表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/96

84 世博護送作戦「Mind Seeker」

央暦1969年12月31日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


「……70年代かぁ」


 異世界で過ごす大晦日の深夜。

 帰るべき故郷のない良介は格納庫の片隅でボーッとしていた。


「なんだ、良介。こんなところでボヤッとしやがって」


 そこで声を掛けてきたのは機付長だった。

 整備隊のジャンパーを羽織った彼が、診るべき機体もないのに職場へ来るとは。


「そっちこそ、なんでこんなところに?

他の奴らみたいに、家に帰ったりしないの?」


 最前線から遠く離れた、田舎の基地。

 内戦が起こる前は、斗米基地は最前とは程遠い場所だったのだ。


 この停戦で本来の姿を取り戻しつつあった基地の人員は大多数が帰郷し、年越しを家族と過ごしていた。

 戦闘機乗りも大多数が帰郷しており、ペンギン隊ではあくりも真田藩の行事で帰郷していた。


「俺の故郷は東国地方の土屋(つちや)藩……賊軍の勢力圏ど真ん中だよ」


「ごめん……」


「気にすんな」


 機付長は幕府軍に少なからずいる、帰りたくても帰れないうちのひとりだったわけだ。

 停戦協定では、両勢力の通行を許可しないというルールがあった。

 例え一個人の帰郷だとしても、侵入すれば協定違反。


 家に帰るだけで最悪銃殺刑もあり得るのだから、内戦下という情勢は恐ろしい。

 停戦協定違反は、相手側にどのような口実を与えるかわからない。


 というわけで、幕府軍では境界を越える帰郷の一切を禁じていた。

 違反者が発覚して、政治的な問題を引き起こさないことを願うばかりである。


「で、機付長はなんでここに?」


「別に、部屋に戻ったところで面白い事もねぇしなぁ。

若ぇ衆も大体が帰っちまうし、居残り組も俺がいると窮屈だろうしな」


 そう言って、機付長は煙草に火を点した。

 ふたりの傍らには「これがあるからいいだろ」と言わんばかりに、水の溜まった赤い缶───煙缶が地べたに置かれている。

 こんもりと盛り上がった吸い殻の山を見るに、幕府勢力下でも煙草の供給が増えた事が伺える。


 1969年の喫煙倫理はこのレベルである。


「……良介。やっぱり故郷は恋しいか?」


 突如、機付長はそう尋ねた。


「急に優しくならないでよ、気色悪いな……

ま、恋しいよ。うちのチビ共も気になるしさ」


「お前、妻子持ちでアレだったのか⁉」


「いや違うって。俺は施設育ちだから、その施設のチビ共のことだよ」


「な、なんだ。ビックリした……」


「他人をなんだと思ってるんだ、まったく」


 恐らく、正当な評価だろう。

 家庭を持つ男がそこら中でナンパをしていれば、驚いて当然だ。

 良介がもし妻子を持てたとして、ナンパをしていても不思議ではないが。


「……機付長は、故郷に家族が?」


「ああ、妻子がいて……状況がわからん」


「……無事だといいな」


「賊軍も俺のような下っ端の家族なんざ、手ぇ出さねえだろうさ。

うちのカミさんも、ヤワな作りじゃねぇしな」


 威勢のいい言葉だったが、そう語る彼の表情には寂しさと不安が浮かんでいた。

 虚勢を張ってもやはり、心配なのだろう。


「お子さんはいくつ? 男? 女?」


「教えない。ぜぇったいに」


「どうして? いいじゃないか、年くらい」


「ぜぇったいに教えない」


 その態度が、ある種の答えである。

 勝手に把握した良介は再び、雪の降る滑走路へ視線をやった。


「良介よぉ。そういや、お前の上司はどうしたよ」


「ボスなら、宗治郎のおっさんと話があるみたいだぜ」


 はてさて、マブダチ(死語を通り越して死後)のふたりはコソコソと何をしているのやら。

 どうせ真面目な話なのだろうなと思っていると───


 機付長が半分以上も残っている煙草を煙缶に放り込んだ。


「寒ぃ。若ぇ衆から酒タカるわ」


「ああ、頑張って」


 足音が遠ざかっていき───別の足音が迫ってきた。

 機付長にしては小柄な気配だ、別人に違いない。

 それはそれとして、悪意のある様子もなく。


 その人物は、良介の横に並んだ。


「どうも、志村殿……」


「竜司ちゃんか」


 彼女は帰省ラッシュにある斗米基地の中で、当直に志願した数少ないひとりだ。

 それもそのはず、彼女の故郷は夷俘島の屋岸───

 そして、被差別集落となる無頼集落なのだ。


 中でも彼女の家はその無頼集落でも肩身が狭かったようで、地域との繋がりが薄かった。

 なにより、その地域には肉親もいない。


 空知竜司には、幕府軍(しごと)しかないのだ。

 そういう意味では、幕府軍にしか居場所がない良介と近いのかもしれない。


 なんにせよ、竜司の帰郷について尋ねるのはよろしくない。

 唯一の肉親を失った彼女の傷に触れてしまうことだろう。


「志村殿は……煙草を吸いに?」


「いや、とっくの昔にやめたよ。暇だからボーッとしてるだけ」


 紫煙の代わりに、口から白い吐息を漏らし。

 ふたりはしばらく会話を交わすこともなく、雪景色の滑走路を眺めた。


 しかし、黙ってばかりではナンパ野郎が(すた)る。

 別にそんなもん廃ってもいいのだが、良介は口を開いた。


「竜司ちゃん。あの……サトリ特有の症状、もう出てないよね?」


 死者の魂が引っかかる(・・・・・)

