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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第三部 世博停戦

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75 飛行試験「Vacation」

「Vacation」

央暦1969年10月1日

夷俘島 斗米基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 ナーガという機体、知れば知るほど魅力のたっぷり詰まった機体であった。


 確かにF-2と比べると、まだ煩雑で古臭いが───

 この世界基準ではまた別だ。


 まず他の機体と比べてエンジン始動手順が単純で、F-2でいうジェット燃料始動装置(JFS)が装備されており、その気になれば単独でエンジン始動が可能であった。


 電子機器もやはり古臭いものの、現代的なMFDやデータリンク装置があり、部分的には半世紀先の能力がある。


 小型さゆえに空母の格納庫や、小さな格納庫に収まり。

 さらにダブルデルタ翼が生む揚力で、短い滑走路でも離陸が可能。


 まさに場所を選ばず運用可能な、非常時に備えた機体というわけである。


 ただし電子機器(アビオニクス)に致命的な問題があった。

 この機体、自前の索敵レーダーを搭載していないのだ。


 機首があまりにも小さい影響で収まるレーダーが見つからず、製作陣は思い切りのいいことにあえて積まない選択を選んだのだ。

 故に索敵をしたければ目視、あるいはデータリンクを介してAWACSや僚機から情報を得なくてはならないのだ。


 ガワから中身まで実証技術を詰め込んだ試作機、というわけである。

 もっともこの世界のひと昔前ならば、索敵レーダーのない戦闘機は珍しくないのだが。


 そして最も肝心な飛行に関しては───これからわかることである。


「チェイス、機体はどうだ?」


「今のところ良好。いいんじゃないかな」


 マニュアル通り、単独でエンジンを始動させた良介はボスにそう答えた。


 予定通り、彼は今回のテストフライトに参加し、チェイスが操るナーガの状態をチェックする手はずとなっている。

 そしてもちろん、試験官はボスひとりではない。


「こちらエルダー。その機体の問題は、地上じゃないんだ。

空で一番トラブルメーカーになるの」


 エルダー。

 これはエラを示すコールサインだ。

 彼女は地上から見上げる試験官であり、このフライトの責任者だ。


「どっかの誰かさんみたいにね」


「え、エルダー……勘弁してもらいたいなぁ」


「エルダー、それは違う。こいつは陸でも空でも問題児だ」


「こら、うるさいっての」


 ボスとエラと軽くじゃれついていると、管制塔から通達が入った。


「こちら斗米ATC。ペンギン隊、滑走路の確認完了。

順次、”あ”の88へ移動せよ」


「ペンギン1了解。それじゃ、2代目未亡人製造機のじゃじゃ馬っぷり、

見せてもらうよ」


 滑走路への移動に違和感はなく、問題なく位置につくことが出来た。

 左手側でボスのP-20が見守る中、チェイスは動翼の動作確認を行う。


「動翼のチェックよし」


「ああ、問題なしだ……気をつけろよ、チェイス」


 ボスのお墨付きをもらうと、チェイスはスロットルレバーを押し倒し、推力増強装置(オーグメンター)を起動した。

 F-2と比べてしまうと物足りないが───明らかに、この世界の機体とは比べ物にならない推力。

 これもまた、リバースエンジニアリングで得たノウハウというやつか。


 徐々に機体が加速し、必要十分な速度に達した。


「離陸する」


 前輪、続いて後輪が地上を離れる。

 機体からも警告はなく、問題なく離陸。


 空へ飛び立っても、異常の類は見られない。

 何もかもが順調としか言いようがなかった。


「ボス、そっちから見て異常は?」


「空を飛ぶドラケンが、目の前にいる……

か、感無量だぁっ」


 ない、という解釈で問題ないだろう。

 地上のエラにも意見を求めようかと考えていると、ミラーに背後から迫る機影が映りこんだ。


「ペンギン1、応答を」


「こちらペンギン1。どちら様?」


「そうだな……我々の事は、ツーリストと呼んでくれ」


 ツーリストと名乗った連中はゆっくりとチェイスと横並びになり、視線を合わせてきた。

 機体は───合衆国が可変翼の機体を採用しているのは知っている。

