表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和国小学校クラブ活動記録 「らんてぃあ」(調整前置き場)  作者: アーギリア
第1章 とってもつよいクマちゃん譚
11/17

【大村咲】本格的な活動に向けて

和国歴一二〇年 五月一四日 16:00~

 今日は火曜日。朝のことがあって授業が終わるのが少し遅くなったけど、クラブ活動はしっかりやるようだ。ただ、先生は会議があるらしくて今日は一緒にいられない。だから、私がしっかり洋のことを見ていなければならない。

 今日から、活動場所が京ちゃんの教室になった。教室だと、秘密感がないと洋がごね始めたのである。秘密感なんていらないし、人目につかない場所で洋に活動させたくないしで却下しようと思ったんだけど、桜木さんにとっても人目につかない場所で活動するのは都合がいいと意見が出た。桜木さんの希望ならしょうがない。4人で新しい会議場所を相談した結果、他に誰も来ないことと、桜木さんが隠れるのに都合がいいことが決め手となってこの特別教室が選ばれた。この提案がされた時、京ちゃんは目を真ん丸にしてうなずいていた。多分、喜んでたんだと思う。

 特別教室には、すでに桜木さんと京ちゃんが待っていた。


「ん?菊、参加して大丈夫なのか?朝の奴で、いろいろあるものだと思ってたんだが」

「心配には及びません。この桜木菊、仕事はさっさと終わらせる質なのです。自分がやるべき分はすでに終わらせてあり、あとのことは傘下4家の皆さんでもできるようフォローも入れました。2時間ぐらい、何とでもなるでしょう」

「そっか。まあ、お前がそういうんならそうなんだろうな」


 桜木さんと洋は、最近仲がいいみたい。あんまり喋ったことなかったという割に、2人の会話は今みたいに気軽なものだ。私も、もう少し桜木さんに近づいてもいいかもしれない。ちょっと恐れ多い感じもするけど、同じクラブの仲間だからね。


「んちゃ」

「どしたの?京ちゃん」


 突然、京ちゃんが私に折り紙の鶴を差し出してきた。気配を完全に殺して近づいてくる京ちゃんにも慣れてきた。初めて会ってからしばらくは、いつの間にか後ろにいる京ちゃんに何度も驚かされた。……まだ一週間しかたってないけど、人の適応力ってすごいね?


「くれるの?」

「ん、お昼、作った」

「ありがとっ」


 京ちゃんは私とお手伝いをするようになってから、いろいろと話しかけてくるようになった。たまにこうして、勉強で作ったものをプレゼントしてくれたりもする。私と京ちゃんの中も良好です。


「今度、お返しに何かプレゼントするよ」

「んちゃ!」


 こんな風に、クラブの雰囲気はいい感じ。最初は、洋が何をやらかすか気が気じゃなかったけど、今は結構楽しい時間だと思えるようになった。……ここで油断すると、洋がまた変なことし始めるので、気は引き締めなきゃいけないけど。


「よっし、みんなも揃ったことだ?これより、らんてぃあの活動を始める!」


 ぱちぱちぱち。

 洋はいつも通り元気。3人の拍手がついて言っていない。少しむなしく感じる。


「まずは、京!ついにお前の役割が決まったぞ!」

「!」


 おお、ちゃんと考えてきたんだ。結構悩んでたみたいで、少し心配だったけどさすがだね。やるときはやってくれる奴だ。京ちゃんがぐっと身を乗り出す。目がキラキラしている気がする。無表情だけど、溢れる期待感がこちらにも伝わってくるようだ。

 さて、洋は京ちゃんにどんな役割を任せるんだろう。お手伝いをしていてわかったけど、京ちゃんはできないことが極端に多い。ワークブック30冊を持ち上げることはできなかったし、階段掃除で息を上げていた。さらに、長いことコミュニケーションというものをしてこなかったせいか、会話すらまともにできない。……京ちゃんにできる役職なんてあるのだろうか。


「傾聴!今日から京を『マスコット』に任命する!」

「!!!」


 マスコット?……いや、できないことはないだろうね。言ってしまえば看板娘とかそういうやつでしょ?うん、確かに体力もコミュ力も必要ない。でも、魔王がマスコットって……どうなんだろう。


