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◆第二話:「カタログ」

 自分に繋がった、この糸はなんだろう?

 不思議な感覚だった。

 少女は自らの胸に伸びる、自分以外の誰にも見ることが出来ない金色の糸を手で手繰り寄せる。


 ――天使病。


 そうあの女は呼んだ。

 その病に罹ったのだと理解する。

 否、理解させられてしまう……他ならぬこの糸によって。


 自分は昨日までの桜火と呼ばれた少女では、もうないのだ。

 別の存在になってしまった。

 この世の影で、カタログ、天使、ヒト喰い、悪魔憑き等と呼ばれ、忌み嫌われ、滅ぼされてきた異形。

 他ならぬソレに自分が成ったのだと、かつて桜火と呼ばれた少女だったモノは理解した。

 見た目は普通の人間となんら変わりは無い。

 家族や友人と会ったとしても、彼らが異形化を見抜くのは不可能だろう。


 なぜなら己は桜火そのものでありながら、まったく別の色に塗り変わってしまった存在なのだから。

 そして人間に、この――塗り換わってしまった色の違いを、理解することは出来ないからだ。

 ヒトに高周波の音が聞こえないように、紫外線を視認することができないように「成って」しまった自分だけがソレを理解できる。


 桜火は自嘲する。

 ヒトであったものが化け物に成り代わってしまったのに、それを認識できるのは化物だけで。

 化物になったことをいちばん悲しまなければならない本人こそが、もはや化物としての常識で物事を判断し、いま、この状態を誰よりも喜んでいるのだから。

 お笑いぐさだ。


 桜火は自分の腹部のキズを眺める。

 まるで汁気たっぷりのひき肉をこね回すような奇怪な音がして、録画の巻き戻りの如く傷口がふさがっていくのがわかる。

 すでに表面上は塞がっているが、あと1分も経てば内部の損傷も塞がるだろう。


 嗚呼――。


 自分は心底、本当に、完全、完ぺきに――化物になったのだなあと。

 どすぐろい赤色で染まった、艶やかな唇をにんまりと曲げて微笑んだ。

 その赤はヒトの血液だ。


「人間の血って、美味しいのねぇ……」


 さて、と少女は舌なめずりをする。

 化物となってしまった自分は、今後一体どう動くべきだろうか?


「千鳥には別に思うところはないケド、いちおうキズのお礼は、したほうがいいのかしら」


 千鳥の斬撃で消し飛んだドレスも、いつのまにかまったく元通りになっている。

 腹部の再生もおおかた完了した。


「こっちね――においがするわ」


 誰に言うでもなく虚空に言葉を吐くと、桜火はそこから躍り出た。



 ◇


『景、起きろ。交代だ』

 タカちんの呼び声に意識が覚醒する。

「ああん?」

 辺りを見回すと、そこにありましたのは、レッツ・廃墟。


「えー……、ここドコさ」


 千鳥ちゃんのヴァーチャーズとやらに乗せられたまま辿りついた場所にあったのは、まるっきり「建築途中の工事現場」といった感じの作りかけの建造物の群れで、錆びっ錆びの鉄骨むき出し加減がえらいアヴァンな前衛感。


「湊保市の海側に廃工場があるだろう? あの一区画だ」


 千鳥ちゃん喋りながらなにやら操作すると、ぶヴぁあ、という音とともに肉だるまが割れ、吹き込んでくる夏の外気。


「廃工場地帯、ね」


 知ってる。

 何年も前にこの土地で一旗アゲようと目論んでいたこじゃれた成金が破産して、建造途中のまま廃墟化した区画である。

 いつまで経っても取り壊されないもんだから、住民の間では幽霊工場とか金の亡者の夢の跡とか呼ばれる街一番のダメエリアである。

 いまでは子供達のキモ試しスポットと化している。


『あと金の無いカップルが野外でヤラかす場所でもあるな』

 タカちん、下品!

