なんでも持ち込み可
ぐっすり眠って目が覚めて。
顔洗って歯磨いて、そういえば昨日変な奴ら捕まえたよなと思い出して。
そこを見に行ってみたら、修行中のはずの五人が居なくなってて。
そして、五人組をぶら下げてた柿の木に手紙らしき紙切れがナイフで縫いとめてあったが、朝露がたっぷり降りててグショグショで読めなかった。
それから何かあるかなぁ? と思いつつしばらくだらだら生活しつつ待機してたのだが、数日経った今でも何にもない。
「つまらんなぁ」
「人生ってつまんないの連続だよ」
千里になんか悟り切ったこと言われた。
「で、不良高校生の定番みたいなこと言い出してどうしたの? 次は大人は嘘つきだとか言い出すの?」
「勉強なんてよー、何の意味があんだよー?」
「意味があるない関係なしにやんなきゃなんないんだよ」
うわぁ、理屈を無視した事実のゴリ押しだ。
「意味わかんねーって言われたらどうすんの?」
「その意味わかんねえことやらされんのが社会人なんだから予行演習だと思っとけ」
「サラリーマンになんかならねえよって言われたら?」
「じゃあ知らない。私の知らんとこで野垂れ死にして?」
鬼かコイツは。これで教員志望だってんだから恐ろしい。まぁ、さすがにマジでこれ言う事はないだろうが。
「ところで話は変わるんだけどさ、フランス語わかる人の知り合いとかいない? あんた知り合いは多いじゃん」
「フランス語? オレが読めるけど」
「え、うそ?」
「ほんと」
言語学スキルで大抵何の言語でもわかる。ロンゴロンゴ文字も読めたし。
「じゃ、これ読んでみて」
プリントを手渡される。確かにフランス語だなこれ。
「理由も何もない。相手の人柄、容姿、身分などいずれも関係なく『あっという間に』恋してしまう。それこそが本当の恋である、だってさ」
「うっわ、ほんとに読めるんだ。よし、タカヤ、今日は私に付き合って。お昼ご飯奢るから」
「なんかあんの?」
「今日、大学でテストなんだよねー」
おい、なんでそれにオレが付き合う必要がある?
「ええっと……フランス語のテストに必要ってことだろうから……もしかして、持ち込みオーケーのテストでオレ持ち込む気じゃ……」
「ご明察……なに持ち込んでもオーケーって言われてたからね」
ネットのコピペみたいなことするなよな……。
「つか、なんでフランス語の講義なんか取ってんの? 教員免許に要らないでしょ?」
「んー、単位たくさん取ったほうがいいかなぁ、って」
適当過ぎる。
「あと、ドイツ語も取ってる」
「平気なのか?」
「単位取りやすい奴だから大丈夫。テストもそんな難しくないしねー。まぁ、講義にはあんま出てないんだけどね……」
ほんとに大丈夫かコイツ……。
「ドイツ語はローザちゃんに頼んであるからね。本場の子だから、バッチリ点を取らせてくれるよ」
「さようで……」
こいつもうだめかもわからんね。
とはいえ、昼飯奢ってくれるというなら喜んで付き合う所存だ。
そういうわけで、ローザと合流し、千里に付き添って大学へと向かい、テスト開始となる。
初めのテストはローザの担当であるドイツ語のテスト。
「ええっと……そこの二人は?」
「持ち込みオーケーだそうなので、ドイツ人を持ち込ませていただきました」
「……何を持ち込んでも結構ですが、私語は厳禁です。喋ったものが居た場合、退出してもらいます」
こうして、千里の汚い戦略は一瞬にして瓦解した。
机に突っ伏してしまった千里がとても哀れ。
そう思っていると、ローザがこっちに視線を向けてくる。
何かと思って首を傾げると、ローザが机を指で叩く。
ええっと……モールス信号か?
