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48 変わらないヨ②

ポチリと拍手等、ありがとうございます。

「リジー殿。手続きが完了しました」

「お待たせして申し訳ありませんでした」


 モンド隊長と王都警備隊長――アルノーンと言うらしい――が揃って声を掛けてくる。


「お疲れ様。アルノーン隊長には、手続き人数増やしちゃって申し訳なかったね」

「いいえ。烙印の魔道具に付与されている魔法のお蔭で取り調べは楽ですので、今までの苦労を考えれば、手続き程度は苦にもなりません」


 今まではどれ程大変だったんだろう……。しみじみ言うアルノーン隊長に苦笑するしかない。まあ、モンド隊長もうんうんと力強く頷いているから、相当大変だったのだろう。

 こういう、まともな人達の力になれたのなら、あたしがキレたのにも意味があったかな?


 さて。とっととここから移動しましょうかね。

 マップには赤小丸2つがこちらに近付いてくるのが表示されているから、面倒な事になる前に離れるが吉。逃げるが勝ち――って、逃げるってのは違うか。でも、面倒事から逃亡だから合ってるね、うん。


「じゃあ、これで終わりだね。さあ! さっさと移動しよう! 直ぐしよう! さっきみたいな奴が来る前に行こう!」

「そうですね」

「お気を付けて」


 あっさり同意するモンド隊長、にこやかに見送るアルノーン隊長。あの捨てた騎士の印象がどの程度か分かるね。

 面倒そうな事を聞かれたら知らぬ存ぜぬで、しらばっくれていいよと、アルノーン隊長に魔道具を手渡しながら念押し。まともな人に無用な被害がいくのは嫌だからね。

 アルノーン隊長はそれにもにこやかに答え、最後にボソッと。


「これは独り言ですが……すっきりしました。ありがとうございます」


 次の瞬間、青小丸が青緑小丸に変わった。

 ん? これは……仲間という訳じゃないけど、その他扱いよりは親密になったって事かな? なんとも微妙な色合いを作り出したなマル……。あれ? じゃあ、ギルドに居た青緑の大丸と中丸も似た様な物? モンド隊長達、同行兵士は全員、いつの間にか青緑小丸だし……。

 というか、やっぱり相当ストレスが溜まってたんだね隊長達。この程度ですっきりするのなら、いくらでも捨てるよ。あたし自身が鬱陶しいってのもあるしね。

 そんな事を言いつつ、お互い軽い挨拶をしてゴーレム馬を促す。王城に届けた際に使用していたゴーレム馬やリアカーはトキの中。特製トイレは持っていてもしょうがないので王都警備隊に寄付した。なぜか喜ばれたという事は、結構需要があるって事なんだろうね……気の毒だから更なる重量軽減の魔法も付与しておいた。これで、普通の馬でも引けるでしょ。


 王城から冒険者ギルドへ続く裏道を通るからと、全員が徒歩で移動。ゴーレム馬も賢い為、あたし達の歩くペースにしっかり合わせて進む。後方の簡易トイレが縦横に動きまくっているが気にしない。裏道は土を均しただけだからそれなりに凹凸はあるけど、結構平坦だったりするのに不思議だー。

 ちなみに、この道に石畳が敷かれていないのは他の道と区別する為らしい。土のままの道は罪人用、もしくは緊急用という意味だ。あ、勿論これは王都だけの決まりである。カジス村は全面土の道だからね……。

 王城の門――といっても裏門だけど――を抜け、王都に入る為に通った罪人用の通用門と繋がる外壁沿いの道とは違う左側の道に進む。この道も土を均しただけで、なぜか下り坂になっている。

 モンド隊長が言うには、この道は冒険者ギルドに直通しているそうだ。犯罪者の手配や魔物討伐等、兵士と冒険者は協力する事が多い為、直通の道ができている。表に作らないのは、あの小物デブみたいなくだらない妨害を防ぐ意味があり、横道も存在しないそうだ。だったら通用門と王城の裏門を繋ぐ道も、横道なくせよと思ったが、その辺は色々あると言葉を濁された。圧力凄そうだね……。


 坂を下りきると、ガッチガチに固められた土壁に囲まれたトンネルの様な場所に出た。道の両端には水の通る溝があるから、地下下水道という物だろう。

 ……地下下水道なのに、一本道なの? これこそ、横道ないとまずくない?


