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遭遇

2話です。布石回収成功しました。

とある日の夜、赤崎美月は電柱にもたれかかっていた。名前に恥じぬ美貌を持ち、何処へいても目立ってしまいそうな彼女だが今は影に隠れている。彼女の目の前で普通の家に黒いワンボックスカーが文字通り突き刺さっているからだ。一見車の持ち主の居眠りか飲酒による不注意が招いた事故に見えるが、その周りにも同型車が3台止まっていることからそれはないだろう。異様な光景に彼女は息を飲む。彼女の髪は事故によって起きた炎によって美しく照らされていた。

ある日の午後10時に適性者が「N」と呼ばれる謎の集団に拉致される。美月は中性的な顔立ちをした謎の美少年からそう聞かされていた。

美少年は助けても助けなくてもどっちでもいいと言っていたが、そう聞かされて助けに行かない人はいない。

手元にあるのはごく普通の警棒と謎の少年からもらったタロットカードのみ、これでどうやって助けるのかこっちが聞きたくなるがこちらには秘策はある。

私は超能力が使える。念じただけで近くにあるものを引き寄せることができるのだ。範囲は私を中心に半径10メートル。自分より重いものや動かないものに使用すると私が対象に引き寄せられるのだが、使いようによっては天井に張り付いたりできるので便利ではある。

美月は警棒を思いっきり握っていることに気がつくと警棒を反対の手に持ち変える。手には汗がびっしょりとついていた。

大丈夫、私には超能力がある、そう自分に言い聞かせるかのようにズボンに入ったタロットをそっと握る。




青柳拓人は重装備の部隊と対峙していた。数はおよそ十人、彼らは横二列に並び、アサルトライフルと思わしき銃をこちらに向けているが撃ってはこない。何故なら僕が純白の本を両手で持って目の前に突き出しているからだ。

まずいな、と僕は思う。僕はこの本の有効な使い方を知らないからである。

ただ同時に分かったことがある。彼らは僕の夢に出てきた平面的な銀色の仮面をつけている。それはつまり彼らは僕の夢と、あの美少年と関係があるということだ。もう一つはこの本が彼らにとって重要なものであり、恐怖心を煽るものだということだ。


「我々は『N』である。その本さえ我々に渡してくれればお前に危害は加えない」


真ん中に構える男が銃を構えながらそう言う。危害を加える気マンマンの彼らに僕はビビる。


「と、とりあえずその銃を下ろしてもらえませんかね?話はそれからでもいいんじゃないですか?」


「安心しろ。この銃に装填されているのは暴徒鎮圧用のゴム弾である。当たっても最悪死ぬだけだ」


何も安心できねえ!!と心の中で思いっきり叫ぶ。

気がつけば本と頭を除く僕の体のあらゆる場所に赤い点がついていた。

おそらく大人しく本を渡しても彼らに蜂の巣にされる。ゴム弾とはいえこの距離だと当たると最低でも骨折はするだろう。

僕は本を構えたままジリジリと後退をする。しかしそれも長くは続かず、すぐに窓際まで追いやられる。

不意打ちをするしかない、そう思った僕は一か八か、本の適当なページを開き恐怖で震える手をかざした。

すると「N」は面白いように後ずさりをする。やはり彼らはこの本を恐れている。勢いに乗った僕は適当な言葉を紡ぎそれっぽい感じをだす。そして室内の緊張のボルテージがMAXになったところで――本を思いっきり窓の外にぶん投げた。

唖然とする「N」をよそに僕は窓に足をかけ決め台詞をかます。


「拾いたければ拾ってこい!その間に俺は逃げr」


その瞬間、彼らが驚いていた理由を把握した。僕が投げたはずの本がブーメランのように戻ってきたからだ。戻ってきた本は僕の顔面に思いっきり突き刺さる。突然の出来事に痛みも感じる前にその場にへたれこむ。


