【大村咲】 欠落を生む小さな追跡者
和国歴一二〇年 五月一五日 16:40~
次の日の放課後、私は先生の手伝いが長引いて帰るのが少し遅くなってしまった。友達はもう帰っちゃっただろうし、一人で帰らなきゃだめかもしれない。寂しい。
いや、もしかしたら図書館に洋がいるんじゃないかな?あいつなら、きっと今も七不思議について調べているはずだ。よし、今日は洋と一緒に帰ろう。ついでに明日のこととか聞いておけば、私もいろいろ準備できる。いい思いつきだ。
私が階段を下りて、図書館に行こうとした時だった。ちょうど、2年5組の教室の向かいの壁に大きな穴が現れた。あいたんじゃない。「にゅっ」て感じに穴ができて広がった。なんだろう、これ。
不思議に思ってみていると、中からゆっくりと薄汚れた毛の塊が出てきた。髪の毛?もう少し待つと、中から出てきたのは私よりも小さな女の子であることがわかった。1メートル無いんじゃないかな?上履きには2年5組と書かれているけど、名前はかすれていて読めない。
その子はゆっくりとした動きでこちらを見た。
「あそぼ?」
私は自分の心臓を抑えた。それは、周りに聞こえてしまうんじゃないかというくらい激しく暴れている。女の子の顔の左半分には大きな穴が開いている。中はどこまでも真っ暗で吸い込まれそうだ。右半分には目が縦に2つ並んでいる。その顔は私をどうしようもなく不安にさせた。いやな感じを、心の奥から湧き出させた。
つい、後ずさってしまった。その動きに反応するように、その子が私に向かって……。
私は早歩きで階段を上る。廊下は走ってはいけない。でも、あの子につかまるのは怖い。だから、早歩きであの子から離れる。ありがたいことに、あの子はあんまり早くない。見た感じ走ってるみたいだけれど、その移動速度は不自然なぐらいゆっくりだ。だけど、確かに追いかけてきている。あの子が何なのかはわからない。もしかしたら、見た目と変な穴から出てくること以外は普通の子なのかもしれない。でも、追いつかれたら何をされるかわからない。
とにかく職員室に行きたい。職員室に行けば、先生がいる。先生なら何とかしてくれるだろう。もちろんすぐにたどり着いた。私は急いでドアを開けようとする。
「あかない……?」
そんなわけない。いくらなんでも、こんな時間に先生がみんな帰ってしまうことなどありえない。まだ4時50分だよ?混乱していると、職員室のドアに、あの穴が広がった。私はあわてて後ろに下がった。
やはり、あの子が中から出てきた。女の子は私を見つけると、また顔を歪ませる。
「おにごっこ、私も好きだよ?でも、お姉ちゃん速いね」
私はついに走った。冷静な考えができなくなっていた。だって、おかしい。さっきから、誰の声も聞こえない。物音一つも聞こえない。何より、どのドアもピクリとも動かない。
「誰か!助けて!」
それからしばらくして私は大声で助けを求め始めた。もう、なりふり構っていられなかった。誰でもいい、正直助けてくれなくてもいいから、誰かに出てきてほしかった。これは決して頭のいい行動ではない。大声なんか出していたら、すぐに疲れてしまうし、あの女の子に場所がばれるだけだ。だけど、精神的に限界だった私は体力が尽きるまでひたすら叫んで、走り回った。
逃げ続けられたのは10分ぐらい。もう、声を出す余裕も走る体力も残っていない。
立ち止まると、すぐにあの子の穴が現れる。これ、ずるい。どんなに距離を話してもすぐに追いつかれてしまう。
……本当に疲れていたんだ、私は。だから、普段なら絶対にしないであろう最終手段をつかってしまった。近くにあった消火器を取り外し、穴から少し離れた位置に立って狙いをつける。どんなに疲れていようと、私たちは狙った場所に確実に投げたものをぶつける手段がある。
「追いついたー」
女の子が穴の中から現れる。この瞬間だ。今、この子は消火器を絶対によけることができないだろう。私は、思いっきり消火器を振りかぶって投げつけた。
「え?……ひっ」
女の子は腕で頭を防御する姿勢をとった。そこまで予測してこそ私たちの必殺技。「必勝法」の名前は伊達ではない。消火器は、狙い通り女の子の頭をかすめて、穴の中に入っていった。……入れるんだ、あの中。いや、それはどうでもいいんだけど。
