24 お勉強ですヨ①
移送されている牢や兵達等の周囲をふらふら飛び回りながら、あたしは漏れそうになる溜め息を押し殺す。
『どうかしましたか?』
いつの間にか会話(?)専用になっているマレットのひとつがあたしの前に現れ、しれっと聞いてくるんだけど……。
ふ ざ け ん な よ !?
あたしは、ルベルに乗った状態で出発可能だと伝えた時の事を思い出す。
最初は呆然としていた隊長も、あたしが上レベル魔力保持者である事を思い出したのか、あたしが乗る赤竜が召喚獣であるか確認してきて「そうだ」と答えると安心した様に頷き。
次いで、混乱しているであろう村を収める為、出発はまた少し遅れると言い置いて、単身、村の中へ戻っていったんだけど……。
直ぐに戻ってきて、全く混乱なんてしていなかったと困惑を露わに言った。
は? どういう事?
『リジーが召喚魔法を使って普通に済む筈がない為、魔術神が気を利かせ、視覚阻害の魔法を併用。その為、近くに居た人々以外、赤竜が召喚されたとは知りません』
はああああああっ!? ちょ、それっ、先に言っておくべき事でしょーーーーっ!!?
『なぜでしょう?』
マルあんた、ヘルプ機能な割に、対人関係の常識ないっ!? これこそ、ちゃんと勉強しろっ!! 覚えろっ!!!
あたしは慌てて隊長に、視覚障害魔法を使っていたから村の中の人は赤竜に気付いてないと説明。隊長は乾いた笑いを零し、項垂れながら馬に跨った。
すまん! うちのマルがバカで申し訳ないっ!!
『バカではありません』
十分バカだっ!! 今度から、付随行為もちゃんと報告して!!
全く……隊長に無駄足踏ませた挙句、あたしがそれを笑って見ていた外道みたいな誤解をされちゃったじゃないか。
『間違ってはいない様な……』
あたしはあんたほど、外道になりきれんわっ! 会社でこの本性が全くバレてなかったんだから、対人関係における多少の常識はあるっ!!
『言ってて空しくなりませんか?』
あんたにだけは言われる筋合いないわーーーーーーーっ!!
もう、魂からの叫びをマルに送ってやる。
何なのこれは。もしやあたし、遊ばれてる? ヘルプ機能に?
やっぱりこいつ、性格悪いよね? あたしなんか足元にも及ばないくらい悪いよね? 間違ってないよね?
悶々としているあたしに、マルは追い打ちを掛けてくる。
『馬達が怯えて、出発が難しいです。念話でリジーの召喚獣であるから怖がる必要ないと伝えてあげて下さい。馬達は人の言葉を話せずとも理解はできます。自分達を襲う心配がないと分かれば安心し、普通に移動が可能となります』
だ・か・らっ!
そういう事は、先に言え! 直ぐに言え! 早く言えーーーーーっ!!
『どれも同じ様な意味です』
うっさいわ、ボケっ!!
あたしは、マル――というかマレットを掴み、放り投げ様とし……掴めない事にイラッとする。
何なのこいつ。触れたり触れなかったり、どういう仕組みよ。
ああ、もうっ! マルに振り回され過ぎてる気がする。
仮にマルが実体を持つ様な事になったら――有り得ないといえない気がするんだよね――絶対に殴る。思いのままに殴ってやるっ! 過激? いやいやいや。当然の反応!!
心に誓いを立て、馬五頭――ネス、隊長、兵士に各一頭&牢に二頭――に照準を合わせ念話を飛ばす。
(これ、ルベル。あたしの召喚獣だから、仲良くしてやって)
ルベルを差して言うと、馬達が一斉に鼻を鳴らし、あたしを軽く仰ぎ見る。ん? どうした?
と、これまた一斉に嘶き、それまで落ち着きがなかったのが嘘の様に背に乗る人間の言う事を聞く様になった。
……異世界の馬って、凄いね……いや、異世界関係なしに、馬自体が凄いのか?