「らんてぃあのマスコットとして、より一層励むように」

「んちゃっ!」


 あ、でも京ちゃん喜んでる。だったらそのままでもいいか。残念なことに、私から京ちゃんの役職についての代案は出せない。何も思いつかないし。京ちゃんが不満そうだったら改めて動こう。


「さて、次行くぞ。みんな、お手伝いカードを出してくれ!」


 活動報告だね。皆が一斉にカードを取り出す。私と京ちゃんは5つやり遂げていた。3日で5つなら上々でしょ?私たち、一日一回をノルマに、しっかりやってるんだから。桜木さんは3つ。1日一つのペース。だけど、本来桜木さんは神童のお勤めがあるわけで、お手伝いどころかお仕事をいくつもやっていたはずだ。私たちより少ないということはできないだろう。そして洋は……1、2、3……23こ?23!?


「洋、ほんとにこんなにしたの?」

「正直やりすぎたと思ってる」


 いったい、どうやったらこんなに集められるのか。よく見ると、用務員の柴咲さんと鷲島先生の名前が多め。どっちも4つ以上ある。そういえば、この前の会議で仲のいい先生ができたらいいとか言っていたっけ。洋にとって、この二人が仲のいい先生なのかな?


「うんうん、皆よくやってるようでなにより。京も頑張ってるな。その調子で頼む」

「んちゃっ☆」


 褒められてうれしそうな京ちゃん。私から見ても、京ちゃんは本当にがんばった。いやそうな顔をする先生の視線にも挫けなかった。30冊は持てなかったけど、10冊ずつを3往復してやり遂げようとした。(3往復目の最初で力尽きた)。昨日なんて、校長先生の方からお手伝いを頼まれたんだよ。


「よしよし、皆らんてぃあの活動に積極的に参加してくれているようで大変結構!じゃあ、ここからが本題だ。俺たちが最初の『挑戦』することを決めていきたい!」


 そして、洋がホワイトボードをひっくり返した!そこには大きく「学校の七不思議」と書かれていた。


「我らの記念すべき第1回の活動を、学校の七不思議を調査にしたいと思う。意義があるものはいるか!」

「いやだ!」


 私はすぐに手を上げて反対の意見を示す。だって、七不思議って、怖い奴じゃない!私も聞いたことがあるよ。美術室に真っ赤な血の文字が浮き出るとか、トイレの鏡に怖いのが映るとか!ああ、あれ聞いてからしばらく学校のトイレが使えなくなったんだよ。

 そもそも、七不思議って夜に起こるものでしょ?夜の学校に入るのはいけないことだ。つまり、七不思議の調査は私が止めるべきものだ。うん、間違いない。


「あ、あの。夜の学校は危ないよ!電気とか完全に消えちゃうし!そもそも入っちゃだめだよ!」

「ふっ、甘いな。暗い?危険?禁止?上等だ。挑戦者とは、自ら禁忌に入っていくものをいうんだ!命以外は捨ててよし。ただ、下準備だけは入念に。これがらんてぃあだ!」


 あっ、これどうしようもない奴だ。これで洋は「俺は悪いことなんてしてないししないよ」と言い張るんだからおかしいと思う。当日に力技で押し込めるしかないかな……!毎夜腕立てしておけばいけるかも。体は私のほうが大きいし。洋はチビだし……。

 しかし、ここで声を上げたのは意外な子だった。


「やりたい!」


 京ちゃんが高らかに手を挙げ、そう言った。びっくりした。京ちゃんは今まで、こんなに強く意思表示をすることなんてなかった。京ちゃんの目は真剣だ。思いもよらぬ伏兵の登場で、無理やり洋の提案を止却下するわけにはいかなくなってしまった。


「なあ、咲。寡黙なうちのマスコットがこういってるんだが。いままで、意外と意見を出してきた京だが、ここまで熱意のこもったのを聞いたのは初めてだ。どうだろう、お前は俺に京の頑張りを毎日説いてくれた。努力には報いが必要だと俺は思う。それでも、咲は反対するのか?」


 え、何それずるい。ここで、反対するって言ったら、私完全に悪者じゃない?でも、嫌なものは嫌だし、悪いことは悪いことだし……そうだ!