さすがに直撃させることはできなかった。そんなことをすれば、私の心は壊れてしまう。物を投げて、脅して、この鬼ごっこ自体を止めさせることが私にできる最終にして最強の手段だった。
「いや!こないで!やめて!やだ!くるな!」
「……」
思いつく限りの言葉で私は女の子を拒絶する。この一言一言が少しずつ私の心を締め付けていくけど、だからといって緩めるわけにもいかない。当の女の子は、こちらをポカンとした顔で見る。それから、女の子は穴からひょいと出てきた。さっきのことはまったく気にしていないようだ。
「……かくれんぼのほうがよかった?」
「……ぇ」
残念ながら、私の脅しと罵倒は何の効果もなかったようだ。だけど、私の訴えは思いもよらぬ勝機を生み出してくれたらしい。私は、悪いことを積み重ねていくことを自覚しながら、何とか思いついた嘘を絞り出す。
「かくれんぼのほうがいい。あなたが隠れるの。私が探すの」
「わかったー、10数えてね」
女の子は私の提案に簡単に乗ってくれた。そして、壁をじっと見つめたかと思うと、あの穴を作り出して、その中へゆっくりゆったり消えていった。
助かった。いや、まだだ。私はこの学校に閉じ込められたまま。なんとかしてでなければいけない。間違えても、あの女の子を見つけてはいけない。見つけてしまえば、次追いかけられるのは私だ。
「……無理」
ここまでだった。ただでさえ体力も気力もなくなっていたのに、その上から悪いことを次から次へと重ねてしまった。暴力に暴言、嘘。仕方のないことだったと自分に言い聞かせても、湧き出る罪悪感が抑えきれない。
気力を完全に失った私は、その場に横になった。そして、ゆっくり目を瞑る。その結果死んでしまうなら、もうそれでもいいや。
「さき……」
私が目を覚ますと、すぐ近くに京ちゃんの顔があった。ゆっくり辺りを見回してみると、どうやら保健室らしい。
「おおっ、大村氏!もう大丈夫ですかな?体に異常はありませんでしたので、きっと貧血か何かだと診断しました。まだ辛いようなら、保護者さんに電話して迎えに来てもらいますが、いかがです?」
鷲島先生の声を聞いて、私はようやく落ち着いて状況を確認することができた。私はどうやら貧血で気を失って、2階の非常階段の前で倒れていたらしい。京ちゃんが運んでくれたんだろうか。あの非力な京ちゃんが、1階の保健室に私を?引きずっても無理だろう。
いや、それよりも。そもそも私は貧血で倒れたわけじゃないはずだ。今までそんなことなかったし。鉄分入りの牛乳だってよく飲んでいるのだ。もっと、嫌な……何かがあった気がする。
「私……」
「大村さん」
鷲島先生が、少し強い調子で私の名を呼ぶ。そういえば、鷲島先生がお母さんを呼ぶかどうか聞いていた。私は、一旦考え事を中断してベッドから降りる。
うん、別に異常はない。なんだか少し体がだるくて、のどが痛いけど、帰れないほどのことはない。
「大丈夫です」
「それはよかった。お茶を飲むとよろしい。どうものどの調子が良くない様子ですからな。よいハーブティーを入れさせていただきました。可愛らしいお姫様方、どうぞご賞味あれ」
鷲島先生に渡されたハーブティーをのむ。程よく温かい。のどがスース―して気持ちいい。隣では京ちゃんも一緒に飲んでいる。外を見ると、夕日で空が赤く染まっていることに気づく。早く帰らなきゃ。
飲み終わると、コップを鷲島先生に返して、お礼を言った。
「ありがとうございました。あと、ごちそうさまです」
「んちゃ」
「はっはっは、いいのだよ。何かあったら遠慮なくきたまえ。すぐに帰るというなら、君賀氏にも声をかけてくれ。彼が、君をここまで連れてきてくれたんだ」
え?洋が?
聞くと、非常口の前で倒れていた私を京ちゃんが見つけ、図書館にいた洋に声をかけて私をここに運んだのだという。鷲島先生に預けると、図書館に荷物を取りに行くといってさっさと出て行ってしまったらしい。いまごろ、荷物を取るついでに見かけた本を手に取ってしまい、熱心に読んでいることだろう。もう閉館時間なのに、係の人が困っているに違いない。
「わかりました、ちょっと行ってきます」
「いや、その必要はないぞ」
丁度よく、洋が戻ってきた。意外。ちゃんと荷物だけとって戻ってきたのかな?