「それはあなたが持つべき本です」


女性の声が窓の外から聞こえてくる。

「N」は窓に銃を構えるが既に手遅れ、彼らの銃はまるで引き寄せられるかにように窓の外に飛んでいく。

それを見計らったかのように女性が窓から入り込み、ちょうど僕の盾となる位置に立つ。

手には先程の銃の内の一つが握られていた。

その女性は僕に話しかける。


「ここから急いで逃げます。あなたはどんな能力を行使できますか?」


「能力ってなんだ?そもそも君は誰なんだ?」


「私は赤崎美月。能力に関してはその本に書いてあったはずです」


「この本のこと何か知ってるんすか?この本愚痴しか書いてないんですけど」


彼女は相手を牽制しつつ僕の本を開く。彼女の不審そうな顔はすぐに驚きへと変わる。


「本当に何も書いてない…もしかしてあなたはまだ能力を行使できないのですか?それじゃあここからどうやって逃げればいいんですか?」


「どうやってって逃げる方法考えてないのかよ!そもそもここから逃げる能力があればこんなことになってないだろ!」


どうやら彼女はバカだった。

彼女は裏切られた子犬のような顔でその場に座り込む。

どうやら完全に詰んだようだ。




僕と赤崎美月と名乗った女性は手足に手錠をかけられ、近くに止められていた黒い輸送車に放り込まれた。

僕の本と彼女の持っていた警棒と小さめのトランプケースは奴らに回収されてしまった。

輸送の中は椅子がなく、外も前の運転席も見えないので只々広い箱みたいになっていた。車のエンジン音が全く聞こえないことから考えるとおそらく防音仕様だろうか。明かりがついているのが幸いだが、乗り心地ははっきり言って最悪だった。

そんな中で僕と赤崎は少し離れた位置に座っていた。


「あのー、これから何処に行くか分かりますかね?」


気まずい空気に耐えかねた僕は赤崎に質問するもただ首を横に振るだけだった。

二人揃って大きくため息をつく。これからどうなるのか、不安に押しつぶされそうであった。

しばらく時間が経った後、思い出したかのように赤崎が口を開く。


「そういえば、あの本に愚痴ばっかり書いてあるって言ってましたけど、何が書いてあったんですか?私が読んだ時はあの本には何も書いてありませんでした」


「お前には読ましてやらねーよみたいなことが書いてあった気がする」


「もしかしておちょくっているんですか?」


「おちょくってなんかないですよ。ああ、後は近頃の若者は本すら読まないみたいなことも書いてあったかな」


彼女は突然謎パワーで僕を引き寄せ手錠をかけられた両手を突き出す。


「いいですか?私たちは変な仮面を被った変な組織に捕まったんです!あなたも私も!一瞬で殺されるならともかく、生きたまま身体中いじくりまわされる可能性だってあるんです!分かったならさっさと本について思い出してください!」


「思い出してと言われてもなあ…本はあの仮面集団に回収されちゃったわけだし」


彼女のすごい剣幕に僕は縮こまる。近くで見ると中々の美人だなあといらんことを考えつつあの美少年のことを思い出していた。

あいつが僕の前に現れなければこんな怖い目には合わなかった筈なのに、と不意に思う。漫画やアニメの主人公の気持ちが少しわかった気がする。

彼女は諦めたのか、申し訳程度に引いてあるマットレスの上に寝そべったが、彼女の体は車特有の突然来る大きな揺れによってすぐに跳ね上げられる。


「僕の本と一緒に回収されてたあのトランプみたいなのってなんなの?」


「あれはトランプではなくタロットです。私は占いとか嫌いなんですけど、変な子供に渡されたのでしょうがなく持ち歩いています」


なんか僕のあの本の経緯と似てる気がする。そのときふと、僕はある事実を思い出した。僕はあの美少年から本を二冊もらっているのだ。一つはポストに、そしてもう一つは僕の脳内で。

