表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

はじまり

序章です。布石置きました。

そこには崩壊した街が広がっていた。

背比べをするように立ち並んでいたビルはかつての栄華を微塵も感じさせないほどに崩れている。

そんな凄惨な光景から目を背けようと上を見ると、分厚く灰色に濁った雲がこの世に希望の光を当てないように太陽を隠していた。

世界は終わった、改めて認識させられる。

僕はその終わった世界をビルの一つから眺めていた。その僕の隣で小鳥が囀る。まるで人という檻から解き放たれたことを喜ぶかのように。


「この世界も、随分と平和になったな」


呟いた声は誰にも届かない。独り言の度に、自分が孤独の中にいるということを思い知らされる。

ふと顔を上げると向かいのビルに男が立っていた。

久々に人にあったな、そう思い僕の顔は少しだけほころぶ。

しかしそれもつかの間、僕は男が銀色の平面的な仮面を被っていることに気が付く。

それはこの世界を終わらせた組織の一員であるということの、つまりは人類に反旗を翻したという証。

僕がアクションを起こす前に男の背後から光の束が何本も出現し、飢えた蛇のように襲いかかってくる。その蛇は僕のいたビルを軽々とぶち壊し、爆発を起こす。

仮面の男は僕という人間をこの世から消したことを確認したのか、背中の光を消し、攻撃を止めた。

刹那、乾いた破裂音が世界に響く。気がつけば男は頭から鮮血を噴き出しビルに崩れ落ちる。


「おいおいやめてくれよ」


男の後ろに立っているのは僕であった。その手には回転式の拳銃が握られている。


「貴重な旧世代の遺物なんだぞ」


人を求めていた筈なのに、この世界からまた人を消してしまった。




『……はー…ちだー、つぎはーまちだー』


独特のイントネーションが夢うつつな僕の頭に響き渡る。どうやら僕は電車の独特な揺れに眠らされていたみたいだ。

石のように重たい目を開けると、そこには沢山の人がいた。手には当然拳銃はなく、学生鞄が握られていた。そういえば僕は高校生だったなあと頭を掻く。

あの光景が夢であったことを確認し、半分安堵し、半分残念に思った。

最近あんな夢をよく見る。シチュエーションは決まってどんよりと曇り空の崩壊した世界で、僕は超能力を持っているのだ。例えば今回の僕は瞬間移動の能力を持っていた。そして決まって銀色の平面的な仮面を被った人物と戦う。

こんな夢をよく見る僕はおそらく平凡な毎日にうんざりしているのだろう。

――もし僕が夢のように超能力を持っていたら

――もし僕があの崩壊する世界にいたら

――もし僕があの世界を崩壊から救える立場に立っていたら

僕の人生はもっとスリルに満ち溢れたものになったのかもしれない。


『実際はそんな大層なものでもないよ』


ぼんやりしていた僕の思考は軽いノリの声によって強制的に途切れる。

あの夢のように顔を上げると前の長椅子に夢に出てきた銀色の平面的な仮面を被った男が足を組んで座っていた。

気づけば辺りにあれだけいた人は全て消えていた。それはまるであの夢の様な景色であった。焦りを感じた僕は窓の外を見る。窓から見える景色は灰色にくすみ全てが止まっていた。

突然現実に現れた夢の世界に驚く僕の姿が面白かったのか、男はクスクスと笑う。


『ここまで驚いてくれると僕も能力を使ったかいというものがあるよ』


男は笑いながら銀色の仮面を外す。

現れたのは中性的な顔立ちをした銀髪の美少年だった。少年の両目は金色に淡く光っている。


『あなたが青柳さんだね?探すのに苦労したよ』


男は腹話術をやる様に口を開かずに喋る。それは僕が夢にまでみていた超能力のテレパシーのようだった。


『僕はテレパシーなんて大層なものを使ってるわけじゃない、あなたの脳にちょっと介入しているだけだよ。今ならあなたも念じるだけで会話ができるよ』


僕の思考は相手に完全に読まれていた。本当に超能力者なのかもしれない。真に受けた僕は念じてみる、が何も音は出なかった。どうやら騙されたようだ。

そんな姿を見て彼はまたクスクスと笑う。


『別に騙したわけじゃないよ、いくら頭で念じたところで現実世界では音は出ないだろう。あなたの念じた声はちゃんと僕に届いているさ。僕が何をしに目の前に現れたのかが知りたいんだよね?』


彼の問いかけに僕は頷く。とりあえずは彼にちゃんと届いていたようだ。


『もう時間がないから単刀直入に言うよ。僕は適正者のあなたを守るために動いているんだ。何か質問はあるかい?』


『僕を守る為?誰から僕を守るんだ?そもそも君は誰なんだ?君は何故僕の夢に出てきた銀の仮面を被っていたんだ?』


いきなりがっつく僕に少年は苦笑しながら答える。


『仮面や僕の素性に関してはおいおい分かると思うよ。そんなことより、今夜があなたの人生の分岐点になる。もし生き残りたいのであれば、22時までにこれを読んでおいてくれ』


