表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
8/183

【下校時間は楽しいひと時】

 授業が終わり、春里は教室に残って何かをする必要もなく、すぐに下駄箱まで歩いて行った。そこで、待ち伏せをしていたのは先日初対面にして二度も抱きついてきた増永奏太だった。ゆっくりと下駄箱に凭れていた身体を起き上がらせ、春里に微笑む。春里は足を止め、深々と頭を下げた。


「会いたくてここまできちゃったよ」

 軽い雰囲気の奏太はどこまでも軽いようだ。兄である貴之の友人でもあるし、無下にもできないが、面倒くさいと言うか邪魔くさいと言うか。おもわず春里は溜め息を吐いた。


「ああ、もう抱きついたりしないから大丈夫だよ。貴之にも釘を刺されたしね」

 そう言って奏太はウインクをする。

「はあ、そうですか」

 春里は諦めにも似た溜め息を零し、靴を履いた。拒否をしてもついてくるだろうことが容易に想像できて、無駄なことはしないことに決める。


「じゃあ、春里ちゃん行こうか」

 何も言っていないのに一緒に帰る気満々の奏太を春里は一瞥して、歩きだした。

「春里ちゃんは何の教科が得意?」

「全体的に得意ですけれど、国語が好きですよ。現国も古文も漢文も」

「へえ、そりゃすごい」

「古文はその言葉の意味を知ることが楽しいですし、漢文はパズルを解いているイメージですかね」

 きょとんとしている奏太を見て春里はクスクス笑った。


「運動神経は?」

「いい、とは言えませんね。まあ、球技は全般に好きです。上手とはお世辞にも言えませんが。観戦はあまり好きではないですけれど」

「じゃあ、バスケも好き?」

「上手い下手は別にして、好きですよ」

「でも、観戦は好きじゃないんだよね」

「はい。あまり楽しいとは思えないんです」

「実際見たらすごい迫力だと思うんだけどなあ」

「多分、冷めているんですね」


 春里の言葉に「ふうん」と言いながら、奏太はじっと春里を見ていた。春里は奏太に向けていた顔を、空へと向けた。少しでも不自然に見えないように気をつけて。今日は曇り。白い雲が空全体を覆っている。


「じゃあ、好きな食べ物は?」

「和食、イタリアンが好きですかね。堅苦しい雰囲気のものは駄目です。興醒めすると言うか……」


 マナーを考えて、きれいな姿で食べなくてはいけないと思わされて、さっきまで楽しかったその感情が一気に冷めるのだ。楽しく食べればいいじゃないか、と春里は反抗的になってしまう。多分そういった雰囲気の店だって楽しく食べてほしいと思っているのだと思うのだが、どうしても慣れない雰囲気が心を和ませてはくれない。春里にとって食事は家族団らんの楽しい場だったから尚更なのだろう。


「へえ、結構安あがり?」

 当たっているなと思い、春里は笑った。一番好きなのは母親が作る料理なのだ。おいしそうに食べる春里をにこにこと笑みを浮かべながら幸せそうに見つめる母親が好きだ。それが幸せな気分にさせてくれる。春香が得意な料理が和食だった。肉じゃがやカレイの煮つけなど、煮物が得意で、外食とは比べ物にならないくらいだった。


「俺は洋食が好きだな。オムライスやハンバーグ、あと唐揚げかな」

「十代の男の子そのものですね」

「まあね」


 見た目は貴之と同じように年上に感じられるが、話してみると、貴之より幼く感じられる。それが作戦なのか本物なのかは分からないが、話をしていて気持ちが楽なのは否定できない。


「部活でいっぱい動くから。食べざかりだしね」

「それは貴之さんも一緒ですよ。すごい時はどんぶりでご飯三杯食べます」

「それはすごいな」

「おいしそうに食べている姿を見ていると嬉しいですけれどね」


 春里は貴之がご飯を食べているところを思い出す。自分が作った料理を黙々と食べてくれる姿は微笑ましく、気持ちいい。その時春香の気持ちがよく分かった。きっとこんな気持ちで自分を見ていたのだろうな、そう思ったのだ。


「そう言えば春里ちゃんが作るんだよね。得意料理は何?」

「ハンバーグですよ」

「お。俺の大好物」

 想像以上の食い付きに春里はクスクス笑った。

「そのようですね」


 二人は会話を途切らすことなく、駅へ歩いて行き、当然のように同じ電車に乗った。春里は奏太がどこに住んでいるのか知らない。だが、別に聞く必要もないと思い、そのまま電車の中でも会話を続けた。

 そして、おもいっきり奏太の頭を叩く手によって会話はさえぎられた。


「痛ッ」

 奏太は頭を擦りながら殴った相手を睨みつけた。そこには貴之がいる。先程、別の車両から歩いてくる貴之を春里は見ていた。奏太に言おうとした時、貴之が口元に人差し指を当て、シーというポーズをとったので、気にせずに話を聞いていたのだ。


「俺の妹をナンパするなよ」

「いいじゃんか。二人の意思だよ」

「それより、次おまえの降りる駅だからな」

「いや、危ないから家まで送ろうかと」

「俺がいるのに必要あるか?しかもおまえが一番危ない」

「送り狼ですね」


 春里の明るい声に反応して貴之と奏太は春里をびっくりした顔でみた。二人の反応が全く同じだったことに春里は声をたてて笑った。やはり似ているところは似ているのだな、そんな風に思いながら。


奏太春里に急接近中です。口説いているのか、楽しんでいるのか分かりませんが。


次回は春里と貴之、自宅にて。


次回もお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