23 漸くですヨ
あたしが打ちひしがれている間に赤竜は復活し、元の位置に頭を戻すと再び、あたしをジーッと見てきた。
(お主、本当に人間か?)
(……一応)
(ふむ……どのような修羅場を潜り抜けてきたら、ワシを吹っ飛ばす様な戦闘力が手に入るやら)
それは、あたしの方こそ知りたいよ……。
(まあ、よい。気に入った。お主をワシの契約主と認めるから、契約せんかのぉ)
(あんた……殴られて痛い目見たはずなのに、まだその微妙な言葉遣いするの?)
(うむ……実はのぉ、この言葉遣いは、遥か昔に召喚された者が、『古竜ならこの言葉遣いじゃなければ駄目だ!』とか言って、無理矢理教えてきたものなんじゃよ)
……なんつー勝手な……マイ常識だけで、竜に言葉遣いを強要するとは……。
(それでのぉ。この言葉遣いが定着しているか度々確認しに来るものだから気が抜けなくての。意地で使っておるうちに、その後、他に召喚されてきた者達も何故か喜ぶからそのままにしておいたら、いつの間にか癖になっておったのじゃ)
オンリーワンな常識じゃなくて、オタ常識か何かだったのか……? 喜ぶって……何故?
(そんな訳での。ワシが昔使っていた言葉遣いは既に覚えておらんのじゃ。故に、直せと言われても、のぉ……)
どこか遠い目をする赤竜。どんな理不尽な目に遭い、定着するに至ったのだろうか……。
取り敢えず……。
(あー……それは、殴って悪かったね。ごめんなさい。アホ共の所為で苦労した被害者なのに)
(アホとは……お主、余り口がよろしくない様じゃの)
(ん? はっきり言っていいよ。口も性格も悪いって。自覚あるから!)
(自覚を持つでないっ! 少しは取り繕わんかっ!)
(何で? これから契約して、場合によっては一緒に居るんでしょ? そんな相手に取り繕っても疲れるだけじゃん。無駄無駄~)
赤竜の縦長な瞳孔が細まり、瞳が大きくなる。あ、もしや驚いてる?
いや、驚く事ないと思うけど? 四六時中って訳じゃないけど、何かあれば一緒にいるんでしょ? 外面必要なその他大勢とは違うんだから、取り繕う必要ないよね?
『外面……?』
あのねぇ……あたしにだって、外面くらいあるよ?
これでも28年、生きてきてるんだから、取り繕わなきゃいけない人には外面全開、猫を何重にも被って対応するけど? 多少、社会人を経験すれば、そのくらい自然と学んで猫被るっての。いや、学生の内から被るのもいるけど……。
『猫は最初から脱げてます』
あのねぇ!
マルみたいに、あたしの内面と直接向き合える存在に対して取り繕ってどうすんのっ! 無意味でしょ!
それに、この赤竜とか、最初は取り繕って、後から間違って念話で本性暴露しちゃっても面倒なだけでしょ! だったら最初から素で接するのが色々都合が良いの!!
表情はニコニコ笑っているのに、内心で毒吐きまくりなんてよくある事でしょうが。
『……なるほど』
そこで納得するあたり、あたしとマルに違いはない――って、あんた、しっかり性格設定されてるじゃないの。
しかも、きっちり会話可能になってるし。
『知識を得る事により進化しています』
……あんた、知識を得ると、性格悪いのに磨きがかかる訳? それっていいの?
『誰にも迷惑は掛けていません』
あたしに掛かってるわ! 迷惑はっ!!
『では、問題ありません』
あんた……ホント、誰ベースの性格設定なんだろ……。
何度も言うけど、あたしがベースとなっている性格設定だけは遠慮する。
『現実逃避してないで、早く契約して下さい』
現実逃避じゃないでしょ! これは必要な考察っ!!
って、マルに構ってても時間の無駄か。驚いて固まっている赤竜を再起動させますか。
(おーい。いつまで固まってるんだ~)
(はっ!? ワシは何を――!?)
念話で「はっ!?」って言われると、何かわざとらしく感じるなぁ……。まあ、ここは大人な態度でスルーして――
『大人?』
あんたは黙っとれ! 話が進まんでしょ!!
(あんたの話し方とかについては理解した。……あのさぁ、言っちゃなんだけど、あたしが召喚魔法を使ったのって、あたしが乗って移動する為だったんだよね。あんた的にそれって良いの?)
(うむ? 乗り物扱いだったのか……まあ、ワシ的に問題はないのぉ。平和でいいではないかの)
(……場合によっては、護衛込みだけど、それは?)
