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46 お呼びじゃないヨ②

ポチリと拍手等、ありがとうございます。

「止まれっそこの者達っ! ワルーザ子爵である私の目の前を挨拶もなしに素通りするとは何様のつもりだ!!」


 いや、お前がなっ!?


 わざわざ表通りに馬車を置いて――マップで確認済み――徒歩で裏路地に入り込み待ち伏せしていたお貴族様がえっらそーに護送の列へと怒鳴り込んできた。

 見るからに素材の良さそうなジュストコールにジレ、キュロットには、ひらっひらふりっふりのフリルと色とりどりな刺繍付き。そんな、例え美形であろうと着こなすのは容易じゃないだろうと思わせる服に着られているのは、どこで蓄えたんだと聞きたくもない脂肪を腹に抱えた脂ぎったおっさん。七三分けというこの世界じゃマニアックだろうと思われる頭には、大きめのベレー帽にボンボンの付いたタモシャンターが浮いており、ド派手な羽根が何本もブッスブスと刺さっていた。……加減というものがあるだろう、加減というものが。

 あー……簡易的な旅装に胴体・肩・腰だけを防御するプレートアーマーにガントレットというモンド隊長達や、機能性重視なプレートアーマー姿の兵士達を見慣れているせいで、この気色悪さは本気で頂けない。

 それに、悪事をやらかしている地位のある奴等は華美な服装でなければならないという決まりでもあるのだろうか? 趣味が悪過ぎるにも程があるだろう。


 先に王城の方へ元副隊長と盗賊を護送する為に合流した王都の兵士が目を白黒させているなか、ほぼ最初からずっと一緒なモンド隊長達はあたしの顔を見て苦笑する。あたし自身、表情を取り繕うなんてする気もないから、顔には『不快』がべったり張り付いてるのが分かってる。

 あたしと約1カ月も一緒に居た為か、こういう悪趣味な服装してる奴とか偉そうな物言いする奴とかをあたしが嫌っていると隊長達は理解している。度を超すと、物理的に黙らせる事も知っているからか、さりげなくゴーレム馬を移動し、相手の退路を絶つ事まで遣る様になった。……自分達で行動するよりあたしが行動した方が早いからって、兵士としてそれで良いのか。


「これはワルーザ子爵。気付かず、失礼致しました」

「うむ」


 は、はああああぁぁぁぁぁぁあああぁっ!!?


 謝罪した王都合流組の兵士をマジマジと見た後、マップで色を確認する。うん、青だ。この兵士、普通に青小丸だ。

 もう一度兵士を見てみる。うん、それ以上何も言わない……。他の合流組の兵士も何も言わない。


 え、何で? 何でこの矛盾にツッコミ入れないの!?


 視線を周囲に向けると、ネス達もモンド隊長達も訝しそうに王都合流組の兵士を見ていた。あ、良かった。あたしだけがおかしいって思っている訳じゃなかった。

 で……なんで一斉にあたしを振り返るかな!? ツッコミ入れるのは誰でもいいよね!?

 いやモンド隊長、なにその「言ってやって下さい」的な目は!?


『話が進みませんので、さっさと精神的に叩き潰しましょう』


 おいっ!? マルあんた、他の人に見えない・聞こえないからって物騒なんだけど!? しかも、あたしに丸投げ!?


『リジー自体そう思っているのですから問題ありません』


 あんたね……あたしの本音をあたしにぶちまけてどうすんの。


『確認になって丁度良いでしょう。さあ、殺(や)っちゃってください』


 字が物騒だからねっ!?

 まあいい。こっちは正当な理由(・・・・・)でもって王城に向かっているのに、その道中を阻むどんな理由があるのか、あの小物デブに聞いてみましょうかね。


「どこの誰だか知んないけど、犯罪者を護送中の裏道(・・)に、一体どんな用があるの? しかも、国王直々に(・・・・・)連れてくるように言われている列を止めるって、どういう了見?」

「なっ! 貴様っ! たかが平民の分際で貴族であるこのワルーザ子爵に盾突く気かっ!!」


 はい、アホ決定ー。

 どこの世界も『国』っていうのは、この小物デブが貶した『平民』が居るから成り立っている。その事実を蔑ろにし、本来なら守るべき対象に対して権力使って言いたい放題、やりたい放題って終わってるでしょ。

 しかも。


「盾突くもなにも、正当な質問なんだけど? 今のあたし達はさっきも言ったように、国王直々に(・・・・・)依頼された護送の列。それを、たかが(・・・)一貴族が止めるんだから、どんな用があるって聞くのは当然でしょうが」

「私がどこに居ようが私の勝手だ! 平民や兵士如きの列等、道を譲るのが当然だろう!!」

「いや、だから……」


 言葉が通じねーーーー。何度同じ事を言わせるんだっての。


 この護送の列は、メルディ国の国王が「確実に王城へ連れて来てほしい」と直々に言ってきたんだよね。


 途中で寄った街で、あたしやネスに伝えたい事があると兵舎にある通信の間――王城の兵舎と各町等の兵舎で様々な案件を遣り取りしている部屋――に連れて行かれた。

 その部屋にあったテレビ電話のようなものに映し出されたのが国王で、頭を下げてお願いしてきたのにはビックリした。

 国王が言うには、これ以上の被害を食い止め、国に有益となり得る提案をしてくれた人物に敬意を表すのは当然との事。王族とか貴族とかに良いイメージがなかったから、この態度は新鮮だった。