「この道は下水道に見立てているだけで、本物ではありません。その証拠に、何の臭いもしませんでしょう?」


 モンド隊長の言葉に、鼻の良いネスや神獣達がうんうんと頷く。

 息を軽く吸ってみる。確かに何の臭いもしない。


「実際の下水道は土壁に一定間隔で浄化の魔道具が埋め込まれていますが、完全に臭いを失くす事はできませんので、もっと地下にあります」


 なるほど。地下下水道と地上の丁度中間に、こんな直通の道や隠し通路なんかを作っているんだろうね。

 王城の裏門から土の道のままにしていたのも、モンド隊長が「土壁に」と言っていた事から、地下下水道というカモフラージュを本物らしく見せる為だったのだろう。

 ぐるっと土壁を見渡すと、一定間隔で何かが埋まっている。これも、浄化の魔道具のカモフラージュかな?


「そこの一団! 止まれっ!!」


 後方から怒声が飛ぶ。

 あー……赤小丸2つが追ってきたよ。メンドクサイ……。


 声が聞こえてしまう以上、止まらない訳にはいかない。

 嫌々止まって振り返った先に居た男2人に、モンド隊長達が唖然とした後、一斉に跪いた。内1人は、あたしも顔を知っている。


 国王が追ってくるとか、ないわー。


 もう、すっごい嫌そうな態度や表情を隠しもせず、あたしは近付いてくる2人を眺める。

 あたしのそんな様子に、ルベルやブラウ、フォスも不快感を隠さない。ネスまで嫌そうである。


「国王陛下の使者を送ったというのに、なぜ謁見に来ないのだ無礼者っ!!」


 国王じゃない方が開口一番に文句を言ってきた。こいつも名乗らず、文句が先かい……。

 しかも謁見? 確かにこの国というか世界基準なら、国王は上の立場なのかもしれないけど、それって人間が勝手に決めた階級だよね? こいつ等は知らないけど、異世界人なあたしには関係ないし? それに冒険者――まだ未登録だけど――って、国に属している訳じゃないから、その国の階級差は適用されないよね?


『されません』


 やっぱり?

 ついでにあたし、さっきも思った通り、会いたいとも会うとも言ってない。言ってない以上、そいつの都合で呼びつけられる謂れはない。


『それから、神獣と契約した時点で神に次ぐ存在となりますので、地上界の階級差など無意味になります』


 ……それって、こいつ等も知ってる事?


『絶対的な理として遥か昔から存在しています。仮に知らないのであれば、きちんと学ばなかった証となります。無知は罪です』


 まさかここで元の世界の哲学者の教えが出てくるとは……。


『召喚された者がその言葉をよく口にしていました。知らない事は罪であると』


 ああ、その部分がかなり有名だからね。実際はもっと長くて『無知は罪なり、知は空虚なり、英知を持つもの英雄なり』だったかな。

 無知は罪なりの大雑把な意味は、「知らなかった」で済まされない事はたくさんある。だから充分に知る為、学びなさい。知らない事は罪である。

 知は空虚は、知っているだけでは何の役にも立たない。実践に結びつかなければ意味がない。

 そして英知は、実践や行動に結びついた知の事。社会の役に立つ、何かの役に立ってこそ、英雄と呼ばれるに至る知を得た事になる。

 平たく言えば、「きちんと学べ!」に尽きると思う。


『暴論では……』


 言ったでしょう? 知らなかったで済まされない事はたくさんあると。

 今回の場合、あたしが異世界人である事を知らないのは仕方ないけど、あたしが神獣と契約しているのを知っている以上、神獣の契約者の立場を理解してないって大問題でしょ?

 その教えの初歩で躓いている時点で、こいつ等が無能である証明になっちゃったね!