「ふ……ふふふ!いいよ、京ちゃんのお願いだもん。賛成はしてあげる。でも、悪いことは駄目!あくまでも、健全に!挑戦者の流儀がどうかは知らないけど、洋の勝手で私たちの評判が下がるのは見過ごせない。ちゃんと、先生に認めてもらったらっていう条件付きで、賛成してあげる」


 どうだろう?基本的に、夜の学校に入るのが許されるとは思わないし、仮に許されたとしても悪いことをするわけではなくなる。ここで、洋がなおも食い下がるようなら、ここからは戦争だ。私は副リーダーとして、メンバーの最低限の安心を守らなければいけない!


「む……なるほど。うん、その言い分は考慮に値するものだ。俺の勝手で、仲間の評判やら評価を落とすのは、決して俺の望むところではない。相わかった。先生達にしっかり許可をもらう。そのうえで、学校の七不思議の調査を行うとしよう。菊もいいか?」

「はい」


 あれ?思ったよりあっさり洋が身を引いてくれた。ついでに、微妙に話の中心から外れていた桜木さんにも意識を向ける心配りも見せる。洋も、成長しているのかな。

 京ちゃんは少しうれしそうに体を揺らしている。まだ、行けると決まったわけじゃないからね?


 洋は、少し案を考えるといって教室を出て行ってしまった。私たちには、「話でもして親交を深めておくこと」と適当な指示を残していった。さっき少し見直したけど、やっぱり行動が唐突で自己中心的なのは変わらないね。


「怖いの、苦手ですか?」


 桜木さんは不意に話しかけてきた。いつも通りのやんわりとした笑顔を浮かべながら。


「怖いのはあんまり好きじゃないです」


 私は正直に答えた。夏によくやる、ホラー番組とか絶対見れない。一度、友達の優香、双葉とホラー映画を見に行ったことがあるけど、私は1時間ずっと双葉の体にしがみついて涙をこぼしながら震えていた。怖いのは本当に駄目なのである。それから5日間はお母さんと一緒に寝たぐらいだし。


「正直、初めて出会った際の京さんより怖いものなんてないと思いますよ?」

「んちゃ?」

「え?」


 京ちゃん?思い出してみると、最初に出会った時の京ちゃんはすごく怖かった。でも、私としては映画で見た女の人の幽霊のほうが怖かったと思う。あれかな、洋が隣にいたからかも。うるさいのが隣にいたから、怖さが軽くなってたのかもね。

 案外、洋が一緒にいるならそこまで怖くはならないかもしれない。それに、桜木さんと京ちゃんもいるんだし。桜木さんなら、お化けが出てもやっつけちゃいそうだしね。  


「それに、頭領格より怖いものなんてこの学校にいないかと……」

「バクさんはかわいかったよ」

「そうですか……」


 朝に出会ったバクさんは危険な魔物だって言われたけど、いまいちピンとこない。 あの子がそんなに危ない子には見えなかった。話を聞いていても、素直でちょっと好奇心の強いちっちゃい子って感じの印象だった。さすがにそんな子を怖いとは思わないよ。

 桜木さんと話していると、京ちゃんがじっとこちらを見ていることに気づいた。話に加わりたいのかな?京ちゃんはバクさんを見ていないから、この話には参加しにくいよね。じゃあ、七不思議探索の話題に変えようかな。


「京ちゃん。どうして七不思議探索をやりたいの?」

「んちゃ?」

「京ちゃんは、怖いの結構好きだったりするの?」


 うん、いい感じに話題を振れたと思う。京ちゃんは少し考えこむ。ここはしっかり待ってあげなければいけない。京ちゃんは話をするとき、すごくいろんなことを考えているらしい。だけど、それらを伝えようとして何とか絞り出されるのは短く区切られた単語だけ。ただでさえ読み取るのが難しい京ちゃんの言葉は、急かしてしまうともはや暗号だ。最終的には「んちゃ」しかしゃべらなくなる。

 桜木さんも穏やかな笑顔で京ちゃんの言葉を待っている。15秒くらい待って、ようやく京ちゃんは口を開いた。


「わたし……」


 それだけ言って、また口が閉じる。さすがにこれから京ちゃんの石を読み取るのは不可能だ。桜木さんならあるいは何かわかるのかもしれないけど、私は無理だ。会話をするためにはもう少し京ちゃんの言葉を引き出すフォローが必要だ。この前鷲島先生に相談したら、「はい」「いいえ」でこたえられる質問をすれば会話が続くかもって教えてくれた。

 私は改めて簡単な質問を京ちゃんに投げかけようとした。その寸前に、京ちゃんは再び口を開いた。


「みんなといっしょにいたい。それだけ」

「……そっか」

「ともだちに、なってくれるかもしれないひと、だいじにしたい。」

「……うん。そっか」


 ……?相槌を打ったはいいけど、これはどういう意味なんだろう?七不思議調査をしたい理由でいいのかな?友達になれそうな私たちと一緒にいたい、その機会を大事にしたい。だから、今回の七不思議調査に賛成した、そういうこと?