「やけに長かったですな」
「国端先生に追い出された」
「ドンマイ。ハーブティー飲みますかな?」
「ください、ちょっと今日は疲れた……あぁ、咲。俺はちょっとここで休んでいくから、先に帰っててくれ。もう6時だからな」
洋は本当に疲れているようだった。まあ、さすがに私を運んだとあれば洋も疲れるだろう。身長私のほうが大きいし。本当、よく運べたなぁ。
今日は、洋の言う通り先に帰ろうかな。待ってるっていうと気を使わせちゃうからね。
「洋、ありがとう」
「ん、気をつけろよ」
京ちゃんが私の服を引っ張る。早く出ようと言っているのだろう。鷲島先生にもう一度挨拶して、私と京ちゃんは保健室を後にした。
京ちゃんはいつもならもうしばらく教室にいるはず。今日もそうなのかな?何気なく京ちゃんに話しかけようとする……その前に、強く服を引っ張られた。
「聞く?さきに覚悟があるなら」
「え?」
なんだか意味ありげなことを言う京ちゃん。さっぱり意味が分からない。視線は保健室を指しているようだけど……。
「わしじまは知っている。ようもきっと理解している。望むなら、知るといい。あなたも」
「ごめん、何のことかわかんない」
「七不思議」
その言葉を聞いた瞬間、全ての記憶が引っ張り出された。七不思議……怪談。こわいこと。穴の中から現れる女の子と、鍵の開かない学校。何より、私がしたことを思い出して、気分が悪くなった。
私の様子を見て、京ちゃんが冷たく私を見る。京ちゃんは私がしたことを知っているの?
「わたしも、しっている」
「……」
「さきは、これから向き合うことになる」
京ちゃんは、私がしたことに向き合えと言っている。鷲島先生と洋は、きっと私のことを話している。私のことを話すために私を先に帰そうとしたんだ。よく考えると、雑だもん。洋の、私の追い出し方。
私は意を決して保健室の扉に耳を当てた。私は、2人の話を聞かなければならない。向き合わなければならないのだ。
「うん、七不思議よく知る、大事。知ってしまえば巻き込まれる。知っていれば対処できる」
「しっ」
「んちゃ……」
京ちゃんが後ろでごちゃごちゃ言って気が散るので、申し訳ないけど少し静かにしてもらった。改めて、立ち聞きに集中する。
「で、多分咲が巻き込まれたのは4時30分くらいだと思う。その時間に起こる七不思議は、くり抜き少女、穴あき少女、穴子ちゃん……なんて呼ばれている奴だろう。その特徴から、俺は片目二目と名付けた」
「ほう?それはいったいどんな七不思議なんです?」
「一度出会うと空間を超えてどこまでも追いかけて来る幽霊だって。かくれんぼか鬼ごっこを仕掛けてきて、それに負けると不思議な空間に閉じ込められて目玉をくり抜かれるんだってさ」
「怖いな。対処法は?」
「まず、4時44分に2年5組の教室前にいなければいい。それに、片目二目は出現してからこちらに気づくのにタイムラグがあるから、出てきたとしてもすぐに逃げれば、遊ぶ相手を見つけられなくてさっさと帰っちまうんだって。あと、遊びを断るのも有効。仮に遊びに負けたとしても、必死に暴れれば倒せはしなくてもひるませることはできるから、殴って蹴って隙を作って片目二目が作る穴に飛び込めば脱出できるんだって」
「随分優しいねぇ?」
「実際目玉抜かれたの二人しかいないってさ。それもかなり昔。まあ、時間的に学校にいても問題なくて、いい感じに怖くて、だけど対策が簡単だからわざと呼び出して遊ぶ奴もいたみたい」
「ふむ……しかし、目玉をくり抜かれた子が二人もいるんだろう?学校として対策をするべきなんじゃないかね?」
「そこはわからない。何か理由があるのかもしれない。今度の探索ポイントだな、そこは」
あの女の子の話をしている。え、じゃあ私、捕まってたら目玉とられてたの……?結果の話だけど、無理して暴力的な行動をして正解だった……のかな?どうだろう。あんなことするくらいなら、死んでしまったほうがよかった?冷静になってみると、やっぱりひどいことをしたと思う。だって、あの子は話ができる相手で、暴力の前にとるべき手段がいくつもあったはずだ。話を聞く限り、遊び自体を断ることもできたらしい。あそこで冷静さを失って逃げ出してしまったのは私だ。悪いのは私だ。悪いのは……
「さき」
「……え?」
「無事でよかった」
「……?」
……よかった?何がよかったんだろう。いいことなんて何もない。私は悪いことをした。相手が何であれ、私のしたことはいけないことだ。
「悪いのは私だ、いいことなんて何もない。悪いのは私だ」
「さき?」
ガタン!と、保健室のドアが思い切り開けられる。びっくりして、マイナス思考が吹っ飛んだ。顔を上げた先には洋がいた。
「帰らないならもうちょっと保健室にいりゃいいじゃねえか……って、自己嫌悪モードか。久々に見た。何かあったのか?どうせまたしょうもないことで罪悪感感じてんだろ?聞かせてみろよ」