あたしは感心しつつ、「では出発します」という隊長の言葉に合わせルベルに飛び立つ様に指示する。
ルベルが翼の付け根から足をどけてくれと言うから、足を翼より前に出し、ルベルの首回りをホールドする様に回し――といっても一周できないけど――固定する。
空中ブランコの様に足を伸ばしたままはちょっと怖い。安全装置とかある訳じゃないしね。
ルベルが鱗にしっかり掴まれと念話を飛ばしてきたから手元を見てみると、他の鱗より大きい、一際真っ赤な鱗が目に入った。
え? これ、逆鱗じゃないよね? あ、逆鱗は竜の鱗の中でも唯一逆向きだっけ。じゃあ違うか。
あたしはその鱗を掴む。なんか、自転車とか自動車のハンドルっぽい感じ。指でがっちり掴める訳じゃないけど、裏側に窪みがあるから指が滑らない。人間乗せる為に進化でもしたのかと思えるくらいのフィット感。
不思議に思っているうちに、ちょっとした浮遊感が体を襲い、次の瞬間には大空を悠々と飛んでいた。
あー……高い。ネス達が米粒の様だ……。
(高く飛び過ぎっ! もっと下に降りて! ……あ、牢はともかく、ネス達に風圧とかいかない様に気を付けてよ!)
(うむ? 何故じゃ?)
(護衛依頼を受けてる最中! しかもネス――あの獣人は、あたしと暫く一緒に行動する事になってるの!)
(む~……それならそうと早く言うのじゃ)
あ、さっきまであたしがマルに言っていた事がブーメランされてきた。
すまんすまん。そうだよね。契約云々の話はしたけど、護衛依頼受けてるとかは説明してなかったっけ。
ルベルが下降してネス達を守る様に飛ぶのを確認し、あたしはこれまであった事――カジス村に着いてからの事のみ。あの国に召喚されたなど、今は気分悪すぎて誰にも伝えたくもない――を教える。あ、何があるか分からないから、マルの事は秘密だ。
あたしの説明を聞き、ルベルは呆れた様に息を吐く。特に、魔法を作っちゃったくだりでは。
(リジー……魔法を作る事ができるのは、最低条件として、何某かの神の加護を持ち、魔力色が金以上だけじゃ。お主、一体、何の神の加護を持っておるのじゃ?)
(内緒!)
流石に言えんわ。人間に加護を与えた事ない六神から加護を貰ってるなんて。しかも、二神は同情、一神は罪悪感、三神は――確か、何故か気に入ったとかマルに説明されていた様な?
……今更だけど、加護を貰った理由が情けないヨ……。
それはともかくとして。なるほど。魔法を作る為の条件って、そうなっているんだ。
(じゃあ、できあがるまでに時間が掛かった理由は?)
(知らぬのぉ)
おい。
(そもそも、今まで魔法を作れた者は限られておる。皆、魔術神の贈り物を持っておった。百数十年前に持っていた者がどこかに隠し、それ以来、誰も作り出す事ができぬのじゃ)
…………は?
(ワシも魔力色は白じゃが、いまだかつて作った事がないのぉ。それ故に、時間の事など知らんのぉ)
あたしは、ルベルに乗るには邪魔だとトキの中に片付けたマチを思い出す。ルベルの言う『魔術神の贈り物』って……あれの事?
(……『魔術神の贈り物』ってどんなの? 複数あるの?)
(む? 何を言っておるのじゃ? 魔術神の贈り物は魔法杖の事で、この世にひとつしかないのは常識じゃろう?)
おふぅ……マチで間違いないうえ、世界にひとつしかない? しかも常識? あれ? じゃあ、神からの贈り物系って唯一無二とかそんな感じなの?
『当然です』
おい。
おいおいおーーーーーい! そこっ! 今更、当然とか言うなっ!!
