閑話 予想外の事ばかり起こりますヨ side幸運神
※※※ 注意 ※※※
この話は、前回の閑話と同じく、主人公視点では分からない、本編の裏話のような、ある種のネタバレ的なものを含むサイドストーリーとなっています。
読まなくても本編の方に変わりはありませんが、人によってはこれを読んだ事により、本編の読み方が変わる可能性があります。
その為、これを読む、読まないは自己責任でお願いします。
読了後の苦情等は受け付けませんので、ご了承下さい。
――という説明もそろそろ要らないかな~と思いますので、次回からこの注意文は省略させて頂きます。
この話は、『42 過保護はめぐるヨ』までの神サイドの裏話になります。
「あらあらまあまあ」
わたくしの口から、ここ数日の間に口癖となった言葉が零れ落ちます。
わたくしの視線の先には、数日前にこの世界へ召喚されてきたリジー。テントの外に出てきた彼女を通して見えたのは、昨夜彼女が張った結界に引っ掛かっている大勢の人。こんな光景、初めて見ます。
それにしても……なんと神の力の不便な事でしょう。世界を眺める程度でしたら問題ないのですが、特定の誰かを見ようと思いましたら、自分が司るものを通すか、加護を通すかしなければ見えません。
わたくしの場合、司るのは幸福と運。世界中にあるようで、限定的なもの。お蔭で、リジーを見ようと思いますと、リジーの加護を通すしかありません。
これまでわたくしは何にも加護を付与した事がなく、世界を細かく見ようとも思いませんでしたので特に不便は感じていませんでした。わたくしの司る力が正しく作用し、世界が持続している。それだけでいいと思っていましたし、世界に対してそれ以上の興味もありませんでした。
しかし、リジーに加護を与え、リジーを通してわたくしの目に映る世界のなんと新鮮な事でしょう!
この様な状況になった事で、わたくし、魔術神等、世界に満ちている力を司る方を羨ましく思うようになりましたわ。
「なんだぁ? なんで盗賊なんかに会ってるんだ? リジーは幸運神の加護を持ってるよな?」
「はぁ……」
闘神の疑問に、魔術神が溜め息で答えています。わたくしの顔にも苦笑が浮かびますが、魔術神に気を取られているのか誰も気が付きません。
ここは魔術神に説明を任せてしまいましょう。
「幸運神の司る『幸福』と『運』。これは、大きく分けて2種類あるんです」
あらあら。魔術神がわたくしの方をちらりと見て、睨み付けてきました。任せてしまった事に気付いている様です。
「1つは、個人に対するもの。よく『幸運が舞い込んだ』とか『運気が上がった』等という言葉を聞くと思いますが、これこそが幸運神の力で最も分かりやすい例ですね。ただしこれには条件があり、必ず『行動する事』が必要です。『運が良い』等、『運が悪い』時を知らなければ言えない事ですよね?」
「ん~? そうかぁ?」
「……。弓の才能を持っている者が、かっこいいからと剣の修行ばかりしてある程度使える様にはなったけれど、やはりそこはある程度にしかならず。才能の限界を感じてどうしようか考えた時、そこで諦めて終わるのか、もしくは違う武器に手を出し弓の才能を開花させ名を残すか。この分岐点で最も重要な要素となるのが幸運神の力です。その個人にとってより良い道へ導く。これこそが『運の良さ』です」
あらあら。その説明の方が分かりにくいのではないでしょうか?
「ああ、なるほどな。修行しなきゃ、才能なんて開花しねぇからな。大変でも、努力した奴にこそ、より上の幸運を与えるって事か」
あら。通じた様です。
「その様なものですね」
魔術神が呆れた様に頷いています。
ふふ。例外もありますけれど、基本はそんな感じですね。
「そして、忘れがちなのがもう1つの方です」
「ん? 個人だけじゃねぇのか?」
「神としてはこちらの方が重要ですね。もう1つは――『世界に作用する力』です」
「世界~?」
闘神が本当に不思議そうな顔をしていますが……。
「なにアホ面をさらしているんですか。幸運神の力は、貴方にも関係するんですよ?」
「はぁ!?」
「いいですか。幸運神が司るのは『幸福と運』。世界を『より幸せに』する為、作用する力。幸運神の力が正常に働かなければ、『よくないもの』や魔物が溢れ、あっという間に世界が衰退し、今の様に研鑽を積んだ事により無駄が省かれ、洗練された武術等、存在しないのですよ?」
「なんだとぉ!?」
そうです。かなり忘れ去られがちではありますが、わたくしの力にはそういった面があります。
世界が正常に機能する事。それこそ、『幸運』以外の何物でもないのです。
「おーーい、魔術神! 使える物を作ったから、ちょーっと魔術を施してくれ」
「ああもうっ! 説明している時に、なにをやらかしているんですかっ!!」
元々、物作りが好きな技工神。リジーに加護を与え、自分の作った物がリジーの役に立つ。それが嬉しいのか、喜々として色々な物を製作しています。
今回は……。
「……なぜリアカー?」
「ん? 物を乗せると言ったらリアカーだろっ!」
「物?」
「盗賊共」
「ああ、なるほど」
「な?」
あの結界に張り付いている盗賊は、技工神や魔術神からしたらただのモノの様です。
「ふむ……逃走防止に強制搭載、魔力封じ、ですかね?」
「あら、魔術神。汚物処理も付けないと、リジーに迷惑が掛かりますわよ?」
「ああ、そうですね」
「普通の馬が引く可能性もあるから、重量軽減もなっ!」
「はいはい。ああ、技工神、最大収容人数は20人くらいでいいですかね?」
「そうだな。そのくらいでいいんじゃねーか?」
「物ですしね」
「物だからな」
つい口を出してしまいましたが、魔術神が納得して下さったので問題ありませんね。
「時空神! これ、贈り物の中に送ってくれっ!」
「それはいいが……一体、いくつ作ったんだ?」
「さあな。まだまだ量産は可能だぞ!」
「必要に応じてで頼む」
「なんだ。残念だな」
軽い遣り取りを交わしながら、時空神が『時空神の贈り物』内と空間を繋ぎ、技工神作のリアカーをどんどん入れていきます。本当に、いくつ作ったのです?
