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ミノル⑩

 ミノルは、三ヶ月をかけて、担当の村を回り終えた。

 色んな種族の者達と話す機会を経て、やはり足を使って良かったと思った。考えていたよりも、皆それぞれに違った考えを持っていた。

 残念ながら、レイの政策に懐疑的な者も多かった。それは年長者に多く、官吏になれるような者だけが取得する事を相当難しい事だと捉え、今更学ぼうという意欲がない者が殆どであった。仕事の時間をとられる事にも抵抗があるようで、働く大人世代にはあまり心証が良くないようであった。

 一方で、子供達には学んでみたいと言う者も多かった。官吏には一定の憧れがあるもので、今まで学ぶ事に縁がなかった彼らにとって、無料で勉強が出来る魅力は思っていたより威力があったらしい。勉強が嫌いであったミノルは、子供達こそ勉強時間を与えられる苦痛を感じているのではないかと予想していただけに、良い誤算だった。もちろん、嫌がる子供とていたが。

 村の規模によって学び舎の大きさも違い、それこそ知能水準には驚くほど差があった。飛脚を生業とする一族は、配達先を知る必要性から既にある程度の文字が読める者がいたり、はたまた商売だけを糧にしてきた一族などは、必要がないだけに一切触れたことすらなく、種族を上げて文字の修得にに懐疑的であったりと、レイの悩む声が聞こえてきそうな程に種族によって差があった。

 三ヶ月ぶりに顔を合わせたランドとテーラと共に、早速肩を並べて成果を報告しあったが、ミノルと同じように、種族間、世代間での温度差を埋める必要性を感じていた。

「意見が割れるのは仕方がない。改革とはそういうものだ。だが、最も大衆に受け入れられる支持を集めておくことは、今後の天冰様の評価に関わる」

 ランドは難しい顔をして、腕を組む。

「そうは言うが、今回の件についてはむしろ、反対意見の方が多いくらいだ。天冰様も、自身の評価を優先させちゃあ話は進まないと分かってらっしゃるはずだ。自身の評価をとるか、国の礎となるか」

「それを、なんとかしたいのよ」

 レイの評価は、下げたくない。うまく、話を進めたい。皆にとは言わないが、いずれ受け入れてもらえる改革を、レイのために。

「ミノルは、やけに天冰様に固執するなぁ」

「惚れてるのよ」

「は?」

 テーラはあんぐりと口を開け、次いで苦く笑った。

「つまらねぇ冗談だ」

「本気だけど。あたし、絶対にあのヒトの妻になる。あなた達、今のうちにあたしに恩を売っておいて、損はないわよ。あたしは、冰大家の妃になるんだから」

「は、ははっ、はははっ!!笑える、笑える冗談だ、ミノル!相手が何者か分かって言ってるのか?飛ぶ鳥落とす冰だぞ?今最も世間の注目が集まっている、紅国きっての大家だ!そこの?天冰様の妻になるってか!?一官吏が!?」

「なるわ」

 じろり、と睨むと、テーラは苦笑いを顔に貼り付けたまま、眉を徐々に下げていき、大きなため息をつきながら目頭を押さえた。ランドに関しては、目を丸めて言葉もない。

「あのなぁ、・・・いや、まぁ女の夢だろうさ。分かる。男の俺でも分かる、その野望と夢。しかしだな、」

「勘違いしてるわ、テーラ。あたしは天冰に嫁ぐのではなく、あのヒトに嫁ぐのよ。彼が一文無しになっても、あのヒトに嫁ぐ」

「はあ?益々分からん」

「分からなくて結構。あたしに恩を売っておけば間違いないのよ。さあ、早く案を出してちょうだい。提出期限はもうそう長くないわよ」

 ばんばん、とミノルが机を叩いて話を切り上げようとすると、ランドとテーラは顔を見合わせ、言葉を飲み込んだ。どうやら頭がおかしいと思われてしまったようだが、本気である事は伝わったらしい。

「あー、ごほん。その、あれだ。学び舎はどうだった?俺は、広さが全く足りんと思ったが」

「あー、それは同感だな。大人も入れるのは難しい。新たに増設するのがいいだろうが、それこそ幾らかかるか分からないな」

 ミノルも同意見だ。場所もなければお金もない。具体的に予算が知らされていなくとも、そのくらいのことは見当がつく。

「場所、種族間水準と年齢水準の均一化か」

 ミノルはしばらく頭を抱えていたが、煮詰まって立ち上がる。ランドとテーラも同じらしく、大きく伸びをしたり、体を動かしたりと、頭を休め始めた。

「だめだ、こういう時は他の意見を入れるのがいい。俺はちょっと色んな部署の官に雑談がてら話を聞いてくる」

「あたしも行くわ、テーラ」

 ミノルが挙手すると、ランドは逆に席に着いた。

「ならば俺は、ここまでの成果を報告書にしておく」

 ミノルとテーラは、ランドに敬礼をする。

 それが一番面倒な仕事だと思っていたが、どうやらテーラもそうらしく、顔を見合わせて、にやりと笑っ合った。

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