 F-4の可変翼バージョンのようなものだ。


 しかしこれは、あまりにも特徴的過ぎた。


「ピトー管付きのトムキャット……YF-14かよっ」


 試作時代のF-14。

 その機体を表すには、ボスが下した評価がぴったりだろう。


 過去にエラがエンジンの問題でうまくいかない機体に触れていたのを、チェイスは思い出した。

 直感的に、こいつのことだと理解できてしまった。


 垂直尾翼には鷹を模したと思われるエンブレム。

 主翼の国籍標章はやはり、合衆国。


 この機体を合衆国が運用しているという情報はない。

 彼らは合衆国の中でもエリート中のエリート、秘密試験飛行部隊なのだ。


観光客(ツーリスト)さんね……陸で会ったっけ?」


 歴史的名機との、奇妙(ストレンジ)な遭遇に感涙を流す暇はない。

 今は仕事中、チェイスはテストパイロットなのだから。


「ああ、下では悪かったな。我々はここにいないことになっている……

だから、地上での接触は最小限に留める必要があった」


 やはり、あのニヤついていた連中か。

 通信回線越しに感じるツーリストの高揚感から、あの表情は興奮から来たものだったのがようやくわかった。


「ガルーダでクルーヴィナの機体(I-17)をやっつけた話は聞いている。

俺達は伝説の実在を確認しに来た」


 ガルーダ、あのA-4スカイホークに似た機体である。

 北部藩の牢屋敷強襲を支援した際に、チェイスと竜司で唐津海軍航空隊を撃破した件を、彼は言っているのだろう。


 あの作戦の直前に、合衆国海軍の機体が挨拶をしに来た。

 戦いの一部始終は記録されていたのだろう。


「伝説? それは違うな」


「というと?」


「俺は実在するから、伝説じゃないんだ」


「言ったな? がっかりさせないでくれよ」


 この期待に応えなければ。

 チェイスは太腿に括りつけた演習演目に注目した。


「で、マニュアルによると……こいつ(ナーガ)、縦旋回がヤバいんだって?」


「そう。急旋回しようとすると、スーパーストール……つまり、一瞬で失速。

場合によってはスピンが止まらなくなって、制御不能になって墜落する」


 技術的な解説はエラが行っている。

 チェイスには不要なはずだが、確認のため口は挟まない。


「恥を承知で話すと、俺達ですらこいつを持て余してる。

間違いなく空戦の役に立つんだが……ピーキー過ぎる」


「その弱点(・・)をフライ・バイ・ワイヤで克服しようって事か」


「そういうこと。でも、私たちにはデータが足りていない。

そこで恐らく、世界トップクラスの腕を参考にさせてもらいたいの」


 トップクラスとはチェイスの事なのだろうが───

 ただの命知らずの無謀を、技能と結びつけるのは危険ではなかろうか。


「ふふん。そうだろう、そうだろう」


 ほうら、調子に乗った。

 本当にこいつは自分の命を賭けている自覚に欠けているのではなかろうか。


「というわけで、肝心の縦急旋回以外は問題なしと……

エネルギー保持については、ちょっと危ういところがあるけど」


 舞台を夷俘島の南、果ての海洋上へと移し。


 最大の問題点以外を除く、全てのテストが終了した。

 チェイスの体感的には旋回性能は上々でも、それに伴う減速率が高いのが気になったが───

 それは高い揚力を生むデルタ翼では避けられない命運である。


「さあ、次は高迎え角だ……俺達はこいつで1機ダメにしてる。

ヤタガラス、あんたはどうかな?」


 機体に無茶をさせるのは慣れている。

 それこそ、F-2には何度もダメにするような機動をやらせた。

 どうにかなっていたのは、フライ・バイ・ワイヤシステムのおかげだ。


 それがない中、果たしてチェイスの技量はどこまで通用するのか。


「やってみなきゃ、わからないな……!」


 必要十分な高度を維持し、チェイスは操縦桿を目一杯引いた。


 東の遠くに見える、雲の壁が計器の陰に消え、真横をボスやツーリストたちが過ぎ去っていく。

 世界は青空一面に染まり、機体は垂直に立った。


 コート(Kort)パラド(Parad)、あるいはコブラ機動。

 世界中の先進国に先んじてスウェーデンが達成した、従来では考えられなかった異次元の機動。

 所謂、ポスト・ストール・マニューバである。


「真上を向いた!」


「こっからだ!」


 この時、チェイスは機体の動きに不安を覚えた。

 明らかに機体が姿勢を変えて、好き勝手に動こうとしている。


 無論、機械に意思などない。

 あるのは空力、物理学のみ。

