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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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86 世博護送作戦「Mind Seeker」

央暦1970年2月20日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


『大和幕府、長坂世博に参加決定!』


 ボスが読む新聞の一面には、堂々とその一文が掲載されていた。

 開会式を間近に控えた世界博覧会だが、この開会式には葦原政府軍と大和幕府軍の両勢力が展示飛行を行う事が決まっていた。


 幕府空軍から参加するのは、彰義隊のペンギン中隊。

 すなわち、ついにチェイスに展示飛行を行う機会がやって来てしまったのだ。


「はぁ。世博の運営にどれだけ苦情が来るかな?」


「わからないじゃないか。

もしかしたら、賞賛で電話口がパンクするかもしれないだろ?」


 ボスの独り言に良介が答えると───

 ペンギン中隊の面々から凄い目で睨まれてしまった。


「良介さん。本気で仰ってます?」


「良介。冗談も大概にしろ」


「はい、3対1で俺の勝ち」


 と、僚機(ウィングマン)の面々にボロクソに言われ。

 良介は隊長らしからぬ姿勢で縮こまった。


「皆、揃っているな」


 と、ここで幕府空軍総裁の宗治郎が作戦室に姿を現した。

 良介を除くペンギンの面々が起立して彼を迎える。


「皆、楽にしてくれていい。隊長のようにな」


「こいつを基準にしたら軍紀壊れるぞ」


 ボスは愚痴を呟きつつも、皆が着席し。

 プロジェクターに葦原の地図が投影された。


「先に通達されたように、貴官らペンギン中隊は世界博覧会開会式において、

展示飛行を執り行う栄誉を春川親王殿下より賜った。

もちろんこの展示飛行の演目も決める必要があるが……

その前に、現地への移動がある」


「何か、現地に問題でもあるの?」


 現在、葦原の幕府・政府の両勢力は停戦状態にあり、破られる様子はない。

 危険度は低く思えるが、やはり戦争を続けたいと思う勢力は、世博のような大舞台を狙いにするだろう。


 戦争を続けたいと思う勢力は、ベルカのような第三国の訳わからん規模の秘密結社とは限らない。

 交戦当事国の軍隊にいる、派閥の可能性も考えねばならない。


「葦原政府を名乗る賊軍だが、首脳部は世界博覧会について

滞りなく進めたいと考えている。

しかし……軍の一部勢力に、不穏な動きがあるという情報がある」


 葦原の地図が拡大され、葦原本州中央よりやや西の───

 つまり、京の西部を注視していた。


 京の北西沿岸部には軍港があり、そこでは政府海軍の戦艦を含む艦隊が停泊している。


田辺(たなべ)港には世博護衛のため編成された、政府海軍第四艦隊が停泊中だ。

この艦隊については問題ないが、予定航路上にある……ここだ」


 指示棒で宗治郎が指したのは、田辺港南南東に広がる森林地帯であった。

 地図上では嵯峨野(さがの)と書かれている。


「嵯峨野一帯は帝ご一族の禁野(きんや)……

つまり、帝の血縁者以外の狩りを禁じている。いわば私有地だ。

元来、この一帯は軍の展開が予定されていない地点だが……

どういうわけか、上層部に断りもなく空軍高射部隊が出入りを繰り返している」


「禁野に部隊を⁈ なんと無礼な!」


 空知竜司こと、空知ゆきが憤慨した。


 良介にはあまりピンとこない話だが───

 権威が持つ私有地に、権威の犬でなければならない軍が勝手に出入りしている。

 それも、停戦中の相手要人が上空を通過する場所だ。


 まさか今のご時世に、こっそり密猟をしている訳でもあるまい。

 狩りのための下見をしている、と見るのが妥当だろう。


「ねえ。念のために聞くけど、その上層部は止めてるんだよね?」


「そう聞いている。

しかし現場は世界博覧会でのテロ対策を名目に、言う事を聞かないらしい」


「幕府も政府も、軍の統制取れてないじゃないか」


「まったくもって、耳の痛い話だ」


 とはいえ、なにもそんな危険地帯を通る必要はない。

 燃費的に効率の良い航路は嵯峨野上空を通過する必要があるのだろうが、空は広い。

 迂回して、別方向から長坂へ向かえばいいのだ。


「で、迂回路を選ばない理由は?」


「似たような話が、長坂周辺で幾つもある。

……再び身内の問題ですまないが、

奥葦原に展開している幕府陸軍高射部隊においても、不審な動きが見受けられる」