さすがにモールス信号はわからん……だが、これも言語の一つと思えば言語学スキルで……。
よし、分かった。
『どうする? 昼飯を奢ってもらえなくなるぞ?』
こちらも机を指で叩いて返答。
『オレがテレパシーで千里に答えを教える。オレはオレで訳するけど、完璧じゃないかもしれん。お前の方でも訳してくれ』
『了解した。最善を尽くそう』
ローザの了承を得てモールス信号を打ち切る。
【千里。聞こえるか? 聞こえてるなら頭の中で返事をしろ】
【えっ】
【聞こえてるな?】
きょろきょろと挙動不審になった千里と目線が合い、うなずく。
すると何か信じられないものを見るような目で見られたが、ため息を吐いたかと思うと達観したような表情を見せた。
【答えを教えてやる。設問の一くらいはわかるだろ。二番の選択問題から教えるぞ。上から順に、ア、エ、ウ、イ、だ】
【わ、分かった】
よし、次は三番だな。三番も選択問題だ。これも簡単だな。
三番の答えも教えて、四番の長文問題の答えを見て……。
『四番。上から、イ、エ、ア、ア、だ』
『把握』
ローザからの援護射撃を受け取り、再び千里に伝達。
その繰り返しで無事に千里は全問埋め終える事に成功した。
え? 単位の不正取得? どうせ将来ドイツ語なんて使うわけもねえんだから大した問題じゃねえよ……。
さて、そうやってテストを終えた後、千里は大学の学食でへばっていた。
昼飯を食べるわけではなく、次のテストにまで空き時間があるのだ。
「うばー……なんかもー、ヤバい! って思ったけど、タカヤが意味不明な能力を発揮してくれて助かったー……」
「昼飯豪勢なの奢れよな」
「時に私はフランス料理が食べたいのだが」
「いいな。流暢なフランス語で注文してウェイタービビらせよう」
「お、おおう……お、お金足りるかな……」
あ、嫌とは言わないんだ。まぁ、絶体絶命の危機を救ったんだから当然だよな。
「はふー……まぁ、今は次のフランス語のテストのこと考えないとね……タカヤ、大丈夫なんだよね?」
「大丈夫だ。ローザもちょっとくらいならフランス語わかるだろ?」
「ああ。会話程度ならたやすい」
さり気に言語系には強いんだよな、コイツ。
まぁ、人種の坩堝みたいな町に住んでるから、誰でもちょっとくらいヒアリングはこなせたりするんだが。
「んじゃ、期待させてもらうよ? ほんとにいいんだね?」
「はいはい、大丈夫だって」
そんな感じで会話をしているうちに、次のテストの時間へと。
そして、千里と共に、テストを受けるべく待機していると、颯爽たる態度で入室してくるスーツ姿の男性。
「あ、ジョンソン・ウェーバーだ!」
そしてその男は、神社でオレに声をかけてきたあのオッサンだった。
「……ジョンソン・ウェーバー? 何か勘違いしているようだね、君は。私は」
「ジョンソン・ウェーバーだろ? こないだ未成年者略取の疑いで逮捕された」
「違う! あれは任意同行だ!」
あ、二重の意味で自爆した。
ジョンソン・ウェーバーも自爆したことが分かったのか、顔を蒼ざめさせる。
「ち、ちがっ……違う……違うんだ! わ、私は断じて……私は断じてゲイではない……そ、それに、ペドフィリアなどでは……」
なんでここまで見事に自爆してくんだこのオッサン……。
その後は当然テストになどなるわけもなく、大騒ぎに。
最終的にジョンソン・ウェーバーが学長室に呼ばれていった。
そして、数十分遅れで助教授らしき人がテストを開始。
ジョンソン・ウェーバーが学長室でOHANASHIを受けているだろう間、オレは私語厳禁の注意がされなかったので、堂々と千里に答えを教えてやった。
そして、フランス語のテストも無事に完了した。




