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スカートはめくるもの

 さて、ローザに紹介は終わった。

 しかし、こうして幼馴染かつ美少女の部屋に来ているというのに……高揚感が皆無だな。

 というのも、それはこの部屋に原因があるだろう。


「ローザさん」


「なんだ、一文字孝也」


「この無味乾燥な部屋はどうにかならんのですか」


 ごくごく普通の机とベッド。

 壁に取り付けられている時計。

 部屋の隅に積まれた段ボール。

 床に直置きされたテレビとゲーム機。

 壁際に置かれたタンス。


「何というか、女の子の部屋じゃねーな」


 実用性さえあればいい、って感じだよ、これ。

 ゲーム機とテレビが無ければ、どこの独房だよって思ったところだよ。


「なにを言う。そこの段ボールを開いてみろ」


 言われた通りに段ボールを開いてみる。

 そこにはぬいぐるみが詰め込まれていた。


「これは?」


「父が私に贈ったものだ」


 なるほど。確かにぬいぐるみは女の子らしい品と言えるかもしれない。

 こんなにもたくさんのぬいぐるみがあれば、まず間違いなく女の子らしい部屋という印象を受けるだろう。


「でも段ボールに乱雑に詰め込んでありますよね」


「邪魔だからな。ぬいぐるみが何の役に立つのだ?」


 そう言う考えでしまい込んでるから女の子らしくねーって言ってんだよ。


「やっぱ女の子らしくないですね」


「では、そこのタンスの右上の小さい引き出しをあけてみろ」


 言われた通りに開ける。そしてすぐに閉める。


「下着が入ってたんですが」


「女物だったろう」


「はい」


 ただ、なんかいかにもサイズがあってるのを適当に買いました、と言わんばかりの乱雑具合だったんだけど。

 同じデザインの下着何個もあったし。ブラ全部スポーツタイプだったし。

 ちゃんと見てるじゃねーかって? そりゃ見るだろ、男なら。


「女の部屋だろう」


「そう言うのを男に平然と見せる時点でなんかおかしいです」


「着用していない下着を見られたところで何が困るのだ」


 そこらへんの感覚が女の子じゃねーよ。


「もしかして、パンツじゃないから恥ずかしくないもんとかそう言う感じ?」


 じゃあさっきの下着はパンツじゃなくてズボンだったわけだ。

 なるほど、それなら確かに恥ずかしくないのかもしれない。


「どういう意味かは分からんが、今お前が阿呆な事を考えているのはよく分かった」


「なにを失敬な」


 確かに阿呆というか超理論を展開していた気はするが。

 でもその超理論を提唱したのはオレじゃないし。


「まぁ、要は慣れと羞恥心の問題だろう。そこらへんには慣れ切っている」


「え、じゃあ、一緒に風呂入ろうって言ったら入ってくれんの? もしくは着替えとか」


「なぜその結論に至る。お前はやはり阿呆だ」


「ローザ、オレは真剣に言ってるんだ。もしオレと風呂に入らざるを得ない状況になったら、お前はオレと一緒に風呂に入るのか?」


「必要があるならばそうするだろう。事が急を要する事態であれば、私個人の感情は無視されるべきだし、私も受容する。無論、好んでそのような真似はしないがな」


 よし、ローザの家の風呂を破壊しよう。

 そうすれば、必然的にうちの風呂を借りる事になる。

 あとはそこでなんとかこじつけて一緒に……。


「なにを考えているんだ馬鹿者」


 背後からレンに殴られた。


