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初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
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【春里の日常も貴之中心】

 相変わらず春里の周りは貴之に興味を抱いている女の子たちで騒がしかった。特に情報があるわけではないのに、連日春里のもとを訪れては何かしらの情報を得ようとする。一番はプロフィールだろう。基本的な事は知っているようで、あとは何が好きなのか、に尽きるらしい。そんな付き合いのない春里にとってそれに答えてあげられる程の親密さはない。それに、勝手に貴之の情報を流すのは気が引ける。曖昧に濁していると、女の子たちから睨まれる始末だ。


「仕方ないでしょう?一緒に暮らし始めたのは最近なんですから。それに、あまりわたしは仲良くないんですよ」

 もう面倒くさいと言った雰囲気を醸し出しながら投げやりに答えて見せる。そんな仕草をして見せても相手の勢いはおさまらず、春里は途方に暮れる。

 ――女のパワーってすごいかもしれない。

 感心ではなく呆れだけがあった。



 相変わらず、春里には友人を見極められる程の能力はなく、独りぼっちの学校生活だ。休み時間、昼休みと大勢の女の子が押し寄せてきて傍から見れば人気者だが、誰もが信用できない。


 春里は昼休みにみんなから逃げるように廊下を走っていた。朝来る前に買ったサンドイッチと惣菜パン。そしてペットボトルのミルクティー。いじめられっ子が隠れて食べているような感じがする。食べているところはあの呼び出された階段下。暗くて少し涼しいこの場所に腰を落ち着け、ゆっくりと昼食を食べるのが春里の日課になりつつある。逃げ切れず掴まることもあるが、うまくいった時はここに隠れる。一人でいる事が淋しいと思うこともあるが、得体のしれない団体に追いかけられ、囲まれるよりもマシだった。


「貴之め、いつかきっと何か奢らせてやる」

 サンドイッチに噛みつきながら春里はそう唸る。仕方ない境遇だと思う一方で避けられた境遇だと思うのだ。



 帰り、誰にも捕まらないように急いで教室を出る。それもまた春里の日課だ。だが、どんなに急いでもなぜか捕まるのだ。あの日からずっと増永奏太に。受験生のくせに暇人なのか、懲りずに春里につき纏う。そういうパワーを勉強に遣えばいいのにと思うのだが、バスケットボールで遣われていた体力は全面的に春里に向かっているようだった。そして、今日もまた。


 春里は盛大に溜め息を吐いた。それが聞こえたのか、ゆっくりと奏太は顔を上げた。その仕草に時折ドキッとさせられる。スポーツマンらしく髪は短いが、金髪に近い茶髪だ。大きな眼と整えられた眉毛、大き目の口。親しみやすさがにじみ出ている。貴之の冷たさとは違い、目元に優しさがあり、和ませる力があると思う。突然抱きついても許されるような性格でもあると感じられる。


「本当に懲りないと言うか飽きないと言うか」

「そうだね」

「落としたら飽きるタイプですか?」

 春里は平然と皮肉を口にしながら靴に履き替えた。


「満足して?」

「そう。手にした途端に興味が失せると言うこともありますよね」

「ここで肯定する程、俺馬鹿じゃないよ」

 あくまでも奏太の口調は軽い。

「そりゃそうでしょうけれど」


 春里が歩きだすと、当然のように隣で奏太が歩きだす。最近春里の右隣は奏太の定位置になっている。


「今度の土曜日は何か予定はあるの?」

「ええ、予定は詰まっていますよ」

 土曜日、日曜日は入院している春香のお見舞いに行く。日に日に衰えていく母を毎日見守るべきだとは思うのだが、平日も行くと春香は心配をする。「自分の時間を持ちなさい」とか「みんなに迷惑をかけるから」と何度も口にする。だから、春里は母親が望むように動くようにしている。