「ああ……結構、盗賊がいますね。リアカーを引くゴーレム馬も必要ですね」
リジーにリアカーの事を伝えていた魔術神が、とても嬉しそうに魔術を操り――。
「……そのゴーレム馬、かなり高性能ですよね? 良いのでしょうか?」
「魔術特化のリジーなので問題ないです。彼女ならこの位、自力で作れると思いますよ?」
「では、いい……のかしら?」
ここまでずっと黙って見ているだけの成長神に顔を向け首を傾げますと、成長神は深々と溜め息を吐き、ひとつ、頷きました。
「実際、リジーなら可能だと思える範囲内なら、問題ない」
成長神が許可するのでしたら、問題ありませんね。
問題……。
……。
「……そのゴーレム馬、本当に問題ないのですか?」
「……戦闘力と防御力を……強化、だと?」
「成長神?」
「私に聞かないでくれないか」
「あらあら」
成長神が考える事を放棄してしまった様です。
これはいけません。魔術神がやりたい放題になり、収拾がつかなくなる可能性があります。
「魔術神、ほどほどにしておいて下さいね」
「十分、ほどほどですよ?」
「……リジーが過保護だと言っていますのに?」
「彼女はいつも言っているから問題ありませんよ」
「そういう問題ではないでしょう……」
わたくし自身もリジーには甘いと自覚していますが、魔術神も相当な気がします。
「幸運神。私とリジーは持ちつ持たれつという感じです。彼女が無意識に与えてくれる事が、私にとっては重要です。それを正当に評価して返しているだけです」
正当……?
「そうなのですか?」
「そうです」
「そうですか」
「いやいやいや! 幸運神! 魔術神のそれはただの言い訳だから納得しないっ!!」
「うるさいですよ、成長神」
魔術神の成長神に対する態度が悪くなっているのは気のせいでしょうか?
「いいや! 間違いなく態度が悪くなっているっ!!」
「だから、うるさいですよ成長神」
天界では賑やかな会話が交わされていますが、地上の方は……あらあら。こちらも随分と賑やかですね。リジーが技工神作のリアカーに盗賊達を次々と載せています。
「いえ。あれは魔術の影響ですね」
「……わたくし、なにも口に出してはいませんわよ?」
「付き合いが長いのですから、なんとなく、何が言いたいかくらい分かりますよ」
……分かるのに、(そのほとんどの疑問に対して)説明しないのですね……。
呆れて魔術神を見ますと、魔術神は楽しそうに笑い――ふ、と。真面目な顔をしてリジーをジッと見詰めました。
「魔術神?」
「どうした?」
魔術神の常とは違う態度に他の神々も気付き尋ねますが、魔術神は何も答えません。
魔術神の視線を追って地上を確認しますと、リジーが盗賊の頭と対峙していました。神の怒りに触れ、罪の数だけ様々なモノを失い、醜く肥え太った男。あの肥大化した体は、それだけ他人の恨みを買っている証です。
「――表裏神?」
驚いた様に魔術神が呟き、弾かれた様に顔を上げ、この場に集う神々の一角を見ます。そこには――既に本来の名が忘却の彼方となり、召喚された者により誤った名を与えられ、それが通称となってしまった『闇黒神』がいます。
ですが、今魔術神は、全く違う名を呼びませんでしたか?
「リジーが……『表裏神』に改名したらどうかと言っています」
「……」
成長神と並ぶ古き神。いつも俯いている状態のまま動いている所も、話している所も見た事のない神。その神の視線がゆっくりと上がり、魔術神を見詰めました。
「誰かが勝手に呼び出した名前なら、改名するのも勝手だろうと言っています」
成長神と魔術神以外の神々は古き神が動いた事に驚きながらも、その一挙手一投足を固唾を飲んで見守ります。
古き神は魔術神の言葉を聞き、地上――リジーへと視線を向けました。
「リジーが呼んだのは『表裏神』です。表と裏。正反対のもの。これで、貴方の司るモノがなにか分かるし、悪い印象を与える事はないだろうと言っています」
古き神が、ゆっくりと、瞬きします。
『――っ!!?』
大きな力の流れを感じ、その場に居た全ての神々が古き神の司る力の大きさに驚きましたが、それ以上に――かの神の口角が、少し、上がりましたか……?
あらあらあら~? もしかして、笑ってらっしゃるの? 当然ですが、わたくしも、他の神々も――成長神は分かりませんが――初めて見たと思いますよ?
「えっ!? もしかして表裏神、嬉しかったのですか!?」
あらあら~?
