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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第二部 奥葦原

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49 鷹狩作戦「Stowaway」

央暦1969年7月30日

夷俘島 斗米空軍基地

葦原国大和幕府空軍第1航空団『彰義隊』第1中隊『ペンギン』

志村“Chase”良介二等空尉


 草刈り。

 それは米軍を除くほぼ全世界の軍人が逃れられぬ日常業務。

 そして異世界でも、この事情は共通のようだ。


「ふぅ。この辺は大体終わったな」


 ナイフ片手に根まで引き抜き、難しいものは根本を切り落とす。

 幸いなのは斗米が葦原北方の土地であり、7月終盤にも関わらず25度の過ごしやすい気温という点だろう。

 もしここが元いた世界であれば、40度近い猛暑に襲われながらの作業となる可能性は想像に難くない。


「……なんで八咫烏とか英雄扱いされてる俺様が、草刈りなぞしなきゃならんのだ」


「なんでって、しむすけが最初にやるって言ったんでしょ?」


 気づくと、隣で千代が不思議そうな表情を浮かべて言った。


 そうだ。非番の日に良介が基地をブラブラしていると、草刈り鎌を持つ千代と出会った。

 その時に、お前が手伝いを申し出たのではないか。


 言い出しっぺは他ならぬお前だというのに、なぜ忘れているんだ?


「……そうだ。俺は志願して、自分から手伝ったんじゃないか」


「変なしむすけ……元から大概変だったか」


「うるさい」


 草刈りもキリのいいところなので、良介と千代は駐輪場から離れて酒保(しゅほ)へ向かった。

 酒保とは売店、陸でいうPXに近い商店である。


 もちろん、ここは葦原であり日本ではないのでコンビニがあるわけではない。

 年齢不詳な軍属のおばちゃん店員が愛想悪く応対する、薄暗くて品揃えの悪い雑貨店である。

 隣には居酒屋が併設されているが、真昼間から酒盛りを決め込む幕府軍の人間はいない。


 品揃えの悪さは、戦況の悪化によって嗜好品の輸入が滞っている点にある。

 例えば、タバコだ。


「おばちゃん、タバコ入った?」


「ないよ」


「う、嘘ついてないだろうなぁ?」


「ないっつってんだろ! 一昨日来なっ!」


 と、酒保のおばちゃんはぶうと短くなったタバコ(シケモク)から得た煙をにーちゃんに浴びせた。


 タバコは10年以上にやめた良介には関係のない話だが、プカプカタバコを吹かす葦原人の野郎どもにとっては結構な死活問題であった。

 いくら錬金術が発展しているこの異世界といえども、限度はある。

 タバコの原料となるタバコの葉は、葦原国産品でも南方の地域でしか生産していない。


 当然、南方といえば政府側勢力生誕の地。

 物流など成立しているはずがない。


 そしてこの問題は、もうひとつの嗜好品にも及んでいたのだ。


「お、お、おっ、おばちゃんっ。かっ、菓子は入ってないかっ⁈ 甘いやつだっ!」


 もうひとり飛び込んできた軍人が、目を血走らせながら尋ねた。

 砂糖もまた、原料は南方の藩でのみ生産されているのだ。

 果物を原料に、錬成される砂糖もあるにはあるが、このような場所に回ってくる機会はそう多くない。


「ねえんだよ、バカたれ! あったらあたしが食ってるよ!」


 醤油煎餅の破片を撒き散らしながら、おばちゃんは怒鳴った。


 お客様は神様を是とする空気が未だ根強い令和日本では見たことのない光景だが、昭和の日本では客と従業員が怒鳴り合うという状況が度々起こっていたという話は、良介も本で目にしたことがあった。


「うーん、店と客の距離が近いな……」


「取っ組み合いにならないだけ、まだ理性がある方だよ、あれ」


「あれで理性があるのか……」


 あくまで冷静な千代は保冷庫からジュースの瓶をふたつ取り出した。

 砂糖は手に入らないので、果汁100%のドリンクである。


「そこの! 開けたら早く閉めな! 氷が溶けちまうだろう!」


「はーい、ごめんなさーい」


 店員からのお叱りを受けて、早々と千代は保冷庫の蓋を閉ざした。


「……魔法とか錬金術があるのに、保冷が氷頼みなのはどうしてだろう?」


「よく知らないけど、魔法って出力を一定に保つのが難しいんだって」


「氷を作ることは出来ても、キンキンに冷えた水を用意するのは無理ってこと?」


「そうそう、そういう感じ」


 魔法が本当に万能ならば、良介のいた世界と機械に用いられる技術が根本的に異なっているはずだ。

 しかし、整備やリバースエンジニアリングが可能な程度には共通している。


 これは神兵───良介のような異世界の軍人が技術を持ち込んでしまったのも、理由の一端かもしれない。

 一方で、魔法では限界のある用途があったのではないだろうか?


