そんなことより野球しようぜ!
メシをいただいた後は、特に変わり映えのする事も無くその日は終わった。
いやだって毎日毎日騒動とかあったら困るじゃん。
こっちだって体力魔神じゃないんだから、疲れる事くらいある。
それに幼児化してるから体力も落ちてる。
そう言うわけで、二度寝、三度寝は許されて当然の権利なのだ。
なにしろオレは学校に行っていない。ならば二度寝や三度寝をしても何の問題もない。
遅刻する学校が無ければ幾ら寝ていても問題ないのだ。
「起きろバカ息子! 寝汚いにもほどがあるぞ!」
ジュッ、と音がして腕に激痛。
「あっぢゃああああああああ!!」
転げ回って起き上がり、激しい動悸を伝えている心臓を慌てて落ち着かせる。
何事かと思ってみれば、煙草を手にしたカーチャンがベッドの傍に立っていた。
「ようやく起きたか。もう8時だ、時間がない」
手に持ってる煙草で何をしたのか理解した。
「なんぼなんでも自分の息子起こすのに根性焼きするなよ! 虐待だぞ!」
「起きないお前が悪い! 本気で殴っても起きないほどに鍛えるな!」
ああ、なんか揺れてるような気がしたなと思ったら殴られてたのか。
ごめんね、カーチャン。オレの丈夫さって人間ぶっちぎってるから。
でも根性焼きは許さねー。
「ったく。で、8時だからなんなのさ。オレには関係ねーっしょや」
「ああ、関係ないな。お前には休校届を出してあるのだしな。が、レンはそうではない」
「だから?」
どうでもいいけどオレって退学扱いじゃなくて休校扱いだったのな。まぁどうでもいいけど。
「なんでもレンは自転車に乗れんそうだ。だからお前が送って行け。学校に連絡したところ、クラスに直接来るようにと言われている。クラスは4-3だそうだ」
「いや、走っていかせりゃいいじゃん」
「ここは自転車通学区域だぞ」
そう言えばオレも自転車で通学してた記憶があるな。
そこを走破して来た奴が居たら確かに変だ。めんどくせぇ……。
「自転車は?」
「修也が前に使っていたのがあるだろう。それを使え」
「あー、あれね」
マウンテンバイクもどきの見た目の奴な。小学生男子って大抵あれ使ってるよな。
オレ? オレもああいう感じの使ってました。子供の頃はあれがカッコよかった……。
「準備はもう終わっているからさっさと行け」
「カーチャンが車で送って行けば?」
「先週からエンジンのオーバーホール中だ。動かせん」
「あーハイハイ……」
とにかくオレが送って行かなきゃあかんのね。はいはい。
そう言うわけで下に降りて行ったところ、レンが矢絣の着物に女袴を身に着けてランドセルを背負っていた。
「うわぁ……」
「な、何がおかしい!」
「いや、おまえ……大正時代かよ。それとも明治?」
大正桜に浪漫の嵐ってか。
ランドセルが死ぬほどそぐわない格好だな。
「とは言っても、学生として相応しい格好なぞこれくらいしか……」
「ああ、うん、ごめん。オレが悪かった」
レンにとっての学生っぽい服ってこれが限界だよな。うん、間違っちゃいない。
でもレンの居た国って江戸時代っぽかったよな。なんで大正っぽい服装なんだろ。不思議だ。
「まぁ、小学校は私服だからいいんだけどさ……」
でもこの今から卒業式ですと言わんばかりの格好はいいんだろうか……?
