ドーモ、カナエ=サン。ユウシャニンジャです。
静かに音も無く隣の家の屋根に降り立つ。
そして、香苗の部屋の窓を叩く。
「すいませーん、郵便でーす」
ふざけつつそう言うと、部屋の中でバタバタと音がして、カーテンが開かれる。
「えっと、あの、ハンコないので、サインでだいじょーぶですか?」
凄いだろ、コイツ本気で言ってるんだぜ。
コイツ、凄い天然ボケなんです。アホの子なんです。
「はい、サインで大丈夫ですよー。じゃ、こっちのここにサインお願いしますねー」
「はい。えっと……柴村、と」
柴付って書いてんぞ、このアホ。
なんで自分の苗字間違えんだよ。
「はい、じゃ、こちらお届けモノです」
そういってタカネを差し出す。
「え? お人形さん?」
「あたしのどこが人形に見えるのさ」
まず間違いなく服装だと思うよ。ゴスロリ着てるし、お前。
「わっ、喋った! 最近のお人形さんって凄いなぁ」
って、気付いてねーよ、コイツは。
「まぁ、冗談はさておき、オレだよ、香苗」
「だれ?」
「オレだよオレ! タカヤだよ!」
と、タカネが言う。いや、タカヤはオレなんですが。
まぁ、タカネもタカヤであって、という事はオレもタカネであって、しかしオレはタカヤで……。
いかん、なんか頭おかしくなりそうだからあんま考えないようにしよう。
「ええっ!? タカちゃんなの?」
「そうだ。ちょっとした事情があってこんな姿になってるが、オレはお前の幼馴染であるタカヤだ」
「タカちゃん、一体どこ行ってたの!? 私、すっごく寂しかったんだよ!」
「事故って入院してたんだ」
「ええっ!? でも、おばさんは行方不明になったって言ってたよ!?」
「色々と事情があって、オレが入院してる事は隠さなきゃいけなかったんだ。だろ?」
そこでオレに振るのはやめてくれ。
「え、ええと、そうそう。凄い事故に遭ってな……オレが見つけた時、コイツは胴体から真っ二つになって、そこら中に内臓をばら撒き、鼻から脳味噌が零れだし、目玉は両方飛び出してた」
適当に言ったが、明らかに盛り過ぎた。
でも大丈夫。香苗なら信じるから。
「そ、そんな酷い怪我をしちゃったの!?」
ほら、信じた。
「ああ。そのせいでオレはこんな小さい体になって、性別も女になってしまったんだ。今のあたしの名前は高音さ……」
「そうだったんだ……」
「……うん、香苗、そろそろ気付いてくれないか?」
そこで改めてオレが口を挟む。
なんでコイツはオレの事に気付かないんだ。そこまでアホだったのか。
「ふえ? え、あれっ!? タカちゃん!? で、でも、こっちの高音ちゃんがタカちゃんで、でもタカちゃんはこっちに居て……」
「香苗。タカネはオレの分身なんだ。実はオレはニンジャの末裔なんだ」
「ほ、ホント!?」
「火遁の術を見せてやろう」
そういって、掌の上で火を灯して見せる。
忍術じゃなくて魔法だけどな、これ。
「ふ、ふおおー……ホントにニンジャさんだったの?」
「ああ。分身の術をしたらタカネが出て来たんだ」
「そうだったんだ……」
……香苗ってここまでアホだったのか?
オレ、コイツの将来が凄く心配よ?
「で、今まで行方不明になってたのは、実はニンジャの修業をしに行ってたんだ」
「そうだったんだ。だから私にも隠れて居なくなったんだね……」
「そうなんだ。ごめんな、今まで隠してて」
「ううん。タカちゃんがちゃんと帰って来てくれたから大丈夫!」
そういって笑う香苗。なんというか、アホの子だからこその純粋さに心が痛む。
別に本当の事を話してもいいんだけど……コイツの場合、隠し事とか出来ないしな。
隠そうとしててもうっかり喋る奴だから、話したらオレがヤバイ人扱いされる事になりかねない。
「あ、ねぇねぇ、タカちゃん! 私ね、今年で卒業出来るんだよ。タカちゃんは?」
「いきなり話飛ばさないでくれ、香苗。まぁ、分かるからいいけど……」
オレも時々話が飛ぶが、たぶんコイツの影響だろうな。
さておき、卒業って言うと、学校か。
うちの学校は単位制だからな。単位取得しないと卒業できん。
ぶっちゃけ大学と同じシステムだ。
「オレは去年一年間授業出てなかったから、単位は全部落としてるよなぁ……」
今年の後期からの授業、取れるか?
異世界に行ってしまう前に授業を選んだ記憶はあるが……。
いや、別に学校に通う必要なんてないんだった。
どうしても必要になったら、高卒認定取ればいいし。
「まぁ、このまま退学かな。ちっと惜しい気もするが……」
「ええっ!?」
「しゃーないだろ」
このままじゃ卒業にさらに二年かかってしまうしな。
そもそも、また異世界に帰るんだから学費の無駄だ。
というか、下手したら既にカーチャンが退学手続してるかも知らん。
「これからオレはニンジャとしてたくさんの任務があるんだ。もちろん修業だってある。だから学校にいってる暇はないんだ」
「そっかあ……残念……」
うん、香苗はどんな嘘っぱちでも簡単に信じてくれて楽だなぁ。
「ニンジャさんのお仕事、頑張ってね。私、応援してるから。あ、帰ってきたらちゃんとただいまって私に言ってね!」
「はいはい」
なんだか後々泥沼になりそうな予感がするが、なに、気にすることはない。
「じゃ、オレはちょっとローザに用があるからな」
「なにしにいくの?」
「ああ、色々と事情の説明を」
「そっか。頑張ってね」
へにゃりとした笑みを浮かべつつ、ぴらぴらと香苗が手を振る。
それにオレもおざなりに手を振りつつ、自分の部屋へと舞い戻る。
「よーし、タカネ。レンとお前とトモエさん連れてローザんとこ行くぞ」
「よく分からんが、おー」
へっへっへ、今こそ美少女夫婦とオレの嫁を見せつけてやるぜ。