電車に轢かれてぺったんこ
飛び出したと同時、タカネを飛び越える高さで跳躍する。
突如として現れたタカネに戦き、威嚇された事で動きを止めてしまったタヌキの背後に降り立ち、魔法で拘束する。
がっちりと捕縛した感触が手応えとして帰ってくる。
「いよっしゃああああ! タヌキ取ったどー!」
暴れて逃げ出そうとするが、そうはいかんざき。
しっかりと拘束して、逃げ出せないようにする。
「よしっ、タヌキ! オレの言葉が分かるな? さっさと変化しろ!」
その言葉を聞いたタヌキが動きを止め、諦めたかのように力を高める。
おおっ、どうやらこいつは変化が出来るらしい。
まさか一発目で変化出来るタヌキを捕まえられるとは……。
「やったな、タカネ……」
「ああ、やったよ、タカヤ……あたしたち、やったんだ……」
感動を分かち合うようにタカネと抱き合う。
おお、マイシスター! この感動を分かち合おうぞ!
って、いでっ、いででででっ。背中に爪立てんな。めっちゃいてぇ。
「お前、爪鋭すぎるぞ」
「え? あー、そう言えば伸ばしてたっけ。悪い悪い」
爪の長さが元に戻る。まるっきり猫だな……スゲーわ。
なんて思っていると、タヌキが変化を終え……。
「よーし、タカネ。コイツ駅に連れてくか」
「だね。たーんたーんターヌキーのキーンターマはー、でーんしゃにひーかれてぺーったんこー」
変化したタヌキはオッサンの姿をしていた。
確かによく化けてるが、別にオレは化けられるタヌキが見たいわけではない。
あくまでも狸耳娘が見たいのだ。オッサンに用は無い。
「ひぃぃっ! 勘弁してくだせぇ! あっしゃあきっちり化けたじゃないですか! 勘弁してくだせぇよ! 兄さんになんかしやしたか!」
「お前が男だって言う時点でダメなんだよ! キンタマ取っ払ってメスになるか、電車にペッチャンコにされるか選べ!」
「どっちも勘弁してくだせぇ!」
「はぁ……お前、自分以外に化けられるタヌキに心当たりあるか?」
「へ、へぇ。あっし以外というと、ちっと……あっしはこれでも、この山ン中じゃ一番の古株でしてさ。あっしが知らんのでしたら、たぶん居ねえんじゃねえかと……」
「……狐は?」
「ここいらでは見たことありやせんねぇ……あいつら、警戒心が強いんですよ。ですけど、この山には居らんと思います」
「くそう……」
ちくしょう……狐耳娘も居なくて、狸耳娘で妥協しようとしたのに……。
なんでこんなむさっくるしいオッサンなんぞが……。
「……悪かったな、タヌキのオッサン。ほら、お詫びにこれやるよ」
「おおっ、金ですかい。コイツは……1円金貨ですかい? 最近の1円はやたら軽い銀色の奴だと思ったんですが……」
「500円だ」
「ははぁ、500円ですかい。山ン中じゃ、金なんざ早々拾えやせんからね。ありがたくいただきやす」
金なんて使い道あるんだろうか。まぁ、人間に化けて使うくらいするんだろうな。
「……一応言っておくけど、オレとタカネの姿使ったりしたらしばくぞ。というか退治すんぞ」
「へ、へえ。肝に銘じておきやす」
「ちなみにタカネ、タヌキ食えるか?」
「猫の舌ってザラザラしてるけど、なんでか知ってる? 骨から肉をこそぎ落として食うためだよ。あたしの舌は人間よりザラザラしてるぜ?」
食う気満々だ。
「ちなみに、あたしの舌は猫と人間と半々くらいのザラザラ具合なんだぜー」
「ふーん……」
「……あ、あのさ、あたしの舌でトモエさんの舐めても大丈夫だと思う? 痛くないかな? 不安だから、今まで手しか使ってなくて……」
「たのむからオレにそう言うこと聞くのやめて。ホントにやめて」
生々しくて反応に困るから。本気で困るから。
「タカヤしか相談できるような相手居ないし……」
「トモエさんに相談しろ。夫婦なんだから」
「だ、だって……」
なにもぢもぢしてんだ。
「トモエさんにそう言うこと聞くの……は、恥ずかしい、し……」
顔を真っ赤にして俯くタカネ。
うーん……なんというか……こう……。
「……あざとい。あざといぜ……」
「な、なにが?」
「とりあえず、今の心持ちを大事にして、そう言う雰囲気でトモエさんに聞いてみろ。あの人だって漢だ。分かってくれる」
これでドキリと来なかったら男じゃない。
オレはドキリと来なかったけど、タカネだしな……。
タカネには心理的な防壁があるから、ドキリとは来ないんだよな。
「そ、そっか。それじゃあ、あたし先に帰るね!」
凄い勢いで走り出したタカネを見送り、オレは大きくため息を吐く。
「オレにああいう相談すんの、マジやめてくんねぇかなぁ……生々しすぎて……」
まぁ、オレも朝勃ちについて相談したりとかしてるから、どっこいどっこいの気もするんだけど。
「兄さん、あの娘っ子は何者なんですかい?」
「オレの妹。つっても、同一人物みたいなもんなんだが」
「ははぁ、妹君ですかい。となると、あっしにとっては姐さんってことに……」
「というか、お前はいつの間にオレの舎弟になってんだ」
「そう言わないでくだせぇよ、兄さん。この団九朗、お役に立ちやすぜ?」
「よし、じゃあ狸耳美少女になれ」
「そ、それはちょっと……」
「役に立たねぇな」
「ひどい……」
オッサン狸なんてそれくらいの扱いで十分だ。
「オレも帰るかな。じゃあな、団九朗。気が向いたら遊びに来るわ」
「へぇ。そんときゃ歓迎しやすぜ」
ぴらぴらと手を振って団九朗に別れを告げ、オレは家に帰るのだった。
……心霊スポットは、まぁ、また今度だな。
魔王に幽霊の怖さをたっぷりと教え込んでから行こう。