 この世界でも、電力を安定して発生させるにはタービンを回すしかない。

 雷魔法もあるらしいが、過電流で機械を逆に破壊してしまうためだ。

 そう、高圧電流を一瞬だけ流すことしか出来ないのだ。


「そうか。魔法は瞬発力だけで安定させるのは苦手だから、技術が発展したんだな」


「らしいよ? 知らないけど」


「……信憑性が落ちるな」


「あたしも、直接聞いたわけじゃないし」


 ともかく、目的のジュースを買い求めたふたりは酒保の軒先で蓋に手をかけた。


「あっ、向こうで蓋開くの忘れた」


 そう、瓶入りのジュースは蓋が非常に硬い。

 なのでレジに置いてある栓抜きが必要になる。

 良介は千代の分も開けようと手を伸ばしたが───


「えっ?」


 スピーン。千代は親指の力だけで、あの硬い瓶の蓋を弾き飛ばしてしまった。

 流石の良介も、そこまでの馬鹿力はない。


「……うっそーん」


「あっ、しむすけの分も開けたげる」


 ピーン。もうひとつ、瓶の蓋が宙を舞った。

 男として色々と傷つく瞬間だったが───そこでいじけるのは、みっともないぞ。


「……ありがとう」


「どういたしましてー」


 紫色の、脳がブドウ味を推測する液体を口に含む。

 すると、甘酸っぱさが強く印象に残った。


「……ベリー系の酸味だな」


「あれ、苺嫌いだった?」


「これ苺なの⁈」


 また脳が理解を拒む名前が現れて、良介は混乱してしまった。

 苺といえば赤で、紫ならブドウ───いや、ベリーでも理解は出来るが。


「うーん。異世界の果物だ……」


 苺100%のジュースなど、聞いた事がない。

 恐らく名前だけ共通した、良介の知らない果物なのだろう。


 おおっと、ここで私がミスを見つけてしまったぞ。

 苺は、果物ではない。野菜だ。

 またひとつ、賢くなってしまったな?


───自分にマウントを取るなよ。そもそも、この世界の(・・・・・)苺がこっちと同じとは限らないだろう?


「しむすけの世界の苺ってさ、どんな感じなの?」


「うん? ああ、こっちのは赤くて小さくて……その苺とは違う方向の甘酸っぱさだな」


 不意に良介は幼少期、らぐな院───良介の育った養護施設の院長が、苺狩りに連れて行ってくれた記憶を思い出した。

 思えば、初めて苺を食べたのはあの時だったか。


 特別好きなわけではないが、故郷の記憶を刺激されてしまった。

 渋々連れ出されて食べないと反抗しつつも、ひとつだけこっそり食べた苺の味。


「やっぱりこっちのとは違うな」


 夷俘産、苺果汁。

 ラベルに書かれた味気のない商品名を眺めながら、良介は呟いた。


「……嫌いだった?」


 すると、千代が良介の顔を覗き込んできた。

 その表情はどこか不安げで───


 彼女、千代は他人の心を読む能力を持っている。

 しかし一方で、どういうわけか良介の心は読めないと発言していた。


 千代は不安に思っているのだろう。

 普段自分がコミュニケーションに用いている能力が通じない人間が、不快に感じていないか。


「いいや。葦原(こっち)も悪くないよ」


「そっか。なら、よかった」


 互いに笑い合うと、駆け寄る気配を感じた。

 揃ってその気配に視線をやると、見慣れた男の姿だった。


「ああっ、志村さんっ。こんなところにいたんですか?」


「どうしたの、田中くん?」


 田中空軍歩兵、良介お付きの軍人という体の、監視役である。

 基地の敷地内にいる限り、彼の監視はないのだが───


 恐らく良介が千代の手伝いをする前、運動がてら走っていて監視役を撒いてしまったのだろう。

 当然だ。兵舎の屋上伝いに跳び回り、格納庫の屋上を走り回っていたのだから。


「……召集です。ご同行願います」


 彼の真面目な様子からして、良介が参加する作戦が決まったらしい。

 幕府空軍は機密保護のため、ギリギリまでこういった説明をしない節があるのだ。


「それじゃ、行ってこようかな」


「うん。気をつけてね」


 暗殺者である彼女、千代がこの基地で清掃の仕事をしているのは、表向きの話だと良介も理解している。

 だからこそ、こう返した。


「そっちも、気をつけて」


 その言葉に、千代は静かな笑みを浮かべるのだった。

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