 ただし、なーんか引っ掛かる部分があったのも事実。何となく演技っぽく、しかもその自分の言葉に酔っている様な印象があり、これ、本気で言っているのだろうかと疑問を覚えた。

 まあ、それは今は置いておこう。


 そんな訳で、国王に直接頼まれちゃってるから冒険者ギルドより先に王城へ向かっていたんだよね。

 その列を止めるんだもの。「あんた何様?」って聞くのが当然だろう。正当な理由なく止めるなんて、許される事ではない。


「王命の列を止めるだけの正当な理由があるならさっさと言えって言ってんの。理由がないなら、不敬罪で捕まえるだけだけど?」

「――はっ。王命とか言っているが本当か? ああ……もしやお前等、不正をしているのではないか? そこに居るのは本当に罪人か? お前等が罪を擦り付けて冤罪を仕立てたのではあるまいな?」


 おいおいおいおいおーーーーーい。ダメだこりゃ。

 この護送車の中に居るのが本当に罪人かは、其々の街や王都の兵士達がしっかり確認している。しかも、嘘を吐けない魔法を掛けている以上、こいつ等の罪は明白だ。それなのに、冤罪って……。


「私は優秀だからな。お前等の様な下等な者の嘘等、簡単に見破れるのだ。冤罪を掛けられた気の毒な者達を私に渡せば見逃してやるぞ」


 あ、そうきたか。何が何でもこの罪人を回収したいって事なんだろうけど……。

 駄目だ。小物デブが馬鹿過ぎて、相手にしてるのもアホらしくなってきた。


「世界に名を轟かせるような偉人ならともかく、先祖の功績を世襲で継いだだけの無能貴族がほざくな。耳が穢れる」

「きっ、貴様ぁあっ!! 老婆如きが貴族に盾突く等、許されんぞっ!!」


 あ、怒った。まあ当然か。怒る様にわざと言ったしね。しっかり図星を突けた様で何よりだ。

 小物デブが激昂し、自分の周りに居た5人の男達に「やれっ」とか命令している。


 あたしはザッと周囲を確認する。

 道幅は結構広いが、左に外壁、右に下水の様な溝がある為、動きにくい。しかも、下水を渡った先は民家(多分)の裏壁。仮にこいつ等をふっ飛ばして壁に穴でも開けちゃったら申し訳ない。

 こういう時は、捕縛系の魔法が適当かな~。


『あ』


 え? あ――。


 あたしが周囲を見て「どうしようかな~」とか呑気に考えている間にマルが呟いた。

 見ると、ブラウとフォスがさっと動き、襲い掛かってきた男5人と小物デブをあっさり取り押え、どこからか出した縄と筵(むしろ)の様な物で簀巻きにしている所だった。


「で、出遅れたのじゃ……」


 いや、推定ボッチな総竜王に、有能秘書(多分)な先輩神獣達と同じ働きは期待してないから。

 そもそもあんた、ブラウやフォスに比べると鈍い。明らかに反応も行動も遅い。故に、あの2人と同じ働きが出来るとは思えない。


「けっ、獣風情が人間様に対して何をするっ!!」


 小物デブが某かをほざいている。ブラウやフォスには耳とか尻尾とか角があるから、獣人だと思った様だ。

 あー……なるほど、アレと同類かぁ……。

 でもさぁ……。


「いつの間に人間って、神獣より上の立場になったんだろうね?」

「「「「「「「「「「「「は?」」」」」」」」」」」」


 小物デブや簀巻き男5人衆、合流組兵士6人が異口同音に疑問の声を出す。

 いやいやいや。あたしが神獣を召喚して契約しちゃったのは、王都に報告されているよね? 国王があの時ついでの様に見せ掛けて、神獣様に直接会ってみたいと言ってきたからそうだと思ってたんだけど……。


「……モンド隊長?」

「リジー殿……流石に、下級貴族や一般の兵士に神獣の事等、教えないと思いますが……」


 混乱を招くでしょうからと、モンド隊長が苦笑すると、同行組の兵士達がうんうんと頷く。

 あ、そういうものなんだ……と思っているうちに、モンド隊長が1つ目の提案(・・・・・・)を実行するべく、簀巻き達に近付いていく。


「えーと、王都の兵士の皆さんも報告はされていると思いますが、『これ』が烙印の魔道具です」


 そう言ってモンド隊長が取り出したのは、丸い、何の変哲もない魔石――水晶玉だと思っていた物がファンタジー定番の魔石――だった。この魔石があたしの提案の1つ目。

 この『烙印の魔道具』は、遥か昔に罪人へと押された焼き印をモデルにした物で、罪を犯した者の額に丸い罪人の証が浮かぶ。魔道具としてある以上、勿論、ただ浮かばせるだけじゃない。あのクズ達に掛けた魔法と同じものが付与される仕組みになっている。