(うむ。お主ほどの魔力があれば、それを感じられない雑魚以外は襲ってくる事はないからの。護衛といっても、人間相手や低級魔物が殆どじゃろ。アレは、ワシの姿を見ただけで逃げるから、こちらも問題ないのぉ)
人間――多分、盗賊的な何か――を低級魔物と同列にアレ扱い……うん、流石は竜。ラスボス候補――というよりラスボスか。
(じゃあ、召喚獣契約しますか。どうすればいいの?)
(……知らずに呼んだのかのぉ?)
(うん、知らん)
(……ホンに、お主は面白いのぉ。知らずにワシを呼べてしまうとは……。ふむ……今は仮契約だけにしておくかの。時間がある時に本契約をしようではないか)
(仮契約? 本契約?)
(うむ。仮契約とは、お互いに契約する意志があると明らかにする事じゃな。契約する意志はあるのじゃが、今回の様に時間がないとか、力が不足している場合に結ばれるのじゃ。本契約は、そのままの意味で信頼の証じゃ。本契約をすれば、お互いに絆ができる事になり、其々に特典があるのじゃ)
(特典って……そこは後で詳しく聞くとして、じゃあ、それぞれの契約の仕方は?)
(仮契約はお互いの名を預ける事じゃ。双方が同意している状態で名乗り合えばよい。本契約は名の預け合いと血の契約じゃ。一滴でも構わぬから血を混じらせればよい)
(ん? 別に本契約でも問題なくね?)
(本契約がしっかり結ばれるのに時間が掛かるのじゃ。血を混じらわせても、本来は違う種族同士じゃ。馴染むのに一日くらい掛かるのぉ)
(……じゃあ、仮契約しますか)
……あ……仮契約って、本名? この世界で付けた偽名じゃマズイ?
『リジーの場合、偽名で大丈夫です。この世界では、それが本名の様な扱いになっています』
……本名の様な扱いってのが気になるけど、まあ、いいか。
(あたしはリジー。あんたは?)
(うむ? それがのぉ……)
(……何)
あ、嫌な予感。
(ワシには名が無いのじゃ。付けてくれんかのぉ)
予感的中!!
王道外さず、初契約って事? あまりにも王道展開が続き過ぎて……驚く必要すら感じなくなってきた……かもしれない。
(突然、名前を付けてくれと言われてもねぇ……)
あたしは困って赤竜を見る。これに釣り合う(?)名前って……何?
(あ、あんたの情報を見ていい? それから考えたい)
(うむ。主となる以上、好きに見てくれて構わんのじゃ)
オッケー出た。じゃあマル、看破。
『看破結果』
??? 2512歳 赤竜王
魔力量・白・計測不能 魔法を使う存在としては特の上レベル
竜神の加護 独身 赤竜の中で最上位に位置する絶対的な王
体の大きさを変更可能、人の姿に変身可能
火系の魔法が得意だが、万遍なく使用できる
だらだらと生きるしかない長い年月にあきあきしていた所でリジーと出会う
……赤竜王って……たくさんいるであろう赤竜の王様デスカ……しかも絶対的な王……。
『当たり前です』
うん、分かってる。アホな事を言ってしまった自覚はあるけど……なんで竜王が召喚に応えるのよっ! 普通、有り得んでしょっ!!
『今、目の前に居ますので、有り得ます』
……。
2512歳って、西暦を超えちゃってるなぁ……。
流石は竜。随分とまぁ、長寿だね。
『逃げましたね』
……。
あ、見た事ない加護がある。
『竜神の加護』
竜種全般を司る神。
加護が付与されると、竜形態から人形態になっても、力が損なわれる事はなくなる。
過去、王となる竜種以外に加護を付与した事はない。
……なるほど。赤竜王だから付与されてる加護って事か。
はぁ……情報を見たけどさぁ……名前が思い浮かばないっ!
赤、レッド、カーマイン……ありきたり過ぎてイヤ。
金、ゴールド、ルド? うーん……ひねりが欲しい。
逆に和名でいってみる? 赤系で、くれない、こう、べに……金や黄系で、タンポポ、ヒマワリ、うこん、こがね、藤黄?
しっくりこないなぁ……。
あ、竜を国旗にしている国があったけど……どこだか覚えてないからどうしようもないか……。
もう、オーソドックスな名前にする?
いやいやいや。それをあたしが呼ぶんでしょ? 普通じゃやっぱ詰まらない。
赤とか金とか竜とか、他の国の言葉に――って、英語以外はほぼ知らん。というか、この程度の単語なら何とかなるけど、複雑なものになったら英語すらヤバいっての。
ああ、もう! 昨日から、ない知識を必死に絞り出す事態にばっかなってない!?
