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初恋の彩り  作者: みこえ
~出逢い~
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【春里の災難は兄のせい】

 ――何でこんな事になるのよ。


 篠原春里(しのはらはるり)は自分の境遇を呪った。

 高校二年生になり、同じクラスの子とも仲良くなった頃、転校が決まった。転校先は公立高校ではなく私立高校。結構頭のいい人たちが通う有名校だ。それには深い事情があり、それを恨むことはまずない。それどころか面倒を見てくれる人たちに感謝している。だが、今の状況は恨むしかなかった。


 転校して初日の出来事だ。夏休みが終わった最初の日、春里は珍しい転校生と言うこともあり、数人の女の子たちに囲まれていた。その時間は穏やかで、これからもうまくやっていけそうな予感があった。だから、その穏やかな時間を割いたあの声が忌々しい。


「転校生の篠原春里ってこのクラスでしょう?」

 苛立ちを隠さない甲高い女の声が教室中に響いた。後ろの出入り口を見ると、そこには態度もまた苛立ちを隠さない派手な女の子たちが立っていた。声をあげたのは一段と派手な女の子だろう。春里を認めると、キッと睨んできた。今日は大人しく教室にいた。彼女たちには何の迷惑もかけていない。春里には思い当るところがなかった。


 春里は立ち上がり、彼女たちの近くに行く。周りはこの状況を心配げに見ていた。ずっと逸らされず睨まれ続けている。それに怯んでしまったら終わりだと言う事を春里は知っている。過去、一度もいじめられたことはないが、いじめにあっていた子を知っている。その子が怖がれば怖がるほどいじめる側は楽しんでいた。


 突然手首をグイッと掴まれ、抗う事を拒否された。そのまま引きずるように連れて行かれた場所は校舎の端、階段下だった。ここは声は響くが、誰も通らない。多分、誰かをいじめていて、それを確認できたとしても、誰も止めには来ないだろう。


 春里は壁に押しあてられ、五人の女の子たちに囲まれていた。真ん中の女の子がボスだろう。小さい眼を出来るだけ大きく見せようとアイラインとマスカラを駆使している。薄い唇をぽってりさせようと頑張っている跡もある。その努力は認めるし、尊敬さえする。だが、制服には似合わない派手な化粧に好感を持つ者は少ないだろう。


 ちょっとした風で下着が見えそうなスカートの丈や屈んだら胸元が見えそうなブラウスの開き具合は、女性として品がなく見える。他の女の子たちも少しの差はあるにしても同様だった。はっきり言えば見分けがつかない。


 頭のレベルが高い人たちが通っている高校だと認識してきたが、どこの高校も同じようなもののようである。頭の良さと品位はまた違うのだ。


 春里は溜め息を零しそうなのを抑え込んだ。そして、自分を囲む五人の顔を確認する。

 ――とんでもないことになった。

 どうして自分がこういう状況に置かれたのかまだ分からない。だが、彼女たちの表情を見る限り、春里は知らないうちに彼女たちの気に食わない事をしてしまったのだろう。


「あんた、竹原(たけはら)先輩と今日一緒に登校してきたでしょう」

 やっと口を開いたのはボスだ。春里はその言葉で何となく自分が呼ばれた原因が分かった。


 ――あの男。こうなるなら、そう言えよ。

 心の中で悪態吐く。


 先日、初めて会った男。竹原貴之(たけはらたかゆき)。彼は今、春里と一緒に暮らしている。会ったばかりで、兄になった男だ。確かに貴之は格好良かった。モデルの仕事をしていると言うだけの事もあり、顔だけではなく体躯も人目を引く。だが、それだけだ。そう思っていたのが間違いだっただろうか。


「ああ、貴之さんの事」

 春里の言葉に五人は反応した。バン、という音が響き渡った。ボスが春里が背にしている壁をおもいっきり蹴ったのだ。春里の腰から三十センチ程離れた場所。その格好は品の欠片もない。女として以前に人間として品がない。


 春里は挑戦的に笑った。一緒に登校するだけで文句を言われてはこちらの身が持たない。だけれど、総てをすぐに種明かししてしまうのは悔しかった。春里はおとなしそうに見えて、結構気が強い。いつもは平和主義だが、こういう相手には好戦的だ。キッとボスを睨みつける。ここで怯えてはいけない。五対一で自分が有利だと思っているボスにそうではないのだと示さなければならないのだ。


「貴之さんも大変。こんなサルに纏わりつかれているなんて」

 挑発をすると、想像していた通り行動をボスは起こす。もう一度壁を思いっきり蹴ってきた。


「貴之さんに気に入られたいのであれば、わたしにこんな事をする前に女を磨いた方が先決というもの。魅力ない女性に貴之さんがなびくとは到底思えないもの」

 春里は近くにあるボスの眼を力強く睨みつけた。ずっと威嚇していたボスが怯む。


「こんな事をされたとわたしが告げ口するとは思わないの?後先考えずに行動するのはどうかと思うわ。きちんと考えて行動しないと後悔してしまうわよ。そこにある頭は空っぽではないでしょう」