焦ったような声を上げる魔術神を見ますと、魔術神はリジーと古き神――表裏神を交互に見比べていました。
「……表裏神は自分の司るモノが与える影響を理解している。その力を恐れた者に付けられた名である『闇黒神』。そう呼ばれるのも、その力ゆえに仕方ないと諦めていたんだ。だが……今、リジーが改名を勧めた事で、自分の司るモノは悪いモノではないのだと、思い出せた様だ」
成長神が表裏神の肩を軽く叩き、微笑みを浮かべています。
それに対し表裏神は、薄い微笑みを浮かべたままリジーだけを見ています。その視線……かなり熱が籠っている様に感じるのは、わたくしの気のせいでしょうか?
「……なぜ成長神がそんな事を言えるのですか?」
「お前達より遥かに付き合いが長いのだ。その心の内を代弁できたとて、おかしくはないだろう?」
あら~……。こう言ってはなんですが――。
「……最高神らしい部分もあるのだと、今初めて感心しました」
「魔術神……」
成長神はがっくりと項垂れていますが、周りを見回しますとほとんどの神々が頷いていますから、魔術神と同じ事を思ったのでしょう。
かく言うわたくしも、そう思ってしまったのですが……。時々、本当に最高神らしい方ではありますが、普段が余りにも……。
「はぁ……。リジーには表裏神の加護が付与された理由。嬉しかったからだと説明しておきますよ」
『――えっ!?』
驚きの声が重なります。
それはそうでしょう。……表裏神が、リジーに加護を与えたのですか? その加護は、わたくしなど比べ物にもならないくらい希少ですよ?
「なんつーか……負けてらんねぇなっ!!」
まあ?
「なにに対抗意識を燃やしているんですか、竜神は」
「いや、なんとなくか?」
「なんとなくって……」
「そんな事よりもだな! おい、技工神! 手伝ってくれっ!!」
「そんな事って……」
「手伝ってくれって何をだ?」
「赤竜王に竜具を作ってくれ!」
『はい?』
あら。全神の声が重なりました。先程までリジーを熱心に見ていた表裏神ですら訝し気です。
「赤竜王は何を遣るか分からんからなっ! リジーの安全を確保しないといけないだろう!」
「ああ、なるほど。そういう事でしたら、私も協力しますよ」
「自分の力も必要だろう? 協力する」
あらあら。リジーの為となったら、魔術神も時空神も進んで協力するのですね。
といいますか、神にすら何を遣るか分からないと言われる赤竜王って、おかしくありませんか?
「あいつの大きさについては分かるから、それを基準に作って……」
「大きさを自動で変更できる様にしないといけませんね」
「浄化も必要か?」
「あった方がいいと思います」
「後は……空に居る時の補助か?」
「だから! あいつはどんな飛び方するか分かんねぇから、飛んでる時の補助も必要だっ!!」
「上空の暑さ寒さ対策もしないとな」
「風は?」
「それは空に居る時の補助に含まれるので大丈夫です」
「ついでに、あいつは火属性のくせして風対策の魔法だけは得意だぞ」
「それはそれでどうかと思うが……」
話が進むの、早いですね。
最も、地上界と天界では時間の進み方が違いますので、早くしないといけないのは分かりますが……。
「できたぞ」
「魔法も完璧です」
「移動の時以外は出てこない様に調整済みだ」
「よしっ! じゃあ俺様の力で赤竜王に付けておく!」
本当に、早いですね……。
リジーが野営地に戻ってくる前に完成しましたよ。
「っ!!」
「獣神? どうかしましたか?」
「……」
なんでしょう? 獣神が……恨めしそう? に地上を見ています。
「ああ……」
あら? 魔術神には理由が分かるのですか?
わたくしも地上を見てみますと、リジーがネスフィルを撫でているところでした。ああ、なるほど……羨ましいのですね、獣神……。
獣神を微笑ましく見ていますと、魔術神が「おや」とか呟いています。今度はどうしました?
「入町の際の測定器の事を忘れていました」
「どういう事だ?」
「田舎の町村にある測定器は懲罰しか調べられませんが、大きな所に行きますと、加護とかまで調べられる測定器がありましたよね……」
「……つまり?」
「リジーの創った無開示の魔法は情報を見る事を制限する物であって、調べる事までは範囲外です。つまり、調査系の測定器を使われるとリジーの情報は丸分かりになってしまいます」
『あ~……』
人に加護を与えた事のないわたくし達までがリジーに加護を与えていると知られるのはよろしくありませんね……。リジーを面倒な事に巻き込んでしまう可能性が高くなります。
「隠匿魔法を使う様に勧めましたが、根本的な解決にはなりませんね」
「ん? リジーは隠匿魔法を使えるのか?」
「成長神……忘れたのですか? 隠匿魔法は私の加護がないと使えません。私が生きている者に加護を与えたのはリジーが初めてですよ?」
「ああ……そういえば、魔力も白以上が必要だったな……」
「ええ。だからリジーしか使えません」
「神獣が持つのは『加護』ではないからな……」
「ええ。『天恵』――神が眷属となった聖なる獣に与える恵み。『加護』の上位。その存在を守り、守られる絶対の掟。リジーにも与えられれば楽なんですけどね……」
「魔術神……」
「これまでの会話からしますと、リジーは一方的に守られるのを嫌がっている様な節があります。『天恵』になれば、リジーの行動や力により、我々神も守られる様になります。そうなれば、『過保護だ』とか『自重しろ』とか言われなくなると思いますよ?」
あらあら。それは……。
『魅力的……』
「でしょう?」
あらあら、いけません、いけません。ついつい本音が出てしまいましたわ~。
「まあ、今はそれを議論しても仕方ありませんから、リジーの問題を片付けますか」
「どうしますの?」
「リジーの偽りの設定は作ってありますからね。それと辻褄が合う様な偽りの情報を創造し、それを確定してリジーの表面を覆ってしまいます」
あら。
「竜神。加護を通して赤竜王に連絡を取り、リジーを守る為の協力をお願いして下さい」
「おう。――……あっさり許可しやがったぞ」
「では、事前に作っておいたリジーの設定を赤竜王に刷り込み――」
……あら~? いくつかの力の流れを感じましたよ?