『げひん~っ』


「どうだ? この寂れた感じ。なかなかタマランだろう?」


 肉だるまもといヴァーチャーズから降り立った千鳥ちゃんは白衣をなびかせ、建設途中で打ち捨てられたままの建造物を指差し、得意げに悦に入っているけれど、タマランと言われてもこっちは困る。

 寂れた感じがイイって……廃墟マニアかこの女。

 ていうか自分の住処の周囲が若人の盛り場だと知ったらどう思うんだろうか。


『やーい、おまえんち、アオカンすぽっとー。カ○ター! って感じかしら。うふっ』

 アンナちゃんもね、キミも十分に下品だからね。


「わたしが上物ごと買い取って、研究施設代わりに使用している場所のひとつだ」

「何を好き好んでこんなとこに……おばけ出そうだし。怖い」


 まあ、静かで、人気がないのは確かだし、余計なコト考えずに見れば、いい隠れ家だ。

 一般人が侵入する場所はもっと内地側だしね。

 こんな海沿いまでは来ない。


 とりあえず茶でも飲もうと言われ、施設内に招き入れられたのはいいんだけど。

 でもさー、良く考えれば俺って完全部外者じゃん。

 わけわからんゴスロリ内臓と切った張ったの大立ち回り繰り広げてる千鳥ちゃんと共闘するとか、タカちんが嘘こいたせいで不味い方向に話が進むと困るんですけど。

 ていうか帰って佳奈ちゃんのからあげ食べたい。

 俺が寝てる間にドコまで話進んだの?