「どいつもこいつもさぁ……」


「故に帝の禁野という、攻撃を留まる理由のある嵯峨野上空を

通る航路が最も安全だと、我々空軍司令部は判断した」


 もし相手が権威の事を考えているのならば、踏みとどまる理由になるだろう。

 しかしどうも、良介にはあまり意味がないように思えてならなかった。


「それじゃあさ、高高度を最高速度でぶっちぎって長坂に近づくのはどう?」


「残念ながらこの移動では、諸君らペンギン隊は護衛だ。

あちらの機体に、そのような無体は不可能だ」


「護衛?」


 スライドが切り替わり、輸送機であるヤ-11が投影された。

 この機体は葦原で普及している中型輸送機であり、これをベースに爆撃機や電子戦機などが造られている。


 もちろん旅客機の民間仕様もあるのだが───

 スクリーンに映し出されたその機体は、独特で見覚えのない塗装をしていた。


「この機体……!」


「そういう事だ」


 ゆきが戦慄したところに、宗治郎が肯定した。

 盛り上がっているところ恐縮だが、良介にはサッパリだった。


「竜司ちゃん、どういう事?」


「わ、私の口からは、畏れ多くて……」


 この動揺から、権威の匂いを感じた。

 どうやら、再び彼と空で出会う事になりそうだった。


「オッケー、そういう事なら触らないでおくよ。

確かに、こいつで高高度を高速で突破するのは無理だな」


「うむ。今回は俺が航路を先行して安全を確認するが、何が起こるかわからん。

警戒を厳にして、移動に臨んでほしい」


 改めて、攻撃が懸念される地域───仮に、作戦区域(AO)としよう。


 AOは野と呼ばれるだけあって、傾斜は少ないが森林がとても深い。

 地図を見るに車道は整備されているが、森の木々に遮られていて上空から通行中の車両を目視するのは困難に見えた。


「この森じゃ、レーダー車両を置くのは難しそうだな。

SAMも垂直発射出来なきゃ、木にぶち当たるんじゃない?」


「ああ。だが、悪い情報は揃ってる。

最悪の可能性は考慮した方がいい」


 ボスの言う通りだ。

 内戦で極まった連中が、それも対空兵器を扱う部隊が現地に出入りしているのだ。

 それも、上の命令に反して。


 下見をして無理だと判断したのなら、御の字。

 しかし何らかの手段で攻撃方法を確立したのなら、戦いは避けられない。


 何せ相手は、上の命令より自分の目的という手合いだ。

 常識外れの手段をやりかねないのだから。


「攻撃を受けた場合、味方の増援は?」


「そこは当然、我が幕府の支配圏から遠く離れている。

政府側が援護を寄越すと言っているが、アテにしないほうがいい」


「味方のフリして後ろに回られちゃ困るからね」


 少なくとも、良介をはじめとしたペンギン隊は幕府のプロパガンダに利用されている。

 加えて、戦果の方も幕府軍で最も挙げている事実がある。


 戦果を挙げているということは、その分殺しているということだ。

 部隊が従っていても、個人の感情がどう暴走するか。

 やはり、素直に政府側の人間を信じるのは難しかった。


「となると……この、田辺港の艦隊は脅威ではない?」


「間には山がある。どの誘導弾も、誘導すること叶わん。

戦艦ならば主砲の射程圏内だが……

もしその気になっても、禁野に三式弾を(めくら)撃ちしない

理性がある事を祈ろう」


 もし、港からAOに主砲を撃ち込むとしよう。

 砲弾は弧を描いて飛翔するため、理論上は山を越えて着弾させることは出来る。


 まだ、通常兵器の範疇にある対空砲弾なら、よくないがいい。

 問題は三式弾、魔力を炸裂させる広域破壊兵器だ。

 あんなものが飛んできたら、とんでもないことだ。


「三式弾って、魔力を爆発させるんだろ?

……人間が、命を懸けて。そんなの本当に量産出来るの?」


「うん?」


「うん?」


 おっと、どうやらまた認識の齟齬があったらしい。

 宗治郎は珍しく、目を丸くしてらしくない声を漏らした。


「良介……それは古い迷信というものだ」


 混乱しているふたりを見かねたのか、こう見えて魔法・魔術の知識があるあくりが補足した。


「確かに古い時代、強い魔力を持つ者が命を捧げることで

多くを破壊する兵器を作った。

しかし今の時代では、そこまでの無理は不要だ。

輸血用の血を捧げる程度の労力で作れる」


「……つまり、命懸けって訳じゃなくて。400ml献血するくらいか」


「ああ。その理解で構わない」


 大量製造するのは、無理をすれば不可能ではないが厳しいという具合だ。

 技術の進歩が、確実な生贄から事故が起き得る程度に安全性を高めたわけだ。


 はてさて、最初に命をどうたらこうだと言い出したのは、誰なのかしら?