「日曜日は?」

「日曜日も詰まっています」

「断るためじゃなくて?」

「この先ずっと、土曜、日曜は詰まっていますよ」


 奏太は疑いの眼差しで春里の顔を覗きこんできた。別に嘘を吐いているわけではないので、春里は堂々としている。


「まあ、信じても疑ってもどちらでもいいですけれどね。どちらにしてもお誘いはお断りしますから」

 にこりと微笑むと、少し歩くペースを速めた。


「ねえ、ちょっと」

 奏太が小走りで春里を追いかけてくることが分かり、春里は可笑しくなって声を殺して笑った。


「貴之も一緒だったら遊んでくれる?」

「貴之さん次第ですね」

 そう言って春里は奏太の方を振り返った。

「春里ちゃんの意思は?」

「信頼する兄上に委ねると言うことで」

 春里は意味ありげににこりと微笑んだ。


「と言うことで断固拒否する」

 そう言って奏太の後ろを歩いていた貴之はおもいっきり奏太の後頭部を叩いた。

「なんだよ。また邪魔するわけ?」

「おまえ空回りだぞ。いつもの調子が全く出ていないな」

「そりゃ、必至だからさ」

 その言葉に貴之は苦笑を漏らす。


「でも、本当に春里は休日予定がぎっしり詰まっているよ。残念なことにね」

「そんなに大人気なのかよ」

「そうだよ。色々大人気なの。引く手数多なんだからさ」


 貴之はおもしろそうに声を出して笑った。別に何もおもしろいことはないのだが、そうやって誤魔化してくれること、助けてくれることに春里は感謝した。


 あまり知らない人に自分の家庭の事は知られたくなかった。同情もいらなかった。だから、母の病院に行くとはとても言えなく、どうにか濁したい思いでいっぱいだった。そこに貴之が登場してくれて、正義の味方のような感覚に春里はクスクスと笑う事ができたのだ。


 右に奏太、左に貴之と両手に花の状態になっている春里は、また呼び出されるのではないかと言う不安を抱いたが、両側の二つの壁は春里を安心させてくれるものでもあった。


「じゃあさ、平日に三人で食事に行こうよ。それならいいだろう?」

「三人なら、貴之さんさえいいと言えばわたしは問題ないですよ」


 奏太と二人だとなんだか怖かった。奏太は春里が嫌がることはしないと分かっているが、どうしても何かがありそうで怖かった。だが、貴之も一緒なら、この二人の雰囲気は好きだし、その雰囲気に溶け込めることは心地良かったので、嬉しい。


 春里が貴之を見ると、嫌そうな面倒くさそうな表情を見せた。口がへの字なのだ。


「おい、それくらいいいだろう」

「春里に手を出さないって約束をすればな」

 春里よりもガードの固い貴之を見て、春里は可笑しくなり、貴之の腕にギュッとしがみついた。


「さすがナイト様ですね」

 そう言って春里が見上げると、貴之が眼を見開いて驚いていた。その時初めて自分が大胆な行動を起こしていたことに気づき、春里はぱっと手を離した。


「ごめんなさい」

 なんとなく恥ずかしくなって俯いたまま呟くと、ポンと誰かの大きな手が春里の頭に乗っかった。その手が誰の手か確認したくて見上げると、優しい笑みを浮かべた貴之がそこにいた。手の主は貴之だと知って、春里は少しホッとした。


「いいよ。どうぞ。この腕にしがみついていれば奏太に連れ去られる心配はないからね」

「おい。いくら俺でも拉致はしないぞ」

「恐ろしい表現するなよな」


 貴之が声を上げて笑うと、春里もそれにつられるように笑った。それに不貞腐れた顔をしていた奏太もつられて笑いだした。


 この学校に来ていい事はなかった、春里はそう思う。だが、あの家に世話になっていい人たちに出逢えた。それは事実だった。そして、今、とても幸せな空間がここにあった。お調子者の奏太としっかり者の貴之。


「二人とも本当にいいコンビだね」

 春里のこの言葉に二人は不服そうに春里を見ていた。



 家に帰ると、貴之と一緒に夕飯を作り始める。受験生なのだから勉強をしてくれと春里は言うのだが、気晴らしだと言って手伝いを止めない。まあ、春里にとってはこうやって二人で一緒につくる料理は楽しくて嬉しいのだが。