『特に俺からは何も話していない。どうも「こいつら」は集団のようでな。千鳥……彼女が単独で活動しているわけではなさそうだったが』


 えー……てことは組織かよ~。

 ややこしい戦闘集団とか、マジなら関わり合うのも勘弁なんだけど……。


『何をするにしても情報は必要だろう。あんなアブない連中がこの街で殺し合いしてるんだからな。自衛のためにも話くらいは聞くべきだ。だろ』


 まあそうなんだけどさあー。

 唐揚げもダメになっちゃったしいー。やる気でないな……テンション下がるわー。


『お前は本当、気分屋だな』

『けーくん、アゲてこーぜっ』


 メンドくせ。

 脳民ノウミンたちの声を聞きつつ、千鳥ちゃんの後を追った。


 ◇


「んー。で、千鳥ちゃん、さっきの奴だけど」


 いくつかある建物のひとつに案内されて中に入る。

 施設内は外見とは違ってデカいマンションの一室のようだった。

 快適である。

 3階部分がまだ建造中のままになっていて、実質そこが屋上のごとき雨ざらしになっている。

 んで千鳥ちゃんに連れてこられたのが二階の一室。


 窓辺から西日が見える。

 夏とはいえもう日は沈む時刻だ。

 夕方だ。

 あたりが赤い。

 リビングのようになっている一室でソファに座りながら、出されたコーヒーには手をつけず、まず切り出した。


「さっきの奴?」

「あのゴス内臓様。アレって結局なんなの? 千鳥ちゃんの敵なの? 『桜火』って呼んでたし、向こうも千鳥ちゃんのこと知ってるみたいだったけどさ」

「あー……、なんというか」


 気まずそうに言葉を濁す千鳥ちゃん。


「奴はもともとわたしの研究対象でな」

 と彼女はこぼした。

「言ったろう。カタログを真似てヴァーチャーズを作ったと。研究サンプルはいくつかあったが、アレはそのうちのひとつだ」

「モルモットだったってわけ?」

「言い方は悪いが、そうだ」

「世に放ったらヤバい実験用の大量殺戮型モルモットを檻から逃がしちゃって、ウワアー大変だァーつって大慌てで処分に走り回ってるってこと?」


 まじかよこいつ……って感じだな。うっかりとは思ってたが実害あり過ぎ。なかの2人も『うわ……』とかどん引きしてるのがわかる。


「マッドサイエンティストォ!」

「ち、違う……研究対象とは言ったが、アレが私の所にいた時は、ただの人間だったよ。正真正銘のな」

「え? あの化物、元人間なの?」


 見た目はまんま年頃の美少女だったけど。腸引きずりながら動くとことか以外は。

 千鳥ちゃんは俺の言葉に何を思ったのか、首をかしげながら顎に手を当てて考え込むとこちらを見る。


「元人間……?」


 身長が低いので上目遣いで眼鏡の奥からこちらを覗き込むような格好だったが、そんな可愛いポーズには似合わず、声音には疑惑の色。

 てかこのヒト年齢不詳だよな。背がちっこくてロリ顔で髪も金パッパだからわかんないけど、けっこう歳いってんじゃねえの。


「景くん……と言ったか。キミはカタログのことをドコまで知っている?」


 千鳥ちゃんが怪訝そうな目でこちらを見てくる。

 ジト目だ。

 やべえ、どうしよう。

 なんか疑われてる。

 タカちんが嘘つくせいだー!

 あーも面倒くせえなあー。

 もおおおお!


『俺のせいか?』


 タカちんがあることないことテキトウこくからだよ。

 千鳥ちゃんは俺がある程度の知識を持っている前提で話していたのだろう。

 その辺のことを一切考えずに話していたから、速攻でバレたくさい。


『訳知り顔でフンフン頷いてりゃよかったんだよ、バカ景』


 どだい2人分の人格で、すり合わせもせずに未知について語ることなど無理がある。

 いっやあコーヒーうまいっすねえ、と誤魔化しながら口笛吹いたり目を泳がせていると、千鳥ちゃんはあからさまにため息をついた。


「カタログが元人間であることは既知だと思っていたんだがな。そういった先程からの言動もそうだが……キミ、ホントは何も知らんのじゃないか?」

「ぎくうっ」

「……現実で『ぎくっ』なんて言う奴に会ったのは、キミが初めてだよ。おおかた先程の『ケルベロス』とかいう設定も、適当に言っただけの嘘なんだろう? キミ。そんな気がするぞ」

「はわわ……」

『現実ではわわとか言う奴も景ぐらいのもんだな』


 うるせえ嘘っパチ設定厨が。

 くそう、おれがついた嘘じゃないのに。


『俺を矢面に立たせて逃げたのはお前だろう、景。素直に謝ってしまえ』


 ぐぬぬ。

 仕方があるまい。


「すみません。嘘つきました」

「やはりか」

「はい。俺の中に痛々しい中二病患者が棲んでて、ソイツが『ぼくのかんがえたカッコいい主人公』の設定を披露したがっちゃったんです」

『誰が中二病患者だ。おい』


 貴久くんはもうちょっと自覚を持ちましょう。


「? 衝動的にほらを吹いたということか?」

「へいダンナ、そんな感じで……」


 ふたりの事をバラしても、頭のおかしい奴扱いされるのがオチだしなあ。


「……まあ、突然あんな場面に直面して、キミも混乱していたんだろう」

「まあパニックになったことは認める。すまぬ」

「なぜ人払いをしていたあの場に入り込めたのかはわからんが、どちらかといえばキミは被害者だ。謝る必要はない」

「いきなり斬りかかられたしな」

「ぐっ……そ、それは、すまないと思っている。しかし、ではキミは何も知らんのか」

「へえ、完全な部外者っすよダンナ」


 タカちんは適当に話を合わせたみたいだが、俺は何も知らん。


「キミが何も知らないというのなら、最初から説明する必要があるんだろうが、……聞くか?」


 言外に、聞く気がないならこのまま帰してやる、と言っているのがわかった。

 意外である。


「話を聞いたら『秘密を知られちゃ帰せねえー』とか、あの肉だるまのエサにするとか、一緒にあの化物と戦えとかないよね……?」

「そんな事はせん。安心しろ」


 それに、と皮肉げな顔をする千鳥ちゃん。


「どうせ誰に言っても笑われるだけだ。秘密を守れとも言わんさ」


 まあ……それなら聞いてもいいカナ?

