ミノル12
再度の実地調査を行い、ミノル達は半年後、レイからの達しがあった期限ギリギリに案を提出した。
ミノルがメアリに啖呵を切った二年は目前に迫っていたが、既にその約束の事は諦めていた。年月に拘るよりは、今はレイに認められるまで官として頑張りたいと、そう思えるほどの達成感に満ち満ちていた。
ミノルは十六になった。十一になるメアリは、婚約者探しが既に始まっているらしく、この中家内でも、あわよくばその座を、と狙う者がいるとかいないとか、噂はよく耳にするようになっていた。幸いな事に、レイはまだ結婚する気がないと公言しているせいか、今は専ら世間の目はメアリに向いているようだった。
レイから与えられた仕事を一通り終えた後、ランドとテーラとは別々の部署に配属された。名残惜しいと言っても始まらない。ミノルは近隣の村や小家の視察団の末端に組み込まれ、独自に種族別の学力を見聞しながら、時には護衛のような事もしつつ日々を過ごしていた。
色々な場所を訪れられる事は楽しく、またレイからの達しがある事を祈りながら、その時までに出来る限りの知識を蓄えようと、貪欲である事に努めた。耳を澄ませば澄ますほど、冰やその子息達に関する噂が毎日のように耳に入ってきたが、やはりというべきか、あまり悪い声はなく、ミノルまで鼻が高くなるばかりだった。
そうして流れるように約束の二年は過ぎ去り、更に一年が過ぎた頃、一つの噂が飛び込んできた。
あのメアリに、とうとう本命の婚約者が現れたというのである。皆が実しやかに語り合う辺り、ある程度の信憑性がある。お相手は雷国で名のある、鵡大家の次男坊、光鵡だという。淡い期待をしていた者達には残念な話だろうが、肩書きを聞く限りにおいて、これ以上ない相手である。次男、というところに些か思うところもあるが、雷国でも一、二を争うような有名な大家である。これはまとまるかもしれない、と思った。
メアリを祝福しに行きたかったが、彼女はどこか、結婚には後ろ向きな部分があった。もしかしたら喜んでいないのかも知れないと思うと、祝福もおかしい気がした。そもそも、今のミノルに公務を抜け出す事など出来ないが。
その後レイからの連絡はなく、ミノルは少しだけ焦っていた。ミノル達の意見書には、目を通してくれたのだろうか。あまり、レイの役には立てなかったのだろうか。そう思うと溜息も出る。
ミノルはこの二年の間に、正十二位に昇進していた。最も、何かが認められたわけではない。単に、試験に二度合格しただけの事だ。だが、順調に試験に合格するというのはそうは言っても難しい事で、テーラはまだ正十四位だというのだから、少しは自分を過信しても良さそうなものだ。やる気と努力というのは、恐ろしいものだと自画自賛しつつ、ここのところどうにも精神的に疲れている。
レイと仕事を通してでも繋がっていられないというのは、やはりミノルのモチベーションに大きく影響した。ランドやテーラと、レイのためにと仕事をしていたあの頃に、国を動かす事の楽しさを知ったような気になっていたが、それも根底にレイあっての事だったと、今にして思う。
レイは、十六になる。もう三年以上会っていない。
どんな風に変わっているのだろう。最近は成長したレイを、眠りにつくまでの僅かな間に想像する事が一日で唯一の楽しみだ。我ながら侘しい。
ミノルもそろそろ、結婚を考えるには熟れ始めて来ている。キャリーに啖呵を切ったはいいが、やはり多少は焦る気持ちもある。あっという間の三年だった。この調子でまた三年、更に三年が経てば、ミノルは完全に機を逃し、流石のレイも婚約者を決めている事だろう。
レイを、得られなかったらどうすればいいのだろうと、最近そんな事も考える。絶対に彼を自分のものに、と強気でいられるほどもう若くもなく、この三年の月日の早さを思えば、何もなさないまま、あっという間にレイの婚約を噂で聞くことになりそうだ。
もう官など辞めてしまおうかと、毎日枕を濡らすようになって、更に月日が流れた頃。
突然その話は降って来た。
「天冰様が、遂に法を施行なさる。ついては、最も天冰様のお考えに近い案を提出した当家がお褒めの言葉に預かり、施行に向けた教員の確保、各地への派遣に関する業務、学ぶ者達への通知や選別など、全ての監督官に、お前達三人を任命された。既に着手されている建物の建設状況も含まれる。お前達にはそれぞれ、天冰様から指示のあった官吏の方が補佐に就いて下さり、部下も派遣して下さる事になった。この仕事次第では、昇進及び冰大家への配属もあり得るとのお達しである。心してかかるように」
ランド、テーラと久々に顔を合わせて懐かしさに涙を浮かべたミノルは、ぽかんと口を開ける。
雁首揃えた三人は、一様に間抜けな顔で、その達しを聞いた。頭の中で三回は反芻してから、三人は同時に悲鳴に似た叫び声を上げた。




