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足元の海  作者: 天下響
11/12

―はじまりの日―

〈1987年 春〉



おなかがすいた。

ハンバーグのいいにおいに、あたしのおなかはさらにうるさくなる。まあちゃんと、おかあさんと、おとうさん。三人はなかよく、たのしそうにお昼ごはんを食べている。

数字の1から100。ひらがなの「あ」から「ん」。カタカナも同じ。

を、それぞれ3回ずつ。


毎日それらを書いてからでないと、あたしはごはんを食べさせてもらえない。

なかなか終わらないと、おこられる。

グズめ。そんなこともできないのか。と。

おかあさんの虫のいどころがわるければ、そのままごはんぬきになることもある。あたしはひっしで、文字たちをひたすら書く。


ようやく書きおわり、どきどきしながらおかあさんにみせた。

ふん、汚い字。


ひくくて、こわい声。

あたしはなかないようにがんばりながら、冷たいハンバーグをひとりでもごもごと食べる。


いつのまにか食べおわった3人は、今度はテレビを見ている。まあちゃんは、おとうさんのおひざにのっている。おかあさんはわらっている。やさしそうに。


まあちゃんは、真ちゃんが死んだいちねんごに、生まれた。かわいいいもうとだ。真ちゃんにそっくり。真ちゃんのうまれかわり。おとうさんもおかあさんも、そういってまあちゃんをかわいがる。

そのかわり、あたしのことはどんどん、きらいになっていくみたいだった。


おとうさんはできるだけあたしを見ないようにしていたし、じっさい、見えていないみたいにあたしにはなしかけない。

おかあさんは、おとうさんがいる時はしないけれど、いない時は、あたしをひどくぶったり、けったりする。


あたしはおかあさんがこわくてしかたない。


だからできるだけ、おかあさんのきげんをそこねないように、いい子にしているつもりだ。


でもおかあさんは、あたしがなにをしてもきにいらないみたいだった。


へんじのしかたがわるい。

うごきがおそい。

こえがちいさい。

なよなよするな。

なくなうっとうしい。

なまいきなたいどをとりやがって。


おかあさんのことばはきたなくて、とがったナイフみたいで、おそろしい。


むねのおくにひんやりとした水がながれるみたいで、なぐられるよりかなしかった。


真ちゃんのおそうしきの日、くろいふくをきたおかあさんが、つかれきったかおで、あたしにいった。



お前が死ねば良かったのに。

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