 てか話したくてうずうずしてる気配あるしなこのヒト。


『研究者とは、えてしてそうした人種だ。発表する機会が欲しいのだな』

『おはなし好きってコト~? じゃあアタシも研究者ね~』

 アンナちゃんが?

『けーくん研究の第一人者は、アタシっ。けーくんの好きな食べ物はからあげで~、嫌いな食べ物はほうれん草。小4までおねしょをしていた。担任の先生を授業中に寝ぼけて『佳奈ちゃん』と言ったことが……』


 おいやめろ。


「じゃあ、話聞くヨ」


 タカちんも言っていたが、情報は欲しいしな。


「千鳥ちゃん、あんたの言うとおり俺は何も知らない。あのカタログって化物の正体はなんなの?」

「やつらカタログは元・人間。生まれついてのものも存在するが、人間が変質した食人の化物たちだ」


 カタログとは、生まれついた化物ではなく、人間の変質した存在だと千鳥ちゃんは説明した。


「姿かたちはまんま人間だったけど……。

 それがどうやったら上半身だけで動けるような怪物になるわけよ」

「外見上は人間であった頃とまったく変わらないが、

 エーテル塊となったアレらはもはや肉体的に人間とは言いがたい。

 体が上下に泣き別れしようが、エネルギーが尽きぬ限り何度でも復元する」

「エーテル? エネルギー?」

「うむ。私はそのエネルギーのことを便宜上『魔力』と呼んでいる。

 物質化した『魔力』がエーテルだ。奴らは物質魔力であるエーテル塊であり、

 いわばエーテル化した人間であるといえる」

「なにいってんのかわかんねえ!」


 千鳥ちゃんの説明が下手なのか? 俺がバカなのか?


『大概の場合、景がバカなだけだろう』


 俺はバカじゃない! だいたいなんだよ、魔力って。ゲームか。アールパーゲーか。

「ゲームみたいだな……千鳥ちゃんってゲーム脳?」


 ついぽろっと口に出してから、真っ赤になってプルプル震えている千鳥ちゃんを見て失言したと悟った。


「……キミが失礼な人間だというのは先刻承知のつもりだったが」


 まあいい、とつつましいペタン胸に垂れていた三つ編みをファサっと背中に回して誤魔化す千鳥ちゃん。


『魔力だのエーテルだのといった名称は、千鳥自身が考えたようだな。設定マニアの俺にはわかる。そして、ふふん。あれは恥ずかしがっているな。修行が足りん』

『ね~。チドリってば顔真っ赤! きっとピンチなのよ』

 なにが。

『お金っ』

 金!? いま関係なくね!?

