21 困りましたヨ
『まともな事を教えなさいよ』と言った――思った? ――のが功を奏したのか、マルがかなり真面目に魔法を教えてくれた。魔力とは何ぞや。魔力操作とは、その基礎とはってトコから。
は? そこから!? と思うなかれ。あたしは知らないんだもん、それでいいのだ。
ついでに、基礎の復習になる&今では失われた知識があったらしく、ネスも(マル経由なあたしの話を)かなり真剣に聞いていた。
まず、『魔力』とは。
この世に存在するモノに宿る発生エネルギーの事らしい。『発生』と言っている事から分かる通り、何かしらの事象を起こす基礎媒体。
火を、水を、風を、土を、光を、闇を――ありとあらゆるモノの素となり、その現象を持続させる為に使われ、消滅させる為にも使われる。
小中高と勉強してくれば、例えば『火』は、物質の燃焼に伴って発生し、熱と光を出す現象。持続させるには酸素や燃やすべき物体が必要で、消すには水とか燃える物を失くせばいい等がある……と、格好つけて言ってみたけど、こんな感じの事を習い、何となく覚えてはいる。多分、間違っていない……筈。
魔力とは、この化学的に習った現象を起こす源。余計な物は要らん! これさえあればオッケーという、何とも化学泣かせな存在。
そして、この魔力を使い、事象を起こす事を『魔法』という。取り敢えず、化学とか、小難しい事を考える必要はないという事は理解した。それ以外に、どう言えと……。
次、『魔力操作』とは。
事象を起こす時、適切な魔力を供給しないと正しく事象は起こらない。この『適切な魔力』を供給する為に必要分の魔力を事象に与える事を魔力操作という。
火種に燃料をあげ過ぎると火事になるから自重しろや! って事に近い……かもしれない。
まあ、ロウソクの火を維持するだけなのに、ガソリン使ったらバカだろお前って言われるのと同じで、遣り過ぎると取り返しがつかなくなるから、何をどのくらい与えるか感覚的に掴め、その練習をしろってのが魔力操作だ。結局は勉強しろって事だね。
そして、『魔力操作の基礎』とは。
まず、『魔力』を感じる所から始まる。まあ、何にでも宿っている――言い換えれば、どこにでもあるからこそ分かりにくいモノって事だ。
普段、息をしていて、ここに『空気がある』なんて気にしていない、あるのが当然であるのと同じで、魔力は『あるのが当然』で、普段は『気にしていない』。だからこそ、意識して感じようとしても雲を掴むような、どうしていいのか分からない状態となる。
そこで、親から子へ伝えられるのが『親が子の魔力を流す』行為。あー……息を吹きかけるなどで空気の流れを感じさせるのと同じく、親が子の体に宿る魔力を動かす事により、その違和感から魔力を感じる方法だ。
感じた違和感の基にあるのが魔力だと分かっても、そう簡単に自力で動かせるようになる訳じゃない。何度も何度も繰り返す事により、多分~的な感覚から何となくになり、これかな? に進歩して、いずれは動かせるようになる。
そうして、自分のが動かせるようになれば、その他に宿る魔力をなんとな~く感じ、動かせるようになる。
ここまでが、『魔力操作の基礎』。……これで基礎かい……。
ネスが「なるほど」とか言って、無言で魔力操作を始めた。
時々上手くいかないのか、耳や尻尾がしょぼんとする時がある。
素直というか何と言うか……思いっ切り撫で回したくなるこの衝動、どうすれば――!!
