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プロローグ

目を閉じれば、鮮明に思い出せる。忘れるものか。あの地獄の日々を。

体にはアザの上にアザ。消えることのない刻印のようなものだ。

母は毎日のように俺と弟を殴りつけた。弟が泣いているこんな光景は

もう慣れてしまった自分がいた。そんな自分が憎くて憎くてしょうがなかった。

そんな地獄ともいえる時間は永遠に続くのだとも思えた。

しかし母は父が仕事から帰ってくると俺たちを殴るのをやめた。

母は父が帰ってくると笑顔になる。夕食を家族4人で食べる時の

母の顔はおそろしいほど笑顔で、俺たちにも優しくしてくれる。

俺はこの時の母の顔が一番キライだった。

そしてある時、父が仕事に出かけたのを見計らい俺たち兄弟に

あの笑顔でこんな言葉をかけた。「殺してやる」

台所から包丁を取り出すと弟を何のためらいもなく刺した。

赤い液体がフローリングを濡らす。何が起こったのかわからなかった。

母は包丁を抜き俺のほうに向きを変えた。

「殺される」そう思った。それと同時に体中のアザが俺に語りかけた

「コロセ」と。俺は無我夢中で食器棚のガラスを殴って割った。

そのガラス片を自分の手で握りしめ母の包丁をかわし、母の首元に

おもいきり刺した。母はその場に倒れ、「お前がいなければ」

そう言って息絶えた。張りつめていた緊張が解けたと同時に

弟を失った悲しみが俺を襲った。涙がとまらなかった。

それから何時間たったのだろう。父が家に帰ってきた。

父に状況をはなした。父は何も言わずに俺を抱きしめてくれた。

そして父はこう言った。

「俺が何とかするから桐野さんの家で待っていてくれ。」


桐野さんは父の親友で、俺も何度か家にお邪魔させてもらったことがあった。

父の言葉を頼りに桐野さんの家に無我夢中で走った。

そこからはよく覚えてないが、翌日目を覚ますと

知らないベッドで寝ていた。目を覚ますと、優しい眼差しの男が

俺を見ていた。そう。桐野さんだ。

そして桐野さんから聞かされた。父が家に火をつけて家族と心中したと。

父は俺を殺人の罪から逃がしたのだ。自分の命と引き換えに。


俺は泣いた。時間を忘れるほどに泣いた。それは一人ぼっちに

なってしまった悲しみよりも、あんなに憎かった母に言われた

「お前がいなければ」という言葉が本当に正しいと思えたからだ。

俺がいなければ父は死なずに済んだ。自分を責めた。

桐野さんはすべてをさとってくれたのか俺の背中を何も言わずに

さすってくれた。その時、桐野さんの手と比べ物にならないほど

小さい手が俺の背中に触れた。思わず振り向いた

そこには歳が同じくらいの小さな女の子がいた。


「何で泣いているの?」


それが彼女との初めての会話だった


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