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F-2無双(仮)  作者: 穀潰之熊
第一部 東の果て
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02 夷俘島迎撃戦「IRREGULAR」

 葦原(あしはら)という国は360年もの間、大和家による幕府によって統治されてきた。

 長きに渡った戦乱の世よりも長続きした太平の世。大和幕府の歴史的功績は疑いようのない代物だろう。


 しかし沙羅双樹(さらそうじゅ)の美しい花も地に落ちるのと同じく。

 央暦1969年。歴史は大和幕府に終止符を打った。


 大和幕府空軍第1師団第35飛行隊。

 通称、『新選組』。


 読んで字のごとく、幕府勢力の夷俘(いふ)島撤退を契機に、新たに選抜された飛行隊である。


 隊長には長年首都防空隊の副隊長を務めた山義(やまよし)才蔵(さいぞう)空軍奉行並が着任し、鬼の副長と称されたその武勇と統率力に期待が寄せられていた。


 もちろん、彼によって夷俘島飛行学校から選抜された年若い少年少女の飛行士たちも同じく。


 そして、5月11日。その時が来た。

 幕府空軍のレーダーが防空識別圏(ADIZ)を超えつつある6つの機影を探知した。

 その進路の先は夷俘島南端の良港町屋岸(やぎし)


 幕府勢力が中枢を移しつつあるこの町に向かう相手など、想像に難くない。


 幕府軍司令部である五稜郭及び防御陣地への攻撃、並びに攻略の邪魔になるであろう市街地を焼き払うため編成された爆撃機部隊。

 幕府軍はそう判断した。


 不幸にも幕府空軍の正規部隊は本州で撤退する陸軍の支援に就かせていたところで、まとまった戦力を持つ部隊は新選組以外になかった。


 この状況に際して、座して待つほど幕府軍も悠長ではない。

 山義隊長からの反対を跳ね除け、練度錬成の追いついていない新選組を迎撃にあたらせた。


 これが、彼ら彼女らの初陣であった。

 そしてこの初陣は、凄惨たる結果に終わる。


 葦原政府軍は最新鋭の機体を駆る精鋭部隊『神機隊』に航空優勢の確保を命じた。

 幕府空軍のレーダーが捉えたのは爆撃機編隊ではなく、この神機隊12機であった。


 ここに幕府空軍のミスはない。

 尋常ならざる神機隊の飛行技術によって、その機影を誤認させられたのだ。


 しかし非があろうとなかろうと、状況は変わらない。

 この誤解により相手が爆撃機編隊とその直掩機だと思い込んでいた新選組は、政府空軍の最精鋭を相手に真正面からの決戦を強いられることとなった。


 当時、地上が傍受した通信記録が残っている。

 隊長である山義空軍奉行並は、レーダーに映る機影が大型爆撃機ではなく2機ずつの戦闘機と悟ると、即座に部下たちに命じた。


「全機に命ずる! 防空陣地のある屋岸まで下がれ!」


「ですが隊長っ、敵前逃亡は士道不覚悟では!」


「お前たちは武士ではない、徴用された雑兵だ!」


 この言葉は、元は民間人である新米飛行士たちを逃がすための方便とするのが一般的な解釈である。


 大多数の隊士はこの命令に従い、進路を北西にとった。


 自ら殿を務めた山義空軍奉行並はこの戦闘によって戦死。

 命令を違反して共に戦った隊士たちも少数いたが、最精鋭の隊長が命を落として生き延びられる道理もなく。


 離脱に成功し、この戦いから逃げ延びた隊士たちもまた、その後の激戦に生き延びること叶わず。

 新選組は1969年6月中には、全飛行士の喪失という形で解体される。


 後年、若き民間人であった彼らの忠義は歴史となり、美談として語られるばかりとなる。


 空知ゆきも、その歴史の一部となるはずだった。

本日連投です

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