「いでぇ! 刀の鞘で殴るなよ! 頭が割れて脳味噌が減ったらどうすんだ!」


「アホな事を考える脳味噌なんぞ溢してしまえ!」


「オレがアホな事を考えてた証拠なんてあるのか!?」


「お前が真剣な顔で黙り込む時はアホな事を考えていると相場が決まっているのだ!」


 言われてみると確かにアホなことを考えるときは真剣な顔をしてるような気がする。


「まあ、アホな事を考えてたのは否定しない。けど、その鞘で殴るのはやめろ。マジでいてぇ」


「む、すまん」


 レンの刀の鞘は普通に木製なのだが、殴打武器にも使えるように金属で保護されている。

 相手の剣の一撃を受け止めるくらいなら出来るくらいの強度はある。

 そんなもんで頭を殴られたら相当痛い。


「ローザ、オレの頭にコブ出来てねぇ?」


「コブは出来ていないが、脳味噌は元からあまり入っていないようだ」


「数学のテスト14点だ、舐めんなよ」


「何の自慢にもならん」


「でも生物のテストは96点だったわ」


「偏りすぎだ」


 点数が偏ってるのは自覚してる。

 と、思ったところで、レンが後ろからのしかかってきた。


「なんだ?」


「タカヤ、この、なんと言ったか……ええと……」


「ロザリンデ・カレンベルクだ。名前で呼んで構わん」


「では、ロザリンデ。タカヤ、その、ロザリンデとは、親しいのか?」


「こうやってアホな話するくらいにはな。幼馴染だし」


 幼稚園、小学校、中学校、と全部同じとこに通ってたし。

 何回か同じクラスになった事もあったし。


 香苗とも何回か同じクラスになったな。というか、大体同じクラスだった気がする。

 基本的に、オレと香苗とローザ、あと一人との四人組で行動してたなぁ。


「ぬ、う……幼馴染、だと?」


「そうだけど?」


「私が三歳の頃に日本に移住したので、付き合いは十五年ほどか。十分に幼馴染と言って構わんだろう」


「いかんいかん! そんなのは許さん! タカヤ! 私の目が黒いうちは絶対に許さんぞ! 今の時点でも多すぎるくらいなのだぞ!


「レンさん、目が充血してますよ」


 迫力スゲーです。あと、なにに怒ってんのかわかんねーです。


「ククッ……なんだ、一文字孝也。随分と愛されているではないか」


「は? え? 何のことでござる?」


「そこいらへんの機微には疎いか。というよりは、そう言った考え自体が念頭にない、と言ったところか」


「すいません、意味が分からないのでもっと詳しくお願いします」


「お前の嫁は嫉妬しているのさ。私とお前の仲にな。確かに、自身より年上で、付き合いの長い女が現れれば気が気ではいられまい」


 ああ、そう言う事か……。


「コイツとそう言う仲になるとかは在り得ないから大丈夫。というか、コイツ本当に女かも怪しいから。見ろ、スカートめくられても恥ずかしがらないんだぞ」


 そういって椅子に座って足組しているローザのスカートをめくる。

 ふむ、白か。健康的な太腿がまぶしいな。


「めくるな馬鹿者」


 頭に踵落としされた。いてぇ。


「とまあ、こんな具合でオレはコイツを女と意識してない」


「さっき私と風呂に入りたがったのは誰だ?」


「オレの下半身」


「男は下半身と上半身で別の生き物だからか」


「うん」


 女とは意識していない。しかし、それとこれとは別だ。

 見たいもんは見たい。そう思って何が悪い!?

 オレだって男なんだよ! 同年代の美少女の裸が見れるかもしれないとあったら、裸を見たいと思うのは当たり前だろうが!


