リジーさんの怒涛(?)の日々だヨ④
ポチリと拍手等、ありがとうございます。
扉から文字通り飛び出してきた老人は、その勢いのままに『総合案内』のカウンターへ両手を叩き付け、身を乗り出す様にしてギルド内部を見渡す。
その一連の物音が響き渡った為か、ギルド内にいた冒険者や職員の視線が一斉に老人へと集まる――が、本人はどこ吹く風。全く気にせず、ギルド内を忙しく見渡している。なんか、滅茶苦茶、嫌な予感がするんだけど……。
忙しかった老人の瞳がネスやルベルと共に立っていたあたしを捉える。すると――。
目をカッと開き、口から唾を飛ばしながら身を乗り出してきた。
「貴方がリジー殿ですかーーーーーっ!!」
そう叫ぶや否や、カウンターによじ登る。
おい、爺さん……行儀が悪くないか? 今時そんな事、アホか子供しか遣らないぞ?
追い掛けてきた事務の女性が老人に何か言っているが、言われている当人はそれを無視し、カウンターに土足故の足跡をつけ飛び降り、あたしの方へと駆けてくる。
「リジー殿っ!!」
喜色満面の笑みで近寄ってくる老人――いやもう爺さんでいいか――に、あたしは思わず。
「人に迷惑を掛ける様な事をやるんじゃないっ!!」
怒鳴り付けた。
ニコニコ顔だった爺さんは驚いた様に立ち止まり、ポカンとあたしを見ている。
あたしが顎をしゃくって後方を示すと、爺さんは首を傾げつつ振り返り。
「あっ、ああああっ! す、すまん! ユホっ!!」
事務の女性が雑巾片手にカウンターを拭いているのを見て察したのか、爺さんが謝罪しながら来た道を戻る。あんたね……。
その行動に呆れるしかないが、あの女性が後から付いてきたという事は、この爺さんがルチタンの支部長なのだろう。
……今更だが、ギルド内部を見て褒めたのを後悔する。あの分業はこの爺さんの功績じゃないのかも?
だけどまあ、この爺さんがギルド長なのは間違いないだろうから、こっちの要求(?)を提示し、さっさと話をまとめないと。余り遅くなると食事の時間がずれ込む。しかも、遅くなればなった分、ゆっくり休む時間が減る。それは頂けない。
あたしは溜め息を吐きつつネスやルベルと共に爺さんの後を追い掛けカウンターに近付いた。
女性はあたしが近付いて来たのに気付き、雑巾をサッと隠して頭を下げた。
「お見苦しい所をお見せしました。……こちらが、メルディ国ルチタン支部の支部長を務めていますジーチャです」
「……じーちゃん?」
「ジーチャ、です」
「……」
「……」
そのどうにも微妙なその名前は一体どこから出てきて、誰が付けたのだろう……。
女性――ユホ? と共に、焦っている支部長を眺める。
すると、後ろにあたし達が来たのに気付いたジーチャがユホに「違うのだ、こんな事をするつもりではなかったんだ! 後で理由はきちんと話すから!」等と支離滅裂な言い訳をした後、あたしに向き直った。
「醜態を見せて申し訳ない! 受付主任のユホ――彼女の事だ。ユホの言う通り、私がこのルチタン支部の支部長をしているジーチャです」
さっきの残念な行動はどこいった?
普通に頭を下げてきたジーチャに面食らいつつ、あたしも軽く頭を下げる。
「あ、はい、えーと、リジーです」
あたしの自己紹介にジーチャは嬉しそうに頷き、総合案内カウンターの横にある間仕切りを開いた。
「詳しい話は支部長室で。奥へどうぞ」
間仕切りを開いて現れた通路を進む様、ジーチャが促してくる。なるほど。ここからギルドの奥に行けるんだ。
あたしはネスとルベルを伴い、ジーチャの先導で奥へと進む。
ユホはその場で頭を下げた後、徐に雑巾を再び取り出し掃除を始めた。
うん。邪魔なのはサッサと消えた方が良さそうだ。
少し早足気味のあたし達が扉の奥へ消えた途端。一部始終を黙って見ていた冒険者や職員達が一斉に騒ぎ出した。
性能の良くなったあたしの耳は、扉を挟んだ向こう側の声すら拾う。
「あのばあさん、何者だ!?」
「最初からマスターが素を見せるなんて、只者じゃないぞ!?」
何、その評価は……。
ジーチャが残念系な行動を発揮すると、相手が只者じゃないって事になるの? それおかしくね?