あの時彼は"この本"を午後十時までに読んでくれ、と言っていたはずだ。それはもしかして僕の家に届いた本ではなく、脳内で彼に渡された本を読めということではないだろうか。

あの電車の匂い、あの灰色がかった景色、謎の美少年、そしてあの真っ白な本、僕は記憶の海からそれら全てを引き上げる。

気がつけば僕はあの電車の中にいた。窓から見える景色は全てが止まっていて、灰色がかっている。これはあの少年が帰った後の続きなんだと感覚的に理解する。

手元を見ると武装集団に回収されたはずの純白の本があった。本は何も書かれていないはずの表紙に徐々に文字が浮かび上がらせていった。

浮かび上がったのはただ一文、それは謎の文字で書かれていた。しかし知識を渇望する今の僕にはそれが読める。その文が理解できる。


「汝に欠けるもの、其は影、故に我は汝に影を落とす」


それが現れた文の意味であった。

文章を完全に映し出すと純白の本はひとりでに開き、白く輝きだした。本が放つ光が僕を照らしはじめる。光は暖かく、僕の体のいたるところに染み渡っていく。本はますます輝きを増し、その光は僕を包み込む――


「…い、おーい。聞こえてます?この状況で一人にしないでください」


ふと気がつくと赤崎が心配そうな顔で僕を覗き込んでいた。


「急に真剣な顔になったと思ったらいきなり倒れたんですよ?一体どうしたんですか?」


「そういえば脳内であいつから本を貰ってたなあって…渇望する者に知識を与えるってそういうことか」


「一人で完結しないで私にも教えてくださいよ。何か分かったんですか?」


「ああ、分かったよ。僕の能力がね」


僕は先程見た光景と自身の能力を赤崎に話す。恐らく彼女の能力もそういった感じで得たのか、彼女は僕の話をすんなりと受け入れる。こころなしか彼女の表情も明るくなった。


「青柳さんも能力を手に入れたことだし、早速脱出しましょう!」


「脱出ってこの手錠じゃ出れませんよ。どうするんですか」


僕は足についた手錠をジャラジャラと鳴らす。足さえ外れれば脱走自体はできるのだが、辺りを見渡してもこれを外せそうな物はない。


「それなら任せてください!ちょっとこっちに来て!」


彼女はそういい僕の両手を強引に取り引っ張ると袖から細い針金のようなものを取り出し僕の足元でゴソゴソと何かをし始めた。

大体やってることは分かるが一応赤崎に質問する。


「あの…何をやってるんですかね?」


「みてのとおり、ピッキングです」


「やっぱりですか…よくそんな器用なことができますね」


「まあこんな生活始めてもう直ぐ三ヶ月になりますからね。それに元々手先が器用なんです…こらそこ!光を頭で遮らない!」


不意に怒られてビクッとなりそれでまた怒られる。そんなこんなしてるうちに僕の足が自由になる。

それにしてもこんな美少女がピッキングを覚えることを強いる生活とは一体どんなものなのだろうか。

そんなことを考えているうちに彼女の手錠も外れていた。

一仕事終えた赤崎はふぅと小さなため息をつきこっちを向き姿勢を改める。


「さて、生き残るための作戦を考えましょうか」




しばらく走った後、車は停止した。窓は全て隠されているため中からは外の景色を伺えない。僕と赤崎は息を殺し後部が開くのをじっと待つ。

今回の目的は本とタロットの奪還、そして脱出だ。僕の家に来た時の戦力を考えると馬鹿げているが僕たちには能力という秘密兵器がある。

僕の手を見ると小刻みに震えていた。それは怖さから来るのか、興奮から来るのか、とにかく震えている。漫画の主人公はやはり主人公たる度胸があるんだなと改めて思う。

ふと、僕の震える手を何かが包み込む。見ると赤崎の白い手が僕の手を握っていた。彼女の手も震えている。

彼女も怖いのだ。僕と同じで、銃を向けられるのが怖いのだ。

僕達はお互いに顔を合わせ、無言で頷く。それだけでお互いの意思は伝わった。