まぁいいや。ダメならダメでなんとかするだろ。
「じゃ、学校行くか。自転車で行くぞ」
「走った方が早いのだが……」
「オレだってそうだ。でも我慢しろ」
自転車よりも走った方が早いのは当たり前だ。自転車なんて結局のところ、仕事量を効率的に動力に変換する為の機構なんだから。
まぁ、その大本となるパワーと伝導効率が高まれば、普通に走るより遥かに速くなりはするんだけどさ。
「メシ食ったな? 荷物持ったな?」
「うむ」
「オレへの愛は?」
「好きだ、タカヤ。愛している」
「はい、ありがとうございます」
「…………朝っぱらから恥ずかしいことをやらせるな」
「うん……ごめん……」
言わせた後に猛烈に恥ずかしくなってきた。レンも顔真っ赤にしてるし。
まぁ、あほな真似はさておき、家の外に移動してさっそく自転車に乗り込む。
「さあ、アンパン号……! オレがお前に命を吹き込んでやる!」
「アンパン号……?」
「この自転車の名前だ」
修也が小学4年生の頃に勝手にマジックで書いた。サドルの下あたりにこっそり書いたので修也は今も気付いていない。
「まぁ、とりあえずぼちぼち行くぞ」
「うむ」
意味もなくベルを鳴らし、ちゃりちゃりと自転車を漕いで学校へ。
座ったまま漕いでるけど、既に時速80キロくらい出てます。
しかし、登校時刻は8時15分。家を出た時にはもう8時10分。明らかに間に合わない。
学校まで1分で辿り着いても、その後に学校に入っていき教室を探すなどの諸々で時間がかかる。
なら、その手間を短縮すればいい。
「ところでレン」
「なんだ」
「学校のクラスの場所って基本的に変わらないんだよ」
「うん。それで?」
「オレはかつて4年2組だった。つまり、4年3組は隣のクラスだ」
「うん」
「オレは自分のクラスだった場所を覚えてる。その隣にある教室がお前の行くべき教室だってこともわかる」
「……どうするつもりだ?」
「こうするんだよぉ!」
後ろに座っているレンの腕を掴み、オレは全力で投げた。
レンの身体能力と身体操術なら、肩を脱臼したりすることも無く、綺麗に放物線を描いて飛んでいくはずだった。
ただ、オレはレンの戦闘本能を見誤っていた。
「さ、せるかぁぁぁぁ!」
レンがオレの手首を掴み、投擲される力を身体の操作で下向きの流れに変える。
そして、自転車のハンドルに足をつけたレンはオレを一本背負いの要領で投げ飛ばしていた。
「ノオオォォォォォ――――!」
飛ぶ。飛んでいく。嘘のように飛んでいく。
校庭のグラウンドを囲んでいるフェンスを飛び越え、校庭の昇り棒よりも高く、飛んでいく。
そしてオレは全開になっていた窓から4-3の教室に飛び込み、咄嗟に机に手をついてハンドスプリングの要領で飛び、壁を蹴って速度を相殺。
そして、教室の床の上に着地していた。
「……あ、お騒がせしました」
朝のホームルームの時間だったらしく、全員が集まっていた。
一つだけ開いている席はレンの席だろうか。
そう思った直後、ドロップキックを放ちながらレンが飛び込んできて、オレの顔面にドロップキックを叩き込んでいた。
「貴様ーッ! 時間がないからと言って人を投げる奴があるか!」
「だからってそのまま返し技を叩き込んで投げる奴があるか! オレが常人だったら100回死んでるぞ!」
「あの程度でお前が死ぬか!」
まぁその通りではあるんだが。
「とにかく、朝のホームルームらしい! ついでだから自己紹介しちまえ、レン」
「あ、う、うむ! 姓は一文字、名は蓮だ!」
「うんうん……え? 後は?」
「他に言う事が無い!」
「いや、あるだろ。趣味とか、血液型とか、好きな食べ物とか、きのこ派かたけのこ派かとか」
「趣味は修練。血液型は知らん。好きな食べ物は特にない。そしてたけのこ派だ!」
と、勢いよく宣言したところで担任教師が著しい反応を示した。
「そうかそうか! やはりたけのこだな! きのこよりもうまいだろう!」
が、そこでクラス全体に伝播する騒ぎ。
たけのこよりもきのこ、きのこよりもたけのこ、いやいやそこでパイの実ですよとの異端派、どっちでもいいやという無関心派。
様々な派閥があっという間に生まれ、教室内の喧騒は高まり……。
「そんなことより野球しようぜ!」
と、オレが宣言した事によってなぜかそのまま野球をすることになった。よく分からない。
なんであそこまで騒ぎになったのかもよく分からなければ、オレの野球しようぜ宣言で本当に野球する事になったのか、全くもって分からない。
でも楽しそうにみんな野球をやってるからよかったと思う。
ちなみにオレはレフト守ってました。