「……はぁ……成長神、竜神、表裏神、私の力により、設定の刷り込みが問題なく終わりました」
あらあら。
成長神、竜神、表裏神を見ますと、皆様、どこか満足気です。こういうのを、「してやったり」と言うのかしら?
「では、リジーの偽りの情報を創ります」
まあ! では、今度はわたくしも――。
……あらあら~? また、ですわね~?
「……またリジーに、過保護だ、甘いと怒られますよ」
『今更』
ですわよね~。
「そして表裏神。創った情報を本物の様に見せかける為、何気にがっつり干渉し、偽りの情報を表向きの情報として確定したのですね……」
あらあらまあまあ。
感情が消えてしまったのかと思っていましたが、表裏神たら、かなり熱い方でしたのね?
「はぁ……」
あら? 表裏神の顔を見ていた成長神が、深々~と溜め息を吐きましたわよ?
「諦めろ、魔術神」
「は?」
「表裏神は自分を受けて入れて貰えた事で感情のタガが一気に外れた」
「はい?」
「これはもう、あれだ。『過保護』を通りこして『溺愛』しているな」
「……は??」
「表裏神の世界の中心はリジーになっている」
『……』
あら~?
「つまり……リジーの為なら、なんでもやるかもしれないって事ですか?」
つい、口を挟んでしまいましたが……。
「……そこで、力強く頷かないでくれませんか、表裏神、成長神……」
あらあら。いつもはもう少し鋭い言葉を投げ掛ける魔術神が項垂れてますわ。
「なんだってこう、加護の暴走といい、神の執着具合といい、予想外の事ばかり起こるんですか……」
「リジーですから、当然なのではないですか?」
「それがおかしいと言っているのです」
「あらあら? では、魔術神は手を引けば良いのではなくて?」
「……」
ふふふ。魔術神が黙って顔を背けてしまいました。
わたくしの言葉に何も返さず、魔術神が黙々とリジーと話をしている様です。ふふふ。魔術神にとってリジーと会話をする時間は楽しい様ですから、手を引くなんて、嫌ですもの。返事しませんわよね~?
「……リジーがまた提案をしています」
「提案? 表裏神の改名だけではないのか?」
「はい。我々に声を届ける事ができる『魔力の宿った物』と『祈り』についてです」
「は?」
成長神が訝し気な顔をしていますが……それはわたくし達も同じです。あの穢れまくった大神殿にある神像がなんですの?
そして、祈り? あの利己的な祈りがなんだというのです?
「……リジーは、心を込めて彫った神像へ真摯な態度で祈った時に、我々へ声が届く様にすればいいと言っています」
『はい?』
あらあら。また神の声が重なりました。まあ、意味が分からないのですから、仕方ありませんわよね?
「魔力の宿る物。石だけではなく、木等で心を込めて彫られた神の像。今までは神殿に行くという選択肢しかありませんでしたが、技術ではなく心で彫られた神の像に真摯な態度で祈る事で我々に声が届く。この様にすれば、利己的な祈りが届く事も減るのではないかと――」
『ああ、なるほど』
「それは盲点だったな」
「全くです。昔から『大神殿で祈る事でのみ神に声が届く』が私達の当たり前でしたので、それを変更するという考えがきれいに抜けていました」
「そうだな。皆、これは採用でいいな?」
『異議なし』
ふふふ。即決ですわ。
わたくし達、大神殿で祈る者達の卑しい声に辟易していたのですもの。あの声が減るのならば、こんな嬉しい事はありませんわ。
「ああ、そうだ」
「? どうかしましたか、成長神?」
呟きを落とした成長神を見ますと、成長神は少し楽し気な顔をしていました。
「幸運神」
「はい?」
「リジーがあの盗賊達に会ってしまったのは、『世界を幸運にする為』で間違いないな?」
「そうだと思いますわ~」
あの盗賊達は表裏神に見放されていた以上、この世界にとって不要な存在となっていました。
ですが、その盗賊達をなんとかできるだけの力を持つ者が近くを通らなかったからこそ、今まで生きていられたのです。ネスフィルがあの場を通過しましたが、彼は自分の目的が最優先の為、あの盗賊達を放置してしまいました。
世界に作用する幸運の力は万能ではありません。ネスフィルの様に強い意志を持つ者に寄り道させるのはまず無理です。だってその『寄り道』は、その者にとっては『無駄な時間』ですからね。
その結果、世界に作用する幸運の力が世界を今よりも良い物とする為に、近付いてきたリジーを引き寄せたのだと思います。
ある意味リジーも強い意志を持っています。でも、わたくしの加護を持つからこそ、幸運の力が強く働きかけたのではないでしょうか。
そして――。
「なんとなくですが、リジー自身、多くの幸せを望んでいるのではないでしょうか?」
「自分のか?」
「いいえ。無意識だとは思いますが、多分――リジーに手を差し伸べた存在全ての、です」
わたくし達にも色々と言ってきますが、余り不快に感じないのです。
最初はなぜと思っていましたが、彼女の発言をよく聞きますと、確かに自分の事を優先して言っている部分もありますが、所々に他人を思い遣る言葉が含まれているのに気が付いたのです。
わたくし達の意を汲んで受け入れてくれたのだと、そう思える事が何度かありました。ふふ。一言二言、余計な時もありますけれど?
