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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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92 Operation : Giant Killing「特異点」

「Operation : Giant Killing」

央暦1970年3月13日

京 田辺港上空

葦原政府空軍先進開発実験隊『神機隊』

川端“ロック”六助大尉(だいい)


《警告する! こちら第四艦隊越前! 本艦は戦闘状態にあり、敵と交戦中!

接近の意図を告げなければ攻撃する!》


 田辺港に接近したその時、通信機からそのような警告が響いた。

 話には聞いていたけれど、どうやら彼らは本当に司令部の意に反して行動しているらしい。


「ロック。あいつら、主砲をこっちに向けた。撃ってくるよ」


 後席の彼女が、僕の頭に向けて囁いた。

 流れ込む声に混じって、彼女の()ている光景が脳裏に浮かび上がる。


 遠い田辺港に停泊している戦艦越前。

 後ろの砲塔が空母からこちらを向き始めている。


 なぜ政府は、幕府の連中を擁護するのか。

 僕も彼らと同じ疑問は持っているが、葦原を統制の取れない野蛮人と思われるのは我慢出来なかった。


 葦原人は変わった。

 幕府のような旧い野蛮人ではなく、文明的な先進国の人間へと生まれ変わった。


 それを理解出来ない以上、武力で壊そうとする以上。

 政府の、僕の敵だった。


「オッケー。こちら先進開発実験隊!

越前の反逆者に告ぐ、お前たちは命令から逸脱して客人に銃を向けた!

よってこの場で処刑する! これは帝からの命である!」


 本当に帝の命なのかは、正直どうでもいい。

 今はあの蒼い機体に手を出せない怒りを、何かにぶつけたかった。

 遠い夷俘島に引きこもっている、あの怨敵にある怒りを。


《……間違いありません。艦長、敵は単機!

繰り返します、敵は単機!》


《馬鹿な……! あの腑抜け共っ、神機隊を死地へ追いやるつもりか⁉》


「まさか、ボクたちだけで十分なだけだ!」


 恐らく暗号化されているであろう交信に、彼女は割って入った。


《……通信回線を見直せ、盗聴されている!》


「無駄だよ! 旧人類(おまえら)程度に、邪魔なんか出来ない!」


 彼女は、強化人間というものらしい。

 技術によって強化された、後付けのサトリ。

 その中でも、一握りしかいない適合率の持ち主。


 なかでも彼女の思念は驚くほど遠くまで飛び、触れて、視ることが出来る。

 その能力は、魔力を介して発信される通信にすら及んでいた。

 暗号化される以前の発信に触れているのだから、隠しても無意味なのだ。


《強化人間……! 対空戦闘用意!

三番砲塔、照準はじめ!》


《艦長っ⁈ 相手は単機、過剰戦力です!》


《人工サトリと神機隊が手を組んだ! そのくらいは要る!