幾つかの足音がこちらへ近づき、ドアは開きはじめる。

僕達の人生をかけた作戦が幕を開けた。

赤崎は開きかけのドアに思いっきり体をぶつけ、ドアを開けようとしていた人を吹っ飛ばした。そこから僕が先に勢い良く飛び出し、後に赤崎が続く。

飛び交う怒号と銃弾をよそに僕は連中の間をすり抜け一直線に走る。その間に赤崎は自身の能力を使い、連中の一人が持っていた本とタロットを引き寄せた。

第一の目標は成功した。僕は逃走経路を探すために最小限の動きで辺りを見渡す。どうやらここは何処かの山中を走る道路のようだ。僕達は近くにある街灯を目指して走る。


「へへっ、勢いよく走れば銃弾は当たらないって漫画で読んだけどまさか本当に当たらないとはな!」


「それはさっきみたいに私達が横に動いている時の話です!今みたいに後ろから狙われてたら普通に当たりますよ!」


そう言われ後ろを確認しようと振り向くとゴム弾が顔を掠りぬけた。今まで強気だった僕の心が折れる。さっきまで気にならなかった後ろの足音が耳元で響く。


「街灯まで絶対辿り着けないぞこれ!」


「相手は重装備で走っているから大丈夫ですよ!それにゴム弾は標的から離れれば離れるほど威力は下がっていきます!たぶん」


「たぶんって!余計不安になるから言わないでくださいよ!」


そんなことを話していると銃声と足音は止み代わりにエンジン音が聞こえてきた。恐らく追跡方法を車に変えたのだろう。

車のハイビームが僕と赤崎の影を落とし、どんどんと影を濃くしていく。僕は舌打ちをした後、彼女の盾になるかのように赤崎の後ろへと回る。チェックメイト、そんな言葉が脳裏をよぎる。

車が僕達に間もなく衝突する、その刹那、僕らの姿が自らの影に飲まれたかのように消えた。




午前六時、とある林道に朝日が差し込んでいた。もうすぐ春だからか、鳥が囀りの練習をしている。


「…………………いったかな?」


誰もいないはずの林道に男の声が響く。すると道に落ちる木の薄い影の中の一本の色が漆黒へと変わり、そこから男の頭がひょっこり出てきた。続いて少女の頭も影の中から出てくる。


「どうやら脱出には成功しましたね」


そういう女性の顔にはクマがでていた。よく見ると男の方にもできている。

二人は影から這い出ると影の色は再び薄まっていった。

赤崎美月という女性は長時間同じ姿勢のままだったためか体を伸ばす。

僕は彼女に外してもらった手錠を手に持ち、もっと日の当たるところへと足を進める。その後ろを赤崎は無言で着いていく。

林道に沿ってしばらく歩くと車の待避所にでた。そこからは僕の住んでいる町が見えた。これから活動を始めようという町の気配が陽の光に乗ってここまで伝わってくる。

こんなに遠くまで来てしまったか、と感じた。謎の集団に拉致され、車で一時間位揺られていたため覚悟はしていたが、景色という形で見せつけられるとやはり違う。

僕はそんな景色から背を向ける。そこにあるのは自身の影、その影はどんな闇よりも暗かった。僕はその影に向かって手錠を落とす。手錠は音を立てることもなく僕の影に飲み込まれていった。


「これが僕の能力なのかな」


僕は呟く。影を自由に操れる、僕があの本から授かった知識であり能力であった。あれだけ欲していた力なのに、あれだけ望んでいた世界なのに、いざ得てみるとやはり少し怖い。


「これからどうしますか?」


赤崎は僕に尋ねる。朝の陽光をまとう彼女のその姿はとても美しかった。


「そうだねえ」


待避所にあった標識を確認しつつ言う。


「まずあそこまでどうやって帰ろうか」


標識にはここからあの町まで四十キロと書いてあった。




読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆

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