それが最も顕著に現れたのが表裏神の改名ではないでしょうか。本当の意味で自分本位な者が、他者を不憫に思う? それは有り得ないと思います。
「なんだかんだと言ってはいますが、真っ直ぐに頼まれるとリジーは断れません――といいますか、断りません。分かりにくいですが、これこそがリジーの持つ優しさではないでしょうか」
「ふふふ。昨夜の結界も、自分の為とは言っていましたが、結果的に皆の為になってましたからね」
「リジーは絶対に認めないでしょうが」
「ふふふ」
魔術神の言う通り、リジーは自分の為なのだと言い張り、認めない気がします。
「そうだな」
あら。成長神が普通に同意しました。
驚いて成長神を見ますと、「私にだってそのくらいは分かる」と笑ってました。
「リジーのその性格等から、今後もこの様な事が起こりそうだな」
「そうですわね。確実に起こると思いますわ~」
わたくしの即答に他の神々が苦笑していますが、誰も反論しません。ふふふ。やはり、誰もがそう思うのですね。
「では、『お礼』という形を取り、彼女の手助けを少しだけしようと思う」
『は?』
「どういう事です?」
「祈ってくるあやつ等が残していく物。アレは我等にとって不要だが、リジーには使えるのではないか?」
「ああ……アレですか……」
魔術神が考え込み、リジーをジッと見ています。
「今後の事を考えると、――で、――は――から――そうすると――ああ、そういえばアレも――」
独り言の様で、何を言っているのか詳しくは聞き取れませんが、リジーの今後を考えているのでしょうか?
「確かに、有用性はかなりあると思います」
「では、構わないな?」
「ええ。それから、先程の祈りについて例外を作りませんか?」
「例外?」
「はい。祈りの態度が悪い者の声は届かないまま、大神殿に捧げられる物は我等の所に届く様にしておきましょう。アレが増えようとも、リジーは気付かないと思いますので……」
「気付かないか?」
「はい。……食料や様々な道具等……量が膨大過ぎて把握するのを諦めた様ですので」
『ああ……』
あらあら。良かれと思って贈られた食べ物が、まさかその様な結果を生むとは……。
「資源神! いい仕事をしたなっ!」
「技工神。貴方もいい仕事したわね」
「そこでがっちり握手をするなっ!!」
「なんだよ成長神。固いなー」
「本当ほんとー。こちらに都合の良い結果になったのだから、問題ないでしょ~」
「そういう問題では――「そういう問題で済ませて下さい。それよりも、例外はどうします?」――……採用で」
「分かりました」
成長神の反論を魔術神が途中で切り捨て、成長神が諦めた様に頷いています。
ふふふ。真面目なのもいいですが、柔軟にいきませんとね?
「あ――忘れてました。時空神」
「あ?」
「時間――」
「ああ。リジーの2つ目の提案があったとか魔術神が言った辺りから、地上の時間は止めてるから問題ないぞ」
あらあら~?
「……貴方がそんなに気が利くなんて……」
「お前なぁ……魔術神はリジーと比較にならないくらい、3つも4つも言葉が余計だっ!」
怒ると言いますより、拗ねた時空神が顔を背けてしまいました。あらあら。
「本当に……リジーの為なら力を使うのを惜しみませんね……」
『お前もなっ!!』
成長神、時空神、闘神、竜神、技工神が一斉に口を開き、獣神、資源神、表裏神が頷いています。
確かに、力を自重しないという意味でしたら、魔術神には言われたくありませんわ~。
「まあ、いいでしょう。時空神。これが私の持っている物です。贈り物の中へ入れて下さい」
早々に話を切り替え、魔術神がどこからともなく紙の束を出し、時空神へ渡しています。
ああ、そうですね。いつまでも時間を止めておくのは得策ではありません。急ぎましょう。
「時空神。これがわたくしのですわ~」
「頼む」
「分かった」
其々の神が取り出した物を時空神がどんどん贈り物の中に放り込んでいます。
「整理整頓をお願いします」
「贈り物が勝手にやってくれる」
あらあら。リジーの為なら贈り物も勝手に動くのですね~。
「なんだ~? 随分賑やかだな~」
あら? 農商工神?
あらら? 今までどこに居たのですか?
