【変化する二人の距離】
呆然としている春里を人目も憚らず抱きしめる貴之の姿を見つめていた。二人がこんなに近づいていたなんて知らなかった。貴之は冷たい子だと思っていたし、女性に対してこんな優しさを示すとは思ってもみなかった。俊介はじっと貴之の仕草を見つめる。
「春里ちゃんに貴之がいて良かったと思うのよ」
俊介の視線に気づいてか、貴美はそう耳打ちした。そうかもしれない。春香を失った今、支えてあげられるのは父親である俊介でもなければ貴美でもない。一番長く一緒にいて、近くにいた貴之なのだ。貴之は想像以上に春里に優しい。春里の耳元で何かを何度も囁き、優しい仕草で髪を梳くように頭を撫でる。安心しきっているような春里の姿。静かに泣いているのだろう。それをしっかりと支える貴之は俊介が今までに見た事がないくらい優しい表情をしていた。
――これではまるで恋人同士ではないか。
そんな思いが俊介の頭を過る。そして、その考えに苦笑した。
春里を預かる時、そんな可能性など微塵も考えなかった。俊介自身そういったことに疎いとは思ってはいたが、そういう可能性だってあったのではないだろうか。だが、今二人がこの距離だからこそ、俊介は安心していられる。母親を失った春里を見ても、きっと大丈夫だと思える。
「信じられないな」
ぽつりとつぶやいた俊介の言葉に貴美はクスリと笑った。
「あなたは貴之と春里ちゃんを知らな過ぎるんです」
その通りだと素直に思った。仕事仕事で周りを見てこなかった。その癖が未だにあるのだろう。気づいたら手のつけられないところまで来ていた、戻れないところまで来ていた。そんな過去があったのにもかかわらず、未だに俊介は変わらない。
「私も成長しないな」
春里をずっと抱きしめている貴之を見つめながらそんな空気を羨ましく思った。
短かったものを少し長めにしたのですが、それでもこの短さ……。
もう一話お付き合いください。




