【話題の中心は噂の妹】
貴之は部活の帰り、奏太と一緒にファストフード店にいた。日本中にあるハンバーガーショップだ。帰れば食事が待っていることは知っているが、いっぱい動いたことでおなかが空いて我慢できなかった。それと共に、少し休みたい感情と喉をうるおしたい思いがあった。
眼の前で大きな口を開けてハンバーガーにがぶりつく奏太は余程飢えていたのだろう。ハンバーガーとコーラを交互に口にしている。それを眺めながら貴之はポテトに手を伸ばした。
「おまえ、今日も大変だったな」
おなかが落ち着いたのか、ポテトに手を伸ばした奏太が貴之を見る事なく言った。
「ああ、最悪だ。考えなしの行動だったと反省しているよ」
「あんなかわいい子を連れているからな」
「でも、あのくらいのことは我慢しないといけない。それ以上に辛かったのは春里の方だから」
「うん?何かあったのか?」
「あった。久しぶりにあった。それをグチグチと文句言われた。まあ、笑顔で楽しげだったけどさ」
「何をされた訳?」
奏太は興味深げに貴之を見た。だが口は止まらず、数本手にしていたポテトを口に放り込む。
「呼び出しをくらったようだね。だけど、あの見た目を裏切るような芯の強さだから、言い負かしたようだけど」
貴之は昨日の春里の態度を思い出す。文句を言っていても全く責めるような感じはなかった。辛そうな表情もなく、どちらかと言えば楽しそうにも見えた。それが遠慮している強がりだったとしても、貴之にはそれが分かる程の経験はない。
「へえ。今度貴之の家に遊びに行こうかな。もう、部活だってしなくていいわけだしさ。妹の春里ちゃんに会ってみたいしさ」
貴之は眼を眇めて奏太を見た。
「会ってどうするんだよ」
「どんな女の子か知りたいだろう?」
奏太は平然とした口調で言った。奏太にとっては興味なのだろう。だが、貴之にとっては心配の種でもある。奏太は女の子の扱いがうまかった。姉が二人いるせいだと言うが、それだけではないような気もする。別に女たらしではないのだが、誰にでも平等に優しい奏太を知らない女は勘違いをし、好意を抱く。そして、呆気なく振られるのだ。「何、勘違いしているの?」という心ない一言で。
「変な勘違いはさせるなよ」
「もうすでにシスコンかよ」
奏太は楽しそうに声をたてて笑った。言い返す言葉もない。
ずっと兄妹がほしいと思っていた。それがこの年になって叶うのは少し複雑ではあるが、とても楽しいのだ。春里との会話も食事も。だからずっと笑っていて欲しいと思う。その笑顔が貴之を和ませてくれるから。
貴之が家に帰ると、とても楽しそうな笑い声が聞こえた。リビングで貴美と春里が話しているのだろう。リビングのドアを開けて、顔だけ覗かせると笑っていた貴美が貴之を見た。
「あら、おかえりなさい」
「ただいま」
貴之の声に反応して春里が振り返った。
「おかえりなさい」
「ただいま、春里」
貴之はそう言った後、着替えるため自室に行った。
貴之は「はるり」と言う響きが好きだった。かわいらしい響きで、水が水溜りに落ちたときの波紋のようなイメージがある。なのに、色はなぜか桃色だ。ピンクではなくあくまでも桃色。とてもとても淡い。そして、そのイメージそのものの笑みと一緒に、それを裏切るくらいの強さ。
突然できた妹を気に入るのに時間はかからなかった。会うまでは色々考えたし、どう接していいのか分からなかったが、あの人懐っこさと無邪気さと、決して嫌な領域には踏み込まない控え目さが気に入った。そして、なによりもつかみどころのないふんわりした雰囲気が貴之の興味をそそる。
母親と楽しげに話をする春里に遠慮はないように見えた。それがまた嬉しく感じる。貴之の周りに存在する女がひどいものだから余計に微笑ましく感じる。
「やっぱり女はあのくらいがいいな」
意識せずに零れた独り言に貴之は苦笑しながら、家でだけは穏やかに過ごせるのだと安堵した。
奏太は貴之の唯一の親友なので、これからよく登場します。私のお気に入りです。
次回は春里の休日の過ごし方。
いつも読んでくださりありがとうございます。次回もお付き合いください。