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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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ホラー

人形の恩返し

作者: 豆狸
掲載日:2026/05/02

「ふ、復讐ね? アンタ、アタクシに復讐する気なんでしょッ!」


 豪邸の片隅で、震えながら女は叫んだ。

 生まれてこの方、女は苦労をしたことがない。

 富豪の一族に生まれ、周囲に(かしず)かれて生きてきた。


 悪事を働いても財力と権力で許されてきた女が唯一怖いもの、それが眼前に立って……這っていた。

 人形だ。

 女の家に代々受け継がれてきた人形で、絶対に捨ててはいけないと教えられてきた。


 だが、女は物心ついたころからずっとこの人形が怖かった。

 だから、祖父母や両親を喪い、自分が当主となった途端に捨て去ろうとした。

 なのに人形は還ってきた。どんなに遠くに捨てても、どんなに険しいところに捨てても。


 頭も胴体も壊せなかった。おまけにこの人形、夜ごとに髪が伸びて手足を震わせるのだ。


 ──それは、まったくの偶然だった。

 いつものように伸びた髪を目の当たりにした女は、恐怖のあまりその髪を引き千切ってしまったのだ。

 どんなに切っても伸びてきた髪は、女の手で引き千切ると、もう生えてもこなかった。


(ああ、あのときは嬉しかったわ……)


 人形の髪を抜き取った女は、同じように自分の手でおこなえば四肢も奪えることに気づいた。

 頭や胴と違って自然再生することもないし、外したものが勝手に戻ることもない。

 女は髪を抜き四肢を奪った人形を箱に封じた。


(それで終わりだと思ったのに……)


 六月六日の六時。


 ここは日本だというのに、みっつの『六』が揃った時間に人形は現れた。

 顔を上げて作り物の眼球に女を映し、這い寄ってくる。

 気のせいかもしれないが、とてつもない威圧を感じて恐ろしい。いや、人形に這い寄られて恐ろしくないはずがない。


「悪かったわ、謝る! 謝るからッ」


 女が叫ぶと、人形からの威圧が強まった。


「あああぁぁあああああぁぁぁッ!」


 目に見えない威圧は空気の塊となって、女の両肩を外した。

 両腕は皮膚一枚でつながっているものの、いずれは限界が来るだろうとわかる。

 女は、肩を外した空気の塊が自分の髪を掴んだことに気づいた。


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 人形は、人形の中にいるものは、女に()()をしていた。

 女の家は憑き物筋だった。

 人でないものにわざと憑かれることで財を得ていた一族だ。本当は財には代償がいるのだが、女の一族は人でないものを人形に封じることで上手くやっていた。


 人形の中にいるものは、長い年月を経るうちに自分がなんなのかも忘れていた。

 この器は違う、そうわかっているのに答えが思い出せない。

 自分がなにか確信出来ないから、一族に憑いて財を与え続けることしか出来なかった。


 今はわかっている。


 人形の中にいるものは『蛇』。

 髪もなく四肢もなく這いずる蛇だ。

 自分は神に等しい力を持っている。


 蛇を人形に封じた女の先祖は、おそらく神を制御する巫女の力を持っていたのだろう。

 女はきっと先祖返りだ。

 わからぬままに蛇の真の姿を察し、神を制御するとともに従い敬う巫女の本質のままに元へ戻してくれたのだ。


 真の姿に戻って、蛇は解放された。

 女には感謝の気持ちしかない。

 だから恩返しをしている。この世で最も美しく、素晴らしい蛇の姿にしてやるのだ。


 愚かな人間には、それが理解出来ないかもしれないけれど。

 先ほど本人が言っていたように、復讐されていると思っているのかもしれないけれど。

 そんな些末なことは蛇には関係ない。


「あぁぁぁああッ」


 女の皮膚が持ち堪えられる限界を迎えて、両腕が落ちた。

 彼女の髪はもうない。

 次は足だ。女の体が乗っているので重くて面倒だが、解放されて少しずつ強まってきた今の蛇の力なら引き千切れる。(へび)を表す六の数字(言霊)も、今日の蛇を後押ししてくれている。


 ──進化の過程で、蛇がどうして四肢を捨てたのかは、今もまだわかっていない。


<終>

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