必殺技は逆ギレ
「ただいまー。魔王、手洗って来い。そしたらアイス食っていいぞ」
「おお! で、手はどこで洗えばいいのだ?」
「洗面所があるからそこで洗うんだ」
そういって洗面所に入る。すると、そこにはなんと半裸の男が!
「キャー! の○太さんのエッチー!」
とりあえず叫んでみた。
「キャーもエッチもボクのセリフだよ!」
「eeeeeeek! Nobita Sandwich!」
「はぁ!?」
叫んでスッキリしたので扉を閉める。
そして魔王の方へと振り返って一言。
「使用中みたいだから台所で手洗おう」
「うむ、なんだかよく分からんが、そんなことよりアイスだ」
というわけで、魔王を台所に誘導。
そこではトモエさんとカーチャンが並んで料理を作っていた。
そして、なぜかタカネが床に正座してジャガイモの皮剥きをしていた。
「タカネ、お前なんでジャガイモの皮剥きしてんの?」
「天井焦がしたから罰だってさ。明日はジャガイモ尽くしらしいよ」
「お前、IHクッキングヒーターでどうやって天井焦がしたんだよ」
うちはオール電化導入済みなので、コンロは無い。そう言うわけで火があがるわけがないのだ。
「いや、火炎魔法を、ちょいとな……」
「バカかお前は。バッカじゃねえの? もしくはアホか?」
「だって火力が足りないと思ったんだもん!」
「過剰火力だろ! どう考えても!」
どうして同一人物なのにそんな考えに至ったのか。
オレだって火炎魔法なんか使う必要はないと分かってるぞ。
オレが台所を滅ぼしたのだって、面倒がって魔法使ったからだし。
「お前、今後は台所で調理禁止な」
「わーってるよ……またジャガイモの皮剥きさせられちゃたまんねぇからな」
それだけ言うと、オレは魔王に手を洗うように指示してリビングに入る。
リビングではレンがテレビをじっと見つめていた。
「なにやってんの、レン」
「あ、孝也! 凄いなこれは! えいぞーを電波? とか言うのにへんかん? して、こうやって動いてるように見えるようにするとは……すごいな!」
よかった、中に人が入っている! とか古典的なこと言い出さなくて。
「それで、孝也、このえいぞーの奴らは一体何を言っているんだ?」
「わからん」
だってレンが見てるの海外ドラマっぽいし、日本語訳も字幕も無い。
うちのカーチャンの趣味の衛星放送だな、これ。
「ふむ、孝也でも分からんのか。魔法でも唱えているのか?」
「いや、別の国の言葉だから」
「国が違うと言葉が通じないのか? 難儀な話だな……」
そう言えばあの世界では、どいつもこいつも共通語喋ってたな。
その共通語はなぜか日本語だったが……なんだか都合のいいものを感じたが、なに、気にする事は無い。
「今の時間だとちょうどゴールデンタイムのアニメ時間だな」
そういってチャンネルを変えると、レンが不思議そうな顔をした。
「タカヤ、この眼が異様に大きい化物はなんだ?」
「人間です」
「なにっ!? この世界にはこんな人間が居るのか!?」
「いいえ、それは絵です」
「さっき人間と言ったではないか」
「写実的に描いたもんじゃなくて、強調して描いたもんなんだよ」
どうやらアニメは受けが悪いらしい。
ならばと、DVDを持ってきてそれをDVDデッキにぶち込む。
「おお、何か始まったな。これはなんだ?」
「特撮」
戦隊ものとかではなく、深夜枠の特撮だけどな。
深夜枠の特撮なんかはレンにも受けそうだ。
「なんだこの黄金の鎧を着た男は!」
「見てりゃ分かる」
「ああ! なにやら化生が出てきたぞ!」
「そうだね」
「おおっ! 倒したぞ!」
「うん、そうだね。まだOPなんだけどね」
「むっ、銀色の鎧を着た男か! 戦っているぞ!」
「そうだね、カッコイイね」
「おおお!」
「うん、そうだね。プロテインだね」
予想以上に大喜びしている。
そうやってレンの反応を見ていると、先ほど洗面所兼脱衣所で着替えていた半裸の男がやってくる。
「おー、修也。部活帰りか? お疲れ」
一文字修也。オレの弟。小学校を留年してなきゃ中学生だ。
もちろん、小学校を留年なんて難しいので中学生だ。
「あ、うん……って、そうじゃない! なんで孝也が居るんだ!」
「オレの家だぞ! オレが居て何か悪いのか!?」
キレてみた。
「い、いや、そう言うことを言ってるんじゃなくて……」
「は!? お前、なんで居るんだって言ったよな!? まるでオレが居たらおかしいみたいな言い方じゃないか! なんだよ! 居たら悪いのかよ!?」
「ち、違うって! そうじゃないって!」
「じゃあ、どうして、なんで居るんだ! なんて言ったんだよ! なあ! 居ない方がよかったのかよ!? ええ!?」
「そ、そうじゃなくて……」
「だったら、ごめんなさいはどうした? おい」
「ご、ごめんなさい……」
「分かればよろしい。今後そういうことは言うんじゃないぞ」
よし、うやむやにしてやった。
「孝也! この特撮とか言う奴は凄いな! 試合って見たいぞ!」
「そうだね、試合ってみたいね」
「やはりお前もそう思うか! おお! じかいよこく? とか言うのは凄いな! 次の話が待ち遠しいぞ!」
「そうだね、全巻あるから見ようね」
「全巻!? これは続きがちゃんとあるのだな!? どれくらいあるのだ!?」
「この作品で25話あるよ。続編もあるからね。楽しみにしててね」
「ああ! 楽しみだ!」
大喜びである。プリキュア見せたら破廉恥な! とか言いそう。
「た、孝也、その子は? 母さんはボクの姉とか言ってて全然ロクに教えてくれないんだけど……」
「お前のねーちゃんだ。ちゃんと敬えよ。敬語使うんだぞ」
「いや、だからボクの姉ってどういう事さ!? どう見ても年下なんだけど!」
「馬鹿野郎! 年下に見えるからって疑うな! お前、千里を見てみろ! あれが大学生に見えるか!? オレには小学生に見える! 低学年のな!」
「……ボクも小学生に見える。言動が」
「だろ。コイツは見た目は幼くたって、お前の姉なんだ。ちゃんと敬えよ」
「わ、分かったよ。ごめんなさい、姉さん」
「うん? よく分からんが気にするな」
テレビに夢中で話聞いてなかったようです。
「まあ、ちゃんと敬うんだぞ。ちなみに名前は一文字蓮だ」
「レン姉さん、ね。分かった」
そう言うわけで、オレの弟と蓮の邂逅は割とつつがなく終わった。