セールスレディへのお誘い
この物語は創作です。モデルはありません。
美雪が保険会社に入ったのは33歳の時だった。
地元の、箸にも棒にもかからない短大を出て、なんの資格も取らず、親、親戚にも就職先をコネで頼まずフラフラして卒業。
大好きなブランドで、売り子をバイトでやることになった。いわゆるハウスマヌカンってやつ。しかし、バブル崩壊で、そのブランドは東京とか大阪などの五大都市のデパートにしか店舗を構えなくなって地方のデパートからは撤退し、美雪は1年で失業した。
それから適当なバイトをちらほらやっていたら、22歳の時、母親の友達の息子に会う機会があって、偶然が2回重なり、これはもう、運命だと舞い上がって結婚した。子供も年子で3人授かった。
それから、なんだかんだで11年。あんなに盛り上がった夫とはすっかり疎遠になり、今や母子家庭のようだ。でも生活費はきちんと貰っているので、文句も言えまい。
末っ子の娘が、小学校に入って落ち着き出した頃、美雪は一気に暇になり、急に手持ちぶたさになった。
もともと特別な趣味がある訳でも無く、年子3人を育てるのはまさに毎日が戦場で、ひっちゃかめっちゃかだった。でも楽しかったが。そんな中で読書1つも何年も出来なかった。
それでも子供達が低学年のうちは帰りも早いし、お迎えもたまにあるしで気を抜かなかったが、だんだん慣れてくるのと、時間が余るようになり、美雪はその空いた時間に淡々と読書に充てるような性格では無かった。
かといって、パッチワークや刺繍やデコパージュなども、キチンと完璧に仕上げないと気が済まず、良い作品には多大な材料費がかかるのだった。
その癖、そこまでのめり込みたくも無く、運動は一緒にやる相手がなかなか捕まらなかった。ママ友はそれこそいくらでもいたが、子育ても趣味も一緒、子供達の学校も一緒ってのが、理想は理想だろうが、いざ気まずくなったら困ると、美雪の本能が告げていた。
そんなこんなで、なんとなくもの足りない日々を過ごしていた時、短大のサークルでちょっと親しかった先輩が、保険のセールスがしつこく来て逃げられないから、ちょっとあなたも一緒に話聞いてよ?お願い!と誘われた。
保険屋のオバさんがケーキご馳走するってよ?って言うので気軽に出掛けた。保険なんて、主人に聞いときますと、適当に断れば良い。
しかし、いざ指定されたそのティールームで、ケーキを食べながら美雪とその先輩が勧められたのは、保険への加入では無く、保険会社でセールスレディとして働いて見ないか?と言うお誘いだった。
勿論、2人で即座に断った。保険の営業なんて冗談じゃ無い!しかし、美雪はちょっとだけ気持ちが揺れた。その誘ってきた保険屋のオバさんが、とても垢抜けてカッコ良かったからだ。
どうしよう?美雪は悩んだ。
保険会社に誘われる美雪。セールスレディになりそうですね?




