ラわーん! あんちゃんのばかたれー!
レンと修也の邂逅が終わって、一息ついた時。
台所からタカネが泣きながら飛び出してきた。
「タカヤ、教えてくれ……あたしたちはあと何個剥けばいい? あたしはあと何回、あのイモとあのイモを剥けばいいんだ……イモはあたしになにも言ってはくれない……教えてくれ、タカヤ」
「とりあえずイモをターゲットロックうんたらしてフッ飛ばせばイモは全部消える」
「それだ!」
そういってタカネが台所に飛び込んでいった後、台所から閃光が発せられた。
そして、頭を押さえたタカネがリビングに戻ってきた。
「いてぇよう……いてぇよう……ゲンコツされたでござる……」
「まさか実行するとは思わなかったぞ、お前バカ?」
「疲れてたのさ……」
そう言う問題か?
と思ったところ、オレに電流走る……!
「…………諸君、私はイモ剥きが好きだ」
「は?」
「諸君、私はイモ剥きが好きだ」
「ちょっと、タカヤ?」
「諸君、私はイモ剥きが大好きだ」
「あっ……」
何かを察したのか、タカネが黙る。
そして場には困惑する修也と、テレビに夢中なレンだけが残る。
「ジャガイモが(中略)目標、台所のジャガイモ! 第二次スカルピング作戦、状況を開始せよ。……往くぞ、諸君」
「よっしゃー! イモ剥くぜー!」
と、台所に戻って行ったタカネ。扱いやすくて助かるぜ。
と思ったら、また戻ってきた。
「ラわーん! あんちゃんのばかたれー。お前はもう台所入るなって言われたー! ラわーん!」
飛び込んできたタカネを華麗に回避。
「みぎゃっ」
そして、顔面からテーブルに直撃。
「ラわーん! あんちゃんが避けたせいで顔打ったー!」
「お前、オレに飛び込んでくるようなタマじゃねえだろ」
「うるさい、いいからお前にくっつかせろ」
そういってタカネがオレの膝の上に座ってくる。
同一人物のはずなんだが、オレってこんな性格だったっけ。
確かに人肌寂しくなるような事はあるが……。
あ、そうか! コイツ女の子だからな……そう言うの隠さなくてもいいし、キモがられる事も無いってワケだ……。
くそう、性別でこんなに差があるとは……。
「いや待てよ。という事は、オレは最初から女の子に生まれていれば、猫のような性格で、ツンデレ気味に育っていたという事か!」
ちなみに時々デレるタイプじゃないぞ。
普段はツンツンしてるけど、特定の相手とか、親密な相手にはデレデレする感じのタイプだ。
でも、自分の性格的にツンツンって言うのは想像できん気もする。
とすると……クーデレの可能性も微粒子レベルで存在している?
「それはねーよ。と言いたいところだけど、割と在り得るかもしれないから困る」
「だよな。現にお前がこうしてデレてる」
「デレてるわけじゃなくて、便利な肉布団として使ってる感じかな……?」
さっすが元同一人物。全く以て遠慮がねえぜ。
たぶん、こいつがデレるのはトモエさんだけだな……。
「……あのさ、孝也。その子は?」
「愚か者! 余の顔を見忘れたか!」
その口上……それは……!
「デデデーデーデーデーデーン」
「ええっ!? ど、どっかで会ったことあるっけ?」
「デーデデーデデーデデー」
「断じて許さん! この場にて潔く腹を切れ!」
「デーデーデーデデーン」
「そこまでっ!? というか孝也! うるさいよ!」
「おい! 上様の処刑用BGMをなんだと思ってるんだ!」
「そうだそうだ! それでも男か! 小僧!」
「なんでボクダブルで怒られてんの!?」
ったく、これだから修也は……。
「やれやれ、高音、姉の顔を見忘れるとはひどい弟も居たもんだな」
「全くだ。だれが育ててやったと思ってるんだ」
「えっ、ちょっ、少なくともボク、あなたに育てられた覚えはないんですけど……」
「あたしはちゃんと覚えてるぜ。千里がおむつを替える姿、カーチャンがおぶっている姿、千里があやしている姿……」
「あの、君が入ってないけど?」
「ああ、あたしは基本的に修也泣かせてた側だから」
「そう言えばそうだな」
確かに修也の面倒を見てても泣かせてばっかだった気がする。
まぁ、割とちゃんと遊んでやってたりもしてたが……。
「全く、これからは忘れるなよ。あたしは一文字高音! お前のねーちゃんだ! 今後は高音お姉さまと呼べ! いや、やっぱキモいから名前で呼べ」
ノリで行動しなきゃいいのに。
いや、無理か。オレにノリで行動するなって言うのは、ライフスタイルを完全に変えるのと同義だ。
「高音でいいの?」
「おう。年齢は18歳でタカヤと同い年だからな! 覚えとけよ!」
「そーなんだ……」
まぁ、タカネの見た目はどう見ても8歳くらいだしな。
色々と信じ難いが、確かに18歳ではあるんだ。
この作品の登場人物は全員18歳ですってわけだ。
「まったく、お前が生まれた時からあたしはお前の事を知ってるのに、お前があたしを知らないとは……嘆かわしい話でござる」