 機敏な機動を可能とする反面、時に人の制御しようとする手を離れてしまうのだ。


 物理学は隙あらば(そら)を目指す生物を殺さんとする。

 死にたくなければ、すべての力をもってして世の理に抗わなければならない。


 操縦桿を倒して、暴れ馬の首を水平に押し戻す。

 速度は回復し、機体制御を完全に取り戻した。


「すげえな、一発で回復させやがった!」


「チェイス、無事か?」


 横に並んだボスに向けて、チェイスはOKマークを見せた。


「うえー、頭に血が昇った……」


「俺には真似できそうにないな。やったら、脳溢血で死にそうだ」


「ああ、お年寄りの体はいたわらないとな」


「うるせぇ」


 ともかく、今の機動は記録係によると───


「実施時間0.6秒だが、速度300(555)ノット(キロ)から60(111)ノット(キロ)まで減速したぞ」


「格闘戦の真っ最中にオーバーシュートさせるには十分すぎる減速だな」


「相手に読まれれば、それにカバーが入ればお陀仏だ」


 興奮が目立つツーリストたちの意見に、ボスが冷や水を浴びせた。

 彼は旧式機体のマニアであるが、同時に実務者でもあるのだ。


 合衆国のエリートでも、ツーリストはあくまで試験飛行隊。

 ボスは異世界で半ば強制されているとはいえ、最前線で戦う身の上。

 その視座(しざ)の違いが如実(にょじつ)に表れていた。


「チェイス、加速度(G)はどうだった?」


「最大は4、マイナスは2。この程度じゃ、Gのうちに入らない。だろ?」


「ああ、その通りだ……コブラって、マジでこんなもんで済むんだな」


 あくまで、Gの観点で言えばの話である。

 実戦の環境下であの動きを再現できるかは微妙な所であり、しくじれば手を下されるまでもなく地形に叩きつけられる。


 まさに最終手段、というやつであろう。

 もっとも、コブラ機動はその最終手段であり、このテストフライトの主旨はこれが起こらないようにするものである。


「エルダー、もう一度やった方がいい?」


「いや。今回はこれで十分。機体のダメージも見ておきたいからね」


 確かに、機体にかかったGは大したことがないとはいえ、影響が皆無と決まったわけではない。

 燃料には十分余裕があるが、今回のテストフライトはこれでお開きだろう───


「ずるい」


 不意に、通信機から交信が入った。

 レーダー画面を見ると、地上のレーダーが南西から演習区域へ迫る1機の航空機を捉えていた。


 IFFの信号は───PENGUIN4。

 ペンギン隊の新入り、松代大助ことあくりであった。


「藩のお役目で席を外していた私に黙って、何をしている?」


「見ての通りだよ。合衆国のお手伝い」


「……私も、その機体が見たい」


 話していくうちに、あくりは寡黙ながらわがままな側面があることがわかっていた。

 お姫様らしいというか、ちょっと幼いというか。

 合衆国の試作機というワードに、彼女の好奇心が刺激されてしまったのだろう。


 とはいえ、チェイスも同じく気になっていたことがある。

 共に戦ったとはいえ、まだあくりと模擬戦を行った事がないのだ。


「……なあ、みんな。機体に問題はないんだよな?」


「おい、チェイス……?」


「アッハハハ! こいつ、マジか……!」


「ちょっと……ペンギン1? 妙なこと、考えてないよね?」


 ボスは困惑し、ツーリストは笑い、エラは恐慌した。

 それぞれの共通項目は、チェイスの意図に気づいている事であった。


「大助。弾一切使えないけど、それでいいなら……」


「……相分かった!」


 チェイスは機首を南西に向け、あくりと相対した。


「あーーーーーっっっっ!!!!

バカーーーーーっっっっ!!!!

これ後始末誰がやると思ってるのぉっ⁈」


「おいおい、アーロン様が取り乱してるぜ?」


「議会すら振り回す研究キチが、いちパイロットに振り回されるとはな」


「夷俘の魔王(デーモンロード)か……

アシハラ・ガバメントの奴ら、面白い事を言うじゃないか」


 あくりの機体はP-104。

 鉛筆戦闘機、あるいは直線番長と呼ぶべき機体だ。


 その速度は尋常ではなく、あっという間にマッハ2に到達する。

 ナーガもマッハ2のポテンシャルは秘めているが、それでもP-104ほど早くは到達しない。


 猛烈な勢いで、彼我の距離は縮まっていく。

 数千フィートまで迫ると、彼女の機体が放つ光の反射が青空に浮かんだ。


 かと思えば、もうすれ違っていた。


「それが、合衆国の秘密機体……!