 今日は貴之のリクエストでちらし寿司だった。ご飯を用意している間に具材の準備を始める。貴之の包丁遣いは危なっかしくて見ていられないのだが、それを春里が言うと、貴之は意地になり、包丁を手放さなくなる。まるで子供だなと思いながら、本当に子供用の包丁でも用意してあげようかと考えたりもした。きっと貴之のプライドはズタズタだろうが、少し複雑そうな表情をして悔しさを滲ませている姿を少し見てみたいと春里は思った。


 ちらし寿司の他に豆腐とねぎのみそ汁と、じゃがいもの豚肉巻きを用意した。


 出来上がったちらし寿司を見て、貴之は見るからに食べたそうな顔をしていた。それが本当に幼く見る。無防備な貴之の表情はとても正直で、春里はそれを見ると安心する。

「味見する?」

 春里にぱっと晴れやかな笑みを浮かべた貴之が高校生にはとても見えなくて、思わず声を上げて笑ってしまった。


「食べ物には眼がないよね」

「え?まあ、否定はしないかな。ちらし寿司は好きだし、今回具だくさんでうまそうだし、春里が作ってくれたし」


 何気なく口にされた最後の言葉に春里は嬉しさと同時に照れが生まれ、今まで浮かべていた笑みを引っ込めた。褒めてくれることは嬉しい。作り甲斐もある。ただ、さり気なくなんてことなしに貴之に言われて不意をつかれて驚いてしまったのだ。


「どうした?」

 先程までにこにこしていた春里が俯き加減になり、動かなくなった事を不思議に思ったのか、貴之が春里の顔を覗きこんだ。


「なんでもないよ」

 春里はそう言って小皿に三口分くらいのちらし寿司をよそった。


「これ。味見どうぞ」

 春里が差し出すと、貴之はそれを手に取り、まずは鼻を近づけ匂いを嗅いだ。先程、酢飯を作っている時も顔を近づけて匂いを嗅いでいた。酢飯の香りが相当好きなのかと思い、春里はクスクス笑った。貴之はそんな春里など気にすることもなく、更に口を近づけ、パクリと食べた。


「あ、箸かスプーン」

 手を遣わずに器用に食べた貴之を見て、何が足りなかったのかやっと気づいた春里だったが、すでに皿の上にはちらし寿司はなかった。


「そんなに色々汚す必要ないよ。それより、すっごくおいしいよ。酢の感じもちょうどいい」

 春里にはそれがお世辞には聞こえなくて、素直に嬉しく感じられた。


「よかった。みんないっぱい食べてほしいなあ」

 貴美や俊介がおいしいと言いながら食べてくれる姿を想像しながら、ちらし寿司にラップをかけた。貴之は当然のように洗い終わっていない調理器具を洗い始める。


「もう大丈夫ですよ」

「いや、洗い物までが料理だからね。俺も暇になったんだし、このくらい手伝わせて」


 初めてできた兄の存在がずっと擽ったくて、どう接していいのか迷っていたが、こう優しくされると余計にどうすればいいのか分からなくなる。春里はこんな兄を想像はしていなかったのだ。血もつながっておらず、前妻の子供である春里に好意を抱いてくれるとは思っていなかった。しかも、想像していた本物の兄妹よりも仲かいいような気がして余計に擽ったい。


「はい、完了」

 貴之が濡れた手をタオルで拭き始め、春里はずっと貴之の背中に留まっていた視線を慌てて逸らした。


「お疲れ様でした」

 わざと丁寧に頭を下げると、貴之の手がそっと春里の頭に乗り、ゆっくりと動き出す。母親に頭を撫でられていたのは小学生の頃。それ以来誰かが頭を撫でることはなくて、そう思うととても恥ずかしく思えてくる。


「じゃあ、休憩」

 貴之はそう言って、キッチンから出ていった。春里は先程まで貴之が触れていた頭にそっと触れる。頭を撫でられることは子供のようで少し抵抗あるが、それでもなんとなく心地良い。


 ハッとして、春里はリビングのソファでくつろいでいる貴之にアイスティーを出すべく、準備を始めた。


奏太と貴之はとても仲良し。春里と貴之もとても仲良し。お互い信頼していますからね。


次回は春里の幼馴染が登場。貴之の危機?いやあ、どうだろう??でも焦っちゃえ。


次回もお付き合いください。

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