奴らを排除し、次に世界博覧会を壊す!》


「さあ、ロック! 三式弾が来るよ!」


 彼女の視界と分析が機体を介して僕へ流れ込み、僕の視界(せかい)で組み上げられていく。

 遠い地平線から砲弾が飛来し、このままでは目前で炸裂する。


 三式弾の炸裂を悠長にかわしていたら、向こうは準備を終えてしまう。


「ろ、ロック……?」


 だから、あえて突っ込む。


「待てロック! だからって危険を冒すな! 待っ……!」


打ち(チィ)方はじめ!》


 発砲。

 彼女の感応とほぼ同時に、機体が衝撃波で揺れた。


 最大出力、高度を下げて速度に変換。


「ああ、こいつっ……! 着弾まで3秒っ!」


 大丈夫、当たらない。

 彼女が投影した危険範囲、その下を沿うように背面飛行し。


「弾着っ」


 その分析は、未来予知に近いものがあった。

 炸裂によって生じる衝撃波の最も弱い場所を貫き、空を切る破片の隙間を縫う。


 衝撃が与えた飛行への影響は最小限に留まり、破片も小さく勢いの弱いものがパラパラと機体下面に弾かれるに留まった。

 もちろん、エアインテークの吸い込みも考慮済みだ。


《弾着! ……目標、健在ッ⁈》


《馬鹿な、至近弾だぞっ⁈》


《真っすぐこちらへ向かってきます!》


《神機隊……! 幸利戦争の英雄ッ……!》


 その名前は、僕へ向けられるべきではない。

 戦艦越前の艦影を目視出来るほどまで距離を縮めた僕は、高度を下げて田辺の街上空を飛行した。


《うわっ、なんだっ⁈》


《今度は戦闘機⁉ また戦争が始まったのか⁈》


 彼女を介して、下の人々の思念が入り込む。

 騒がせるのは申し訳ないが、命令のためだから仕方がない。


《見えてきたっ! 本当に単機なのかっ⁈》


《相手は神機隊だ、油断するな!》


「それだけじゃない、最強(ボク)込みだ!」


 越前が搭載している対空兵器。

 旧式の手動照準の高角砲や機銃、それにレーダー照準の機関砲。

 艦載ミサイルは発射準備中、まだ脅威ではない。


 最初に潰すなら、レーダーだ。

 市街地を抜けて港を飛び越し、海面を割るような低空飛行に移る。


 それと共に、越前は背後の街を気にしない砲火を始めた。

 人の意思が介在する狙いは、彼女の感応に触れる。


 越前の兵器から赤い線が伸びて、僕らを狙い始めた。

 その赤い線は、乗組員が持つ殺意。

 線を避けさえすれば、当たることはない。


 曳光弾や砲弾の炸裂を回避し、距離を縮める。


《なんだっ、一発も当たらないっ⁈》


《何の冗談だ、1000発は撃ってるのにっ!》


「ロック、そろそろいいタイミングだよ!」


 同感だ。

 主翼にぶら下げている爆弾のロックを解除し、投下ボタンに指を掛けた。


 回避のために傾けていた機体を一瞬だけ水平維持させて。

 速度に乗せて、海面に向けて投下した。


 反跳爆撃(スキップボミング)