あまり速くなさそうだ」


「気になるの、そこ?」


 振り返ってあくりの機動を観察すると、上昇しつつ離脱する一撃離脱の基本を行っていた。

 姿は肉眼では見えない距離まで離れ、青空に溶けていく。


 そこから、一瞬のうちに詰め寄って攻撃する。

 P-104はこういった戦いに特化した機体なのだ。


「さあて、どう来る?」


 チェイスはフェアプレイを期すためにレーダー画面から視線を外した。

 味方のレーダーでは恐らく、彼女の機影を捉えられているだろうから。


 さて、一撃離脱戦法では相手の死角から詰め寄った方が有利だ。

 航空機の視界は前方上方が主となる。

 一方、計器や機体の陰になる下方は全方位が死角。


 今頼れるものは、自分の目だけ。

 死角の情報を得るためチェイスは機体を反転させ、天地を逆転させた。

 自分より下の高度を飛ぶ何かに目を凝らし───いた。


 洋上の煌めきに混ざる、金属の輝き。

 さらに一筋の白い航跡(・・)が果ての海に刻まれている。


「見つけた」


 あくりのP-104だ。

 ジェット排気で海面を凹ませるほどのスレスレを飛行している。

 パイロットの死角となる低空から接近し、攻撃しようとたくらんでいたのだ。


「あの機体、低空じゃ特性を活かせないぞ?」


「P-104と対峙しているなら、誰もが高高度を選ぶと考える。

その常識の裏をかいたんだろう」


「……勘付いたか。さすがだな、ちぇいす」


 互いの視線が交差すると、チェイスは高度を下げ、あくりは逆に上昇した。

 一計を講じたチェイスはエアブレーキを展開し、降下しながらも加速を最小限に留めた。


 本来ならば機関砲の曳光弾が交わされる距離感で、ふたりは互いをかわしあった。

 あくりはそのまま直進して離脱を試み───


 チェイスは機体を90度左に傾けて、水平旋回中にスーパーストール状態に入った。

 コブラ機動ならぬ、フック機動であった。


「おい、これテストだろ⁈」


「水平旋回中にっ?」


「一気に150度ピッチアップした! どうかしてる……!」


「ぎゃああああっっっ!!!

聞こえてくる交信がロクでもなさすぎるぅっ!!!」


 速度の針が0を示す場所で停止した。

 機体が空中で静止し、このままでは制御が失われる。


「スピンだけは絶対に避けないと……!」


 理論上、完璧に姿勢を制御すれば速度0でもコントロール不能にはならない。

 フライ・バイ・ワイヤとはその理論上を実現に近づけるシステムだ。


 ペダルを踏んでラダーを操作し。

 操縦桿を小刻みに動かしてエルロンとエレベーターを微調整し。

 それ今だ、死ねと言わんばかりに暴れ狂うペガサスの手綱を操った。


 チェイスはやってのけた。

 失速状態のまま、姿勢を安定させ───

 多少離れてしまったが、P-104のエンジンノズルを目前に捉え続けた。


 1秒が経過、ミサイルのシーカーが標的を捕捉するには十分な時間だ。


「FOX2!」


「なにっ」


 ふわり。

 ミサイル発射を宣言した直後、機体が失速状態に陥った。

 操作もしていないのに、世界が左に回転を始めたのだ。


「まずいっ、フラットスピンに入るぞ!」


 フラットスピン。

 簡単に説明すれば、ある条件が重なって機体の左右で速度のバランスが崩れ、機体が勝手に水平に回転し始めるという現象だ。

 そうなるとパイロットは急激な横向きのGに襲われるうえに機体の制御が効かなくなり、墜落するまで風車のように回転し続けることになる。


 グースが死ぬ原因になった、あの現象だ。


 フライ・バイ・ワイヤで制御された機体ならば、失速して制御不能になった場合の対処は極めてシンプル。

 操縦桿から手を放し、システムの制御に任せればいい。

 十分な高度があるのならば、問題なく機体制御は回復する。


 しかしこの機体にはまだ、それがない。

 むしろ、その形状と物理学が手を組んで殺しに来ている。


 自らを助くのは、自分以外にいない。

 行動して、事態を打開しなくては。


 右にペダルを踏んで、全力でスピンに対抗する。

 これはフラットスピン初動対処の基礎の基礎だが───

 抵抗むなしく機体は一回転、初動は過ぎた。


───こりゃ無理だ、次!