「あれ、農商工神? 面白い事が好きなお前が今の今までどこに行っていたんだ?」
「面倒な事をやらかした商人がいてな~。面倒だが仕事してた~」
「ご苦労様」
「おう! で、なんだ? 技工神や資源神がすっげー楽しそうなんだが?」
「ああ、それは――」
技工神や資源神がリジーの事をかいつまんで説明しますと、農商工神の目が輝きました。
「なんだよ! そんなおもしれー事が起きてたのか? 言ってくれよ~」
「お前、居なかっただろうが」
「くっそ~。真面目に仕事なんてしてんじゃなかったー」
「仕事はきちんとやれ!」
「なんだよ~。相変わらず、成長神は固過ぎるぞ~」
「お前が緩過ぎるのだろう!」
「まあ、いいや! おーい、時空神。おれっちのも混ぜてくれ~」
農商工神が楽しそうに紙の束を出し、時空神に手渡しています。
「時空神。時間を動かして下さい」
「おう――動かしたぞ」
「……リジーに伝えました。『神が邪魔なら、自分も邪魔だろう』と言っていますが……甘いですね」
「……『それ』を見た時、どういう反応をするのか楽しみだな」
「きちんと実況しますよ」
「頼む」
ふふふ。リジーがどう反応するのか。そういった事でさえ想像するのが楽しいです。
「――」
「魔術神?」
楽しい事を考えていましたのに、魔術神が突然、溜め息を落としました。それがとても嫌そうで……どうしたのでしょう?
「私が説明するより、地上を見た方が早いですよ」
不機嫌な眼差しが地上を見下ろしています。
一体なにが――と思って地上を見て、納得しました。リジーの目の前にいるのは、世界を少しだけ『悪い方』に進めた元凶の1人。わたくしの中に嫌悪感が広がります。
「ふむ……そうしましょう」
「どうしました? 魔術神」
なにかを思い付いたのか、魔術神が楽しそうに顔を上げ、上空に向かって手を振りました。
手を振った先には、マレット……でしたか? それを大きくした物が浮かび、そこに地上の様子が映し出されました。
『あんた、すっごいバカだろ?』
『なんだとっ!!』
『カジスの隊長が『盗賊だ』と言ってるんだよ? あんた、仮にも同じ兵士であり上官でもあるカジスの隊長を疑う訳?』
『――っ!!』
あらあら? 声まで聞こえますよ?
「リジーが教えてくれた知識の一部を魔法で再現してみました」
どういう事? と魔術神を見ますと、楽しそうに説明してくれました。
まあ……リジーの持つ知識って、面白いものがあるのですね。
「今、実際に地上で起きている事です。楽しめると思いますよ?」
リジーとどのような会話をしたのか。その説明を全くしないまま、魔術神が楽しそうに上空を見ています。
時々、地上を気に掛けていますので、リジーと何かしら会話を交わしているのでしょうか?
「おい、こら、赤竜王! リジーに撫でてもらってんじゃねぇっ!!」
「いい、な……」
「獣神……」
「赤竜王ーーーっ! ちゃっかりリジーと一緒とか言ってんじゃねぇーーーーっ!!」
「ネス、止める」
「首根っこ捕まえてやれ!」
「ほぉ……周囲を口先で丸め込んでいるな……」
「どう考えてもアレが怪しいですからね。丸め込むのは楽でしょう」
「証拠は?」
「探せばいくらでも出てきますし、アレもありますし」
「あっはは~。いいぞ、やれやれ~」
「やっちまえ!」
あらあら。賑やかですわね~。
「!!」
「テメッ、このやろっ! リジーに切り掛かるんじゃ――」
「任せろ」
「死んでも困らんっ!」
「そういう訳にはいきません」
「ああっ!?」
「リジーの手を血で染める――しかも犯罪者の血で染める等、冗談じゃありません」
「リジーが責められる可能性は排除しておくべきですわね~」
「ちっ」
闘神が己の加護を操作し、リジーを守った様です。大変、不服そうではありますが……。
『ワシすら吹き飛ばすリジーの攻撃をくらったのじゃ。あれは生きておるのかのぉ?』
「そんなヘマを俺がする訳ないだろう。おい、魔術神。リジーに伝言してくれ」
「はいはい。なんと言えばいいですか?」
「よう、リジー。闘神だ。俺の加護を持つお前への行為、本来なら絶対に許せない事だか、そんな奴を殺ったが為にお前が責められんのもムカつくからな。殺さないよう、加護を通して干渉した」
「はいはい。面倒なので、そのまま送りますよ」
「おう! それでいい。――だがな。やっぱ、許せねぇもんは許せねぇ。だから罰として、そのクズから戦う力を没収した。今後、お前への態度を俺が気に入らねぇと思ったら、同じく戦う力を没収する」
「はいはい」
「ついでに、お前が責められないよう、お前に殺す意思がない状態での攻撃や反撃のみ、相手は絶対に死なないようにしておいた。瀕死の状態だろうと、お前が攻撃する限り瀕死なままで死なねぇから、安心して思う存分、殴り飛ばせ! 蹴ってやれ! 俺が許す!! 以上だ!!」
「はいはい」
「その提案、乗ったーーーっ!!」
「やれ、やっちまえ!」
「やれやれ~です~」
闘神の伝言(?)に竜神、技工神、資源神が勢いよく乗り――あら? 表裏神が厳しい顔で頷いてます?
「表裏神……貴方、罰だけではなく呪いまで追加しましたね……」
あらあら?
ですが、表裏神達の気持ちも分かります。リジーに手を上げるなんて、許せませんわ~。
「おれっちも~。楽しい事には混ぜろ~」
あら?
