黙れ黙れ黙れ!
さて、シエルちゃんにイタズラは出来ないと言う結論に達して悩んでいると、電車が到着する。
平日の真っ昼間とは言え、乗客はそれなりに多かった。
「ダァシエリイェス。ダァシエリイェス」
シエルちゃんがドアに挟まったりしないよう気をつけつつ電車に乗せ、手近な席に座らせる。
オレは突っ立ったまんま。まぁ、そんな遠い駅まで行くわけでもないし。
そう思いつつ吊革につかまっていると電車が発車する。そう言えば、オレって車酔いするけど電車酔いってしたことないんだよな。
「ふわー、すごいです。速いですねー」
「凄いよねー。終点モスクワまで止まらないしね」
「モスクワってどこですか?」
「えーと、ロシア」
エカテリンブルグとかクラスノエアルスク方面に行くやつは別の電車に乗り換えないとまずいわけだ。
「ロシアって海の向こう側ですよね? どうやって行くんですか?」
「あー、たぶん途中で電車を空輸するんじゃないかな」
じゃあ最初から飛行機に乗っとけよって話だよな。飛行機なら機内食出るし。
そう言えば前に修学旅行で沖縄行きの飛行機乗ったけど機内食出なかったな。国内線だと出ないんだろうか……どうでもいいや。
「まぁ冗談はさておき。次の次の駅で降りるからね」
「はい! ショッピングモールにいくんですよね?」
「そうそう。ぶっちゃけ道筋よく知らんのだけどね」
最寄り駅がそこなのは間違いないのでそこでいいだろう。
辿り着けなかったら最悪の場合は魔法でなんとかする。さっすが魔法、何でもできる。
とは言え、ショッピングモールなんて目立つものだし、案内とかも道のところどころにある。
なので、駅から出た後は問題なくショッピングモールにまで到達する事に成功した。
「さて、ショッピングモールです」
「うわー……おっきいですねー。宮殿よりおっきいです」
「そう言えばそうだね」
王城より大きいとかショッピングモールって凄くね? と言う事はショッピングモールの経営者は王様より偉い。
なんてことだ、ショッピングモールの経営者は王侯貴族並みなのか。
まぁ、それはさておき、早速ショッピングモールに入って案内板を睨む。
水着売ってるとこってどこだろ……レジャー用品? それとも服飾? うーん……。
「あー、タカヤじゃん。奇遇だねー」
とか悩んでたら、横合いから声をかけられて振り向くと、そこにはなんと千里が居た。
傍にはなぜかアリシアちゃんも居る。
「確かに奇遇だな。なんでいるんだ?」
「えー、アリシアちゃんと遊びたいなーと思ってー、えーと、映画でも見に行こうかー、って事になってー、えー」
「棒読み乙。アリシアちゃん置いて帰れ」
「断る! なんだお前ー! 喧嘩売ってんのかー?」
なんでいきなり喧嘩腰になるんだこのバカ姉貴は。
そう思いつつ、オレは人間の動体視力を振り切る速力で動き出し、オレの後ろにいた人間の背後を取る。
「あー、タカヤー、奇遇だねー」
「ふっ、残像だ」
オレが背後を取ったのは修也だった。なんでお前まで居るんだ。しかもなぜか店主さんまで居るし……。
「うおえっ!? い、いつの間に背後に!」
「フハハッ! 怖かろう! しかも脳波コントロールできる!」
何を脳波コントロール出来るのかは自分でも分からないが、ともかくとして脳波コントロール出来るのだ。
そういうわけで、手足を使わずにコントロール出来るマシンを操るオレを見下すとは弟と言うものはつくづく御し難いのである。
「で、なんでいるんだ? 言え」
「い、いや、僕はちょっとこのモールのゲーセンに格ゲーの練習に……」
「このモールのゲーセンに格ゲー入ってねえよ」
家族向けのゲームセンターだからそう言うものは入ってないのだ。
「おれの名は一文字孝也」
「いや、知ってるけど? なんで自己紹介したの?」
「答えろよ。質問は既に……拷問に変わっているんだぜ?」
具体的にどう拷問するかとかの方針は全く決まっていないが、とりあえず世界臭い物大全集とか強制的に食べさせたらいいんじゃないかな。
「おらー! 正直に言えこらー! 火あぶりにするぞてめぇ!」
胸倉掴みあげて持ち上げるとガックンガックン揺さぶる。
中学生とは言え、ほんのつい最近まで小学生やってたんだから軽いもんである。
「うおえっおあっおうあああ! やめてぇぇえっ!」
どうやら答えるつもりはないようなのでポイした。
「千里、なんでここにいるのか即刻答えなさい。でないと修也と同じくポイするぞ!」
「面白そうだから」
「あはい」
考えてみりゃオレだって修也がほたるちゃんとデートするっつったら面白がって追跡するもんな。
それを考えてみたら、千里が居るのも確かに仕方ない……。
「だからと言ってそれを見逃すオレではない。よって、即刻帰りなさい」
「断る。帰りなさいとかふざけたこという口を閉じなさい」
「黙れっ! 人が人の恋路を覗こうなど傲慢だとは思わんのか!」
「黙れ! 弟の道行を見守るのは姉の役目だ!」
「黙れ黙れ黙れ! 過保護も程々にするのだな!」
「黙れ! 愛の神の名において黙れっ! 愛が成就されようとする瞬間を見守らずしてどうする!」
「黙れぇぇぇっ! ハーゲンダッツジャパンの御名において黙れ!」
「黙れ黙れ黙れぇっ! 偉大なる姉の名において黙れ!」
「大いなるバスキン・ロビンスの威光の下に黙れ!」
「黙れ! 黙らんかぁっ! 神々をも凌駕する一文字勇美の名にひれ伏せ!」
「黙れ! レディーボーデンの冷厳なる名の下に黙れ!」
意味不明な激論を交わすオレと千里。
なんでオレがアイスクリーム会社の名の下に黙らせようとしているのかはオレでも分からなかった。