 石を水切りさせる要領で、艦艇の喫水下や構造物を狙う対艦爆撃法だ。


《敵機から兵装が脱落!》


《いや違うっ、あの爆弾に全火力を投射!》


 いくら戦艦の火力とはいえ、爆弾を迎撃するには運がいる。

 彼らはその運に恵まれなかった。


 熱源を追尾するミサイル、陽光2つに火を入れ、目前の熱源を捕捉させる。

 狙いは景気良く撃ちまくっている中でも、動きのいい対空砲の砲口。

 僕は迷いなく全弾を発射した。


 ミサイルは僕の狙った通りの対空砲へ向かい、炸裂。

 ひとつは砲口内部に飛び込んで爆散させ、もうひとつは直前で迎撃されたが、爆発が敵の視界を塞いだ。


 機体を傾けて迎撃を回避しつつ旋回。

 30ミリ機関砲に操作を切り替えて、レーダー類の立ち並ぶ前艦橋の頂部に照準を合わせた。


 発砲すると、繊細な電探の部品が跳ねて、脱落していった。

 これで機械の照準は沈黙し、人の殺意だけが残る。

 落ちていく電子部品とは真逆に、垂直に上昇していく。


「ぐぅっ……だから、その速度でやる上昇じゃないだろ……ッ!」


 なら、打たれて死ぬだけだ。


《艦対空誘導弾、発射準備完了っ》


《とにかく打ち上げろ! 不発でもいいッ!》


 その頃、投下して海面を跳ねていた爆弾が後艦橋に突き刺さった。

 後艦橋には、ミサイルを誘導するためのイルミネーターが建っている。

 前方の構造物と比べて装甲の薄い後艦橋は攻撃を受けると扉という扉、接合の甘い部分から爆炎を吐き出した。


 誘導装置もまた、接合の甘い部分だ。

 爆炎をもろに受けた電子機器は吹き飛び、真上に打ち上げられてから海面に落下した。


 しかし、SAMの打ち上げは始まっていた。

 垂直に上昇し、僕の背後に迫る。


《よしっ、直撃するッ!》


「ロック!」


 わかってる。

 僕たちが乗る機体、カイト(KITE)は普通の固定翼機じゃない。


 胴体脇に備えた特殊なエンジンによって、垂直離着陸を可能としたVTOL機。

 その副産物で、カイトは推力偏向が可能だった。


 エンジン角度を思念で(・・・)下98度に設定し、最大出力。

 越前から見て、カイトは真上を向きながらスライド移動したように見えただろう。


《目標健在ッ! 命中せず!》


《なんだあの機動は⁈》


 推力を偏向すれば、前進する推力がなくなるのは当然。

 真上を向いていればなおのことだ。


 前方の速度は瞬時になくなり、機体は失速状態に陥る。

 今度はピッチアップと共にエンジン角度を0度に戻し、機首に軸を持つかのように回転させた。

 推力偏向を最大限に活用した、新次元の機動だ。


 僕の目前には、重油と魔力を燃やす越前の煙突があった。

 煙突の最奥にあるのは、艦を動かす動力源。

 可燃性の塊であるボイラーと魔力炉だ。


「爆弾投下!」


 もう一発の爆弾を投下し、エンジン角度を下げる。

 0度のまま旋回すれば、切り離した爆弾と主翼が衝突してしまうためだ。


 重力に惹かれるまま爆弾は真っすぐ落下して。

 煙突の中に吸い込まれて行った。


「ボクの誘導に!」


 彼女が越前の対空火器の狙いを分析し、最適な離脱ルートを浮かべてくれた。

 導く光に沿うように飛行し、曳光弾をかわす。


 数秒後。

 越前の中心部で大爆発が起こり、船体が竜骨ごと真っ二つに割れた。


《なっ、なんなんだあいつはぁっ》


《お、落ちるっ落ちるぅっ》


《いたい、いたいっ》


《いやだっ、だから俺は嫌だったのにぃっ》


《あ、あり得んッ……俺が、葦原をっ……》


「……じゃあね、旧人類」


 沈みゆく越前から、乗組員たちの絶叫が響く。

 事情があろうとも、敵となった以上こうなることは避けられない。


「粛清完了。ロック、お疲れ」


 僕は彼女に見えるように、拳を掲げた。


《あの戦闘機、たった5分で播磨型一隻沈めよった!》


《海軍力の象徴が……たった1機の戦闘機に……!》


《あんなのがいるのに、どうして夷俘島を攻め落とせなかったんだ⁈》


 そんなの、司令部が命令を下さないからに決まっている。

 命令さえあれば僕はあのクソ田舎で猿山の大将をやっている蒼い機体をいつだって叩き落としたっていいんだあの怨敵善き人々を殺した殺人鬼を完膚なきまで叩き潰して葦原を正常な状態に戻して平和を


「ロック! その辺にして、うるさいから」


 ……そうしよう。

 僕たちの存在は秘密なんだ。

 おいそれと、表舞台に介入してはならない。


「そーゆーこと……っと。下の無能ども、なんか言うみたいだ」


《こ、こちら第四艦隊司令。神機隊へっ、我々は戦艦越前の乱心とは無関係だっ》


「こちら紅9、どーでもいい。言い訳は上の人にしてね。

以上、交信終了」


 彼女が後席に座るようになってから、口を開く手間がなくなって助かる。


「ロック。お前さ、ボクの事スピーカーか何かだと思ってない?」


 ありがたい。

 僕が抱くこの感情は本物だ。


「だから腹立つんだよなぁ、お前」


 とにかく、今回の仕事はこれで終わりだ。

 基地へ戻ろう。


「……わかったよ。こちら先進開発実験隊、長坂ATC、着陸許可求む」


「こちら長坂ATC、損傷を受けた機体が緊急着陸を実施中!

悪いが、よそで着陸してくれ! しばらくは無理だ!」


「はぁ? ……せっかく新富原(にゅうとみはら)から来たってのに」


 非常事態ならば仕方がない。

 大蛇山(おろちやま)には海軍の飛行場がある、騒ぎが収まるまであそこの世話になろう。


「で、飛行士様は通信しないわけだ。

はいはい、最強のボクは通信だってやれるんだよ。もっと色々出来るけど……

こちら葦原空軍先進開発実験隊。

大蛇山ATC、長坂着陸不能につきそちらでの着陸を求む、どうぞ」


 機体を西に向けながらも、意識は真反対の東にあった。

 ずっとあの方向から感じる、妙な気配。


 あいつに似ている、何かを感じた。

次回の更新は水曜19時となります

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