『農商工神……』
農商工神の言いました『混ぜろ』の意味を即座に察し、ほぼ全ての神が苦笑いするしかありません。
いつの間にか農商工神の加護がリジーに付与され、リジーに加護を付与している全ての神の分、罰や呪いが増えていますわ~。どんな罰や呪いを与えたのか、なんとなく察せますわね。
「11神目の加護……」
「前代未聞ですわね~」
「なんだよ~。技工神や資源神が楽しそうなんだぞ? 仲間に入れろ~って思ってなにが悪いんだ」
ああ、やはり。そういう理由ですか。
「これはもうリジーですから、加護が増えるのも仕方ないと言いますか、当然と思っておくべきなのかもしれませんね……」
とうとう、魔術神が遠い目をしています。
ああ、でも、その気持ち、少しだけ分かりますわ~。ここまで来てしまいますと、色々と諦めて気持ちを切り替える方が早いですわよね。
「リジーがおかしいから、おかしい神々を引き寄せる。もう、それでいいんじゃねーか?」
『……』
自分で自分の事を『おかしい』と言い切りますか、闘神……。
「それよりも問題なのは、あのヤローに与えた罰でリジーはいいのかって事だ!」
「は?」
「俺としては甘い気がするんだよな。どう思う?」
「……リジーに直接聞いてみます」
「おう!」
魔術神がリジーに意識を向け――。
「――は、い? 露出狂? 変態?」
『は??』
魔術神が顔を引きつらせながらリジーの言っている事を通訳してくれます。
あらあら……それは……。
「……アレの着てる物の没収は止める……」
「技工神。アレが一度でも身に付けた物は全て燃やしてしまいましょう。汚い物は消すに限ります!」
「ああ、そうだな、資源神……」
「リジーにそう伝えます。――アレ等が略奪した物を本人に返してあげて欲しいと言っています」
「リジー……」
ふふふ。無意識なのでしょうが、やはり優しいですね、リジーは。
「盗品を回収した中に紛れ込ませておくか?」
「そうだな。我等が直接返す事は無理だから、リジーに任せるしかない」
「時空神。これがアレ等から回収した略奪品だ」
「贈り物の中に入れておく」
「……食べ物や飲み物が全て手に入らなくなるのは止めてと言っています」
「はあ? なんでだ?」
「……そのまま伝えます。『全て手に入らなくなるにしちゃうと、アレ、餓死するでしょ。そんな簡単に死なせるなんて冗談じゃない! 苦しめられた人々がいる以上、それ相応の絶望を味わわせるのは当然!』だそうです」
「当然?」
「当然……」
「そっか、当然か~」
「……『命は唯一無二。替えはない。一人を殺めるだけでも罪深いのに、たくさんだよ? 楽に死なせてたまるかっての!!』と言っています」
リジーの言葉を聞き、技工神、資源神、農商工神がとてもとても楽しそうです。
「そういう事なら、全てじゃなくて1%は残してやるか!」
「楽に死なせては、おもしろくないですよね~」
「……闘神の言っていた『殺す意思がない状態での攻撃や反撃のみ、相手は絶対に死なない』を他の神も適用できないかと言っています」
「あ? 今度はなぜだ?」
「……殺す意思がない状態での攻撃や反撃とはつまり、敵認定して精神的に甚振るのも含まれるから、リジーが敵認定している以上、その敵に加えられる全ての攻撃はリジーの代理。だから敵は死なない。絶対死なないって事は、それだけ苦痛が長引くという事で、最高の嫌がらせになる。死ねない、死なない苦痛を味わえばいい……と……」
『……』
これは……優しいと言って良いのでしょうか? 判断に悩むのですが……。
「魔術神。それは全神で採用しよう」
「え? 成長神?」
「採用だ」
「……分かりました」
どういう事でしょう……普段なら、ああいった事には断固として反対するのが成長神です。それなのに、有無を言わせず決定する等……今までありませんでしたよ?
上空では地上の様子が流れ続けていますが、わたくし達にそれを見ている余裕はありません。
厳しい顔をした成長神を、ただただ見詰める事しか、今はできないのです。
「……リジーの敵はマップ、だったか? それに赤で表示される。そうだな?」
「はい、そうです」
「現在は近場の赤しか表示されていないが、リジーの敵となる者は世界中に存在し、それは既に赤で表示されている。違うか?」
「え――? ああ……はい、そうですね」
成長神の問い掛けに魔術神が確認して頷きます。その間も魔術神は地上を気にしている様ですから、リジーと何かしらの遣り取りしているのでしょうか?
