俺の肉しみは消えないんだ
向かった先では確かに、死にかけているローザの姿があった。
手当の後はあるが、これじゃ気休めにしかならんだろう。
しかし、ひどい有様だ。よくもまあこんな状態になってまで戦えたものだ。
「……ああ、一文字孝也か?」
「目が見えてないのか?」
「失血が、ひどくて、な。明暗くらいしか、分からんようになってきた」
「そうかい。で、勝ったのか?」
「私を、誰だと、思っている。黒き荒鷲の魔王と、まで、呼ばれた、ドイッチュラント最強の戦闘機乗り、だぞ」
「そーかい。もう喋るな。死ぬぞ。今治してやるからな」
手を差し向けて、治癒魔法をかける。ゆっくりと治さんと障害が残っちまう。
「ローザ、お前、右腕はどこにやった?」
「知らん……どこかに転がってるだろう、探せ」
「はいはい、なんだ、ここに転がってるじゃねえか。で、左足は?」
「くれてやった。なんとかしろ」
「はいはい。右目は?」
「矢が刺さったので取った。見えんのなら要らん。こっちもなんとかしろ」
「へいへい、なんとかして再生してやるよ。で、左の脇腹がごっそり言ってるけど、内臓落としてないだろうな」
「たぶん全部入ってる」
「どれどれ? ホントだ、全部入ってるな」
これなら大丈夫か。さっさと治療しよう。
「というかさぁ、おまえ、もうちょい自重して戦えよ。修也怯えてたぞ」
「ふん、軟弱者めが……本気で戦う人間とは恐ろしいものだ。それも分からぬようではな」
「いやあなた、修也はつい最近まで一般人だったんですぜ?」
「貴様も一年前まで一般人だった」
「一年もありゃ人間は変わるさ」
「だろうな」
「なんでこんなんなるまで戦ったんだお前。防衛戦だったんだろうに。ぼちぼち逃げりゃよかったろ」
「私の思い描いた作戦は、撤退戦ではなく、橋頭堡の、死守、だ」
「ここのどこが橋頭堡なんだアホ」
「私が決めた。だからそうだ」
「わあ、驚きの俺様理論」
意味も無く自分追い詰めるとか、コイツやっぱ頭おかしいわ。
「ほい、止血完了。まずは右腕からくっつけるぞ」
「その前に失血をなんとかしろ。お前の顔が見えん」
「えー? なに? オレの顔見たい系? えー、やだー、照れるー」
「死ね」
「すいません、マジで拳銃向けるのやめてください」
仕方ないので、とりあえず失った血液の回復から始める。
しばらくそうしていると、だんだんとローザの顔色が戻ってきた。
「見えて来た。ふふ……やはり、いいものだな」
「なにが?」
「戦士の顔とは、いいものだ。それが、戦いから帰った後であれば、なおさらに……」
「さようで。んじゃ、次は右腕くっつけるぞ。あ」
「どうした」
「麻酔忘れてた」
「今更だな。麻酔は要らん。さっさと治せ」
「痛いぞ?」
「今も痛い。大して変わらん。さっさとしろ」
痛覚まだ残ってたんだ……それで喚きもしないってすごいな……。
そう思いつつ治療を始めていると、修也の仲間と話していたタカネがこちらに戻ってきた。
「たっだいまー。うわ、なにこれ、ズタボロじゃん」
「嘘みたいだろ、生きてるんだぜ、これ」
「みたいだね。ローザ、あたしにはどこ治してほしい?」
「目」
「あいよー」
タカネが治療に加わったので、治療効率が倍に。
最終的に、三十分ほどかけてローザのけがは完治した。
「どうだ、ローザ、痛いところはあるか?」
「特にないな。快調だ。魔法とは凄いな。おい、一文字孝也、私の隊の衛生兵にならんか?」
「なかなか魅力的なお誘いだけど、遠慮しとく」
「そうか。来てもいいと思ったらいつでも来い。来なくとも重傷者が出れば呼び出すがな」
「へーへー」
コイツはそーゆー奴だ。
「さーて、魔王も倒したし、帰るか!」
「帰ろ帰ろ、帰りになんか食ってこーぜ、あたしお腹空いた」
「いいねえ、つってもゲート開いたら出る場所オレん家だけどな」
「適当にどこかに出て食いに行くとしよう。約束通り、私が奢ろう。安久都高音、お前にも奢ってやる」
「まっじでー? わーい、ローザ大好きー」
「ははは、私の胸に顔を埋めるな。頭蓋を砕くぞ」
「うごごごご……!」
すげえ、アイアンクローで人間浮かぶの初めて見た。
まぁ、さておき、元の世界に帰るかー。
さて、元の世界へと帰りついて、一度家に着替えに戻ったローザを待ってからメシを食いに行く。
「ここ、焼肉屋だけどいいのか?」
「構わん。借りたものは全部壊してしまったからな。弁償代も含める」
「そーいえば」
確かに戻って来てない。
まあ、同じ奴何千丁も持ってるから別にこまりゃしねえけど。
「加えて言えば、お前は小食だろう」
「まーね」
ローザの方がオレより食うし。コイツ、見た目細いのにスゲェ食うんだよな。
「ちなみに安久都高音はどれほど食うんだ」
「あたしはタカヤの半分も食えねーよ」
「お前ら二人で私と同じ量しか食えんのか? それでよく体が保つな」
「便利な体だもんで。タカネは知らんけど、オレは飲まず食わずで一年生きてられるし」
「あたしも出来るよ」
「本格的に人間やめてるな、お前ら」
自覚はしてる。と思ったところで、注文した品々が届く。
どうでもいいんだけど、肉焼いてるときってなぜか無言にならないよね。
カニ剥く時は無言になるのに。不思議。
「ローザさん、肉を喰う勢い凄いですね」
「戦いの後は肉を食って、憎しみを思い出すのさ」
「戦いのは後は酒を飲んで憎しみを追い出しなさい」
「生憎と私は中国人ではない」
「というか、マジで憎しみ思い出すのはやめなさいな」
「なぜだ。そんな事にまで口を挟まれるいわれはないぞ」
「あのねえ……想いが人を変えるって知ってるか? マジで人間やめちまうぞ、お前。いわゆる妖怪って奴にな」
「構うか。妖怪だろうがなんだろうが、そんなものは種が変わるだけの事だ」
「人間に追い回されるかもしれんぞ」
「好都合だ。こちらから戦争を仕掛けてやる」
神様、コイツを躊躇わせるにはどうしたらいいのでしょうか?
まぁ、コイツの頭が終わってるのは今更なので置いておく。
「しかし、あたしずっと疑問に思ってたんだけどさ」
「なんだ」
「なんでローザ魔王との戦いに行かなかったん? ローザってバトルジャンキーじゃん? あたし、絶対についてくると思ったんだけど、すんなり残る事に頷いたじゃん」
「バトルジャンキーは正確ではないがな。魔王とやらの戦いに行かなかったのは簡単だ。それは決闘であって、戦争ではない。それだけだ」
「多人数のぶつかりあいじゃなきゃダメってワケ?」
「それもまた違うな。私とて彼我の戦力差は測れる。負け戦であろうとも赴くのが私だが、高い勝率を私が参加する事でわざわざ下げるほど愚かではない」
「なるへそねー。にしても修也が召喚され」
からーん、とタカネが箸を落とした。オレの動きも止まっていた。
ローザも動きが止まって、顔をひきつらせていた。
「……修也のこと、連れて帰って来たっけ?」
「……置いて、きたような気がする」
オレたちはなんてことを……!