じゃ何。あたしってば、世界にひとつしかないもの、二つも持ってるって事?
『そうです』
あっさり。マル、あんたねぇ……トキやマチを持っていけって言ったの、あんたでしょうが……。
ん? ……あのクズ国、マチはともかくとして――隠し部屋の中だったし――トキはどうして放置してたの? あそこまでクズな国が、たったひとつしかない宝を放っておく訳ないよね? それこそ、高額でどっかの国に売りつけて、その金で自分達だけ贅沢するとか、普通にしてるよね?
『そんな交渉術を持っている者が居ない上、あの国は神に見放されているので、鑑定や識別の魔法を使える者が存在しません。その為、どんな宝であろうと知る事はできません』
……相変わらず、あのクズ国の事は所々でディスるね、マル……。まあ、あたしも言えないけど。
それはそうと、あのクズ国、神に見放されてるの? って事は、加護持ちいないよね?
『昔からクズですから、神に見放されるのも早かったです。いまだに国として存在できるのは、あの国に何一つとしてうまみがなく、他国から放置されている為です』
ああ……、色々と納得した。クズなのは思いっ切り遺伝なんだね――!! って、嫌な遺伝だな、おい……。
しかも、うまみがない? つまり、まともな資源がない、能力ある人もいない、と。
『加護は、リジーと共に召喚された者以外、当然の事ながら持っていません』
当然なんだ……まあ、あたしでもアレが持ってたら奇跡だと思うから、当然といえば当然か。
ん? あの化粧お化けは加護持ってるの? あたしと同じ?
『同じ訳ありません。あの化粧お化けは、召喚神の加護を持っています。ただ、既に召喚神は存在しませんので、何の効力もありません』
マルまで化粧お化け言ってるよ! それが定着しそうだなぁ。
それから、召喚神? ……なんか、そいつが、あたしがこんな風に召喚された原因な気がする……。
それなのに、当人――というか当神? ――が存在しない? しかも、存在しないから加護に効力がない? じゃあ、何故あの化粧お化けは加護持ちのカテゴリーにいるの?
『召喚神は私利私欲の為に力を使うという神の禁忌に触れ、地位剥奪の上、生涯幽閉の身となりました。神の加護とは、神がいてこそ効力を発揮するものです。化粧お化けに加護が付与されたのは、異世界召喚された者には付くという決まりがあった為です』
へ~。
『名前だけでも残っている以上、加護持ちに含まれる事になります。しかし、神本体が存在しない為、加護が効力を発揮する訳もなく、実質、効力なし。道端の石よりも価値がない加護です』
道端の石より……まあ、石にも使い道はあるからねぇ……使い道のない加護と同列に扱われるのは石が気の毒だよ。
『確かにそうです』
うん。
所で、あたしにその『召喚神の加護』がないのは何故? あたしも、巻き込まれとはいえ召喚された身でしょ?
『リジーの場合、魔術神の加護がある為です』
ん? 魔術神の加護?
『魔術神は全ての魔術を司る神。召喚神は召喚魔法だけ司っていた神。神の位が違い過ぎます。その為、リジーに魔術神の加護が付与された時点で、召喚神の加護は魔術神の加護に吸収され消えました』
ははは……そう、そんな訳が……。
ま、まあ。無価値な召喚神の加護なんかあっても邪魔だから、吸収されて丁度いいのかもね。
あ、話は戻るけど、あのクズ国。国土や風土的にはどうなの? 歴史だけはあるだろうから、他にも貴重な物、ありそうだよね?
『国土は狭く、風土的には民がいなければ何もかも立ちいかなくなるでしょう。つまりは、そのくらい下方の存在。その為、貴重な物は――ありません』
へ?
