指ムシャ
水風呂に入って上がって来たレンの連れて来た幼女。
幼女はぶすくれて何も言わない。オレが話しかけると威嚇してくる有様だ。
しかもさっきなんか噛み付かれかけた。
「おお、痛い痛い」
「がうーっ! うがー!」
今は噛み付かれかけではなく、実際に噛まれている。
ガシガシと全力で手を噛まれるが、大して痛くない。
まあ、普通の人間なら指が千切れるレベルだけど。
「ところでレン」
「なんだ」
「野生動物に噛まれた時の対処方法を知ってるか?」
「ああ。昔お前に教えてもらった。……まさかやるつもりか?」
「やらんよ。やったら虐待だろ」
野生動物に噛まれた時は慌てず焦らず、奥に手を突っ込みましょう。
特に、相手が魔物とかの危険な動物だったら、喉を突き破る勢いで突っ込みましょう。
まぁ、この幼女にやったら虐待なのでやらんのだが。
それに危険な野生動物ではないしな。
そんな感じで幼女のオモチャになっていたところ、シャワーを浴びた後らしいタカネがやってきた。
「貴様ァ! 幼女に指チュパされるとはどういう了見だ!?」
朝っぱらからそれかい。ブレねぇな。
「お前これ指チュパに見えんのか?」
「ぜんぜん? なにそれ? 指ムシャ?」
「ムシャムシャされたら困るんだが……」
さすがのオレも、新たに指が生えたりしない。オレは甲殻類ではないのだ。
「例え指をガミガミされようとも、とにかく羨ましい! タカヤ! あたしに変われ!」
「分かった分かった。ほら、今度はあっちを噛め」
「うがーっ! うがががっ!」
今度は首筋に噛み付いて来た。おお、痛い痛い。
「すまんな、タカネ。どうやらこの子はオレの事が大好きらしい」
「そんなぁ……あたしのところにおいでー……」
ちらり、と幼女がタカネの事を見る。
その瞬間、ものすごい勢いでタカネの後ろに隠れた。
そんなばかな。
「お、おお!? あたしの方が好きか! そうかそうか! よーしよし」
「あいつ悪いやつ! たすけて!」
「タカヤ、覚悟して貰おうか……」
「速攻で裏切るな!」
「うるさい黙れ! 獣耳幼女が正義! あたしは正義の味方だ!」
「きたねぇ!」
くそう、イヌ科の癖にネコ科のタカネに頼るんじゃない。
お前は犬猿の仲という名言を知らないのかよ?
ん? 犬猿の仲だったら関係ないのか?
などと思っていると、剣を手にしたタカネがオレに襲い掛かってくる。
それを咄嗟に強化魔法をかけた拳で弾き飛ばす。
「チッ、やっぱ力じゃタカヤには敵わねーな」
「当たり前だ。降参して、その獣耳幼女を渡すなら許してやらんでもないぞ」
「ほう……タカヤ、それはいったいどういう意味合いだ?」
あれ? レンが殺る気になってるよ?
「タカネ、共同戦線」
レンが魔王を斬った妖刀を抜く。名前なんだっけ? 【魔絶】だっけ?
まぁ、名前はどうでもいい。あれを手で弾くのはヤバイって覚えとけば。
「チッ、お前らがそう来るなら、オレも少々本気を出さなきゃならんようだな……」
二本の脇差を取り出す。デカい武器は立ち回りに不利だ。
ただでさえタッパの大きさで不利なのだから、少しでも有利な武器を選ばなくては。
「楽には死ねんぞ!」
「すぐ楽にしてやろう……」
セリフが全く噛みあってねーぞ。
そう思いつつも、飛び込んできたタカネの剣を右手の脇差で払いのけ、横合いから不意を打ってきたレンの剣を受け止める。
そして、台所から出てきたカーチャンのフライパン闘法を喰らってタカネが悶絶。
投げつけられたフライ返しがオレの額に突き刺さり、拳骨がレンの頭頂部を穿つ。
「朝っぱらから喧しい! 外でやれ!」
怒られた。
「ごめん……タカネ、ほら、外行くぞ」
「ま、待って……星、星が見えた……目がくらんで動けねぇ……」
「レン?」
「頭が痛い……」
カーチャンつええ……オレ達を一瞬で黙らせるとは……。
これじゃあ、あの幼女が怯える……と思ったが、どこにも幼女が居ない。
周囲を見渡してみると、カーチャンのシャツの裾を掴んでいるではありませんか。
「強い奴に就くってことか……」
「長生きするタイプだね……」
カーチャンに獣耳幼女奪われた。
いや、待てよ? これはつまり、カーチャンをぶっ飛ばせばあの幼女はオレに懐くってことか?
……カーチャンぶっ飛ばせるほど非道じゃないので諦めよう。
「しょうがねえ。こうなったら餌付けだ」
「それだ。タヌキってなに食うんだろ? レンは知ってる?」
「接した事が無いので分からん」
「ううーむ……」
「とりあえず、色々と喰わせてみたらいいんじゃね?」
「それだ」
というわけで、冷蔵庫を漁ってみる。
「すぐ朝飯にするから我慢しろ」
フライパン流星拳で鎮圧された。
我が家のカーチャンは超つええです。
カーチャンの宣言通り朝食。
急遽現れた獣耳幼女の分もある。
でもなぜかオレの分が幼女の分に流用されてる。
「ひもじいよう……」
「お前が勝手に連れ込んだ客の分だ。お前が賄え」
「招かれざる客なんですけど?」
「えっ、タカヤ的には招かれざる客なの!? んじゃあたしが大歓迎する! ほーら、カリカリベーコンお食べー」
「あむ……うまい!」
「食べた! 超かわいい!」
く、くそっ、オ、オレだってなぁ……!
「ほ、ほーら、カリカリベーコンだぞー。お、お食べー……」
「がうーっ!」
威嚇された。
「くそっ、なぜだ! なぜなんだ!」
「おまえ悪いやつ! 悪い奴の施しはうけない!」
「なにを馬鹿な! 今どき見たこともねぇ好青年だって近所の評判だぞ!」
「なに? 初耳だぞ。だれに言われたんだ、そんなこと」
否定しないでよカーチャン。
「お前、わたしのとーさんいじめた! 悪いやつ!」
「とーさん? もしや、そのとーさんとやらは、団九朗とか言うやつか?」
「そうだ! わたしのとーさんだ!」
「野郎! オレの事を謀ったな!」
ここに変化の使える奴がいるじゃねーか! うそつきー!
「どうやら仕置きが必要らしいな……」
「とーさんをいじめるな!」
「うるさい黙れ! メシは静かに食わんかぁ!」
カーチャンの一喝で黙る。
我が家最強はカーチャンです。逆らっては、いけないのです。