「あ……あと、怖いの、嫌いじゃない」


 どうやら、私の混乱が伝わってしまったらしい。京ちゃんがあわてて補足した。この嫌いじゃないは、好きって意味にとらえていいはず。自分の好きなことを、私たちと一緒にやることで、もっと仲良くなりたい、そういうことだよね?うん、理解した。何ともかわいいことを言うじゃないの、京ちゃん。


「……んー仕方ないか!」

「おや?咲さんどうしました?」

「京ちゃんがそんなにやりたいっていうなら、私は応援しなきゃって思ってね。なんてったって私はこのクラブの副リーダー。メンバーのサポートもしっかりやるんだよ!」


 京ちゃんが楽しめるなら、怖いのくらい我慢できると思う。できるかな?できないかも。それでも私は決めた。何としてでも、七不思議探検をやらせてやろう!

 それじゃあ、どうやったら怒られないで済むか考えないと。やるとは決めたけど、洋に言ったように悪いことをするのは看過しない。なんとかして、調査のために夜の学校に入ることを認めてもらわないと……。

 まあ、このクラブには桜木さんと洋がいるんだ。何かは思いつくでしょう。今だって、洋はいろいろ考えているに違いないんだ。帰ってきたときには、すごい案を持ってくるかもしれない。


「洋が帰ってくるまで、どうやったら先生に夜の学校調査を認めてもらえるか考えよう」

「いいですね、君賀君が戻ってきたらびっくりさせてあげましょう」

「ん!」


 今いるだけでも3人。もんじゅさんにも負けない思い付きがきっとできるはず。たまにはこっちが洋の先を言ってやるのも面白い。あ、どうしよう。ちょっとわくわくしてきた。

 洋が戻ってきたのはそれから10分後。私たちは、いろいろな案を準備して洋を迎えた。


「ただいまー!校長先生から許可出たぞ!」

「おかえり!私色々かんが……え?」

「なんか、すんなり許可してくれた!日丸先生と一緒で、翌日が休みの日ならいいですよって」


 私たちの10分間はすべて無駄になった。さすが洋、そう簡単には追い抜かせてくれないね。


「っていうか、校長先生に会ったの?会議中だったんじゃ?」

「校長先生はなんか一人でパソコンいじってたから。ダメもとで突撃してきた」


 ああ、しまった。私は洋についていかなければいけなかったんだ。校長先生に迷惑をかけるのを黙認してしまった。

 ……過ぎたことはさておき、無事に調査は行われることになったのだ。そこは喜んでおこう。


「洋、私も覚悟は決めたから。どうせやるならこの調査、絶対成功させるからね!」

「おう、当然だ。ただ、今日はもうお開きにしようと思う。あんまり遅くなるのもよくないからな。次回の活動は、今日と同じくお手伝いの活動報告と調査に向けての詳細な話し合いを行う」


 洋の言葉で、今日のクラブ活動は解散になった。私は今日のことを日丸先生に報告しようと職員室に向かった。まだまだ会議は終わらなさそうだ。ずっと職員室の前で待つわけにもいかないし、報告は明日にしよう。洋は図書館に行ってしまったので、今日は一人で帰ることになる。




(おかえりっ、咲!)

「ただいまー、ワタちゃん」


 家に帰るとワタちゃんが玄関でお出迎えしてくれる。ちょっと前に拾ったワタちゃん、かわいいでしょ。私はとりあえずワタちゃんのモコモコの体をわしゃわしゃする。気持ちいい。


「咲ー?帰ったの?」

「ただいまー、お母さん!」


 お母さんの声が居間から聞こえた。お母さんはワタちゃんを飼うのを渋々だけどオッケーしてくれた。お母さんの話では、私が学校にいる間、適当な部屋の隅っこでじっとしているだけで何も食べないしトイレもしないらしい。触っても怒らないし、手がかからないけど不思議な生き物だと言っていた。

 ワタちゃんの話では、魔力を食べて生きてるらしいよ。魔力って何なんだろうね?その辺にあるのかな?