 しかも、これに関してはフォスが物凄く拘り、冤罪の場合には証が浮かばない(・・・・・・・)仕様になっている。あたしの持つ加護と神獣であるフォスの存在のお蔭で、その仕様にする事が出来た。

 対象の人間が所属する国の法に照らし合わせて善悪を判断するのが表裏神だから、間違うって事はない。これにより、冤罪がなくなった。この辺は流石、善悪を司る表裏神。……元の世界には存在できない物だから、素直に羨ましいと思ってしまう。

 ま、この冤罪防止仕様が付いているという理由から、この魔道具は現在、あたしとフォスしか作れない。偽造しようにも、他の人達じゃ表裏神の力を借りる事は不可能な上、作る為の魔力が足りない(・・・・・・・)。その為、どうしても指名依頼になっちゃうんだよね。


 えーと後は……あ、そうだそうだ。これには『不壊』の効果が付いている。『きちんと壊れない様にしておけっ!』とマルを通して技工神が進言してきた為、有り得ないだろうというくらい丈夫だ。ルベルが踏んでも壊れないのだから、その丈夫さが分かるだろう。

 罪人相手にちょーっとハイスペックな魔道具過ぎじゃないかと思うが、それは仕方ない。だってバックに神がいるからね(笑)

 ちなみに、素材担当が資源神と農商工神、技術や魔術指導担当が技工神と魔術神、製作協力が表裏神だ。この世界に何神いるのか知らないけど、ひとつの魔道具に5神がかかわるって……普通ないよね……。


 そんな、現実を知ろうものなら恐れ多いと震えそうな魔道具をモンド隊長は合流組の兵士に見せ、簀巻き5人衆のうちの1人の額に押し付ける。すると、その額には赤い不可思議な幾何学模様が浮かび上がり、定着した。


「これを使用する際は、軽く魔力を流す必要があります。魔力を流すと微かに発光しますので、そうしたら罪人の額に押し付けて下さい。そうすれば、このように『罪人の証』が浮かび上がります」


 遣ってみますかとモンド隊長が問うと、6人中4人が魔道具を手に取る。1人ずつ残りの簀巻き達の額に魔道具を押し付け、問題なく証が浮かび上がった。


「え、冤罪だっ! そんな物等、信用出来るかっ!!」


 あ、小物デブがこの期に及んでわめいている。でもさぁ。


「質問。あんた達、この小物デブに命令されて、盗みや人殺しなんかを遣っていたでしょ」

「「「「「はい」」」」」


 あたしの質問に簀巻き5人衆が首を左右に振りながら肯定する。

 それを見て、合流組の兵士6人がなるほどと納得した。


「これが『真実しか語れない』と『黙秘不可』の効果ですか」

「そういう事」


 あたし達の会話に小物デブの顔面が蒼白になる。漸く、自分の立場を理解したようだ。

 でも残念。遅かったね。

 簀巻き5人衆に魔道具を使わなかった2人の内1人が魔道具を手に持ち、魔力を流して発光したのを見届けると、小物デブの額に押し付けた。


『は!?』


 あっはっはー。その場に居た人々が驚いてる驚いてる。

 あたしとフォスは顔を見合わせ、笑いながらネタ晴らし。


「その魔道具、罪の大きさに合わせて(・・・・・・・・・・)証の大きさが変わるんだよね」

「即ち、その者は他の者より多くの罪を犯しているという証となるのだ」


 思い付きで組み込んだけど、上手くいって良かった。実験できなかったから、ちょっと不安だったんだよね。

 みんなが驚いた小物デブには、額どころか顔全体に罪人の証が浮かび上がっている。うんうん、成功成功。


「こいつの取り調べは王都の兵士の仕事。色々いろいろ出てきそうで、楽しみだね?」


 あたしが笑って言うと、合流組の兵士達が引きつりながら頷いた。

 おいおい。もしかして大変そうだなぁとか思ってる? でも、質問には答える事しかできない罪人相手なんだから、取り調べは楽だよ? 取り調べは、ね。


 ふっふっふ。証拠集めや裏付け捜査は大変そうだよね~。


「リジー殿」

「うん?」


 あたしに耐性ができているモンド隊長が、罪人達を見ながら困った様に言う。


「こいつ等、どうしますか? このままにしておく訳にもいきませんし……」

「ああ」


 再び登場リアカー! ゴーレム馬ももう1頭出して繋いで、と。

 これにポイポイポーイと罪人連中を乗せ、あたしは爽やかに笑う。


「罪人増えたけど、手土産が増えたって事で良いよね? じゃ、王城へ行こうっか」

「分かりました」


 あっさり頷くモンド隊長を、合流組の兵士達が尊敬の眼差しで見ている。なぜ?

 まあ、いいや。


 取り敢えず、人数がさらに増えてるけど気にせず、依頼をまっとうしますかね。

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