表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/107

聖戦

 帰って来た我が家。

 特筆すべきことは無く、メシ食って寝た。


 特になんという事も無い、和やかな一日だったような気がする。たぶん。

 さて、そんな梅雨時の夜長。

 ひたひたと迫りくる足音。


 幾らオレがたるんでいたって、近づいてくる気配くらい察知できる。

 言っておくが、たるんでいるというのは精神的な比喩であって腹の事ではない。

 オレの腹筋はカチカチだぞ。拳銃だって通さないすごい腹筋なんだぞ。本当だぞ。


 ……まぁ、それはさておき。


 近づいてくる足音がベッドの真横まで来た時、オレはその足音の主に襲い掛かっていた。


「ふぎゃあっ!?」


「ぐわははは! バカめぇ! このオレを闇討ち出来ると思うてか!」


 さて、一体誰だ? まぁ、大方魔王だろうけど。

 目的が何かは知らんが、オレを闇討ちする奴なんか魔王くらいしか思い至らん。


「ぐはははは……覚悟するがいい、たっぷりと甚振ってくれるわ」


「ひ、ひぃぃっ!」


「クックック、可愛い悲鳴を上げやがって。覚悟しろ! 明日の朝日は拝めんぞ!」


「た、た、助けてぇ! 助けてぇぇぇ!」


「助けが来るわけが無かろうが! ふはははは!」


 がっしりとホールドして、そのまま寝る。

 明日の朝までホールドされ続ける苦しみを味わうがいい。

 この湿気の多い時期に、布団でがっちりと包まれる地獄の暑さをな!






 朝。誰かが目覚めた音を聞き、目が覚める。

 少し気だるい感触を味わいつつ、ホールドしていた布団を解放してやる。

 この地獄の暑さを味わえば、二度と闇討ちをしようなんて思わないだろう。


「さて、反省したか? 魔王? ……って、あれ? 誰こいつ?」


 そこに居たのは魔王ではなかった。

 魔王の特徴的な灰色の髪ではなく、こげ茶色のショートカット。

 ちんちくりんの体に対してやたらとデカくてもわもわの尻尾。

 頭にはちっこい獣耳。見た目的に、5歳くらいか?


「なんとぉーっ!?」


 なぜ獣耳幼女が!? もしや、オレの一念が天に通じたか!

 いやぁ、祈ってみるもんですね。などと思いながら、とりあえず汗だくの幼女を抱っこして立ち上がる。


 そして階下まで行き、タカネとトモエさんの部屋に。

 何の遠慮も無く扉を開けてみる。そしてすぐに閉めた。


 オレはなにも見なかった。

 そう、なにも見なかったんだ……。

 なにも見えなかったんだ……それでいい……。


「さあて……レンに頼むかな……」


 レンが使っている客間。というか、急遽客間にしている空き部屋を開ける。

 そこには既に目を覚ましていたレンが正座して、精神統一をしていた。


「おはよーっす」


「タカヤか。どうした?」


「なにはともあれ、ちょっとコイツを連れて行水してきてくれ」


「……き、き、貴様という奴は……私というものがありながらぁ!」


 なんか小刀投げつけられた。その小刀を華麗に指先でキャッチしそこね、的確に額で受け止める。


「ちょういてぇ」


「ちょういてぇ、ではない! 貴様という奴は……貴様という奴は……! 貴様という奴はァ!」


 なにをキレてるんだ。これがキレる子供って奴か? 最近の子供って怖いわぁ……。


「いいか、レン。お前はきっと何か勘違いをしている」


「ほほー……なにをどう勘違いしているのか、具体的に教えて欲しいものだな!」


「いいか、この幼女はなんか気付いたらベッドに居たんだ。決して疚しい事はしていない」


「同衾した時点で疚しい!」


 そこまで言い切るとは……予想もしてなかったぜ。


「分かった分かった。だったら本当に疚しいことをやらかしてきてやる」


「お、おい、何を開き直っている?」


「呪いが解けそうでな。今ならオレ、ゲジゲジにだって欲情出来るぜ?」


「待て! 待て待て待て!」


「行くぜ……ピリオドの向こう側によ……」


 もう辛抱たまらんぜ。さっき見てしまった……いや、見てないけど、見てないんだけどね。

 まぁ、なんというか偶然察知してしまった光景的な何かから、ムラムラと来てしまってな。


「やめろ! やめんかぁ!」


 背後から鞘で思いっ切りぶん殴られた。ちょういてぇ。

 ふう……止めてくれてよかったぜ。止めてくれなかったら、性犯罪者の汚名を被る所だったぜ……。


「大丈夫だ……オレは正気に戻った」


「……本当か?」


「うん。でも……堪らねぇぜ! うおおんっ、オレはまるで人間発電所だ!」


「落ち着け! 落ちつけぇ!」


 また殴られた。しかも正面から。


「いでぇっ! 小刀を打ち込むな! 死んだらどうする!」


「というかさっさと抜け!」


「よし来た任せろ!」


「なぜズボンを降ろす!?」


「だって、抜けって言うから……」


「どういう意味だそれは!?」


 これだからおぼこい嬢ちゃんは……と思ったが、そこらへん熟知されててもなんか嫌だ。

 そう思いつつも、自重してズボンは脱がないでおく。


「さておき、この幼女を連れて行水を頼む。なんかめっちゃ汗だくだし」


「また随分と話が戻ったな……で、この幼児はなんなのだ?」


「知らねえ。なんか闇討ちされたから確保した」


「どういうことだそれは……? まぁいい。起きたら事情を聞けばいいのだからな」


 レンに幼女を手渡し、レンが風呂場に入って行ったのを見送って、部屋へと戻る。

 魔法で鍵を閉め、オレは深呼吸をする。


「……行くぜ、ピリオドの向こう側によ……」


 さあ、オープンコンバットだ……!


「あ、おはよう、タカちゃん。なにしてるの?」


 背後から声がかかった。


「お、おお、お、おはよう、早苗!」


 振り向けばそこには早苗の姿。

 ああ、そう言えば、隣の家だったね!


「うん、おはよー、タカちゃん。なにしてたの?」


「に、ニニ、ニンジャの修業を……」


「わっ、そっかー……修業がんばってね!」


 結局、オレはピリオドの向こう側に行くことはできなかった。

 幼馴染の目の前で、ピリオドの向こう側に行けるほど、オレは勇者じゃないんだ。

 ああ、溜まる……溜まるぜ……溜まると堪らねぇぜ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