最初の一歩
この物語は創作です。モデルはありません。
『じゃあ、試験だけ受けて、嫌になったら辞めれば?』
美雪を誘った米川さんは、優雅にコーヒーを飲みながら入社の手続きを説明した。簡単な書類を書く。
米川さんは、美雪が前から欲しいとは思ってたが、ちょっと若いかなぁと買う気にはなれなかった、新作のピンキーダイアンの白いカバンをシャナっと持っていた。美雪より10歳上だそうだ。
入社してちょうど10年。営業所の支部長だそうだ。やはり美雪と同じ年に入社している。
『自由だし、やりがいあるし、何と言っても自分で稼いだお金を使えるのって、凄い魅力よ?ボーナスも、有給もあるし、土日祝日は勿論、5月、8月、年末年始のお休みもバッチリよ?契約貰えれば、あとは何やってたっていいんだから!』
いい事尽くめでは無いか?
美雪は凄いワクワクして来た。もうすっかり入社する気満々で、最初にもらった給料で何買おう?その前に美容室行かなくちゃ!美雪の気持ちはもうそっちに飛んでいた。
しかし、一緒に誘われたサークルの先輩と、旦那が大反対だった。
先輩は、
『あなた、人がいいのねぇ、すっかり米川さんのペースに乗せられちゃって?保険屋さんなんて口が上手いんだから、いい事ばかり言うに決まってるじゃないの?』
旦那に至っては、
『保険会社の営業なんてどんなに辛いものか、お前、噂で聞いた事無いのか?ノルマが厳しくて、そのうち家族、親戚、友達全員加入させて、挙句経費で借金が嵩んで手取りなんてほとんどないって言うじゃないか?』
しかし、美雪は米川さんが、そんな口先だけの人に見えなかったし、生活に苦労している人があんな若めの新作のバックを持つとは思えなかった。
しかし確かに、先輩の言った事も、旦那の言った事も、決して間違いではなかった。ただ個人能力の差があり過ぎて、保険会社のセールスが全員が全員それれらの要素に該当する訳では無いと、言うだけだった。
勝気な美雪は人に反対されると、逆に反発したくなると言う、悪い癖がある。1日でも早く契約を上げて、旦那や先輩を見返してやる!
美雪はやる気満々だった。入社試験も、アンケートを取ってくる件数も、同期入社メンバーの中でダントツだった。
採用した米川は営業所の桜支部の支部長だった。美雪以外に米川を含め6人の先輩達がいた。米川支部長も、営業所の所長も、やる気のある美人新人が入って来たと言う事で、大ハシャギ!美雪は営業所の新人担当のトレーナー、米川、所長らにチヤチヤされまくりすっかりいい気分になった。
しかし、おだてられたのは、最初の一年だけ。次の優秀な新人が入って来ると、所長やトレーナーの意識はすぐにそちらに行った。
美雪はそれが悔しくて頑張った。
新人セールスレディとして頑張り出した美雪!さぁ、これからだ!