「つまり、その赤い者達は既にリジーから敵認定されている為、『殺す意思がない状態での攻撃や反撃のみ、相手は絶対に死なない』が採用される事になる。罪を犯せばその苦痛が付き纏うと気付けば、少しは犯罪の抑制になるのではないか?」
「そんな無茶苦茶な理屈が通じるか?」
「赤い者達は間違いなく犯罪者だ。しかもリジーの敵だというのは決定しているのだから、即採用されるのは当然だろう」
「あらあら……凄い拡大解釈ですわね~」
「間違ってはいない。それに、少しでも抑止効果が期待できれば、表裏神の負担も軽減される」
「ああ……なるほど。本来の目的はそちらですか」
魔術神が深々と溜め息を吐きました。
「罪を犯す者の行為は狡猾かつ巧妙になり、凶悪化も進んでいます。それ等全てに対して表裏神が力を振るい、その者達の力を罪に合わせて奪うのは大変です。ですが、リジーの敵という事で、リジーに加護を与えている全神の罰をその身に受けさせれば、まず、普通に生きていく――ましてや更に罪を重ねる事などほぼ不可能となります。リジーの敵に対しては表裏神が力を振るう必要がなくなる。その分、負担軽減となる。そういう事ですね?」
『ああ……』
納得しました。確かにそれなら表裏神の負担は減ります。
「また、それにより、リジーが犯罪者と出会う確率も減る可能性がある。成長神――そこまで考えていましたか……」
「は?」
『え?』
「……考えていなかったのですか?」
「ああ……どういう事だ?」
あらあら~。魔術神の溜め息が深くなりましたわ~。
「リジーに加護を与えているのは、その恩恵を奪われれば生きていく事が困難となる神が多いです。幸運神の司る幸福と運がなくなるだけでも犯罪者等、捕まりやすくなるのですよ? 犯罪者が減ればその分、リジーが遭遇する確率も減るじゃないですか」
「なぜだ?」
「現在マップに表示されている赤は、現時点でリジーの敵となり得る存在です。さて。これが減ったらどうなりますか?」
「なるほどな。リジーの面倒事が減るとは、丁度良いな」
「貴方も相当甘いですね……」
魔術神が上空に浮かぶ地上の様子を見ます。そこには、リジーが魔法を使い、他の人間達に感謝されている様子が映っています。
「リジーがこれですから、本当に、丁度良いのかもしれませんね」
ふふふ。
リジーがルチタンの町に入って行く所で、上空の映像が消えました。魔術神が魔法を解除したのでしょう。
「私からひとつ、提案してもよろしいでしょうか?」
「どうした?」
あらあら珍しい。魔術神が提案ですか?
「リジーの守りを増やしたいのですが、どうでしょう?」
「どういう事だ?」
「リジーがこの世界に来てまだ2日ですが、その短い間に、この世界で暮らす普通の者達では体験しないような事ばかりが起こっています」
「確かに」
そうですわね。
「幸運神の加護の影響もあるかもしれませんが、リジーだからだと私は思っています」
「あらあら~? つまりリジーなら解決できると、なにかしらの大きな力が働いている可能性があるという事ですか~?」
「ええ。――既に『運命神』は存在しない為、この大きな力がなんなのかまでは分かりませんが、確実に、世界は変わっていくのではないかと、そう、リジーは思わせてくれます」
魔術神はひとつ息を吐き、この場に集う神々を見渡しました。
「今後、何が起こるか分からない状況の中、神にすら『何を遣らかすか分からない』と言われる赤竜王しかリジーの傍に居ないのは不安です。だからこそ、神獣を守りに付けたいと思います」
「神獣を?」
「はい。神獣は、其々の神の領域に直接入る事ができる他、神の力を代理で顕現出来ます。何か起こった時、私を通してではなく、神獣が己で考えて直接行動したり、己の神に連絡をくれれば、我等も行動しやすくなります。例えば、神獣の力を増してリジーの守りを強化したり、今回の様に即座に罰を付与したり、ですね」
「ああ……魔術神を通さなくてよいのは助かるな」
「そうですね。私も常にリジーと繋がっていられる訳ではありませんからね」
今は繋げられていますが、神とて休息も必要です。その様な時に何かあったら大変ですもの、魔術神の提案は良い事に思えます。
「では、リジーと召喚獣契約し、繋がりを深くしておくのが良いだろう」
「そうですね。では、私の神獣を――」
「だめ」
「却下だ」
『――はい?』
魔術神の発言を途中で遮った神が2人います。1人は獣神。もう1人は、声を聞いた事がないのですが……?
自然と、今まで声を聞いた事のない表裏神に全ての神の視線が集まります。
「却下だ。リジーを一番先に守る神獣は我の神獣以外、認めん」
「だめ。おれの神獣が一番先」
「却下だ」
「だめ」
……表裏神と、獣神が、言い合っています……?
『表裏神って、話せたのか!?』話せたのですか!?』
神々の叫びが重なりますが、言い合いをしています表裏神と獣神は全く気にしません。
「仕方ない。では、少しだけ譲って同時でどうだ?」
「それなら……いい」
「では決まりだな」
「うん」
あら? わたくし達が驚いている間に決定してしまいました?
「そういう事で魔術神。リジーの守りは我の麒麟と獣神の青虎に決まった」
「……決まった」
「はあ……」
流石の魔術神もポカンとしたまま頷いています。
「麒麟には伝えておく故、最適な時期に召喚するようリジーを促す様に」
「うん。青虎、伝えておく……」
あらあら……。
魔術神も諦めた様に頷き、小さく息を吐きました。
「仕方ありませんね。今回は譲りますが、次の機会は私の神獣を向かわせますよ」
「あらあら~魔術神、抜け駆けはいけませんわ~」
「提案したのは私です。私の神獣が行くのは当然でしょう」
「うふふ。それでしたら~リジーの幸運を守る為にわたくしの神獣もいた方が良いですわよね?」
『幸運神!?』
「うふふ。――譲りませんわよ?」
にっこりと笑って他の神々を見ますと、皆様、目を逸らしてしまいましたわ~。
では、決定という事で、問題ないですわね~。
「……貴方、やっぱり怖いですね」
「うふふ。意味が分かりませんわ~」
ふふふ。リジーの守りにあの子を行かせる。
リジーがどんな反応をして、あの子とどんな会話をするのか――楽しみですわ~。