 手洗いうがいをしっかりして、私は部屋にランドセルを置く。そしてベッドに腰かけて、膝の上にワタちゃんを置く。足がふわふわに包まれていい感じ。


「ワタちゃん。私、夜の学校に行くことになったよう」

(咲、怖いの嫌いじゃなかった?大丈夫?)

「うん。でも、みんなと一緒ならきっと怖くないよ」

(咲は納得してるんだね?じゃあ、僕から言うことは何もない。楽しんでくるといいよ)


 ワタちゃんは、ちっちゃいのになぜかお兄ちゃんみたいな感じがする。とても話しやすくて、必要な時はアドバイスもくれる。なんというか……そう。ラブカルの妖精さん見たいな感じ!直接ではないけど、何となく私を助けてくれるの!


「そういえば、ワタちゃんはバクさんって虫知ってる?」

(バクさん?哺乳類でも魔物でもなくて虫なの?うーん、よく知らないな。調べようか?)

「いいよ、そこまでしなくても。あ、それよりまた宿題手伝ってよ。理科でわかんないところがあるの!」

(わかった、どれだい?)


 ワタちゃんはとっても頭がいい。昨日も、算数の宿題を手伝ってくれた。どこで勉強したのか知らないけど、ワタちゃんは本当にいろいろなことを私に教えてくれるのだ。


「これが何で駄目なのかわからないの」

(「冬の生き物を描こう」でどうしてでっかいカブトムシを描くの?)

「え?だって……冬にでてきたし」

(絵で見る限り、山のように大きいけど……見たことあるの?)

「いまも仲良しだよ」

(……今もいるなら春にもいるってことだね。冬の生物にはふさわしくないのかもしれない。ペットの犬を冬の動物として書くのはいけないだろう?)

「なるほど!」


 そっか、「たっちゃん」は冬にも会えるけど冬にしか会えないわけじゃないんだ。納得。じゃあ、どんなのを書けばいいかな?冬……ユキウサギさんとか?

 私はワタちゃんと一緒に、ご飯の時間まで宿題をした。結構時間がかかった。

 

咲の日記(小3)より引用 


11月8日


 今日、たっちゃんという虫さんに会いました。とっても大きくて、強い虫さんでした。いっぱいお話しして、いっぱいあそびました。さいしょはぶっきらぼうだったけど、帰るときには「また来い」って言ってくれました。ひまなときにまた会いに行こうと思います。


11月5日


 たっちゃんはわたしが見たどんなたてものより大きいです。あんまりおおきくてお外にいられないから地下に住んでいるのだといいます。昔は外が全部森だったそうですが、今は人がたくさんやってきて外に身をかくすばしょがなくなったのだといいます。昔は木がそんなに大きかったんでしょうか。


11月12日

 今日は、こわいのにおそわれました。お話ができない生き物を始めてみました。私を追いかけまわしていたそれは、とつぜんバラバラになって消えてしまいました。たっちゃんが助けてくれたそうです。たっちゃんのおうちからすごくはなれていたのに助けてくれるなんて、もしかしたらたっちゃんはまほうつかいなのかもしれません。


 以上は、大村さんの日記に書かれた記述の一部を引用したものです。「たっちゃん」なる生物のことを大村さんに詳しく聞いたところ、以下の特徴が判明しました。


・体長は約450メートルを超えていると推測

・外見はカブトムシに酷似。角は刃物のようになっている。

・4対の羽を持ち、飛行が可能である。

・自身から3キロメートル離れた物体を監視、攻撃できる。


 これらの要素から、当生物が頭領格『切断』ことオオヨロイタチガシラであると推測されます。住処の位置は紙面に残すことが推奨されないと判断したため、後程口頭でお伝えします。

 オオヨロイタチガシラと大村さんを強制的に切り離そうとする行為はいらぬ刺激を与えることにつながる可能性があります。オオヨロイタチガシラは頭領格の中でも最大の攻撃速度と範囲、威力を所有する存在と結論付けられています。退ける手段がない以上、彼らの関係をいたずらに壊す行為は推奨されません。 (大葉山)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