洋はやたらと明るく私に話しかける。しょうもないと言われたことにイラっとしたけど、ここで喚いても洋には通じない。まあ、そういうんなら聞いてもらおう。私のしたこと。
「……私、女の子に消火器投げて、悪口を言って、嘘ついたの」
「なんだ、七不思議のこと思い出したんだ。女の子って言っても七不思議の幽霊だろ。いや待て、もしかして必勝法使ったの?効果あったのか?俺も機会があったらやってみるわ」
消火器にもドッヂボール必勝法が通用するってことは洋にとってとても興味のひかれる内容かもしれない。ポンポン投げられても困るので、適当にくぎを刺して話を進めることにする。
「やめて。消火器壊れちゃうよ。……わたし、さっき洋が話してた片目二目って女の子に襲われたの。それで、どれだけ逃げても追いかけてきて、どうしようもなくなって……」
「立ち聞きとは趣味がいいな。もっとやるといいぞ。様々な情報収集手段を持ってこその副リーダーだ。さて、お前の今回の行動だが……答え出てんじゃねえか。どうしようもなかったんだろ?正当防衛だ。終了」
洋はどこまでもさっくりいう。これには私もかなりむかついた。洋が人の苦しみを理解できないことは知ってるし、納得もしていたけど、今の私には我慢ができなかった。きっと洋の考え方は間違っていないし、私も同じように考えたほうが楽なんだと思う。でも、そう考えられないからこうなっているのだ。
だから私は、かなり感情的な言葉をぶつけてしまう。
「そういう話じゃないんだよ!」
意味はない、洋は人とずれた思考をするから、感情的な言葉は一切理解ができない。こういう言葉をぶつけた時、洋は感情を失った目で私を見るのだ。
あれ、洋がすごい難しい顔してる。何かを必死に考えているようだ。
「えーと……じゃあ、片目二目がそれに対して恨み言を言ってきたのか?」
「いや……そういうのはなかったけど」
私が消火器を投げた後も、あの子の態度は変わらなかった。むしろ、遊びの続きを求めてきていた。多分、気にしていなかったと思う。
「よし、じゃあ悪いと思ってるのお前だけ。相手すら気にしていない。お前本人もどうしようもなかったと評価している。強いて言うなら、今回の自分の後悔をしっかり覚えて、今度から消火器を投げるようなことをしなければいい。そうすれば、ほら、無駄もなくなる。完璧」
「……うん」
洋は私をじっと見ている。顔色を確認している……というか、「こういったらどういう反応をするか」を確認している感じの目をしている。
洋に私の後悔や恐怖を理解する手段はない。いまだって、私の気持ちを欠片ほども理解していないに違いない。これは、洋ができる精一杯の慰めだ。どこまでも理屈っぽくて、相手をいい方向に納得させようとする言葉を並べることが、彼のできる唯一の慰め方だ。
私は立ち上がる。これ以上洋と話していても、私が慰められることがないのは理解している。それに、さっきから京ちゃんの視線が痛い。ほとんど瞬きせずにじっと私を見ている。多分心配してくれてるんだろうけど、怖いよ京ちゃん。とにかく、これ以上周りを心配させるわけにもいかないのでちょっと無理して立ち上がった。
あ、少し楽になってる。洋に対して叫んだのがよかったのかもしれない。頭がすっきりしてる。
「よし、俺も回復したし。一緒に帰るか?せっかくだから今日調べたこと教えてやるよ。お前の身に起こったことと照らし合わせて、片目二目について考察するのもありっちゃありだな」
洋の調子はいつだって変わらない。正直、闇雲に怒鳴りつけるのも悪いことなんだと思うんだけど、洋に対しては何をしても真っ黒な罪悪感がわかない。きっとこの常にいつも通りな感じが私を安心させてくれているのだと思う。
「うん、帰ろう」
洋と私の関係はいつもこう。お互いに遠慮がない。私は洋の変な言動を容赦なく押さえつけるし、洋は私の変な言動を悪意なく踏みにじる。これでお互い割といい関係が続いている理由は私にもよくわからない。でも、何となく心地いいしそれでいいんじゃないかなって。
「じゃあな、京。また明日」
「驚かせてごめんね、京ちゃん。また明日ね」
「ん」
京ちゃんと別れた帰り道。お日様は今にも沈もうとしている。ちょっと遅くなりすぎたかな。通学路を歩きながら、洋は私に調べたことをいっぱい教えてくれた。ついでに、それをまとめたメモを渡してくれた。
「次巻き込まれた時、消火器がなくても対処できるようにしたらいいんじゃねえか?」
「もう。あんまり突っつかないでよう。私だっておかしいとは思ってるんだから」
私たちの喧嘩は長続きしない。そもそも喧嘩として成立しているかが怪しい。今日だってほら、すぐにいつもと同じ調子に戻っている。多分、お互いの考え方が違いすぎてほとんどぶつかり合うことがないからだと思う。ねじれの位置ってやつかな?