 でも冷静になってくると、さほど見たいとも思わなくなって来た。

 不能になる呪いは未だ持続中だぜ? まぁ、もうちょっとしたら効果切れるからかけ直しだけど。


「ま、そう言うわけで、オレとコイツが恋仲になるとか天地がひっくり返っても在り得ないから」


 仮になる可能性があるとしても、オレは全力で拒否する。

 コイツが恋人になんかなったら身が持ちません。

 スケベェな意味ではなく、物理的な意味で。ドメスティックバイオレンスされちゃう。


「ぬー……しかし、ジルも最初はそう言っていたが……」


「あれは別だ。コイツは昔からこうだ。そもそもコイツ好きな奴居るぞ?」


 でもローザの好きな人には相思相愛の恋人が居るらしい。

 どうすんの? って聞いたら、奪い取るって言ってた。肉食系怖いです。


「その好きな奴がお前……というのはないだろうな」


「無い。違うだろ?」


「ああ。奴が今どこで何をしているかは知らんがな」


 そう言いつつ、ローザが懐から写真を取り出す。

 腕組みをしながらこちらを見据える子供の頃のローザ。

 その右隣には金髪の男の子。

 そして左隣には銀髪の女の子が映っている。


 金髪の男の子がローザの好きな人で、銀髪の女の子が金髪の男の子と相思相愛の恋人らしい。


「この男がそうだ。好きというよりは、結婚して子作りをしたいだけだがな」


 それを世間一般では好きって言うんですけどね。


「そう言うわけで、コイツとそう言う仲になるとかは在り得ん。安心したか?」


「……まぁ、なんとか。しかし、だからと言ってハイソウデスカ、と納得出来るものではない」


「はいはい。今後はローザと遊んだりすんなってことね」


「いや、そこまでは言わんが……出来るだけ私も連れて行けと言う事だ」


「まぁ、それくらいならいいけど」


 と、そこまで話した所で時計のなる音がした。

 時計へと目をやれば、午後の九時を指していた。


「いい時間だし、そろそろお暇するとしようか。お前も明日学校だろ?」


「今日は金曜日だ」


「あはい」


 いずれにしろ、いつまでもローザの部屋にいるのもなんだし、帰るとしよう。

 というか、そろそろ眠くなってきた。

 あっちじゃ暗くなったらすぐ寝るような感じだったし。


「とにかく帰るぞ。って、トモエさんは?」


「挨拶終わったからって先に帰ってったよ」


 道理で一言もしゃべらないと思ったら最初から居なかったのか。

 そう思いつつ、タカネとレンを連れてローザの部屋から出る。


「邪魔したな」


「気にするな。ああ、それと」


「うん?」


「なにがあったのかは知らんが、相応の苦労をしたのだろう。言い忘れて居たが、よく無事に帰ってきた。褒めてやる」


 そう言って、ローザが皮肉っぽさを交えて笑った。

 ローザが皮肉っぽくとは言え笑うとは珍しい。

 元々、どこか人間味の少ない奴だ。

 喜怒哀楽の表情を浮かべること自体が珍しいのに。


 まぁ、なんであれ、返事は一つだ。


「おうよ。ただいま」


 それだけ言って、オレはローザの部屋を出た。

 ローザとはそれくらいの関係で十分だ。


「……なんというか、不思議な人だったな」


「まー確かに不思議な人だかんね。あたしもタカヤもいまいちよく分かんねーって感じだよ」


「確かにな」


 非常識な人間というわけではないのだが、どこか変な奴だ。

 行動も常識的だし、言動も常識的。生活態度なんかはむしろ模範的か。

 なのだが、時として苛烈なものを覗かせる。


 苛烈というよりは残酷というか、あるいは破滅的というか……。

 とにかく、アイツは常人と何か違う。

 子供はそこらへんに敏感で、アイツに近づこうとしなかった。

 まぁ、アイツはそんなこと全く気にしてなかったんだけど。


「どういう経緯で仲良くなったのだ?」


「家が隣だからな。親同士が仲良くなって、で、ローザと遊ぶように…………遊ぶ? いや、遊んでなかったかなぁ……」


 ローザは物静かな子供だったな。かく言うオレも物静かな子供だったのだが。

 活発な子供ではなかったので、二人してテレビ見たりしてた記憶の方が多い。


 で、そこで香苗が出てくる。


 アイツはあほの子で活発な子だった。

 オレとローザを引っ張ってって、みんなであそぼー、なんていう子だった。


 そうして自然と三人で遊ぶようになっていった。

 そこにいつの間にやら一人増えて、今に至るまで四人組で仲がいい、って感じだ。


「まあ、悪い奴ではないよ。厳しい奴ではあるけどね」


「厳しい、か。確かにそう言う感じはした。不正は正すとか、規律に厳しいとか」


「あー、確かにそれはあるかもね。規則には厳しいよ」


「だな。小学校時代にスカートめくりが流行った時、ローザはスカートめくりした奴のズボンを引き剥がして回った恐怖の大王だったりしたな」


 怖かったなぁ、あれ。オレもノリでやってみたらズボン脱がせられたし。

 え? 誰のスカートめくったのかって?

 ローザのスカートだよ。香苗のスカートもめくったよ。

 香苗にマジ泣きされて、ローザにボコられて二度とやらないって血判状書かされたけど。


「ピッタリな表現としては、軍人みたいな感じ?」


「あー、確かにねぇ。まぁ、アニメとかマンガでしか軍人見たことねーけど」


 レンは微妙にピンときてない感じだ。

 まぁ、あっちじゃ軍人って言うのは居なかったしな。


「まあ、ローザの事はそのうち分かってくだろ。どうせしばらくはこっちで生活するんだから」


「うむ……まぁ、そうだな。とはいえ、二週間ほどだったか?」


「ああ、そんくらいしたら魔力も回復し切るからな」


「そうか。また来たいものだな」


「まだ帰っても居ないのに気が早いな。なに、機会はいくらでもあるさ。行き来する方法は、幾らでもあるんだからな」


「そうだな……」


「ほら、今日はさっさと風呂入って寝るぞ。疲れてるだろ」


「ああ、うむ。そうだ、背中を流してやるぞ?」


「うちの風呂狭いんで結構です」

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