いやいやいや。撫で回しちゃいかん。なんか、あたしがヤバい事になりそうな気がする。
気を取り直して、折角だからマルに教えられた魔力操作を試してみますか。
ネスに魔法を教える以上、魔力操作ができないとまずいと試してみたけど……あっさりできた。上手くいかないって説明されたのに……。
あ、でも。昨日から何度か魔法を使っているけど問題なく使えていたから、無意識には操作できていたって事なのかな? でも、魔力を感じるなんてやってなかったから、昨日よりは進歩した……と思いたい。
まあ、魔力を感じられたのには一応、理由がある。
元の世界には『魔力』なんて存在しない。いや、存在しているけど、あたし達がそれを『魔力』と認識していないだけという可能性はあるが、まあ、取り敢えずないと言える。
そんな、存在していない違和感を探ればいいだけだった。
言葉で言うほど簡単にいくもんじゃないだろ? とか思ったけど、胃が重いとか、お腹が痛いとか、風邪引いてダルイとか、自分の体に起こる違和感。あれに似ていたから簡単に分かってしまった。
魔力の違和感を胃痛とかと同列に考えるのもどうかと思うけど……実際、そうだったからツッコミの入れようが――あるような、ないような……。
何か、そんな微妙な気持ちになっている時に、隊長と、トイレ――じゃない、移動式の牢に罪人を詰めた……いやいやいや、押し込――収監した兵2人が戻ってきた。
……途中、隊長が「無開示魔法の使い方を教えて下さい!」とか戻ってきて、教えたと思ったらまた消えた、なーんて一コマを挟んではいるが、取り敢えず、それは置いておこう。
マルが言うには、隊長達は既に無開示の魔法を使用しているらしい。識別の魔法を使える人にマジで見れないのを確認してから戻ってきたという事だ。何か、ドヤ顔しているのが笑える。
まあ、これで出発の準備が整った事になる。
魔法の勉強はまた後でという事にして、さあ出発しようかとなったんだけど……。
あたしは今、目の前に居る動物を見て困っていた。
隊長やネス、兵の1人はそれに乗り、1人は牢を引っ張る馬達の操縦席に座っている。
うん、そう、つまりは『馬』。勿論、獣人じゃなくて、普通の、正真正銘、四足歩行の動物な『馬』。これに乗って移動するらしい。
……現代において、乗馬を習っている人以外で馬に乗れるのなんて普通いるか? いないでしょ!?
乗馬体験していても、それは『乗った事がある』だけで、乗れる訳じゃない。極々普通に育ったあたしはモチのロンで馬になど乗れない。
この世界の住人は、馬に乗れるのが普通なのかっ!?
――普通らしい。えー……。
この世界において、移動手段は徒歩、馬車、馬しかない。一応、他にもあるにはあるが特殊な為、『普通』の部類に入れちゃいけない。なので、徒歩、馬車、馬しかないと言ってしまって問題ない。
そのうち馬車というのは、ある種のお約束通り贅沢な代物だから、一般市民は乗れない。ほぼほぼ貴族御用達な移動手段だ。まあ、乗合馬車というのもあるにはあるが、やっぱり料金は高いらしい。
で、一般の人はというと、基本的な移動は徒歩。ただしこれは、近場に限る。遠出をする場合、野宿などは危険な為、普通な人々はできやしない。じゃあどうするか。馬に乗って急いで休憩できる所まで進む、というのを繰り返して目的地へ向かう事になる。
馬は移動手段として大事だから、一家に一頭や二頭……ではなく、ちゃーんと貸し馬屋とかいう商売が成り立っており、馬はそこで安価に調達、使用できる。
借りた馬は、借りた馬屋だけでなく、その馬屋と業務提携をしている貸し馬屋にも返せるシステム……レンタサイクルに似てるね……。
ただ、ちゃんと返しましたよ~という証明書を発行してもらい、借りた馬屋にそれを提出する必要はあるらしい。これは郵送――というか、人伝に配達するのでもオッケーだ。
ちなみに、もし移動中に魔物に襲われ馬がダメになった場合、襲われた証明ができれば、借りた時と同じくらいの賠償金を払えば馬の死の責任を問わないらしい。証明って……普通、無理じゃね?
そう思ったが、馬には記録の魔道具が必ず装着されており、それを持ち帰る事ができれば移動ルートや何に襲われたとか分かるんだって。
……いや、その魔道具回収する方が難しくない? え? アクセサリー状になって首に掛けられているから引き千切ればいい?