「あのネスフィルが黙って言う事を聞いているんだぞ! 普通じゃないのは確かだ!!」
オイ……何でそこでネス?
もしかしてAプラスランクだから? いや、そう言えばさっきモンド隊長がネスの事を一匹狼とか表現していたな……。ネスが、一匹狼……? これで??
ネスを見上げると、それに気付いたネスがちょっとだけへにゃっと笑う。
うん。その他の評価、色々おかしいね!
後方の大騒ぎを気にするのは止め、あたし達は黙ってジーチャの後を追う。
「こっちへ」
土――というよりコンクリっぽい廊下を抜け、階段を昇った先にあった茶色い、何の変哲もない扉をジーチャが開き、さっさと中に入る。
何の変哲もないとは言ったが、片開きの扉の中そこだけは両開きの扉なので、それなりに位の高い人物の部屋なのが分かる。ジーチャがさっさと開けて入ったという事は、つまり、ここが支部長の部屋って事になるのかな?
中は凄いシンプルだった。
採光の良さそうな窓にはベージュのカーテン。木製の風合いそのままのシンプルなデスクに椅子。木の壁面に収納棚。簡単な接待用なのか、これまたシンプルな木製ローテーブルと、背もたれのあるベンチにクッションを取り付けた様な木製ベンチシートが2つ、テーブルを挟んで向かい合っている。
ジーチャはその片方のベンチに向かうと、対面のベンチを示し、あたし達に座るよう促してきた。
「それで、盗賊の事で話があるとの事でしたが、どういったご用件でしょうか?」
座るなり単刀直入に問い掛けてくるジーチャ。これはこれで話が早くて助かるわ。
「モンド隊長やサージット隊長から書類が届いていると思うんだけど……確認は?」
「しています」
そう言って、ジーチャはあたしの顔色を見ながら、書類に書いてあった事を口にする。
なるほど……カジス村の絶望レベル高年オヤジの事、あたしやネスに護衛依頼した事はそのまま伝え、街道沿いの盗賊とその協力者であるクズの事はサラッと概要だけ、か。
……隊長達、流石。重要な部分は全て秘密にしているのに、それに気付かれない様、上手に概要を纏めて必要な情報だけを与えている。
特にあたしに関しては必要最低限の事以外はまるっと伏せ、あたしがどう行動しても良い様にしてある。立会人にギルドを選ぶのは隊長達も予想の範囲内。だからこそ、交渉しやすい様にしてくれたのだろう。
そうなると、さっきのジーチャの奇行が気になるが……あれは、あたしの様子見かな?
名前は分かるが、ギルドに登録していない為、どういった人物か分からない。だから、ギルドの職員や冒険者達に気付かれないレベルであたしの事を探った、とも考えられるけど……どうなんだろう?
今のジーチャを見る限りは、そうな気もするけど……?
まあ、あたし自身もこの人の事は分からないから、ギルドに来て、中を見た時の印象を大事にしよう。『かなりまともな部類』で、『仕事が出来る』。
しかも、年老いている。この世界で見た目が年寄りって事は、それ相応の経験を重ねているのは当然。実年齢28のあたしが年の甲に勝つ為には、油断せず、こっちに有利になる様に交渉を進めないとね。
『勝つ……?』
ある種の勝負でしょ、これは。
あたしはジーチャの説明が終わった途端。なるほど、と頷き、思わず笑った。