「高度1万フィート、余裕はある! 回復しろ!」


───わかってるよ!


 マニュアルでは高度5000フィートを切った際にはドラッグシュートを開く事になっている。

 本来は着陸時に減速するために使う装備だが、フラットスピン対策にも用いられるのだ。

 しかしまだ、余裕はある。


 一方で、回転は勢いを増していた。

 身体にのしかかる横Gは強烈で、チェイスは抗いつつもコクピットの隅に押し付けられていた。

 この圧迫では、並の人間ならば思考すらままならないだろう。


「チェイスっ、ちょっと! こんな事で死なないで!

脱出して!」


 通信機からエラの叫びが響いた。

 確かに、こんな事で死なれては彼女も迷惑だろう。

 しかし───機体が壊れたわけではない、脱出は最終手段だ。


 エンジンは機体を飛ばすために重要な推力を生むが、スピン回復には邪魔になる。

 出力を極限まで下げてアイドリングさせ、操縦桿を全力で前に倒して機首下げを試みる。

 引き続き、ペダルを踏み続けて右ヨーを継続。


 フラットスピン対処の基礎、PAREという考え方である。

 これでうまくいくかどうかは、場合による。


「高度5000! ドラッグシュート開け!」


 ツーリストは警告するが───

 チェイスはどうも、なしでも行けるような気がしていた。


「ちぇいす!」


 速度計の数値が上昇し、回転が弱まり始めた。


「よし、戻った!」


 ほんのわずかな回転も油断なくヨーイングで押さえつけ、やがて回転は完全に収まり。

 重力によって機体が速度を取り戻し、機体制御もチェイスの手に戻ってきた。


「曲芸飛行じゃないんだぞ、こいつめ!」


「……ちぇいす。私はお前のイカれを甘く見ていたようだな。

死んだらどうする?」


「実戦で、似たような真似をする奴がいたらどうする?」


 もしミサイルがこの機体に積まれていれば、フレアがあったとしても回避は極めて困難であろう。

 たとえ結果的に相打ちだとしても、被弾は確実だ。


「負けを認めよう……そうする者が、すぐ背後にいる以上はな」


「だれか応答を! ペンギン1は無事なの⁈」


「ええ、エルダー。問題ありません……あいつの頭以外は」


「はぁ……本当にそう」


 酷い言われようである。

 事実だから仕方がないけど。


「気の狂ったような飛行とはいえ、ドラッグシュート抜きで制御を回復する貴重なデータにはなったな」


「こいつの飛び方を参考にしたら、機体が勝手に無茶な動きをしそうだな」


 ツーリストたちも好き勝手に酷いことを言っている。

 チェイスも反論しようとしたが、さすがに長時間強い横Gを受けて疲労困憊だった。


「ふぅ……ようやく終わったけど、フラットスピンはもうこりごりだ。

下手な空中戦闘機動(ACM)より疲れたぞ」


「こちらエルダー……まだテストは終わってないよ」


 チェイスの呟きに、エラが思わぬ言葉を合わせた。

 その通り、実戦であろうと訓練であろうとテストであろうと。

 フライトは陸に降りれば終わりというではないのだ。


「その通り……デブリーフィングは覚悟しておけよ、チェイス」


「ちぇっ、わかったよ」


 着陸後のデブリーフィング。

 チェイスは無茶をするたびに、ボスにこってりと絞られてきた。

 今回もまた例に漏れず、そうなるだろう。


「ふむ。大変そうだな、ちぇいす」


 と、呑気な事を言ったのはチェイスに模擬戦闘を提案した張本人である、あくりその人であった。


「……大助、おめぇーもだ! おめぇーも!」


「む……そうなのか?」


「部隊揃って似た者同士か、無茶もするわけだ」


「こちらペンギン3……ツーリスト、俺をこいつらと一緒にしないでもらいたいな」


 この交信を聞いた者は、揃って笑みを浮かべた。

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