自分が出て行って相手をやっつける
テスト完了後、千里は非常に晴れやかな顔をしていた。
「いやー、終わった終わったぁー。これで言語系は完璧! タカヤとローザちゃんのおかげだよ! 今日のテストは終わったし、帰ろっか」
「その前にフランス料理な」
「フルコースを頼むぞ」
「お、おおう……わ、分かってるって……ちょっとATMでお金降ろしてきていいかな……」
「逃げたら地球の反対側まで追いかける」
「行くのは許可するが、この誓約書に私たちに食事を奢る事を誓約してもらう」
「実印登録してあるハンコ持ってるだろ。押せ」
中学卒業したと同時にカーチャンに作らされたから持ってるはずだ。オレも作らされたし、千里も持っていたはずだ。
「徹底的過ぎるよ二人とも……」
だってお前逃げるじゃん……。
まぁ、とにかく千里からハンコを押してもらう事には成功し、コンビニまで歩いて行ったのを見送る。
「ところでローザ」
「なんだ?」
「お前、学校は?」
「創立記念日だ」
「お前の学校は創立記念日が何回あるんだよ」
「私が必要だと思った分だけ存在する」
つまり自主休校な。コイツ、真面目な癖してサボる時は簡単にサボるからなぁ。
まぁ、サボってもぜんぜん平気な程度には成績がいいという事でもあるんだが。
「しかし、テストの手伝いくらいで学校サボってよかったのか?」
「構わん。もう夏休みまで全てサボる所存だ」
「大丈夫なのかそれ……」
まだ六月だぞ。
「そのうち退学する事になるのだから大した問題ではない」
そういえばそうだったな……。
「まぁ、最悪の場合、ドイツに帰ってギムナジウムに入学して一気に飛び級すればいいだけだ」
そういう荒業が出来るっていうのが凄いよ。
その後、ギムナジウムっていうドイツの学校制度についていろいろと聞いたりしていたところ、千里が戻ってきた。
フランス料理無理だから、何か別のじゃダメ? って言われたので、仕方ないなぁ、と言って許した。
まぁ、フランス料理は最初から冗談だしね。
そういうわけで、やってきたのは何故か牛タン専門店。
「なんで牛タン?」
既に店内で注文まで済ませてから聞くのもなんだが、不思議で仕方ない。
「私が食べたくなったからだ。文句でもあるか?」
ローザのゴーイングマイウェイな発言には感服させられる。
「まぁ、別に文句はないけど」
しかし、牛タン喰うの久しぶりだな……異世界に行ってたのもあるけど、かれこれ四年ぶりくらいだ。
宮城は牛タン有名だけど、地元の奴はそうしょっちゅう食ってるわけじゃない。むしろ全然食わない気がする。
それを口に出してみると、確かにそうしょっちゅう牛タンは食わないという話になり、話に花を咲かせていると、牛タン定食がやってくる。
「ねぇ、タカヤ」
「あん?」
「テールスープくれてもいいよ?」
「ああはいはい」
千里は何故かテールスープが好きだ。子供の頃には何度も強奪されて泣いた。
今ではすっかり私がおじいさん。そんな私が孫に……じゃねえ、姉に上げるのはテールスープ。なぜなら彼女も私には恐ろしい存在だからです。
そして、昼飯が始まるのだが、千里がとにかくやかましい。
テストが終わってテンション上がってるのか、やたら喋りかけてくる。
「転校ってさ、やっぱ緊張するのかな? 私、転校したことないからわかんないんだよねー」
「転校生なんざ居ないのにンなこと聞いてわかると思うか?」
「それもそっか……転校生と言えば、スマンな転校生、わしはお前を殴らなあかん。ってされたらどうなんの?」
「シェルターから出てたお前の妹が間抜けなんだよバーカって心の傷を抉りまくる。戦場に出てた奴が間抜けなんだよ」
「私も同様だ。だがその後にそいつはなぜか『転校』する事になる。事件だと言い出す教師は『転勤』する事になる」
「怖すぎぃ!」
いや、実際それくらいしますよ、コイツなら。
「じゃあさ、山のところで二人が出てたらどうなるの?」
なぜか今度はアニメ談義に移ってしまった。まぁいいけど。
「いいか……民間人なんてものはいなかったんだ」
「ああ、全くその通りだ。民間人なんてものはいなかった……いいな?」
「アッハイ」
そう、民間人なんてものはいなかったのだ。全力戦闘に何の問題もない。
「えーと、じゃあ、二人があのアニメの主人公みたいな状況になったらどうなる?」
「非常事態宣言が出た時点でシェルターに引きこもる」
「まぁ、それが正しい反応かもね。シェルターに入れなかったどうするの?」
「乗らないなら帰れって言われたら大人しく帰る」
「物語破綻」
「いや、普通あんなもんに乗らねえだろ……」
乗った主人公の方がおかしいだろあんなの。
「でも、そのあとに女の子出てきて、自分が乗らなきゃ死ぬってなったらどうするの?」
「見捨てる」
「鬼か。ローザちゃんは?」
「見捨てるに決まっているだろうがそんなもの」
「鬼ばっかか」
いや、それが普通だと思いますけどね。
まぁ、前提条件としてアレを見過ごしたら世界が滅ぶって言ったら戦うけどさぁ。
でも、一人の女の子が死ぬだけ……っていうなら、オレは見捨てるよ。
オレだけが死ぬならまだいいとしても、その時にはシエルちゃんたちを路頭に迷わせる事になるんだから。
そういう責任がある以上、早々簡単に自分の命をチップになんて出来んわ。
「まぁ、それで見捨てずにロボットに乗ったらどうなる?」
「自分の体みたいに動かせるなら圧勝出来る自信はある」
オレが生身で音速出せるから、スケール差からして20倍は堅いよな?
となれば、それだけの速度を出せるなら普通に勝てるはずだ。
「勝てなかったら?」
「自分が出て行ってやっつける」
イケるだろ、たぶん。
「ああ、うん、そう……タカヤ、人間やめちゃったんだね」
「失礼な。オレはまだ人間だ」
「まだ、なんだ」
「まぁ、うん」
まだ、人間だろう。多分人間だと思う。きっと人間のはずだ。人間だといいな。