というか、修也がお前のこと知ってたらおかしいよね。
でも修也いじるの面白いから何も言わない。
「ところでタカヤ」
「なんだ」
「ナチュラルにあたしの胸触ってんのはなぜ?」
「え?」
見下ろしてみると、確かにちょうどタカネの胸に手を当てていた。
「腹と間違えた」
殴られた。
「失礼な事を言うんじゃない。ちょっとくらいは……ある、ような気もする」
「ほう」
確かめてみる。
とりあえず改めて触っていて、柔らかさがあるかの確認。
ぺたんっ。としていました。
「悲しくなるな……」
「人の胸さんざっぱら触っといてそれか」
「じゃあ、オレの胸触っていいぞ」
「ほう。どれどれ」
べしべし、とタカネがオレの胸を叩く。
「あんま面白くねーな。そもそも男と女じゃ、胸の価値が違うぜ。性転換して出直して来い」
「オレはお前の胸に一切の価値を感じてないけどな」
「そうか。大丈夫だ、あたしもお前には一切の魅力を感じてない」
同一人物だしな。分身だからかは分からないが、同一人物であるって言う意識が先行する。
そう言うわけで、コイツに対してそう言う感情は全く抱けない。
たぶん、コイツもそうなんだろう。
というか、セクハラって言う感覚自体が無い。
オレはこいつが風呂入ってる所に突撃して行けるだろうし、逆もまた然りだろう。
自分の体を見てる自覚しかない。
不思議な話だが、実際そうなんだから仕方ない。
「やれやれ……不毛な確かめ合いだった」
「ああ、実に不毛だった……」
どうしてオレはこんな無駄な時間を……。
そう思ったところで、台所からカーチャンの呼び声がかかる。
まぁ、晩飯が出来たから運べと言うものだったので、オレはタカネを抱き抱えてそちらへと向かうのだった。
~オマケ~
「諸君、私はイモ剥きが好きだ
諸君、私はイモ剥きが好きだ
諸君、私はイモ剥きが大好きだ
ジャガイモが好きだ。
サツマイモが好きだ。
ヤムイモが好きだ。
サトイモが好きだ。
コンニャクイモが好きだ。
タロイモが好きだ。
キャッサバが好きだ。
ヤマイモが好きだ。
キクイモが好きだ
台所で、野外で、広場で、学校で、山頂で、田畑で、砂浜で、船上で、挙式で、葬式で……
この地上で行われる、ありとあらゆるイモの皮剥きが大好きだ
主婦の皆さん方が集まってサトイモの皮剥きをするのが好きだ。ぬめるサトイモがするすると剥いていかれるときなど心がおどる
小学生たちが芋煮会でサトイモを剥いているのが好きだ。悲鳴や嬌声を上げながら楽しげにイモを包丁で剥いている姿を見た時など胸がすくような気持ちだった
列を揃えた人達がヤキイモを買っていくのが好きだ。秋の味覚に喜ぶ人々が、暖かさを感じながら皮を剥いて食している様など感動すら覚える
ぬめぬめと滑るヤマイモの皮を剥いてすりおろしていく様などはもうたまらない。痒みとぬめりに泣き喚きたくなりながらも、私にすりおろされたヤマイモが食卓に並び、ばくばくと喰い尽されるのも最高だ
哀れなほどに小さいイモどもを剥き、健気にも揚げ物として饗されるジャガイモを食し、美味であったと感じた時など絶頂すら覚える
料理なんかしないし、と言っている敗北主義の女子生徒たちが教師に皮剥きを強制されるのが好きだ。楽しい皮剥きを強制され、女子供が皮剥き嫌いになる様はとてもとても悲しいものだ
既製品の方が美味しいしと言われて拒否されるのが好きだ。ファストフードに負けて食べられる事も無く拒否されるのは屈辱の極みだ
諸君、私はイモ剥きを。地獄のようなイモ剥きを望んでいる
諸君、私の妹の一文字高音君。君は一体何を望んでいる?
更なるイモ剥きを望むか? 情け容赦の無い、奴隷のような皮剥きを望むか?
剣林弾雨の限りを尽くし、三千世界全てのイモを剥くようなイモ剥きを望むか?
「イモ剥き! イモ剥き! イモ剥き!」
よろしい、ならばイモ剥きだ
我々は繊細な力を篭めて今まさに皮を剥かんとする包丁だ。だが、イモの無い異世界で一年もの間堪え続けてきた我々に、ただのイモ剥きではもはや足りない!
大イモ剥き大会を! 一心不乱のイモ剥き大会を!
我らは僅かにツーマンセル。3人に満たぬイモ剥き係りに過ぎない。だが、君は一騎当千の古強者だと私は信仰している。ならば我らは君と私で総力1000と1人のイモ剥き集団となる
我々を忘却の彼方へと追いやり、眠りこけている連中に芋の子汁を見せつけてやろう。肩を掴んで椅子に座らせ、肉じゃがを食わせ思い出させよう。連中におふくろの味を思い出させてやる。連中に手作りのよさを思い出させてやる
二人の勇者のイモ剥き団で、世界のイモを剥き尽くしてやる
全ナイフ抜刀開始。旗艦ピーリング・スカルピング始動。離床!
全ワイヤー全牽引線解除。最後のイモ剥き団指揮官より、全隊員へ
目標、台所のジャガイモ! 第二次スカルピング作戦、状況を開始せよ。……往くぞ、諸君