Hello world
その後、タカネと一緒に昼寝をしたり、ヒマつぶしにトモエさんとチェスをしたりして時間を潰し、夕焼けが空を埋め尽くし始めた頃に修也が帰って来た。
「おかえりー」
「た、ただい、ま?」
修也が鞄を置いて、台所に向かう。そして、台所でカーチャンにオレが何者か聞いている。
カーチャンの返答は端的なもの。お前の姉だ。
「……また姉が増えた」
ええと、今の修也の姉は、千里、オレ、レン、タカネ。4人か。姉系エロゲですか?
待てよ? シエルちゃんたちが来たら、シエルちゃん、アリシアちゃん、ジルの3人追加で7人になっちまうぞ?
「それで、ええと、あなたの名前は?」
「ああ? 一文字孝也様だ。シワの少ない脳味噌にしっかり刻み込んでおけ」
「ああ、うん……え? タカヤ?」
「なんだ?」
「え!? タカヤ!? 母さん! タカヤは!?」
そこにいるだろうが! と怒鳴り声が帰って来た。
「ったく、家族の顔を見忘れんなよな」
「いや、どう見ても別人じゃないか! 母さんに似ては居るけど……」
「まぁな」
ただ、オレってどこかヌケた顔に見えるんだよな。垂れ目だし。
カーチャンみたいな釣り目がよかったなー。
「というか……ホントにタカヤなの?」
「そうだぞ。ほら、久しぶりに抱っこしてやるぞ」
そういって真正面から抱き付いて持ち上げる。
「うわっ、わっ! ちょ、ちょっとやめてよ!」
「遠慮するなって。ほら、愛しのお兄様が愛を篭めて抱き締めてやろう」
「要らない! 要らないから!」
「そうか。じゃあ、サバ折りにしてやろう。死ねぇ! タカヤブリーカー!」
「ぎえええぇぇぇぇぇっ!」
力の限りサバ折りを決めると、ぐったりとして動かなくなった。
一応呼吸を確認したが、普通に呼吸はしている。苦しさで失神しただけだろう。
「ふぅ……いつの世も勝利は虚しい……」
なにがどう勝利なのかは自分でも分からないが、とにかく勝った。
まったく、贔屓目に見ても美少女だろうオレのハグを拒否するなんて、思春期は大変だな。
「考えてみればオレってノーブラじゃん。一生に一度あるかも分からない機会を逃したな」
逃した魚はデカいぞー、と思いつつも、高い高いを出来る状況ではなくなったので、諦めてソファーに修也を捨てる。
「さて、あとは千里だな。カーチャーン、今日は千里いつ帰ってくんのー?」
との質問に、千里は一限だけだからもう帰って来てるとの返答が。
いつの間に帰って来てたんだ……オレが並行世界に行ってた間か?
まぁ、帰って来てるんならそれでいいや。さっそく、千里の部屋に行ってみる。
なにも言わず、無言で千里の部屋の扉を開けて中に入る。
千里はベッドに寝転がってパソコンを弄っていた。
「千里ー、あたらしい妹だぞー」
「マジで!? って言うか、あんたは誰?」
「オレがその新しい妹だ。一文字孝也様だぜ?」
「いつモロッコにいってきたの?」
「お前は昭和の人間か」
性転換=モロッコとか古すぎるだろ。
「で、どうだ? 美人だろ? 可愛いだろ?」
「うん。一生そのままで居てね」
「嫌です」
さらっとトンデモない事を言ってくれる。
とりあえず、全員に見せ終わってスッキリしたので、洗面所で再び男に戻る為に性転換薬を飲んだ。
無事男に戻り、特に何をするでもなくリビングへ。
そこではタカネが幸せそうに寝こけ、そのタカネを膝枕するトモエさんの姿。
夫婦のはずなのに、仲のいい姉妹にしか見えない絵面である。
「はー……」
「オレもイチャイチャしたい、かな?」
「なんで分かるんですか」
「長生きしてると、人の顔を見ただけで結構わかるものだよ」
亀の甲より年の劫って奴かー。
「で、トモエさんって幾つなんですか?」
「秘密のある女の方が魅力的って言うでしょ?」
「すいません、あなた男ですよね?」
いや、見た目はまるっきり女ですけども。しかもそう言うのが似合うキャラでもないし。
あれなんだよね、ほんわか優しい先輩キャラ? そんな感じ?
そう思ったところで、オレは異常を察知した。
「なにか来る」
「うん、来るね」
世界の間にある荒れ狂う魔力の海を綺麗に渡ってきている。
綺麗に渡っているだけに、こちらの世界に伝わってくる波が綺麗で分かりやすい。
そう思っていると、すぐ近くの空間に穴が開く。
「はにゃっ!」
「はわっ!」
「ひえっ!」
そして、そこから見覚えのある三人が飛び出してきた。
シエルちゃんとアリシアちゃん、そしてジルだった。
続いて飛び出してきたのは、ルミエと秋穂さん。
そして最後に、店主さんが飛び出してきた。
「頼まれた通り、みなさんは送り届けました」
「はい、ありがとうございます」
「では、私はこれで失礼します。こちらの世界の私と仲良くしてください」
「お疲れ様ー」
また穴に飛び込んで消えて行った店主さんを見送り、オレは新たに現れた5人に向き直った。
「ようこそ、異世界へ」
また始まるんだと漠然と思った。
オレは静かに笑うと、これからやってくるだろう楽しい毎日に胸を弾ませた。
二章はこれにて完了。次は三章です。