『今月ぴんちっ』

 ソレは俺がね。


「……あー、つまり得体の知れないエネルギー生命体ってことデショ」

「そうだ」


 アンナちゃんをスルーしつつ話を進める。

 人外のバケモノねえ。


「奴らはもはや人間とは違う、別のモノで構成されている存在ということだ。

 魔力が尽きぬ限り奴らは再生復元し続ける」


 そして特定の因子を持って生まれた人間だけがカタログに成りうる、と千鳥ちゃんは言った。


「体から天に伸びる黄金色の糸が見える――それがカタログ化する人間の条件だ」

「黄金の糸ぉ? なんだいそりゃ」

「さあな。それがなんであるかは良くわからん。

 ただ桜火はソレが見えたし、結果としてカタログ化した。

 アレはもうだめだ。処分するしかない――そう判断して始末に向かったところで現れたのが、キミというわけだ」


 処分って……。


「容赦ねえのな。殺しちゃうわけ?」


 千鳥ちゃんてば、少し悲しそうな顔をして「ああ、殺さなければならないな」なんて。

 個人的に友人かナニカでもあったのだろう。

 どういう知人で、どんな研究をしていたのかは知らないけれど、千鳥ちゃんがあの化物少女を消すのを嫌がっているのは何となくわかる。


『ま……かといって、あんなもの放置されても困るのは俺たちだがな』


 まあー。面割れてるしね。個人的に見た目は好みの美少女だったんだけど……。


『襲ってくるのかしら~』

『可能性は無くもないだろう。が、もともと俺たちは無関係なわけだし、無視される気もするがな』


「あいつって、人間襲うの?」


 ためしに聞いてみると、千鳥ちゃんは苦い顔をする。


「生まれたてのカタログは魔力が足りていない。自身を維持するので精一杯だ。桜火が化物になった自分の今後を悲観して命を絶つというのでなければ、人間を襲うだろう」


 古来より吸血鬼、食人鬼と呼ばれてきた、人食いの化物はたいていカタログだ、と千鳥ちゃんは言う。


「いまの世の中、ヒト一人消えてもいくらでも隠蔽は可能だからな。加えて桜火はあの容姿だ。人気の無い場所に男を垂らしこんで食い殺すなど容易だろう」


 食い殺すて……比喩抜きで食うのかよ。ヒト。


「じゃ、じゃあここもヤバイんじゃないの!? あのゴス・ロリ子さんここで研究してたんでしょ!?」

「ここはセーフハウスのひとつだ。

 桜火を研究する為に招いていた第一研究所は別の場所にある。

 今頃奴はあちらを襲っているかも知れんが、ここは無事なはず……。

 ――ッ!?」


 その時、まるで世界が、スローモーションになったかのように感じた。


 走馬灯とでもいうのか。

 一瞬、一瞬が、コマ割りのように鮮明に感じられる。


 窓の外。

 夕日が見える。

 水平線のむこうへ、

 ゆっくりとその姿を消していく。


 そんな光景をつんざく破壊音。

 何が起きたのか。

 千鳥ちゃんが音を立てて立ち上がる。

 テーブルの上のカップが倒れる。

 流れ落ちる珈琲の香りが鼻腔をなでる。

 何が起きたのかもわからず、

 挙動不審に千鳥ちゃんに追随するようにソファから立ち上がる俺。

 その真横。

 窓ガラスを突き破り、


 ――燃え盛る火球が叩き込まれた。


 部屋に舞い散る硝子片。

 一気に炎上する、いままで俺が座っていたソファ。


「んなんだァッ!?」


 あわてて飛びのく。


「あっぢっ! なにがおきたー!」


 叫ぶ俺に構わず、千鳥ちゃんは割れた窓辺に駆け寄る。


「桜火ッ!」

「はぁい、チドリ。さっきぶりねぇ?」


 窓の外から聞こえる、ねっとりとした独特の声音。

 間違いない。さっきの、あの「奴」だ。

 桜火とか呼ばれていた少女だ。


 千鳥ちゃんの影に隠れるように、恐る恐る窓辺に近づく。

 窓から斜め45度の角度にある、やはりこの建物と同じような――いや、もっと中途半端に建物の体を為していない、ようやく土台と骨組みだけは組み上がったまま打ち捨てられたようなビルの骸骨のようなシルエットが見える。

 横に渡された骨組みのひとつに、そいつは腰を下ろし、脚を退屈そうに前後に揺らせている。

 夕日で真っ赤に染まる海を背景に、桜火と呼ばれ、少女の外見をした肉食獣のような目つきをした怪物がそこにいた。


「なぜここがわかった」

「敏感にぃ、なるのよぉ」


 千鳥ちゃんの姿を認めたのだろう。

 桜火は座っていた鉄骨の上に宙返りするかのような軽やかさで立ち上がる。


「あっははは! 人間ってぇ、エネルギーの塊なのよぉ?」

「……化け物になると鼻も効くか」

「しつれいねぇ。チドリが、魔力って呼んでたモノの本質。

 それをようやく理解できた気がするわぁ。チドリは、とぉっても、いいニオイ。

 ――美味しそうな、魔力のニオイ」


 舌舐めずりをする桜火。

 千鳥ちゃんの判断は早かった。


「ヴァーチャーズ、起動。迎撃しろ!」

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