05 最短距離ですヨ
そろそろ終わりが見えてきたプロローグ的な物。本日は2話更新。1話目。
あたしは今、木々が密集した険しい山道を登っている。
宝物庫を出た後、表から堂々と出るのもいいけれど面倒なことになりそうな気がしたから、マルお勧めの隠し通路――実は宝物庫に向かう時通っていたのもこれだった――を使って隣国に通じる山がある場所に出てきた。
その通路の途中、何故かあった隠し部屋。入ってみてビックリ。かなり古い家具や本等が整然と並んでいた。この上(宝物庫)との落差。すごいね。
その部屋の中にあった物は、全部貰っていけとマルが執拗に勧めてくるからトキに収納してみた。その最中、シンプルなあたしの身長くらいある杖を見付け、妙に手に馴染んだからずっと持っている。今も登山用の杖代わりになっているが、本来は魔術関連の補助道具らしい。
『魔術神の贈り物』 種類:魔法杖
魔術と知識を司る魔術神が魔術を発展させようと努力を重ねていた人間を助ける為に作り、贈った魔法の杖。魔術神の加護が付与されている為、魔術が最適化され使いやすくなる。魔力消費も減る。新しい魔術の開発に補助が入る。サイズは持ち主に合わせ使いやすいよう変化する。
中に何かが仕込まれている。
何かもう、この世界に『神』という概念があるのはトキで分かったけど、その神々は贈り物好きだね。
ただ、これを贈られたのは相当昔の人なんだろうなぁとも思う。だって、ねぇ……宝物庫でホコリ被ってるし、隠し通路の中の隠し部屋に放置されてるし、だもん。
それに、この国の上層部は物の価値が分からないというのも分かった(ややこしい)。神の加護が付与されている物を自分で持ってないって、つまりはそういう事でしょ?
マルの勧め通り、あたしが持っていた方がマシだよね。うん。
あたしはこの魔法の杖を『マチ』と呼ぶ事にし、時々、仕込まれている刃物で下草等の露払いをしつつ進む。
うん。中に何かが仕込まれているって表示されていたけど、普通に刀だった。いや、あたしも振るった事はないから最初はどうしようと思ったんだけどね。でも、刃を出して振ってみたら、草とか枝が簡単に払えるし、重くもない。
しかも魔術神の加護のお蔭か魔力の通りが良く、魔力が通っている状態だと切れる・切れないを魔力を通している本人――つまりあたしの意思で決められる。切るなら、どこまで切るかまで選べるって、凄過ぎでしょ。神も色んな意味で過保護なんだなと思った瞬間だった。
まあ、そんな便利な杖を突きつつ山道を登っているのは、ただ単にこの道から行くのが一番早く違う国へ行けるからだ。
他の正式な道だと関所みたいなのがあり厄介だけど、こういう山道だと国境は存在するが関所はない……とマルが教えてくれた。まあ、普通だと道が険しすぎて山越えが難しいかららしい。
実際、今は山のほぼ中腹辺りなんだけど、ここまで来るのに突然崖が出現したり、川で道が寸断されていたり、滝の底が見えなかったりと、どんな地形なんだ!? と突っ込まずにはいられない状況に何度か遭遇した。
マル曰く、山というのは『魔力溜まり』とかいう自然界に漂っている魔力が集まってくるポイントが何カ所かあって、そこに集まった魔力は濃度を増し、その影響で通常では考えられない変化が起こり、見た目に反した地形になるらしい。
うん、ホント、魔力が充実すると老化が一定期間止まるとか、この世界の法則謎過ぎ。
謎と言えば、あたしの体もそうだ。
見た目は60代くらいのおばあちゃんなのに、身体機能はあたしが記憶している最盛期――もち、学生時代――よりも身軽で体力がある。このトンデモ山道をスイスイ登っている事からしておかしすぎる。
いやね。さっき、冗談で軽くジャンプしたら、2,3メートルは上にあった枝に頭をぶつけちゃったんだよ。……人間の限界超えてるよね、これ……。
視力も上昇……というより妙な事になっていて、先を見ようと意識すると目の前の障害物を素通りしてかなり先まで見通せる……何で突然、千里眼っぽくなってんのよ。
耳の聞こえも良くなってるし、匂いなんかにもかなり敏感になっている。色んな物が有害か無害かはマルが教えてくれるし……。
あれ? もしかして……見た目おばあちゃんな割にはあたしの異世界生活、もしやイージーモード?