『本当に、歴史しかありません。あのクズ国で、身分証を持っているのは貴族のみです。民達は、何かあれば即刻国を脱出できるよう、昔から、冒険者登録をしています。その為、能力のある者は早々に国を見限り、他国へ行っているので、貴重な物など一切ありません』
冒険者登録? しかも、昔から?
どのくらい昔からか分からない為、何とも言えない気もするけど……そんな狡賢い系の事、この文明レベルで支配されている側が普通に考え付く事? しかも、国民みんな……?
……それ、誰の入れ知恵?
『昔、リジーと同じ様に、あのクズ国に召喚されてしまった者です。身分証制度を知り、自分は回避できなかったけれど、せめて他の人はと思い助言した様です』
……召喚された者にも、まともなの、いたんだ……。
『今では『偉大な変人』と呼ばれている召喚勇者です』
おいっ!!?
『存在もしない『悪の魔王退治』の為に召喚されたのですが、本当の悪はあのクズ国だと断罪し……』
うん。
『逃げました』
はっ? 逃げたっ!? 断罪して逃げたのっ!!?
『捨て台詞は『お前等なんかに構ってられるか』です。ただその者は、身分証明書があのクズ国のモノだった為、他国へ行く事ができず、『灯台下暗し』とか言って城の隠し通路に隠し部屋を作り、生涯、悠々自適な生活を送りました』
悠々自適って……まあ、隠し部屋が見付からなければ、あのクズ達には手の出しようがないか……。
って……あ、れ? 隠し部屋って、もしかして……。
『魔術神の贈り物があった部屋がそれです』
やっぱりかーーー!!
『あの国の貴族達は頭が弱いらしく、百数十年、あの隠し部屋が見付かる事はありませんでした』
そんな場所に、マルが導いた、と。
『当然です。貴重な魔術神の贈り物を、あんなクズ国に置いておけません』
うん。それは同意。同意すると共に納得。そういう理由があるから、マルはトキやマチを持っていけと言ったんだね。
それにしても……そこまで役に立たない無駄ムダな国なら、いつか、あたしがあのクズ国、潰しても平気だよね?
『過激ですね』
いや、だってさ。あの国が存在するのって百害にしかならないでしょ?
あたしみたいな目に遭うのが今後も居る可能性大でしょ?
存在しない方が、世の為、人の為、未来の為にならない?
『……本心は?』
ふざけた真似しやがったヤツラを徹底的に貶めてやりたいっ!
人に擦り付けてきた罪とか言いがかりとか、諸々ぜーーーーーんぶ何十倍にもして叩き返し、生き地獄を味わわせてやるわっ!!
『その為には、物理的な力のみならず、権力とかも必要になります』
物理的な力に関しては、マルに教えてもらいつつ、この『盛大に嫌がらせをしたい!』という決意を胸に頑張ろうかと。
権力とかは……まあ、いつの間にか手に入るんじゃない?
『根拠は?』
え? マルがいるから。
『は?』
ん? だってあんた、あのクズ国、嫌いでしょ?
『……それは……』
ふっふーん。あれだけディスれば誰でも分かるっての。
『……』
そんな国を潰したいってあたしが言ってるんだもん。あんた、いつでもあたしと一緒に居るから、いつでも好きな時にその手伝いができるんだよね。そうなると、力の限り頑張るんじゃない?
『……神々の方が、頑張るかと思います』
は?
『リジーが願う以上、リジーに加護を与えている神々は当然の様に望みを叶えようとします。また、あのクズ国は全ての神々が見放しています。つまり、なくなっても困らない。では、潰す気満々な方にお任せしようとなる筈です』
お任せって……。
『神は地上界に直接関わる事はできません。しかし、加護を通してなら関われます。その為、あのクズ国を潰すつもりなら、神の加護が増える可能性が――』
要らん。
要らんいらーーーーんっ! 加護はこれ以上要らない!
『……』
ちょっ! そこ無言!? 何とかできないの!?
『既に手遅れかと』
はっ!?