「……洋。もしかしたら私、七不思議調査行けないかもしれない」
「そうか」
「頑張るけど。無理だったらごめん」
いくら調子が戻ったといっても、何度もあんな目にあいたいとは思えない。いや、次は一人じゃないし、同じような目にあうことはないと思うけど……。それでも、そもそもあの女の子に会いたくないというか……。
あの子、まだ隠れてるのかな?もしかしたら、私のせいで今もずっと……。次にあの子に会うのが怖い。
「まあ、無理にとは言わないけど。ただ、もし来れたら調査のついでにトラウマをぶっ飛ばしてやる。お前に合った方法を使ってな」
「……どういう?」
「七不思議と友達になる。なんてどうだ?どうやらあの学校には片目二目と同じような、人の姿をした幽霊のうわさ話があるんだ。皆まとめて、友達になっちまおうぜ?」
友達……?お化けと友達?それは……ちょっといいかも。
「まあ、考えておけ。お前は友達を作るってなれば無敵だ。怖くないように俺がちゃんとついていてやるし。……そうだな。せめて、明日の作戦会議には出てくれ。その後、参加するか否かを決めればいい」
帰り道の洋は、いつもより優しかった。クラブの話のところどころに私を気遣うような言葉が入っていた。ついでに、洋は自分の家を通り過ぎて私の家までついてきてくれた。彼なりに、本当に心配してくれていたんだなと思う。我ながらちょろい子だと思うけど、そのことが少しだけ……いや、すごく嬉しかった。だから、ちょっとだけ強気に七不思議と向き合ってあげてもいいかなって思った。
学校の噂話検証 その1
穴子についてわかったことを書き残します。
穴子は、空間に穴をあけて自在に移動することができます。しかし、移動する場所は彼女自身が詳しく把握しなければいけないようです。何度か追跡を振り切ることに成功しましたが、完全に相手を見失った場合、彼女はこの移動方法をほとんど使わなくなりました。
穴子の提案する遊びは2つのレパートリーがあるようです。おにごっこ、かくれんぼです。提案はまるでゲームの選択肢のようにループし、遊ばないという選択肢は取れません。逃げた場合、強制的に鬼ごっこが始まります。どちらにおいても、こちらが負けた場合、彼女の穴に引きずり込まれます。力はとてつもなく強く、抵抗は無意味でしょう。捕まる前、または引きずりこまれた後ならば、攻撃することで彼女を怯ませることが可能です。
穴子の穴は2年5組の教室に繫がります。この教室内で、穴子は今までの人懐っこい雰囲気がエスカレートし、くぎ抜きを手に「もっとあそぼう」と言いながら襲いかかってくるようになります。その攻撃は全て右の目玉をくり抜くことを目的としたものです。
目玉のくり抜きに成功した後、彼女は落ち着きを取り戻し、ままごとや押し相撲などで遊ぼうと提案してきました。その様子は同年代の少女のものと差は感じられません。彼女の狂気的な行動は、彼女本人の意思とは別の要因が関わるものである可能性があります。
2年5組の教室の扉は完全に閉ざされており、そこは出入り口として機能しません。穴子の生成した穴に再度飛び込むことでこの教室からの脱出が可能です。目玉を取られた後ならば、彼女に帰りたいと求めることで快く開放してくれます。