なんかなんかなんかーーーーーって、そう言えば、どこの国の言葉だか忘れたけど、赤をルベルとか言わなかったっけ?
他にピンとくるものないし、もうこれでいいっ! これでいくっ!!
(あんたの名前は『ルベル』。これでどう?)
(ルベル? ほう、面白い響きだのぉ。由来は何じゃ?)
(ただの直感!!)
(……)
異世界の、どっかで聞いた不確かな記憶が由来なんて言えるかっ!!
(……まあ、面白い響きだからよいのじゃ。これより、ワシの名は『ルベル』となる)
そう言うと、何故かルベルの体が一瞬だけ光り輝いた。
(これで仮契約は終了じゃ)
そうなの? どれどれ……。
『看破結果』
ルベル 2512歳 赤竜王 総竜王候補 リジーの仮契約獣
魔力量・白・計測不能 魔法を使う存在としては特の上レベル
竜神の加護 独身 赤竜の中で最上位に位置する絶対的な王であり、契約によりさらに高位へ上がる可能性が高くなった事から全ての竜の王『総竜王』の候補となる。現在、総竜王位は空である
体の大きさを変更可能、人の姿に変身可能
火系の魔法が得意だが、万遍なく使用できる
だらだらと生きるしかない長い年月にあきあきしていた所でリジーと出会い、召喚獣の仮契約する。本契約確定
…………。
……。
うん、色々と面倒な事になりそうだから、見なかった事にしておこう!
『現実――』
やっかましいわっ!!
今はネスとか隊長とか待たせてんだから、そういった事は後回しっ!!
取り敢えず、ルベルに乗ってさっさと出発して、カジス村で発生しているであろう恐慌状態を解消しなきゃ――なんだけど……。
あたしは改めてルベルを見る。
うん、デカい。デカ過ぎ。コレに乗ったら、かなり上空を飛ばないと馬とか色々巻き込んじゃうよね? それって護衛的にあり? なしだよね?
しかもあたし、乗るには乗れるけど……背中にしがみ付くの決定? いやそれキツイでしょ。
ここで登場しますのは、さっき看破魔法で見た『体の大きさを変更可能』の部分。馬みたいに鞍とか手綱とかないから、あたしが安全に乗れて、落ちる心配のないサイズになってもらいましょう!
(ルベル。体のサイズ変更して。そのままじゃ、あたしが乗れない)
(……さい?)
(……体の大きさを変更して。あたしが乗れないから)
(おお! そう言えば、人間とは小さなものであったの)
(あんたに比べれば、この世のモノはほぼ全て小さいわっ!!)
(ほっほっほっ)
とか言いつつ、ルベルがしゅるしゅるしゅる~ってな感じで小さくなっていく。
丁度、馬より二回りくらい大きい程度になった時、あたしに背を向けた。
(主よ。乗ってみてくれんかのぉ。微調整は、主が乗った状態を見てからの方がよいじゃろ)
(リジーでいいよ。主って柄じゃないから)
尻尾をつたって登り、ルベルが指示する通り、羽の生え際の少し上あたりに座――る訳にいかないじゃん! あたし、スカートだよっ!!
とか思ったら、気を利かせたワンピがスカート部分だけをガウチョタイプに変えた……。
装備チート、着替えても変わらず……。これ、着替えたい時は、脱ぎ着しやすい形になるんだろうね……。
色々諦めて、指示通りの場所に座る。なぜかこの部分だけ少し凹んでおり、座りやすい。
(足は翼の付け根あたりで固定してくれんかのぉ)
(え? 飛びにくくないの?)
(ワシ等みたいな竜の翼は風を集め、水平を保つ為の、人間で言う所の魔道具みたいなものじゃ。飛び立つ時に触らない様にしてもらえれば問題ないのぉ)
(竜も色々と謎生態だなぁ……)
言われた通り、付け根部分に足裏を合わせ固定してみる。
うーん……なんだろこの格好。何かを思い出させる……。
あ、うんこ座――ヤンキー……いやいやいや、えっと……あっ! カエル座りっ!!
……もう考えるの止めよう……。
(乗りにくくはないかのぉ?)
(うん、平気)
よっしゃ! これで準備万端!
「あたしはいつでも出発できるよ」
そう言って前を見れば。
隊長と兵士達はポカンとしたままあたしの方を見上げており。ネスは――
「凄いな」
相変わらず、それしか言わないのであった。