 ボスの表情から悔しさが滲みでていた。もう少し遊んでやろうと春里は思ったが、帰りが遅くなるのは避けたかった。


 春里は長く息を吐くと、極上の笑みを浮かべた。

「でも、仕方なかったのよ。貴之さんと同じ家に住んでいるんだもの。同じ学校に通えば必然的に同じ時間に家を出て、同じ道を通るでしょう。そうしたら必然的に一緒に登校することになってしまうんですもの」

 ボスを見ていると楽しい。どんどんと怒りが蘇ってきているのが分かる。春里はすかさず言葉をつなげる。


「いろいろと複雑ではあるけれど、わたしと竹原先輩は兄妹だから心配いらないわ。あなた達が心配するような事はないから安心して。明日からは極力一緒に来ないようにわたしが彼を避けるから」


 不本意ではあるが、余計なトラブルは避けたいのが心情。春里はこうなる事を予想していたら、一緒に登校などしなかった。

 ――あの男、後で覚えていろよ。

 心の中で悪態を吐きながら、言葉はいたって冷静できれいだ。


「もう、わたしには用はないでしょう?もう行ってもいいかしら?」

 春里はボスににこりと微笑み、返事も聞かず歩き出した。ゆったりと優雅に。春里が立ち去ってから唸るような醜い声や言葉が聞こえたが、すでに春里には関係ないことだった。




 春里は誰もいない家に帰る。この家に来たのは二週間程前。まだ他人の家としか思えないこの家に、誰もいない時間に入るのは気が引けた。だが、帰ってから春里には仕事がある。そう自分に言い聞かせて、玄関の鍵を開ける。


 父、竹原俊介(たけはらしゅんすけ)は病院の院長をしている。結構大きな病院だ。妻、竹原貴美(たけはらたかみ)は俊介が院長をしている病院の看護師をしている。会ったばかりの息子、貴之(たかゆき)はバスケットボール部に所属し、帰りは夕飯近くになる。


 春里は竹原俊介と前の妻である篠原春香(しのはらはるか)の娘だ。春里が小学校に上がる前に二人は離婚し、母に引き取られ、母の実家のある田舎に住み始めた。そして、数ヶ月前から母の様子がおかしくなり、病院に行った時にはすでに遅かった。食道癌だった。すでに転移しており、手術しても助からないだろうと言われた。母は一人娘である春里を置いて行くことだけが心配になり、竹原俊介に連絡を取り、春里を託した。今、春香は俊介の病院で治療を受けている。


 俊介と春香の離婚に貴美は関係ない。離婚の原因は俊介の仕事の忙しさで、家庭を顧みなく、春香が孤独を感じ、精神的におかしくなったことだ。俊介はそれを見かねて離婚届を出した。春香が春里を連れて行ったのもそのせいだ。春里が春香の精神的支えになること、俊介では面倒が見られないこと、そしてなにより春里が母親を選んだことがある。


 この家庭は何よりも複雑だ。息子である貴之は貴美の連れ子にあたる。俊介とも春里とも全く血のつながりはない。それでも、春里がこの家に訪れた時、そこには当たり前の家庭が存在していた。息子を愛する父親と、父親を尊敬する息子の絵が見えていた。そこに割くように登場して良かったものかと今でも春里は迷っている。自分の存在がこの家庭を壊してしまうのではないだろうか、とどうしても考えてしまう。


 春里は余計な事を考えるのを止め、私服に着替えた後、夕飯の支度にとりかかった。今日は両親とも帰りは遅くなると言っていた。それでも、夕飯は食べると言われていたので、四人分の夕食を作り始める。春里の生活費用の一切合財を出してくれると言ってくれた人たちに少しでも恩返しをしたいと思っていた春里は、少しのことだけれどみんなのために働けることを嬉しく思っていた。本当はアルバイトでもしてお金で返したいところだが、学生である今は『本分は勉強』だと言われてしまっては仕方あるまい。


はじめてしまいました。

次はこれで行こう。と決めてから準備を始め、ずいぶんと経った頃、また血のつながらない兄妹ものだと気づいてしまいました。すでに遅かった……。内容は全く違うもの。甘酸っぱい恋愛とは言えないかもしれませんが、何ともほほえましい感じにはなっているかと……。多分。

私のモチベーションが保たれれば、結構長めのお話になるはずです。一応、ここで終わっても大丈夫というところまでは書きあげてあるので、連載をすることに決めました。


次回は貴之の災難


最後までお付き合いください。

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