本当の強さ(笑)
さて、そんなまじめな話をしていると、アホが食いついてくるもので。
「あたしの思う本当の強さは……」
「ゲッペラー様か?」
「いいえ、ラッキーマンです」
それは確かに強い。
「本音言うとあれなんだろ? 好きな人を命懸けで守る事が出来るのが本当の強さだと思ってんだろ?」
「言うな!」
「クカカカカカ。同一人物のオレに隠し事が出来ると思うてか?」
「逆説的にタカヤの思う本当の強さまで暴露されてる件」
「ウボァァァァァァァァァ!」
しまったぁぁぁ! これが誘導尋問か……なんて高度な手を使うんだ、タカネめ……。
「あとあれやろ? 自分を産んで育ててくれた両親を愛する事の出来ない人間に、誰かを愛する事なんて出来ないとかも思ってるんやろ?」
「やめろォ! それ言ったらお前だって、自分の傍にいる人間は自分が死んででも護ろうとか思ってるんだろが!」
「うおあぁぁぁぁっ! やめろぉ! あたしの恥部を晒すなぁ! 大体にしてタカヤだって、本当は魔王のこと殺したくなかったとか思ってるんやろ! 誰もが笑ってられる最高のハッピーエンドを目指してたりするんやろが!」
「オアアアアアアアアア!」
二人でぜぇぜぇと息を吐く。
「こ、これ以上はやめよう……鏡に向かって罵倒するようなスメルを感じる……」
「た、確かに……」
な、なんて不毛な争いなんだ……
ここは話題を変えるために、誰かに本当の強さについて尋ねないと……。
「し、シエルちゃんの思う本当の強さって何かな?」
「ふぇ? えとですねー、ちゃんと生き延びる事の出来る人でしょーか?」
すごくシビアだ。
「カーチャンは?」
「生き残る事の出来る人間だ」
こっちもこっちでシビアだった。あと誰か尋ねられる人は……。
アリシアちゃんは今聞いたら、私は弱いよね……とか言い出しそうだからやめとこう。
秋穂さん……はどこにいるかわからんのでやめとこう。今朝から姿を見てない。
レンは今荒ぶってるから声をかけない方がいいか。
「ふむ……あ、そうだ、魔王は?」
「ああ、魔王? なんか朝っぱらからニンジャに怯えてたから、だってばよなニンジャ漫画読ませたら部屋に閉じこもった」
「鬼かお前は」
でも面白いから全面的に許す。さすがはタカネ。オレがやりそうなことをさらっとやってくれる。
「ルミエは?」
「ジルが無事に帰ってこれるようにって部屋でお祈りしてるけど」
そこまでするこっちゃねえだろ……。
「とすると、本当の強さ云々の話はここで終わりになるな。よし、本日は閉廷」
「分かった。被告人、一文字孝也、有罪」
「切腹、市中引き回しの上打ち首獄門、禁固百万年、以上の三つからどれかを選びなさい」
えっ。なんでオレが罪人認定なの? しかも罪が重いってレベルじゃねえぞ。
「すいません、オレは一体何をしたんでしょうか?」
「オレオレ詐欺180万件」
オレオレ詐欺まがいの事は確かにやってたが、金請求したことなんかねえぞ……。しかも180万件っておかしいだろ。
「カーチャン、何とか言ってくれよ」
「いつかやるとは思っていたが……」
違う。そうじゃない。
「まぁ、冗談はさておいて、本当の強さとか中二臭いこと言ってないで、なんか生産的なこと考えようぜ」
「いいだろう。ババアにクッキーを効率的に焼かせる方法を考えようか」
「いいか、まずはコンソールを開いてだな」
「チートを使うな」
というか、あのゲームっていまだに流行ってんのかな?
そういう意図を込めた視線を店主さんに向けると、気付いてくれたのかすぐに教えてくれた。
「やってる人はいるみたいですが、もうだいぶ廃れましたね」
「やっぱかー……」
「暁の水平線に勝利を刻むやつはまだ大流行りですよ」
「ほー……」
廃れる物もあれば、流行り続けるものもある、か。
……しかし、これって生産的な話なんだろうか?
「店主さん、生産的な話って何だと思います?」
「そう、ですね……好きな体位を話すとか……?」
「生々しいこと言うのやめませんか。というか、文学少女みたいな見た目しといてすぐに下ネタに走るのはマジでやめてくれませんか」
「私みたいな文学少女が居たら文芸部が兵器開発部になってしまいますよ」
何やってんだこの人は。
「学生時代にそんなことやってたんですか?」
「そんなわけないじゃないですか。私は中学の頃は卓球部、高校の頃は剣道部だったんですよ」
「女子高で、剣道部あったんですか?」
「いえ、女子高の方では、声楽部に」
「へぇー……」
「カトリック系の学校だったので、讃美歌歌わされましたよ。信仰心溢れる歌声だと言われましたよ。邪神崇拝してた私に」
「なんという皮肉。で、下ネタに走るのはやめてくれますか?」
「考えておきます」
「穴とかけまして、棒と説きます。その心は?」
「突っ込むには座りがいいでしょう」
「座位ですか」
「座位ですね」
「下ネタに走るなって言うたやないですか」
「走らせたのはあなたです」
「医者とかけまして、夜勤と説きます。その心は?」
「うまい、塩味がする!」
「だから下ネタに走るなと何度言えば」
「だから走らせたのはあなただと何度言えば」
なんかもう平行線過ぎてどうしようもねえわこれ。
そんなふざけた話をしていると、家の扉が開く音。
レンが戻ってきたのかと思ったが、足音が違う。こりゃジルの足音だ。
「ただいまー」
「おかえり。だっさいジャージ姿でお疲れさん」
なぜかあの中学、帰る時はジャージ着用強要なんだよな。わけわからん。
「疲れたー……しかも外人だからってめっちゃ話しかけられるし、はあまじはあ……」
「豚は出荷よー」
「そんなー」
「まぁ、豚にしては少々細い気もするが……」
「豚じゃないからねぇ。人を豚呼ばわりとか名誉毀損ですよ? あやまって?」
「たかやんは豚だから難しい事はわかんないよ」
「じゅわあくるくる」
「そんなー」
……アホな会話もなんか食傷気味だな。
そう思いつつ、ごろーんと転がる。
「最近、なんもなくて詰まんないなぁ……」
「タカヤ、それフラグじゃない?」
「まさか。そんなことがあるわけない」
実際、その後は何にもなかった。
強いて言うなら店主さんがしれっと晩御飯に混ざってて、しれっと風呂に入ってて、しれっとオレの部屋のベッドで寝てたくらいだ。
なんでこの年になって同性相手に一緒のベッドで寝なきゃいけないんだ……客間がもう空いてないからって、この仕打ちはないだろ……。




