―はじまりの日―
待ち合わせに現れたその人は、なんというか、想像どおりだった。
「はじめまして。もう会ってくれるなんて驚いたよ」
男の人というものが総じてそうであるように、なかなか目を合わさない。
服装は清潔感があって、まあ、可もなく不可もなかった。濃いめのジーンズに、オフホワイトのざっくりとした薄手のセーター。足元の革靴が、先が尖っていてちょっとお洒落かもしれない。なんとなく、野暮ったい感じではあるけれども。「暇だったので」
私はあくまでさらりと返す。初めからあまり気をもたせるような言動をすると、十中八九、後の雲行きが怪しくなる。それがこの数回で学んだことだった。
「どうぞ、乗って」助手席を開けてくれる。プラス20ポイント。車は白いバンだった。詳しくないので車種はわからない。一人で乗るには大きいのではないだろうか。
そう思っていると、無駄に大きいでしょう、と男性が運転席に座りながら言う。
「男友達とね、よく何人かで出かけるんだ、いきなり思い立って夜の漁港とか、四国にうどん食べに行ったりとか。便利なんで買っちゃった」
「楽しそうですね」「でもなあ、やっぱり助手席に野郎っていうのはさ、気持ちが萎えるでしょ。やっぱり女性に乗ってもらわないと」
そこで、不自然に一瞬、こちらを見る。
私は曖昧に笑って、その視線を受け流した。今気付いたが、少し頭髪が薄いかもしれない。そんなところにぼんやりと目が行く。
「どこに行くんですか?」
空気を変えるべく、シートベルトをしながら聞く。
「オススメのティーサロンがあるんだ。まずはお茶をして、その後ごはんを食べに行きましょう」
「いいですね」
お茶してごはんか…。結構長丁場だな。いつもの常で、私はもう会って10分ほどで帰りたくなり始めている。相手の問題と言うより、これは私のほうに問題があるのだろう。いつも、会う前からすでに、テンションが下がっていくのだ。きっと今回も、びびっと来ることはなくて、可もなく不可もないか、もしくは、やや生理的に受け付けなかったり、金持ち特有の傲慢さが見えたり、話が自分のことばかりだったり、一人で酔って盛り上がって、ベタベタ触ってきたりするのだろう。
今までのことを思い出し、気持ちが萎えていくのだ。
自分から来ておいて、全く勝手だ。
会って数分の、見知らぬ男の、車に乗る。そのたび、果たして無事帰れるかしらと、どこか子供じみた好奇心で、私は思う。