『確かに』


 そこで納得するのがマルだよね(笑)

 とまあ、マルと呑気に会話を繰り広げていると、ただ黙って2人を眺めている様にしか見えなかったあたしの態度に苛立ったのか、怒鳴った方がずかずか――といっても捨てた騎士よりは品がある――近付いてきた。あ、デジャヴ。

 で。やっぱり、さっきと同じ事になった。まあ、当然だ。あたしが嫌がっているのは見るからに分かるからね。

 跪きながらも、神獣に取り押さえられた男をモンド隊長達が呆れた様に見ている。あ、隊長達は神獣の契約者の立場、きちんと理解している様だ。


「リジー。これも捨てていいか?」

「なっ!?」


 ブラウの言葉に、取り押さえられた男が顔を真っ赤にする。


「わ、私はこの国の宰相だぞっ!」

「……宰相とは、君主を支える立場の者だったと思うが……愚か者でもなれるものなのか? それとも、我の記憶違いだろうか?」


 フォスが本気で不思議そうに首を傾げる。

 ――ぷぷぷ。フォスの素で零した疑問に宰相(?)の顔がさらに赤くなっていく。


「其奴がどの様な立場の者であろうと、我等には関係ないのぉ」

「確かにそうですね。我等にとって大切なのは、神と契約者であるリジーのみです。その大切な方に無礼を働こうとする様な愚か者、まともに扱う必要性を感じませんね」

「だからこいつ、要らねーだろー? 捨てよーぜ。今度はちゃんと魔物の巣に捨てるから」


 取り敢えずマズイ事になっていると理解したのか、男の顔色がリトマス試験紙さながら赤から青にがっつり変わる。


「その者を捨てられると困るのだが……」


 漸く国王が口を開いたが、取り押えた男をどうするか話し合っている為、全員ガン無視。

 って、ああ、そうだ。


「誰か、『烙印の魔道具』を使ってみない?」


 あたしの提案に、モンド隊長達も、取り押さえられた男も、国王もギョッとする。

 いやいやいや。だってさ? あの捨て騎士の時も思ったけど、あたしに対してこういう態度を取るって事は、結構色々とやらかしている気がしない? 年寄りだから、平民だから、冒険者だからと居丈高に接するような奴が清廉潔白って事はないでしょ。

 まあ、政に携わっている以上、本当の意味で清廉潔白って事はないと分かってはいるけど、何となく、その方面とは関係ない、余罪みたいのがある気がしない?


