて、部下も目上の者ばかり。レイがどれほど力を入れているのか嫌でも窺い知れるほどに、位の高い立派な官吏が揃いも揃って配属されてきた。

 中にはミノルの顔を知っている者までいたが、ミノルはなんとかその口を塞いだ。決して同僚や、ましてやレイには告げないで欲しいと何度も嘆願し、渋々ミノルをただの官として扱ってくれるようになった。

 レイの直筆で、今度は事細かな指示書が来た。学び舎に通わせる子供の年齢、建物に入る人数、習得度別クラスの種類や、学ぶ時間帯など、多岐に渡る指示を、実際の戸籍と照らし合わせながら、学ばせる子供や親に通知を出す。これが非常に大変な仕事であった。こちらでクラスを振り分け、学び舎を振り分け、時間帯を振り分け、冰大家領に住む全ての者への通知が終わったのは、約四年も後の事だった。

 実際に法が施行され、冰に住む全ての通知者が学び舎に集まり、初めての授業が行われた日、ミノルはランド、テーラと手を取り合って泣いた。ミノルは、二十二歳が目前に迫って来ていた。

 この四年の間に、ミノルは何度も冰を訪れるか迷った。一つには、メアリの婚約式があった。もちろん従姉として正式に招かれたが、鬼のような忙しさの最中でもあり、断った。最早意地もあった。中途半端な状態ではレイに会えない。今会ってしまったらもう、頑張れない気もした。メアリには祝いの言葉を書いて、頑張ってと逆に励まされた。

 もう一つには、シノブの失踪がある。シノブには婚約者があったが、彼女が何者かに誘拐され、シノブは単身、彼女を探しに城を出て行って音信不通となった。レイが、メアリが、いかに悲しんでいるかと想像すると、直ぐにでも馳せ参じて慰めてあげたいと思ったものだが、やめた。相変わらず忙しかったのももちろんのことだが、シノブが抜けて更に忙しくなったであろうレイを助けるには、この仕事をやり遂げる事が、ミノルに出来る最大の幇助になるだろうと思った。

 そうして冰大家を一度も訪れる事なく、毎日毎日必死で働いてなんとか形にした仕事が終わった瞬間、ミノルは子供が登校してくるのを眺めていた。ランドもテーラも一緒だった。

 終わったなぁ、とテーラがぼそりと呟くと、ランドがああ、と溜息に近い相槌を打った。

 その日、肩を並べて泣く三人の元に、天冰から勅使が来た。

「一度、冰大家に来られたし。天冰様がお会いになる」

 ランドとテーラは、足が震えて立っていられなくなり、へたり込んで放心していた。

 ミノルは、目を閉じた。官になってからの数年が怒涛のように思い出され、最後には、最後に見たレイの顔がやはり浮かんだ。そうして流れた涙は、仕事を達成した感動とはまた別の温かさがあり、結局二人と同じようにへたり込んだ。

 勅使が去ると、部屋に残された三人は、しばらく各々の脳を無言で整理していたが、しばらくしてテーラが口を開いた。

「聞いたか。俺たちが、てて、天、天冰様に御目通りが叶うんだぜ。震えが止まらねぇ」

「ああ・・・夢のようだな」

 はは、とテーラが泣き笑いをする。

「どうしたミノル。天冰様の嫁に志願する機会が来たんだぜ。なんか言えよ」

「ええ、そうね。やっと、機会を得たのよね」

 ミノルは、従姉としてではなく、とうとうただのミノルとして、レイに会うチャンスを得た。自分だけの手で、それを得た。

「あたしやつれてない?服は官服だし、身だしなみくらいなんとか綺麗にしなくちゃ」

「仕事をやりきった女の顔以上に、綺麗になんてなるかよ」

 ミノルは、目を丸くする。

「テーラ、あなた今、驚くほどいい事を言ったわよ」

 確かにこの、仕事をやりきった姿を見て欲しい。変わったミノルを、見て欲しい。

「ああ、夢のようだ。本当に俺たちが、やりきったんだな」

 夢見心地に言うランドを見遣るテーラの目が優しくて、ミノルまで嬉しくなる。この二人と出会えた事は、ミノルのこの数年の中で、一番の宝となった。

「天冰様にお会いする日、あたし、あなた達の腰を抜かしてみせる自信がある」

「はあ?天冰様を一目惚れでもさせるってのか?」

 ミノルは、笑う。

「見てなさい、目をひん剥いてあたしを見ることになるわよ」

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