 良介は視線をゆきにやった。


「あっ……も、申し訳ございません。

母から、そう聞いていたので」


「うーん。そう聞くと責めづらいな……」


 もっとも、夷俘島は発展から遠い位置にある辺境だ。

 さらには兵器の製造方法なんぞを事細かに理解しているのは、マニアやオタクばかり。

 本職でさえ、運用に関係なければ知らない人間の方が多いのだ。


 情報化社会に届いていない葦原では未だ、こういった迷信が渦巻いているのだろう。


「そういうわけで、我が幕府軍も三式弾を運用……

というより、開発したのが我が幕府軍だ。

安っぽい悪役の如き扱いは、控えてもらいたいな」


「え、そうなの?」


「うむ。魔力を用いた爆薬の研究自体はユーロネシアからの伝来だが、

三式弾ほどの高出力かつ、安全な魔力抽出は幕府が金を出した研究の成果だ」


 どうやら葦原は、既存の技術をベースに発展させるのが得意な地域らしい。

 どこかで聞いたことがあるが、それは置いておこう。


「……つまり、だ。最悪三式弾撃ち込まれる覚悟をしてくださいってことか」


「禁野に加えて、東には京がある。

そこまで理性を失っていると思いたくはないが……」


 それでも、最悪は想定しなくてはならない。

 これ以上の最悪は政府軍全体の敵対だが───

 言ってもせんなき事、単なるヘイトスピーチだろう。


「移動に際して、武装は控えるよう政府側から通達があったが……

俺の権限で、最低限の武装を許す」


「というと?」


「機関砲の装填、対空誘導弾。それに、外付け機関砲(ガンポッド)だ。

爆弾や噴進(ロケット)弾は、流石に無理だ」


 平和の祭典で護衛という名目なのだ。

 そこへ地面を燃やす気満々の装備で臨むわけにもいくまい。

 ここは、妥協するべきだろう。


「オッケー、最低限の武装でなんとかするよ」


「うむ。その他、質問のある者は?」


 良介が散々口を挟んだおかげで、疑問が出て来ることはなかった。

 宗治郎はペンギン隊の面々を見渡すと、深く頷いた。


「何もないのが最良だが……各位、最悪を想定して任務に臨むように。

以上、解散!」


 赫助と司令要員を伴って、宗治郎が退室する───

 その直前、宗治郎は立ち止まると良介を振り返った。


「志村二尉。此度の護衛、よろしく頼むぞ」


「……気に入らなくても、護衛目標撃ち落すほど、俺も腐っちゃいないよ」


「わかっているさ。俺は貴官の良識を疑った事はない。

それでも……頼んだ」


 どうも、今回護衛する要人は宗治郎と親しい人間らしい。

 この様子なら恐らく、将軍の地位と首都での暮らしを捨ててまで守りたかった実の弟。

 大和利信将軍も含まれているのだろう。


───ちぇっ。他人の上司を人質にするくせに、弟は大切なんだな。


 むしろ、大切だからこそボスを人質にした。

 そこまでして幕府を勝たせ、弟を死なせないようにしたかったのだろう。


 肉親のいない良介には、到底わからない感情だが───

 大切な人を守るためには何でもする、という心境はわからんでもない。


 もっとも、だからといってあらゆる命令に従順になる必要はないが。


 今度こそ、宗治郎の退室を確認し───

 良介は世界一危険な移動に臨むウィングマンを振り返った。


「よーし。みんな、準備に取り掛かろう」


「はい」


「ああ……!」


「その前に、良介。お前こそ準備しなきゃだめだろ」


「え?」


 思いがけないボスの言葉に、良介は素っ頓狂な声を上げた。


「お前なぁ……アーロン女史に呼ばれてるんだろ?

F-2の件で!」


「……あっ」


 そうだ。

 例に漏れず今回も唐突に作戦会議の招集が行われ、従来の予定を先送りにしていたのだ。

 その従来の予定こそ、エラからの呼び出し。


 地上まで連れ帰ったもののボロボロになっていた565号機と、撃墜されたボスの568号機の生きている部品を組み合わせ。

 さらに、この世界の技術である錬金術も組み合わさり。


 F-2の修復とアップグレードが完了したのだ。


「危ない危ない、すっかり忘れてたぞ」


「まったく締まらねぇな……行ってこい!」


「良介。模擬戦ならばいつでも相手をしよう」


「良介さん、いってらっしゃい」


 作戦室から送り出すウィングマン達に、良介は手を振って返答した。

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