少年は僕に純白の分厚い本を渡してくる。

僕が受け取ったことを確認すると少年は立ち上がり電車のドアの前へと立つ。


『あなたに再び会えることを願っているよ』


「ちょ、ちょっと待ってくれ!僕はまだ君に聞きたいことが!」


僕は思わず椅子から立ち上がり叫ぶ。

我に返ると周りの人が不審な目で僕を見ていた。そういえばあの美少年は僕の脳に介入していただけだったな、そんなことを考え僕は赤面しながら電車を降りた。




駅から家に帰る途中も電車での出来事についてずっと考えていた。

あの美少年は誰なのか、あの美少年は何故仮面を被っていたのか、あの美少年に渡された本は一体何なのか


「そういえば脳内で本を渡してきたけど、あれをどうやって読めっていうんだよ」


思わず独り言が口から漏れる。その声はやはり誰にも届いていない。

辺りを見渡すと先日の大雪で積もった大雪の爪痕が道端に積み上げられた雪という形で残っていた。空を見上げると雲ひとつない理想的な夕焼けが広がっている。それだけであの夢の中にいるわけではないことを実感させられる。

その後もぼんやりと考え事をしていたが特に収穫もなく家に着いた。

そこまでの思考で得た結論は「あれも僕の夢である」というものであった。なんとも夢のない結論ではあるが、そうでないとあの美少年が夢に出てきた仮面を被っていた理由がつかない。それに、超能力なんて実際はあり得ない。

今日も何も届いていないと分かりつつポストを漁る。すると何かがポストの中に入っていた。不審に思いつつも僕はその何かをポストから取り出す。

それは茶色の大きい封筒の中に入っていた。封筒にはここの住所と「青柳拓人様」と書かれていた。これは僕の名前であり、この何かは僕に向けて届けられたということになる。

海外で働く親からの土産かと思ったが差出人の名前は記されていなかった。

気になって思わず家の前で封筒を開けると、中には先ほど夢の中で渡された純白の本が入っていた。




家に入って数時間、僕は2階にある自室でずっと本とにらめっこしていた。この本を開いたら突然輝き出して異世界に引き摺り込まれるのでは?などというアホみたいな不安があるのではない、僕は本を生理的に受け付けないタイプの人間なのだ。


「生き残りたいならこれを読め、か…僕の脳に介入したなら本を読むのが苦手なの分かるだろ」


長時間に及ぶ睨みあいに疲れた僕は壁にかかった時計を見る。現在の時刻は20時を少し回ったところ、美少年の言っていたタイムリミットまであと2時間を切っている。

大きな溜め息を部屋に響かせ、意を決して僕は本を開く。


「…………………………………………は?」


本の内容に僕は唖然とする。いや、内容があればまだ良かった。ページを繰っても繰っても何も書かれていない。それなのにページに書いてある内容は把握できるのだ。

非現実的な、しかし現実に起きている現象に戸惑いながらも本を読み進める。


「なになに…本は読む者全てに知識を与える。だが大多数はその知識を記憶の海に沈めてしまう。故に我は渇望する者に知識を与える」


初っ端から書かれる説教にガラスより脆い心が折られかける。その後1時間ちょっとかかって本を読破したが、内容も筆者の愚痴などがグダグダと書かれているだけであった。

だから本は嫌いなんだよな、とまともに読んだことないくせにもっともらしい理由をつける。

こうなるとますます疑問が深まってくる。

何故あの美少年はこんな見るに堪えない愚痴を僕に読ませたのだろうか?ない頭を精一杯駆使して考えるも当然答えはでない。

本を放り投げ溜め息をつく。漫画やゲーム、そして申し訳程度の筋トレグッズが置いてあるいかにも男が住んでいますといった感じの部屋にこの本はあまりにミスマッチであった。

そんな部屋の中で僕は美少年が言っていた分岐点とやらについて考えていた。彼は何故分岐点という表現にこだわったのか。そういえば彼の名前聞いていないな、どんどん些細なことが気になっていく。

そんな考えを強制的に中断させたのは家を揺らすほどの衝撃と音であった。

何事かと窓から外を見てみる。すると僕の家に黒いワンボックスカーが突っ込んでいるのが見えた。家の周りには何台も同じ車が止まっている。

急いで部屋から出ようとするも部屋の外からは殺しきれずに僅かに漏れている足音が聞こえてきている。絶体絶命、万事休す、異常な出来事に興奮をしているのか僕の頭には17年分のしょぼい走馬燈が駆け巡っていた。

その走馬燈の中にいつか読んだ漫画の1ページがあった。古代遺跡に封印されていた本を開いて手をかざすと魔法が使える、僕がかつて憧れていたワンシーンであった。

僕はこんな生活を夢に見ていたのではなかったのだろうか?

超能力や魔法使い、そんな非日常的な人生に憧れていたのではないのか?

目の前に放られている謎の白い本を取れば僕もそんな憧れていた世界に踏み込めるのではないだろうか?

足音は段々と近づいてくる。どうやら僕に許された時間はもうない。壁にかかった時計は10時ちょうどを指していた。

読んでくれてどうもありがと(・ω<)☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