【君賀洋】 始まりはいつも『突然』で
和国歴一二〇年 五月一一日 16:00~
突然だけど、子供ってすげえいい立ち位置にいると思わないか?だって、失敗してもちゃんと謝れば許してもらえるだろ。責任ってのもある程度大人が肩代わりしてくれるわけだ。もっと言うならば、時間がたっぷりある!小学校四年生にもなったら自主的?……みたいな活動は応援されるしな。
何が言いたいかというと、でっかいことをするなら今しかないって俺は思うわけだよ。子供よ、チャレンジャーたれってな。未来を思い通りにするために動くことはできても、過去は絶対変えられない。こりゃもう何でもやるしかないじゃないか!
「でも、駄目って言われてることをやっちゃ駄目だよ」
「くそっ、いつも詭弁とルールが俺たちの道を阻むんだ!俺の冒険心は常に前を向いているというのに、その先には大人たちが回れ右の看板ばかり置いているんだ!」
悔しい。『立ち入り禁止』とかいうたった6文字に俺の好奇心は殺されるのだ。ん?……いや、どっちかというと咲に殺されているな。入ること自体は容易いんだ。そう、たった6文字に俺の足が止められるはずがない。俺の敵は、クラス委員長の咲だったんだ!
「ならば、咲を倒すしかない!チャレンジャー君賀洋、決死の突撃を決行する!」
「突然何!?あーもう、暴れんな!先生呼ぶよ!」
「何してんだ、てめえら」
あ、先生だ。
「呼ぶまでもなかったね。先生、洋を止めてください」
「よし、ご苦労。よく手綱を手放さなかった。賛辞に値する。そして洋。なに機械室に潜入しようとしてんだ。そこマジであぶねえんだって」
「男は度胸だからな。危険に自ら飛び込んでいくぐらいの心持が必要だと思う」
俺、いいこと言ったと思う。その割には、先生がこめかみを抑えてため息をついているけど。なんか間違ってるかな?
「どうかした?先生」
「いや、目の前の狂犬の扱いに困ってしまってな。放っておくと他の奴らに伝染しそうだし、抑えるにもそれができる鎖がない」
「まあ今見つからなくても、探求し続ければいつか活路は見えてくるさ。諦めんなよ」
「洋が黙ってれば先生の悩みは解決するんだがな」
それは無理な相談だ。だいたい、ここは小学校。教育という形で子供の好奇心を駆り立て、能力を育てる場だ。そう考えれば、俺はすごく優秀な児童だと思う。
「規則や常識の大切さを教えるのも小学校の役目だが?」
「それは詭弁ってやつだと思います」
「断じて違う。覚えたての言葉を使ってみたいのはわかるが、意味は正しく使うように」
むむ、詭弁って難しい。でも、響きがカッコいいからぜひマスターしたいね。あとで改めて辞書を開いてみよう。ん?何の話だったかな。
「お前の暴走を止めなきゃって話だ。ついてこい。お前の大好きな『教育』をたっぷりしてやる。」
あ、しまった。油断した。先生につかまっちまったよ。むぅ、仕方ない。男たるもの、引き際は肝心だ。さて、ちょっと説教受けてくるかな。……そうだ、ついでに相談に乗ってもらおう。
「先生、説教はちゃんと聞くからさ。後で相談に乗ってもらってもいい?」
「お前、どうしてそう肝が据わっているんだ。今日はたっぷりお話コースだぞ。そのあとなら……まあいいが。しかし、私の胃痛が悪化する未来しか見えないのは何なんだろうな?」
よかった。これで今日思いついた計画を先生に相談できる。それにしても、先生は胃の調子が悪いのかな?先生の仕事は大変らしいし、ストレスとかもあるんだろう。そうだ、お礼にいい胃薬を母さんに聞いておいてやろう。
登場人物
君賀洋
10歳。男の子。背丈は低め。傍若無人で大胆不敵。
大村咲
10歳。女の子。背丈はやや高め。正義感が強い。
日丸司
25歳。女のk……女性。新任教師。男勝り。