つまり、それを回収して、馬を見捨てて、命からがら近くの町や村に逃げて来い、と。
何と言うか……今更実感するのもなんだけど、命の価値がすっごい軽い世界だね……。
まあそんな訳で、子供の頃から、どうすれば逃げ切れるかを教えられると共に、馬に乗る練習をする。そう、自転車に乗る練習と同じ感覚で。だから乗れる、と……。
んなもん、あたしには関係ないよね? あたし、この世界の人間じゃないし。
とは流石に言えず、しかも、乗れませ~んなんて弱みになりそうな事を自分から言うのも何か悔しく。
さて、どうしましょ?
『召喚魔法』を習得しました。使用しますか?
→はい
→いいえ
何と言うか……相変わらず、色々と都合が良すぎて言葉もない。
え? しっかりツッコミ入れてるだろ? ……これは既にクセになってるの! ツッコミどころ満載なのが悪い!
そんな事は、それこそ遠いお空の彼方に思い切り放り投げて……召喚魔法って、アレだよね? あたしがこの世界に呼ばれちゃったのと同じやつ。
『召喚魔法』
魔力によって契約した存在または契約可能な存在を呼び寄せる魔法。魔法陣を利用し、異世界より己が望む存在を連れてくる異世界召喚魔法とは別物。
召喚魔法によって呼べるのは、この世界の存在のみ。呼び出せるのも、力が伴っている者の召喚ならば呼び出すのも構わないと了解している存在のみとなる。
魔力によって契約を結ぶ為、相互に信頼関係が構築され、制御が可能である。また、契約後はそのまま召喚主の所に残るか、元の場所に戻り、必要に応じて呼ぶかを選べるようになる。
何を呼ぶかは魔法に込める魔力量次第。リジーは使用注意。
あ、一応、別物扱いなんだ。まあ、異世界召喚なんかに相互の信頼なんてないか……呼び出した存在だって自我があるのだ。意思をまるっと無視され、帰る方法もないまま誘拐されたのに、誘拐犯を信頼するなんて有り得んわな。
で、魔力で契約を結ぶ……この辺は何と言うか定番、王道乙って感じだね。
魔力量次第で何かがくるってのも分かるけど……なぜあたしの場合は使用注意なの?
……軽~く魔力を込めた筈が、あたしが思ってもみなかったような何か起こって規格外な事になりそう……うん、妙に納得した! 納得してしまった!
昨日、今日と規格外な事が起こっている気がするから否定できない……!!
と、取り敢えず、移動手段になりそうな意思疎通できる生き物――できれば会話もしくは念話みたいなものが可能な存在がいいなぁ――を呼んで、あたしを乗せてもらおう。
乗れない馬を前に突っ立っていてもしょうがないしね。
マル、召喚魔法の使い方は? は? やっぱり念じればオッケー? ……相変わらず、魔術神が甘いなぁ……魔力操作を覚えた意味が全くないんだけど。まあ、簡単だからいいけどね。
じゃあ、あたしを乗せて移動可能なコ、来てね~。込める魔力は……あたしが乗れればいいんだもん、少しでいいよね? えっと……数字的には100もあればいっかな?
と、軽く考えちゃったのが悪いのか……。
うん、どうしてこうなったんだろう……。
馬が滅茶苦茶パニック起こして、兵士達が怯えながらも必死に落ち着かせようとし。
隊長は、唖然としてあたしの方を見上げ。
ネスは……
「凄いな」
それだけですかっ!? あんた、コレ、それで済ませていい存在じゃないと思うよ!?
まあ、何が起こっているかと言いますと……。
あたしの目の前には、物語のラスボス候補。
赤い竜、が、どどーんと、いた。
ホント、どうしてこうなったっ!?
あたしゃこんな王道系間違いなんぞ要らんわっ!!!