「面白そうですね」


 フォスが物凄く乗り気になり、あたしに向かって手を差し出してきた。はいはい、待ってね~。

 トキの中から魔道具を取り出しフォスに渡すと、イイ笑顔で男に近付く。男は、本気で慌て、何とか逃げようとしているが、ブラウから逃げるなんて無理だっての。

 魔力を流された魔道具が輝き、それはゆっくりと額に近付く。


「「や、やめんかっ!!」」


 怒声が2カ所から上がるけどフォスは全く気にせず、ポンと軽く魔道具を押しあて――果たして、罪人の証が顔全体にくっきりと浮かび上がった。


「おやおや。やっぱり、初対面の人に名乗る事もできないアホは、清廉潔白ではなかったね~」

「ふむ……リジー。コレはどうするのじゃ?」

「あー……」


 どうしよう? 捨て騎士の時フォスが言ったのを思い出して、完璧に思い付きで言っちゃったからなぁ……。


「取り敢えず、そこで一緒に喚いた男にも魔道具使った後、ブラウにアルノーン隊長の所まで届けてもらおうか」

「分かりました」


 言うが早いかフォスが国王の額に魔道具を押しあてる。

 あっはっは~。凄いよ。顔どころか、全身に罪人の証が浮かび上がった。何を遣らかしたんだこいつ。


「まあ、リジーを利用しよう等と考える愚か者は、これが当然であろう」

「そうじゃのぉ。神々も、リジーを煩わせる者を許しはせんからのぉ」

「よっしゃ! じゃ、サッサと戻って罪人を引き渡してくるぜ! 先に進んでていいぞ!」


 呆然としている男2人を俵担ぎし、ブラウがばびゅんという擬音がしそうな勢いで駆けていく。速いはやい。


「じゃあ、先に進んでていいという事だから、行こうか」


 モンド隊長達に声を掛けると、男達と同じく呆然としていた隊長達がのろのろと立ち上がった。


「……国王と宰相が罪人……国の法に背いていたとは……これから国はどうなるのか……」


 モンド隊長が俯き加減に前進しながら溜め息と共に呟く。

 どうなるって、それは……。


「急病とか理由を付けて国王や宰相が交代し、何があったか、何を遣ったか調べ、次は自分がそうなるかもしれないと、戦々恐々としながらあたしを避ける?」


 くらいしか思い浮かばないな~。

 これで再びあたしに接触を図る様なら、学習しないって事でまたまた魔道具を使うしかないよね。


「その後は、財産没収されるから、無一文で強制労働する事になるけど、これはあの人達が自分で決めた事だからね~。しかも、フォスが表裏神に働きかけたから、それが罪人に科せられる罰のひとつになったし?」


 そう。これがあたしの2つ目の提案(・・・・・・)だ。

 犯罪者の為に民の血税を使うなんて冗談じゃないとの思いからした提案だけど、即採用された。没収された財産は被害者への賠償に充てられる。

 まあ、それだけじゃ足りないのは目に見えているから、働いた中から一定額が被害者への賠償に充てられる。その残りが居住費――まあ、牢屋だけど――、衣類――囚人服――、食費、医療費等になる。一応、死なせないシステムにはなっているんだけど……罪人になった時点で、寿命以外で死ぬ事はないんだよね。


「まあ、暗殺される心配はなくなるからいいんじゃない?」


 そう。付与されている魔法が自傷や他傷行為の禁止だから、暗殺の心配はない。ついでに、自分を殺せという依頼もできない。強制労働がどれ程屈辱だろうと、甘んじて受けるしかない。プライドの高い奴には、これぞまさに生き地獄?

 ああ、身内の恥だと暗殺依頼しようものなら、付与しておいた自傷他傷行為禁止は、ご都合主義的な広域指定になっている為、依頼した者、受けた者に罪人の証が浮かぶ。浮かんだら最後、罪人の証に付けられている全ての魔法が有効となる。

 暗殺依頼をする様な奴、受けるような奴は余罪てんこ盛りだろうから、遣り過ぎって事はない――と思う。


コレ(・・)のお蔭で犯罪が減りました~とかなったらいいんだけど、無理だろうなぁ」


 人の欲望は計り知れないからね。


「一定の水準以上の罪を犯したら、罪人の証が浮かぶように表裏神様へ掛け合いますか?」

「フォス……」


 ――うっかり、それもいいかもとか思っちゃったじゃないかっ!!


 ヤバいやばい。同意しようものなら、絶対に即行動される。

 一定水準がどの位のレベルか分からない以上、迂闊に決めていい案件じゃない。神基準だったら、トンデモナイ事になる気がする。


 うん。やっぱり不安しかないから、色々と誤魔化そう!


 あたしは背伸びして腕を目一杯伸ばすと、フォスの頭を撫でる。

 フォスは――あたしが撫でやすい様に、頭を下げてくれた。いい子(?)だね。


「これ以上表裏神の手を煩わせるのも申し訳ないから、後の事は地上に住む者に任せるのが当然。あたしの事を思って提案してくれてありがとね、フォス」

「……はい」


 おおおおお! 照れたよ! フォスが照れた! 白皙の顔に朱がさした!


「む~……フォスばかりズルいのじゃ」


 ルベルが拗ねるので、こちらも撫でる。

 すると、ネスまで頭を差し出してきたので、撫でる。


「あああああ~~~~っ! ズルいぞ! オレもっ!!」


 超特急で戻ってきたブラウまで尻尾をぶんぶん振りながら頭を差し出してくるので、撫でる。


「……」


 あれ? ゴーレム馬も? じゃあ、撫でる。


 はて……何で撫でてたんだっけ?

 まあ、みんな嬉しそうだからいいか。


 順番に其々の頭を撫でてから先へ進むと、暫くして正面に壁が見えてきた。

 その壁には、薄明りに浮かぶドアが1つ、付いていた。

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