伝説の木下藤吉郎
野球で遊んで、いつの間にやらクラスメイト達とだいぶ打ち解けたレン。
何が功を奏すか分からんものだな……。
「じゃ、オレはそろそろ帰るわ」
「帰るのか?」
「オレはこの学校の生徒じゃありませんし」
いつまでも部外者が居ちゃあかんだろう。
と思っていたところで、担任らしき人物がオレに声をかけてきた。
「そう言えば転校生は一人って聞いてたけど、君は?」
「オレはコイツの父兄的なアレです」
「父兄……? 君、歳いくつ?」
「18歳です」
「高校生? 学校は? それとも仕事?」
「こちとら無職童貞彼女いない歴イコール年齢ですけど」
「あ、うん、なんかごめんね。色々とくじけずに頑張ってね」
「いえ、別に」
彼女が居た事はないけど嫁さんは現在進行形で居るし。
「じゃあ、オレは改めて帰ります。どうでもいいですけど、相変わらずこの学校は変な学校ですね」
「ああ、うん……ここの卒業生だったの?」
「6年前に卒業した者です」
オレの居た頃の時点で、クラスの大半が外国人か日系というような学校だったが、今もその傾向は強いな。
というか、どう見ても大人にしか見えない体格の奴もいる。
やっぱり相変わらず変な学校だな。まともな子が過半数って言うのが唯一の救いだろうか。
「レン、ちゃんと普通にやるんだぞ。体育は適当に流せよ」
「どれくらいにだ?」
「ここのグラウンドを一周するのに……」
えーと、ここのグラウンドが1週……400メートルくらいか?
「50秒以上の速さで走っちゃダメだぞ」
「分かった」
50秒なら許容範囲の速さだろう。世界記録は超えてない。
もちろん、世界記録は超えていないが小学生女子の最高記録に匹敵していた事にオレは気付いていなかった。
「じゃ、オレは帰るからな」
「うむ。ああ、そうだ。自転車とかいう奴はあっちに置いてある」
「はいよー」
レンの言われた通りの場所に行ってみたら、スクラップと化した自転車があった。
オレはちょっと途方に暮れた。
スクラップになった自転車を放置するわけにもいかず、鉄屑を担いで家に帰ったところでカーチャンの暖かいお出迎え。
「お帰り、バカ息子。コーヒー飲むか」
「いらねえ」
インスタントコーヒー飲むと胃が荒れるんだ。
いや、消化器系が人知を超えたレベルまで強化された今なら平気かも知らんけど。今ならオレはプラスチックだって消化できる。たぶん。
さておき、特にする事も無くぼーっとする。
実際にやる事が無いのでぼーっとするしかないのだ。
とは言え、そんなボケ老人みたいな生活をしてたら頭に悪そうなので何かしようか……。
よし、そうだ。神社に行こう。
「よし、カーチャン、神社に行ってくる」
「何をしにだ?」
「お百度参りしてくるわ。で、境内にある伝説の豊臣秀吉の下で告白する」
「伝説の木下藤吉郎とでも言いたいのか。どういう言い回しだ。どうでもいいが、伝説の木の下で告白すれば永遠に結ばれるという話があるが、高校生で永遠に結ばれるというのは重い話だな」
「確かに。大学生でも大抵遊び呆けてるっつうのに、高校生で永遠とかねえわ」
ついでに言うと神社の境内にある伝説の木はそういう甘酸っぱい類の伝説ではない。
桜の木なんだが、真夜中に見ると稀に咲いてる事があって、その木に近づくと食われるという伝説がある桜だ。もちろんただの伝説だけど。
「んじゃま、ぼちぼち行ってくる」
「昼飯までには帰って来いよ」
「え? 昼飯つくんの?」
「たまにはな」
可能な限り手を抜こうとするカーチャンが珍しい。そう思いつつも家を出て、ぼちぼち歩きながら神社へと向かう。
そして、こそこそと本殿に忍び込むと、そこには相変わらず柔和な笑みを浮かべる神様の姿が。
「あら、お客様?」
「約束通りまた来ましたー」
「あなたは……なんだか先日よりも縮んでらっしゃいますね。わたくしの目の錯覚でしょうか……」
「あー、今日は暑いですからね。陽炎で歪んで見えるんですよ」
「ああ、なるほど。暑い中ようこそおいでくださいました。ささ、冷たいお茶でもどうぞ」
納得しちゃった。まぁ、喉は乾いてるのでありがたくお茶はいただくが。
あ、このお茶うめぇ……。
「はー。落ち着くー。やっぱ日本家屋はいいなー」
ここ家屋じゃねーけどさー。
「ところで神様。なんか面白いことないですか」
「おもしろいこと、ですか……。世はなべて事も無し、天下泰平よろしい事ではありませんか」
「あ、はい。まぁそうなんですけど……全く何の変わり映えもしないって言うのは」
「そうですねぇ……そうだ、異世界に繋がっているという鏡が……」
「あ、そう言うのはいいです」
行った先の世界でまた変なのと戦う事になったりしたら疲れる。
嫁さんが更に増えたりしたらもっと困る。
そう言うわけだから異世界行きの切符はもういらない。
「では、わたくしと何かお話でもしましょうか」
「そうですねぇ。神様っていつからここに住んでるんですか?」
「こちらの社が建立され、御霊が別けられた時からですね。わたくしは分霊ですから」
「ほー」
「あなたはいつ頃からこちらに?」
「生まれも育ちもここですよ。今年は来なかったけど、去年は初詣にも来ましたしね」
「まぁ、そうだったのですか? それはそれはありがとうございます」
「あ、いえいえ、こちらこそ」
深々と頭を下げられて、なぜかオレもつられて深々と頭を下げる。
そして笑い合う。なんだかこういうのもいいなぁ。
そうやってしばらく話したあと、オレは次こそは手土産を持ってくると約束して社を出た。昼飯の時間が近かったもんで。