 これによって幻覚のような症状が起こり、精神に傷をつけてしまうらしい。


 良介には知りようのない傷が、竜司に起こっていたのだ。


「はい、もう平気です。あの節は、ご心配をお掛けしました」


「俺はサトリじゃないから、どうしても知ることが出来ないしさ……

不安があったら言ってよ」


「問題ありません。起きたところで、何も出来ないとわかりましたので」


 果たして、その理解は問題ないの範疇なのだろうか?

 人として大事な何かを捨てているような気がしてならなかったが───

 今は、彼女の健康が第一だ。


「それは、よかったよ」


「はい。志村殿のお手間は取らせません」


 うんうん、上司としていい感じのコミュニケーションではないか。

 そのくらいにして、よき上司としての印象を───


「ところで竜司ちゃん。

いい加減、俺の事は志村殿なんて他人行儀じゃなくてさ……

下の名前で呼んでくれたっていいんだぜ?」


 ほら、お前は少し褒めると調子に乗る。

 名前の呼び方や距離感など、個人差があるものだ。

 無理矢理距離を縮めて、セクハラになるぞ?


「で、ですが……」


「いいじゃないか。ペンギンで俺に他人行儀なの、竜司ちゃんくらいだぜ?」


 むぅ、そう悪い印象はなさそうだ。

 この世界で最も付き合いの長い竜司が他人行儀なのは、確かに気になるところではある。

 ただ、それを強いたりするのは───


「別に、竜司ちゃんの諱が知りたいわけじゃないんだ。いいだろ?」


「知りたく、ないのですか?」


「えっ?」


「あっ、いやっ……」


 思わぬ反応で、口にした本人がボケた返答をしてしまった。

 どういうわけか、思った以上に竜司は前向きだったらしい。


───お、落ち着け。多分、竜司ちゃんは変な捉え方をしているぞ。


 そうだ。

 お前が言葉選びを間違えているだけで、興味がないわけではない。

 それをきちんと、伝えなければ。


「ごめんごめん。

知りたいわけじゃないってのは、無理強いはしないって意味だよ。

もし教えてくれるのなら、ぜひ教えて欲しいな」


 改めて、自分の言葉の意味を明確にすると。

 風に吹かれてやって来た雪が、竜司の頬に解けた。


「……ゆき、です」


「え?」


 確かに、雪が降っているな。

 大雪というほどではないが、この天気での離陸は高難易度だろう。


「私の諱は、ゆきと申します」


「あ、そういうこと」


「……ほら。そういう反応が来ると思ったから嫌だったんですっ」


「いや、本当にごめんっ。ちょうど竜司ちゃん……

じゃなくて、ゆきちゃんの顔に雪がついたからさ」


 空知竜司改め、空知ゆき。

 またひとつ、良介は去るべき土地で縁を結んでしまった。


「ゆき、ちゃん……」


 呆然とした表情で、ゆきは呟いた。


「あれれ、嫌だった?」


「いえ……そう呼ばれたのは、初めてなので」


「ふふん、俺様が記念すべき初のゆきちゃん呼びをした男なのだ」


 なにを誇っているのだ、お前は。

 それより、脱線した話を戻すべきじゃないのか?


「で、さ。俺の事は志村殿のまま?

俺は遠慮なく、ゆきちゃんって呼ぶぜ?」


「それは、公的な場では……」


 その時、基地中の至る場所から歓声が上がった。

 腕時計に視線をやると、時刻は0時を過ぎていた。


 年越しの瞬間だ。

 1969年から1970年に。


 良介は異世界で年越しを迎えたのだ。


「……なんだか、不思議な気分なんです」


「なにが?」


「今こうしているのが、あり得ないと言いますか……

私は本来、ずっと前に散っていたのではないか。

最近そう思う事があるんです」


 もし、良介がこの世界に転移することはなく。

 葦原内戦に介入しなかったら。


 夷俘海峡の戦闘で、歳三率いる新選組は神機隊とぶつかり合った事だろう。

 良介が介入した段階で、隊長の歳三は絶体絶命の危機にあった。


 果たして、中核である彼を失ったら。

 新選組は勝てただろうか?


 空知ゆきは、新選組は、真田藩は、幕府は、良介の知る人々は。

 1970年を迎えられたのだろうか?


 そういう、気の重くなるifは考えないに限る。


「とりあえず、だ。明けましておめでとう。ゆきちゃん」


「はい。明けましておめでとうございます、良介さん」


 ふたりは新年の挨拶を交わすと───

 新年早々に盛り上がっている食堂へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